壷【仕返し】
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜07月31日
リプレイ公開日:2004年08月02日
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●オープニング
それは、とあるゴブリン達の集落‥‥いや、正確に言えば、その出張所めいた『ひみつきち』から始まった‥‥。
「ゴブ〜! ゴブゴブ〜っ」
「ホブ? ゴブゴブ!」
その秘密基地の一室で、頭にたんこぶ、包帯と、ボコにされたゴブリンが、めそめそ言いながら、『冒険者たちに苛められた〜。兄貴ぃ、何とかして下さいよぉ』ってな感じに、目を潤ませている。
「ゴブゴブ! ゴブッゴ!!」
「ゴブ!!」
兄貴分のホブゴブリン、舎弟が痛めつけられて、黙っているわけには行かないらしく、『仕返し』を決意した模様だ。
さて、そんな事とは露知らず、例の村では、宴会準備の真っ最中だった。
「しかし‥‥。なぁんだって、こんな時期に宴会なんざやるかね」
「どーせ、あいつの趣味に走った気まぐれだろ」
宴会場は、むろん村長宅である。借り出された若い衆達が、ぶーぶーと言いながらも、「酒が飲めりゃあ、何だって良いや」と、おこぼれを目当てに、労働に勤しんでいる。
「壷、丁寧に扱えよー」
「ういー」
こう言った祭事には、例の壷も借り出されるらしく、丁重に教会から、村長宅の客間へと運ばれていたのだが‥‥。
「ホブ! ゴブゴブ!」
「うわぁぁぁっ!」
進行方向に、突然現れて、危うく壷を落としそうになってしまう村人Aくん。
「ご、ごぶりんっ!?」
「きっと仕返しに来たんだー!」
心の準備なんぞ、まったくしていない村人達は、大騒ぎである。
「ゴブゴ! ゴブブ!」
「ホブ! ゴブゴブ!」
あれこれと指示しているのは、ホブゴブリン。それに、例のゴブリンを含め、他のゴブリンが10人程度、そして、用心棒らしきオーガが2匹、丸太を抱えて、周囲を威嚇している。
「うわぁん! 壷が〜!!」
その威嚇攻撃に、壷を取り落としてしまう。
「んなもん、後でとり返せばいいだろ! さっさと逃げるぞ!」
まぁ、何の力も持たない村人達に戦えと言う方が無理だ。ゴブリン達が、壷に気を取られている間に逃げられただけでも、上出来と言うものだろう。
「ホブゴ! ゴブゴブゴ、ゴブッゴ!」
「ゴブゴー!! ゴブゴ、ゴゴブゴ」
「ゴブ!!」
一方のゴブリン達、『復讐』ではなく単なる『仕返し』なので、村人がビビって逃げだしゃOKらしく、転がった壷を拾い上げて、そのまま意気揚々と引き上げていく。
「い、いっちゃったみたいだね‥‥」
「私の壷〜」
涙ちょちょぎれさせる村長。
「あーもー、また頼めばいいだろー」
「村の修繕で、金なんかないわいッ!」
踏んだりけったりな状況に、蓄えも余力がなくなっている。村の生活を考えれば、これ以上は出したくないと言うのが、本音のようだ。
「ご案じめさるな。その程度ならば、私が出して進ぜよう」
「おおっ! 本当ですか!? はるばるジャパンから壷を見に来た商人の方!」
地獄で仏とは、この事である。その宴会の『理由』‥‥遠方から、例の壷を見物に来ていた商人が、資金を出してくれるらしい。
「非常に説明くさいセリフをありがとう。あのように珍しい壷を見せて頂いた返礼ですから、気にしないで下さいね☆」
「よし。そうと決まれば、早速ギルドに連絡だッ!」
調子の良いもので、資金繰りさえどうにかなれば、あとはギルドにお任せ、左団扇で待つだけとゆー寸法である。
「やれやれ‥‥。また一波乱起きそうだな」
「まったくだ」
そのお気楽な村長に、頭を抱える村人達。その不安どおり、今回はただの討伐依頼では終わらなかった‥‥。
「ゴブゴ! ゴブッゴ!」
戦利品‥‥つまり壷でもって、こっちでも大宴会を始めているゴブリンズ。
「ホブ〜! ゴブゴブ!?」
ところが、何か様子がおかしい。壷を眺めて、首をひねっている。
「ホブゴブゴ〜!」
「ゴブゴ!?」
だが、しばらくして、悩むのを止めたらしく、その壷でもって、酒をがぶ飲みし始めるホブゴブ。と、その酒が、適度に回り始めた頃、さらに加速度的に、様子がおかしくなってきた。よく見れば、ホブゴブリンの持っている壷には、男性の絵が書かれていた。
「ホブゴ! ホブッゴ!」
「ゴブゴゴ〜!!」
どうやら、ゴブリンに閣下の壷も、姫の壷も、見分けはつかなかったゴブリン、とりあえず使いやすそうな方で、大宴会をやった所、なんだか気分が良くなってしまったらしい。
そう。酔っ払いの大量発生である。
「ん? なんだ?」
「ホブ! ゴブゴブ!」
酔っ払いと言うものは、えてして大暴走するものだ。そのホブゴブさん、酒で顔色を真っ赤にしながら、オーガを引き連れて、再び村に乱入する。
「うぬぅ! また私の壷を奪いに来たか!」
今度こそ、奪わせはせん! と、勢いだけは盛んな村長さん。ところが、彼が狙ったのは、酒でも壷でも食料でもなく、まぁぁったく別のもの。
「うわぁぁん! にいさぁぁぁん」
「ああっ! 弟!?」
そう、彼が抱え上げたのは、第一発見者となった、ヤギ飼い兄弟・弟の方。
「ゴブ! ゴブゴブ!」
小柄な彼は、オーガに抱え上げられると、身動きが取れない。他にも、ホブゴブ達は、何故か娘さんは狙わずに、育ち盛りの少年ばかりを何人か抱えていく。
「大変だ〜! 今度はヤギの変わりに、村の美少年が浚われた!!」
「しかも、ホブゴブの奴、酒くさかったぞ!」
どうやら、酔っ払ったホブゴブとオーガ、ナニをするつもりかわからないが、可愛い男の子を、掻っ攫っていったらしい。
「と言うことは、酔っ払って、何しでかすかわからないぞ!」
「んな悠長な事言ってる場合かぁぁぁ!! 俺の弟を返せ〜!」
村が、大慌てで、ギルドに走ったのは、言うまでもない。
そして、さらわれた少年はと言うと。
「なんでこんな格好に‥‥」
ゴブリン達がそうするように、腰布一枚の姿にさせられ、オーガだのホブゴブだのに、酒の癪をさせられていた。
「僕、コレからどうなっちゃうんだろう‥‥」
ただし、酔っ払いどもがその肩だの腰だのに、ぺたぺたと触り撒くっているあたり、どうやら女性の代わりに、酌夫扱いを受けているようである。
●リプレイ本文
●セクハラゴブリン、大宴会
囮組となった、半裸と女装とイケメン軍団が、森を抜けて、ゴブリン達の『ひみつきち』へ向かうと、すでにそこでは大宴会が繰り広げられていた。
アルト・エスペランサ(ea3203)が差し出した酒を、ホブゴブは、ゴブリン語でなにやら言いながら、はねのける。酒よりは、今しがた現れた美少年の方が、活きが良くて美味しそうだとでも、思ったのだろうか。その隙にジラは、酔ってへべれけになったオーガやホブゴブの武装を、ひみつきちの奥の方へと蹴り転がしている。
何をしていると、オーガが唸り声を上げている。と、彼はそんなオーガに、目を細めて「その様な無粋な物、貴公には似合わぬ‥‥」と言った意味の流し目を送った。
「‥‥っ」
それを受けて、オーガは口の端から牙を覗かせて、ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)を突き倒す。酔っ払っていてもオーガはオーガ。そのパワーは駆け出しの冒険者に勝る。
「あ、あのっ。外へ向かいましょうっ! こんな洞窟より、お外の方がいいですよっ」
さすがにこれ以上は、危険すぎると判断したジャスパー・レニアートン(ea3053)、そう言って『ひみつきち』の外へと誘い出していた。
「よし、今だ!」
慌てたのは、ホブゴブ達の方だ。このまま、美味しい餌に逃げられてはかなわんと、同じ様にスピードを上げてくる。が、へべれけに酔わされている現状では、足元もおぼつかない。と、そんな彼らから、少し距離を置いた茂みから、がさりと音がした。
その人影は、距離を置いた状況ながら、気を引くように、逃げていく。ここで逃がしたら、美味しい目には合えないと思ったオーガ、周りにいくらでもある倒木をぶん回し、その人影に当てようとする。
「ひゃぁっ」
上がった悲鳴は、ラルフ・クイーンズベリー(ea3140)のものだ。情けない悲鳴を上げて、回れ右をする彼。走りすぎの貧血で、頭がくらくらするが、ここで倒れたら、間違いなく餌食だろう。
(「も、もうちょっと‥‥!」)
森の出口まで走れば、あとは仲間が何とかしてくれる。
「ラルフ! こっちだ! 飛べ!」
「た、助かったっ!」
誰の指示だか分からないが、ここは彼の指示通り、ラルフはリトルフライの魔法で、空に浮き上がる、そして、ふらふらと彼のほうへと進んでいったのだが。
「うわぁぁん。何とかして下さいよぉぉ」
石をなげつけられて、悲鳴をあげるラルフ。まだ駆け出しのウィザードだ。いくらリトルフライで空に逃げているとは言え、効果時間は長くはない。途中で落っこちてしまう。
「ど、どうしよう‥‥」
さぁて、どう料理してくれようか‥‥と言った風情で、舌なめずりをするゴブリンズ。雄叫びながら、まずは大人しくしろとばかりに、拳を振り上げる。
「‥‥させんよ!」
と、その刹那、拳をはじくかのように、ダガーが飛んできた。いや、正確に言うと、ダガーを構えたカイ・ミスト(ea1911)が飛び込んで来ていた。
「下がっていろ! ここは俺が引き受ける!」
仲間1人残して逃亡するのは、流石に気が引けるらしい。と、カイは両手にオーラパワーを付与しながら、こう言った。
「これでもナイトの端くれ。ゴブリンごときに、遅れは取らん!」
オーラショットで牽制しつつ、残っているゴブリンをチャージングで蹴り飛ばし、ダガーで足を切りつける。酔っ払いゴブリン、その程度では倒れないが、ひみつきちの方向へ向かって、奇声を上げた。と、どこに隠れていたのか、ゴブリンどもが手に手に棍棒を持って現れる。
「ふん、やはりモンスターはモンスターだな」
背中にラルフを庇いつつ、じりじりと後退するカイ。
「ラルフ、もう少しだけ頑張れるか?」
「は、はい。もうちょっとだけなら」
本当はへとへとだが、ここで倒れるわけには行かない。と、彼はニヤリと笑って二手に分かれるよう指示を出す。何か作戦があるらしい。
「よし。俺の言うとおりに走れ。絶対に道を間違えるんじゃないぞ!」
ごくりと生唾を飲み込んで、言われたとおりの道を走りぬけるラルフ。
「ゴブリンども! こっちだ!」
その反対側を、目立つように走り始めるカイ。その2人の距離は、ある一箇所を進めば、一網打尽にできる様に、ゴブリン達には見えた。
だが、その一箇所に足を踏み入れたホブゴブ、フローラの仕掛けておいたライトニングトラップにひっかかり、しびれてしまう。
そこまでされては、本気にならざるを得ない。麻痺した脳味噌は、猿と言うよりは獣同然だ。
「よし。引っかかった。このまま皆と合流するぞ!」
「うわぁん、ひっぱらないで〜」
急ぎお仕置き組の待つ森の出口へと向かうラルフ。カイに腕をとられ、ぶつぶつと文句を言う彼は、それがカイなりの気遣いだと、全く気付いちゃいないのだった。
●悪い子には、お仕置きです
一方、その合流場所の方では。
「あっ! 来た!」
エリス・ローエル(ea3468)が、嬉しそうにそう言った。
「ふむ。どうやらジャスパーくん達は、上手くひみつきちからおびき出してくれたようですね」
半裸の仲間達が、自分達のほうへ向かってくるのを見て、ユエリー・ラウ(ea1916)がそう言う。自分の施した女装が、充分すぎる効果を発揮してくれたようだ。
「今のうちに、ひみつきちの男の子達を助けに行って来て下さい」
「はい。任せておいて下さい」
その様子を見て、エリスはそう言った。と、その言葉を受けて、アマリス・アマリア(ea4061)を筆頭に、サリュ・エーシア(ea3542)とフローラ・エリクセン(ea0110)が、壷と少年達を取り戻しに、ひみつきちの方向へと出発する。
「さぁて、戻ってくる前に、アレ、片付けないといけませんね」
エリスの視線の先には、いかにも『見つけたぜぇぇぇぇ』と言わんばかりのホブゴブ達がいる。
「女の子だと思って、バカにしないで下さいねっ。これでも強いんですからっ!」
まずは、襲い掛かって来たゴブリン達を、どうにかする為、エリスは持っていたスピアを構えている。
「だいたい、いたいけな少年ばっかりさらっていくなんて許さないんだから。悪いことばっかりしてると天罰があたるんだよ。それがわからないキミ達にはお仕置きが必要なんだね」
言っているセリフは、まっとうだが、エリスの後ろのほうから、遠巻きに言っていては、あんまりさまにはなっていない。
えぇい! 蹴散らしてしまえー! とばかりに、命を下すホブゴブ。よっぱらった親分さんは、やっぱり怖いらしく、ゴブリンはやや渋々と言った感じで、こちらへと向かってくる。
「いやぁん。来ないでよー!」
そんなゴブリンに言い寄られるような姿勢になって、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は持っていたメイスを、思いっきり振り下ろした。クレリックの彼女では、あまり大したダメージは与えられなかったらしく、ゴブリンの頭には大きなたんこぶが出来ている。
「レツィア! 下がってて!」
そんな彼女を庇いながら、槍を振り下ろすエリス。ただし、刃ではなく、その平たい部分でぶん殴り、ゴブリンの頭にさらなるたんこぶを量産していた。
「ゴブリンさん、いやいや触られる恐怖を、味わって下さいねっ!」
彼女が、ゴブリン達からの良い隠れ蓑になっている間に、ごそごそとチャームの呪文を唱えていたユエリー、森の中の蛇さんをつっかまえて、ゴブリンの身体に巻き付けさせる。
「これで、嫌なモノに身体を触られるのは、嫌な行為だと分かってくれますよね?」
微笑んで‥‥と言うよりは、薄く笑いながら、そう言うユエリー。
「ゴブリンさんは、私がこてんぱんに懲らしめちゃいますっ! 仕返しに仕返しすると、酷い仕返しを受けるという事を、教えてあげちゃいましょうっ!」
うろたえるゴブリンを、ルーシェ・アトレリア(ea0749)がシャドウバインディングで、動きを止めた。固まるゴブリン達に、今度はスリープの魔法をかける。と、大して抗う事も出来ず、ゴブリン達はばたばたと倒れていく。
「グァァァァっ!!!」
不甲斐ない子分達に業を煮やしたのか、ホブゴブが吠えた。そして、酔った頭をすっきりさせるかのように、近くの井戸の水をかぶり、しっかりした足取りで、ルーシェへと向かってくる。
「いやぁん。こないでよー」
接近戦は苦手なルーシェ、慌てて後ろへと下がる。だが、ホブゴブの様子を見るに、その程度は許してはくれなさそうだった。
「まったく‥‥。セクハラ酔っ払いゴブリンズめ。いい加減目を覚ませよ! 女の子に手をあげるなんて、男の風上にも置けない奴だねっ!」
そこへ、ジャスパーがスタッフを振り下ろす。後頭部にたんこぶを作って、その場に倒れるゴブリン。気がつけば、ゴブリンの数は、半分以下に減っていた。これ以上戦っても、勝ち目はないと踏んだのだろうか。元々、ゴブリンは臆病な種族である。半数のゴブリンに戦力外通告をつきつけられて、撤退していく。
「もう二度と、仕返ししようなんて、考えるんじゃないですよーーー」
そんなゴブリンさん達を、そう言いながら見送るルーシェ。
「なんとか上手く行ったね。グッドラックの魔法をかけておいて、正解だったよ」
人差し指を立てて、そう言うレツィア。だが、『ええ』と頷きながら。ルーシェは浮かない顔だ。
「どうしたの?」
「何か忘れているような‥‥」
うーんと考え込む仕草を見せる彼女。一つ一つ物事を指折り数えていた所、ある事に思い当たる。
「そう言えば、今のゴブリンさん達に、オーガって‥‥」
「あーーーー!!」
確かに、今見たのはホブゴブとゴブリンだけだ。村で目撃されたと言うオーガは、待ち伏せ組の彼女達に、その姿を影も形も見せていない。
「おいかけましょうっ!」
「あぁん、待ってよーーー」
もしかしたら、壷を取り戻しに行っている面々の方にむかったのかもしれない。そう思い、一行は急いでひみつきちへと戻っていくのだった。
●奪い返せ!
で、その噂の壷奪還組はと言うと。
「気を付けて下さいね。何が出てくるかわかりませんから」
ひみつきち内を、アマリスの作り出したホーリーライト片手に、捕まった少年達を探して、探索中だった。その両手には、少年達の家族から借りてきた着替えがある。酔っ払ったゴブリンがいるらしいのは確実なので、お酒臭くなってかわいそうだと言うのが、サリュの意見だ。
「あのぉ、本当にこっちであってるんですかぁ?」
ホーリーライト係のアマリス、先を行く彼女の姿に不安そうな表情となった。
「さっき、村の人に聞いてたから、たぶんあってますよ。大丈夫」
そんな彼女に、人を疑う事を知らないフローラ。そう言いながら、てくてくとついていく。まぁ、彼女にしてみれば、少年たちを救出する事より、壷の真実の方が気にかかるのだろう。
「待てッ! その子に手を出すなッ!」
ひみつきちの奥から聞こえてくる、怒号と悲鳴と剣戟の音。
「今のは‥‥!」
「ジラさんの声ですッ! 行ってみましょう!」
彼に頼んだ『役目』から考えれば、そこに誰がいて、何が起きたかは予想が付こうと言うもの。急いで声のした方へ向かうと、そこでは、オーガを相手取り、少年を庇うような形で、オーラソードを発動しているジラの姿があった。
「サリュさん! あれ!」
オーガの手には、村から盗まれたと思しき壷が抱えられている。しかし、そんな事はものともせず、太い棍棒を振り回すオーガ。
「く‥‥。さすがに厳しいか。少年、今のうちにお前だけでも逃げておけ」
ジラはそう言ったが、少年の方は恐怖の為か、全く動けない。金縛りにあったように、ふるふると首を横に振るだけだ。
「どうしよう。あれじゃあ、奪い返せないよ‥‥」
「考えている暇はないわ。手伝って!」
手を出しあぐねているサリュに、フローラがそう言った。と、彼女は頷いて、十字架のネックレスを握り締める。そして。
「オーガさんっ! こっちっ!」
彼女が叫びざま、振り返ったオーガにコアギュレイトを食らわせた。身動きの取れなくなった刹那、彼女はジラにこう言う。
「今のうちに、男の子達を!」
「心得た!」
目の前に居た少年を抱え、オーガの脇をすり抜けるジラ。
「ほら、しっかりして下さい。男の子でしょ?」
彼が抱え切れない分の少年達は、アマリスがそう言って微笑みながら、誘導する。ついでにその少年が負っていたかすり傷は、リカバーで綺麗さっぱり消えていた。
「グォォォォッ!」
そうこうしているうち、サリュのかけたコアギュレイトが解け、ふたたびオーガが動き出す。怒りの雄叫びを上げながら、ひみつきちの外へと出てくるオーガ。
「はい。残念!」
そこへ、フローラの仕掛けたライトニングトラップが発動し、オーガに電撃を浴びせかける。
「ああっ、どうしよう。まだ壷を離してくれないわ」
そのフローラ、関心はオーガではなく、抱えた壷にあるようだ。しかし、オーガは、せっかくのお楽しみを邪魔されたせいか、非常に怒っているらしく、うかつに手が出せない。
「しかたがないなぁ。とりあえず、ホーリー撃ちまぁす!」
取り戻せないと意味はないので、サリュがオーガにホーリーをぶっ放す。
「サリュ! こっちだ!」
「カイさん!」
そこへ、待機していたカイが、今度はフル装備の状態で、オーガへと挑みかかった。続けて、ジャスパーも、持っていたスタッフで、殴りつける。
そこへ、追い立てられるようにして、秘密基地へと戻ってくるゴブリンズ。彼らが、増援などではなく、さんざっぱらお仕置きされて撤退してきたのだと知るや否や、オーガはこれ以上戦っていても負けるだけと悟ったのか、一緒くたに逃げていく。
「間に合ったーーー! こらぁっ! 壷を離しなさぁいっ!」
ルーシェがそう言いながら、ムーンアローの魔法を放つ。対象が見えている状態ならば、間違って自分に帰って来る事もないだろう。大して威力はないものの、衝撃を与えるには充分だったらしく、オーガは壷を取り落としてしまう。
「ナイス、ルーシェ☆」
ちょうど足元に転がってきた壷を拾い上げ、そう言うサリュ。
「いやーん、お酒臭い〜」
「酒の壷なんだから、仕方がないじゃない」
眉根をしかめる彼女に、フローラがそう言った。
「それに、洗えば元通りになりますよ」
アマリアもそう言っている。こうして、首尾よく酔っ払いゴブリンズ&オーガを叩き出して、少年たちを救出した冒険者達は、今度こそ壷を落とさないように、しっかりと抱え込みながら、村へと戻るのだった。
なお、フローラの調べにより、壷から酒を飲む事で脱ぐわけではなく、村の酒の度が強すぎて、慣れない者が飲むと、体温が上がり、脱がざるを得ない状況になると言う事を、本人の強い希望により、明記しておく。