【基礎訓練】池の小石を壷持って飛べ

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月22日〜05月25日

リプレイ公開日:2005年05月28日

●オープニング

 さて、フリーウィルの授業と言うのは、様々な形態がある。今回、生徒達に出されたのは、郊外にある池を使ってのミッションだった。
「飛び石?」
「そう。壷持って渡るの」
 ギルドで受付嬢に、説明してみせるミス・パープル。彼女が受けもつスパイ養成クラスは、様々なシチュエーションの潜入工作その他を生徒達に教える場所だ。今回も、そんな『様々なシチュ』の1つを考えついたのだろう。
「えぇと、詳しく説明してくれます? それだけじゃ、生徒さんもわかんないと思います」
 ハーブティを傾けつつ、しっかり仕事はこなそうとする受付嬢。と、彼女は良くぞ聞いてくれましたっ! と言わんばかりの表情で、こう言った。
「ここから、半日くらい歩いた所に、大きな池があるんだけどね。1つ目は、そこに石を並べて、その上を渡ってもらうの。ただ、何個かはファンタズムの魔法で、ダミーを混ぜておくから」
 で、パープル女史も、やっぱりハーブティを傾けつつ説明している。ちなみに、今のお気に入りは、ローズヒップティだそうだ。
「ああ、それを壷持ってやるんですね?」
「ううん。そっちは別の競技。そこ、ちょうど向かい合わせに、岬っぽくなっているの。そこに、はしごとロープで、簡単な橋を作って、その上を、生徒達に、壷持って渡ってもらおうって事になって」
 つまり、二種類の競技を平行してやるらしい。だが、世の中には空を飛べる魔法もあるし、空を飛べる種族もいる。その辺りはどうするのだろう。
「えぇと、魔法は使ってもいいんだけど。飛び石では、他の先生か生徒に、放水してもらって、橋を渡る方は、木の実を投げてもらおうと思ってるわ。ほら、石つぶてで怪我すると、あたしが怒られるし」
 本当は、そっちでも構わないんだけどね。と、続けるパープル嬢。どうやら、参加生徒のレベルと希望で、どちらかを決めるのだろう。
「両方とも、落ちたら失格。そんな感じで、たーのしく基礎訓練って方向で」
 うふふふ。と、含み笑いを漏らすパープル女史。おそらくその脳裏には、びしょ濡れになった生徒達の姿が浮かんでいるのだろう。
「ま、これも訓練‥‥かな」
 そう思い、受付嬢は半ば諦めたように、サインを走らせるのであった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1916 ユエリー・ラウ(33歳・♂・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2253 黄 安成(34歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea4683 カナ・デ・ハルミーヤ(17歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

エリス・フェールディン(ea9520)/ ライオネル・クローサ(ea9908)/ ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292

●リプレイ本文

 朝から準備を行っていた為、午後には競技開始となった。
「装備品に制限はありませんでしたよね?」
「一応ないけど、重いと飛べないわよ」
 制服を着たまま参加しようとするマカール・レオーノフ(ea8870)に、パープルはそう言った。と、彼は持っていたロングロッドを指し示し、こう答えている。
「大丈夫です。これがありますから。では、行って来ます」
 そう言って、張られた布の向こう側へと消えるマカール。
「この辺は大丈夫そうですが‥‥」
 一番手前にあった飛び石を、つんつんとロングロッドでつつく彼。その手応えに、まずは本物‥‥と確認した直後だった。
「うわっ!」
 やや不意打ち気味に、それが、明後日の方向へそらされる。お手伝いの誰かが、サイコキネシスの魔法を使ったようだ。
「あー、言い忘れてましたが、オプションを付けた場合、自動的に難易度があがりまーす。ついでに、池には氷を入れといたから、安心してねー」
 しかも、パープルのセリフに、水面を見てみれば、何らかの手段で凍らされたらしい氷が、ぷかぷかと浮いている。
「落ちなきゃ良いんですよ。ええい!」
 おまけに、誰かがアイスブリザードの魔法を唱える中、仕方なくマカールは、ロングロットを使い、棒高跳びの要領で、次の飛び石へとわたる。装備は重いが、こうすれば、次の石を確認しながら、確実に渡れる。
「でも、さっさと離れないと、落とされちゃうわよー」
 パープル女史が、そう言いながら合図をする。直後、マカールのすぐ後ろで、ローリンググラビティーが炸裂していた。
「急がないと行けないようですね‥‥!」
 そう言いながら、スピードを上げるマカール。誰が入れ知恵をしたのか、飛んでくる魔法はウォーターボムだけではなくなってしまったようだ。
「よし、後1つで、クリア‥‥って、うぉうわぁぁっ!」
 最後の飛び石に渡った刹那、その飛び石が、つるんっと滑ってしまう。慌てて、反対側の石を踏み台にしようとしたが、その石はダミーだった。マカールの足は、むなしく空をきり、どぼーんっと盛大な水飛沫を上げてしまう。
「残念だったわね。話を聞いた生徒が、何だか色々準備してくれたのよん。おかげで、ずいぶん難易度が上がっちゃったけど」
 彼女が見せてくれた陶器の入れ物には、『滑り薬。ぬるぬる注意』なんぞと書かれている。
「あのー‥‥。微塵隠れで移動したら、失格ですか‥‥」
 次に渡る事になった大宗院透(ea0050)は、一応、パープルにそう聞いて見る。
「使っても良いけど、ちゃんと石は踏まなきゃダメよ。それと、使うなら空飛んでるものとして扱うから」
 その質問に、彼女はそう答えた。どうやら、使ってもあまり意味はなさそうだ。まぁ、これも基礎訓練だと割り切って、透は忍術は使わない事にしようと、心に決める。
「先に行ってぇ、向こうで待っててぇ☆」
 そんな彼に、大宗院亞莉子(ea8484)がきゃぴるんっと絡み付くようにして、そう囁いた。普段、あまり喋らないらしい彼、やんわりとその腕を解きながら、「‥‥わかった」と首を縦に振って、たすきをしめなおす。そして、パープル女史にこう申し出た。
「飛んでもいなくても、射撃を行ってもらえませんか? やっぱり、温いと力にならないので」
 と、彼女は頷いて、少し離れた場所にいるお手伝いの生徒さん達に、合図を送っていた。程なくして、答えるように、ウォーターボムが透の鼻先を掠めて行く。
「これくらい、なら。なんとか‥‥なる‥‥かな」
 それを、持ち前の運動能力の高さで補う透。岸の方で、パープル女史が怒鳴っている所をみると、女装した自分の姿に、お手伝いさんが勘違いをしているようだ。
「‥‥あれは‥‥! よし!」
 そんな中、透の優秀な視力は、ウォーターボムの着弾した衝撃で起きた波を捉える。普通、石には打ち寄せるものだが、幻には、それがない。確信にはなっていないが、避ければクリアする確率は上がる。そう考えた透は、まるで軽業師のようにそれを避け、次なる飛び石へと渡っていく。その結果、一度も水に濡れる事なく、向こう岸へと渡る事が出来た。
「じゃあ、次は私ぃ? 透ー! 待っててねーー!」
 振り返ると、次は亞莉子のようである。ぶんぶんと楽しそうに腕を振りまくっている彼女。そう言えば、そこで待っていろと言われていたなーと思い起こした彼は、無表情なまま、仮初の妻が渡ってくるのを待った。
「亞莉子、いっきまーす☆」
 そう言うと、彼女は疾走の術を唱えた。とたん、彼女の足元から煙が出て、スピードを上げる。
「透ーー! 愛してるってカンジィーー!」
 そのままのスピードで、彼女は飛び石を踏み台にジャンプする。目指した先は、愛する旦那様の腕の中。
「‥‥ぶつかる」
 自由落下に入った所で、その透は、一歩脇に避けた。
「って、何で避けるのよーーー!」
 てっきり、抱きしめてくれると思った亞莉子さん、文句を言いながら、地面と抱き合ってしまう。しかも、体勢を整えようと、後ろの飛び石に足をかけたら、その石が偽ものだった運のなさ。哀れ、彼女は水の中。
「‥‥亞莉子さんなら、着地出来ると思ったからです」
 表情を変えないまま、そう言いだす旦那に、ぶつぶつと文句を言う亞莉子嬢。そのままぎゃあぎゃあと犬も食わない言い争いをはじめかねない2人を、東雲辰巳(ea8110)が焚き火の側へと引っ張り込んでいる。
「先生、私も上級コースにしてくれんか? 慣れてるわけじゃないが。スキルを上げたい」
「修練は積んでいるって言ってたわね。そうね。やっぱり、本職の子には、もう少し難度を上げないと、手ごたえがないし。東雲、そう言う事だから、例のアレ、お願いね」
 黄安成(ea2253)の申し出に、パープル女史は、東雲に何事か合図する。一人だけ、何だかとても楽しそうである。いぶかしむ黄だったが、まぁそう言う性格の女性なのだろうと割り切り、飛び石へと挑んだ。
「うむ‥‥。では、参る!」
 さきほど、亞莉子に投げてきたウォーターボムより、倍は大きな水球が飛んでくる。さすがに、難度か武闘大会にも出場しただけはあって、そう簡単には倒れない。
「む、無念じゃ‥‥っ」
 だが、体力にものは言わせられても、幻を見分ける力は、それほど強くはなかったようだ。偽物の石をふんでしまい、水の中へと落ちてしまう。
「やっぱり、偽ものを見破れるかどうかが、鍵みたいじゃのう‥‥」
 水につかってしまった袈裟と旅装束を脱ぎ、赤褌一丁で、マカールが熾した焚き火にあたりながら、その原因を分析する黄。どうやら、こう言ったものの場合、力一辺倒ではクリア出来ない事は、学習できたようだ。
「先生、片方だけでも良いんですか? 壷持ちながらだと、飛べないと思いやがりますんで、飛び石の方に行きやがりたいです」
 そんな中、カナ・デ・ハルミーヤ(ea4683)が、そう尋ねてきた。見れば、彼女の背丈は、ちょうど壷と同じくらいだ。その細腕では、壷を持ち上げるのは無理と言うもの。そうね。納得したらしいパープル先生は、彼女にこう答えてくれる。
「わかったわ。その代わり、さっきと同じように、ウォーターボムが飛んでくるけど、構わないわね?」
 こくんと頷いて、ぱたぱたと浮き上がるカナ嬢。
「うわっ! ととっ! ちょっとは手加減しやがるですよー!」
 しかし、そんな彼女にも、手伝いの面々は容赦がない。回避だけは自信があるが、こう飛んでくる数が多いと、下手に飛び石へ降りられなかった。
「えぇと、本物は‥‥!!」
 チャンスは少ない。失敗は出来ないと思ったカナ、自身の魔力で、なんとか偽ものを見分けようとする。
(「あれだ!」)
 並んだ飛び石の中で、これぞ本物! と思うものに足をかけた‥‥のだが。
「うわっ。なんですかこれ! 本物なのに沈みやがりますよーーー!」
 見分けた筈のそれは、あっさりと水の中に沈んでしまう。
「引っかかったわね。黄くんの話にヒントを得て、浮かぶ小石に、魔法かけといたってわけ」
 見れば、その飛び石は、本物でも幻でもなく、樽を黒く塗っただけのもの。どうやら、この上にファンタズムをかけ、誤魔化していたらしい。
「たーすけやがるですよー。泳げないですー。羽が濡れやがりますー。がばごぼ、ヘルプミー♪」
 背丈の問題で、足の届かない彼女。じたばたと歌いながら沈んで行く。
「大丈夫か?」
「うー‥‥。水吸って重いー」
 それを引き上げる、浴衣姿の東雲。着ていたレヲナルドの着ぐるみが、水を吸って、自重を倍にしている為、身動きが取れない模様だ。とりあえず、そのままぬいぐるみを干すように、焚き火の側へと連行する東雲。
「えぇと、最後は僕ですね。あの、服は何でも良いんですよね」
 確かめる様なカンタータ・ドレッドノート(ea9455)の問いに、パープルは頷く。それを聞いた彼女、安心したように耳をリボンの中へと押しこむ。
「ありがとうです。それじゃ、行って来ます」
 ぺこりと礼儀正しく一礼をして、走りだすカンタータ嬢。バックパックもローブも、外して置いてあるので、少しは身軽になっている。
(「二番目だけ違う方向に‥‥」)
 飛び石は、すべて岸に近い方を選ぶ彼女。運動神経は、さほど良い方ではないが、ふらふらしながら、なんとか渡っている。
(「あ、あともう1個! が、頑張らなきゃっ!」)
 だが、そう思い、足を踏み出した直後、飛び石は水の中に沈み、バランスを崩してしまっていた。
「うわっ! ととっ!」
 どぼーんっと盛大に水の中に落ちるカンタータ。やっぱり、体を動かすのは上手く行かないようだ。
「助けて〜。僕、泳げないんですー」
「お前もか。ほらほら、しっかりしろ」
 じたばたと暴れている彼女を、失格者の救出にあたっていた東雲が引き上げる。その拍子で、レインボーリボンが外れ、彼女の特徴的な耳が露わになってしまった。
「おっと、流されてしまうな。とってきてやるよ」
 だが、彼は全く気にせず、カンタータを手近な偽物にしがみつかせると、リボンを追いかけてくれた。
「ありがとうございますー。あ‥‥前が見えな‥‥」
 瞳を潤ませて、それを受け取るカンタータ嬢。長い髪が零れ落ち、視界を奪った。髪をかき上げようと手を離せば、流されそうになってしまう。
「大丈夫か?」
「うう、パープリンが‥‥」
 仕方なさそうに抱き上げる東雲に、頬を染めながら擦り寄るカンタータ。何をどう勘違いしたのか、男性の声色で。
「おいおい。そう言うセリフは、よそで言った方が身の為だぞ。レディ、地獄耳だから」
 困惑した表情の彼。こっそりと、パープルに聞こえないように忠告をする。
「誰が何かしら? 東雲ちゃん」
「き、聞いていたのかっ」
 岸に上がってきた所を待ち構えていたのは、ライトハルバード片手に、コメカミに血管浮かせたパープル女史。おもわず後に引く東雲。
「人を何だと思ってるのかしらぁ? 少し頭を冷やしてきなさいっ」
 柄でどつかれ、東雲はそのまま再び水の中へとダイビング。
「何だか楽しそうですねぇ」
 諸悪の根源だった筈のカンタータ。ぜーんぜんお構いなしに、焚き火にあたりながら、にこやかに修羅場を見学中なのだった。

 翌日は、はしご競技を行う事になった。
「‥‥って、なんで、こんなものが飛んでくるんですかっ!」
 すでに終わらせた透、パープルにそう訴える。見れば、彼の綺麗な姿は、得体の知れない粉で真っ白だ。
「射撃量二倍にしてくれって言われたから。いいじゃない、きちんと渡れれたんだから」
 しれっとしてそう答える彼女。その手には、粉の詰まった布玉がある。どうやら、お手伝いの人が入れ知恵したらしい。本当は痺れ薬にしたかったのだが、技術が追いつかなかったので、それはナシにしてあった。
「そうそう。それに、飛んでくるのが邪魔なら、あたしみたいに、眠らせちゃえば良いってカンジ」
 そんな透に、亞莉子がケタケタと笑いながら、そう言った。その示す先では、寝ぼけ眼なお手伝いの生徒達が転がっている。半分はまだ元気だが。
「だから、悪かったって言ってるだろ! 何で俺だけ3倍量なんだ!!」
 その元気なお手伝い達が、粉玉を食らわせているのは、東雲である。平謝りの彼だったが、パープル女史は、許す気はないようだ。結果、盛大な水柱を上げている。
「仕方ないですね。ちょっと拾ってきます」
 ぷかーーっと水面に浮いている東雲を見て、着替え終わったマカールが、近付いてくる。
「えぇい、お前も道連れだ!」
 ところが、引っ張り上げようとした彼を、東雲が逆に池の中へと引っ張り込んでしまった。おかげで彼は、着替えたばかりだと言うのに、また衣装をずぶぬれにしてしまっている。
「さて、じゃあ次は私ですね」
 その間に、今度はユエリー・ラウ(ea1916)が、壷を持って競技に挑む。と、出発した直後、彼はマジカルミラージュを唱えた。ほどなくして、その数m先に、同じ姿を持つ幻が浮かび上がる。
「どっちかは偽物よ! 構わないから、どーんどん投げちゃいなさい!」
 パープル嬢の指示により、お手伝いの生徒達は、使い切ってしまえとばかりに、両方のユエリーめがけて、盛大に投げ込んできた。
「実戦では、逃げる敵が反撃してこないとは、限らないんですよ!」
 その様子に、彼は壷の封印を解き、その中身を、パープル女史達のいる方向へとぶちまけてしまう。
「ああもう! だから止めときなさいって言ったのにー! きゃー! どこ入ってのよー!」
 現れたのは、イギリス語では頭文字Cになる、キッチンの嫌われ者さん達である。しかも、あろう事か、彼女の服の中へ入ってしまったらしい。
「大変だ! とりあえず脱いでくれ!」
「どさまぎで何言ってんのよ!! さっさと、こいつら退治してきなさい!」
 東雲、それを退治しようと服を脱がそうとするものの、逆にパープル女史に怒られている。
「皆さん、頑張って退治していて下さいねー」
 そんなこんなで、お手伝いや他の生徒が、ゴキブリ退治に明け暮れているのを横目に、ユエリーは、悠然とはしごを渡っていくのだった。