【花嫁育成外伝】うちの子と遊んで☆

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜06月01日

リプレイ公開日:2005年06月01日

●オープニング

 エチゴヤで、ペットが入荷して、ケンブリッジでも、愛犬、愛猫、愛鷹を所持する者達が、徐々に増え始めていた。
「ぷーちゃんのお姉ちゃん、いっつも散歩させられてるよねー」
「まるくんのパパさん、無茶して、風邪引いちゃったんだって。ねー」
 市場内にある料理店や、学生食堂でも、早くもペットの話に、花が咲いている。多くは、生活費に余裕のある方々ではあったのだが。
「うーん。客が来るのは良いんだがー‥‥。こうも騒がしいと、他のお客が良い顔しねぇなぁ‥‥」
 品物を出しながら、お客の話に、複雑な表情で、そう呟く店主。どうやら、ペットによっては、店に入れなかったり、逆に大騒ぎになったりと、必ずしも上手く行っているというわけではないようだ。売り上げは下がらないので、強くは言えないのだが。
「すみませーん、おやつ持ってきてくれますー?」
「はーい、ただいまー」
 アルバイトのランスくんが、トレイにお客さん用のクッキーと、わんちゃん用のクッキーを乗せて、ぱたぱたと走り回っている。
「わぁぁんっ!」
「ああっ、ごめんなさいっ!」
 その先では、お友達のパラと、ハーブティを飲んでいたシフールのお嬢さんが、他の客のつれていた大型犬にじゃれつかれ、悲鳴を上げていた。
「こら、モーちゃん! 駄目だろ、すぐ飛び掛ったりしちゃ!」
「くぅん‥‥」
 もっとも、犬の方には悪気はなく、単に遊びたかっただけのようだ。
「奥さん、ちゃんと紐つないどいて下さいよー」
 気付けば、あっちこっちで、そんな騒ぎが起こっている。頭を抱える酒場の店主。
「本当にすみません。普段は大人しい子なんですけど‥‥」
「いや、ちょっとびっくりしただけですから‥‥」
 謝られ、首を横に振るシフールの女の子。飼い主のドワーフ少女は、平謝りだ。その間にも、犬さんはぱたぱたと尻尾をふっちゃあ、クッキーをぱくついている。そりゃあ、これだけ仲間や人がいれば、落ち着かないのも当然かもしれない。
「うーん、どこか、この子達がのびのびと遊べて、安全な場所ってないのかしら‥‥」
「そうだなー。このままだと、飼ってられなくなっちまうからなぁ‥‥」
 肩に子猫をのっけた人間のお嬢さん、困ったように腕を組んでいる。と、そのお友達らしきジャイアントの女性がこう言った。
「そうだ、冒険者の皆さん方なら、何か知ってるかもしれねーぜ」
 何しろ、何も知らない男の子を、花嫁さんに仕立て上げられるくらいの御仁である。それくらいは、朝飯前かもしれない。
「その可能性はありますね。頼んでみましょうよ」
「決まったら教えて下さいよ。うちも、売り上げが落ちないようにしたいんで」
 話がまとまると早いもので、その日の内に、ケンブリギルドに、以下のような依頼文章が載る。

『わんちゃんにゃんこちゃんとりさん他、ペットを楽しく遊ばせてくれる事の出来る人を、募集します。なお、場所は、店からあまり放れず、かつうるさくならない場所を提示してくれるとありがたいです』

 と、その張り紙を見ていた、1人の少年が、おどおどとした様子で、こう尋ねてきた。
「あの‥‥。ペット持ってなくても、遊びに行って良いですか?」
「ん? 別にかまわねぇと思うけど」
 帽子を深く被った彼の問いに、そう答える酒場の店主。やや考え込むと、こう書き加える。

『なお、自分のペットを連れてくるのもOKです。たくさんお友達になってあげて下さい』

「これでいいか。ん? ぼうず、どこ行ったんだ?」
 しかし、振り返っても、その少年の姿はない。
「良かった。僕‥‥何も飼ってないけど、遊びたかったから‥‥」
 ほっとした表情で、店裏の路地を歩く少年。その耳は、ハーフエルフの特徴を、如実に現していた‥‥。

●今回の参加者

 ea1916 ユエリー・ラウ(33歳・♂・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6030 タチアナ・ユーギン(32歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea6865 ヴォルグ・シルヴァール(35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6878 フェーラ・カタリスト(24歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2303 豊鷹 莉奈(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 会場となったキャンプ場には、愛ペットを連れた花嫁候補達が、集まり始めていた
「ペットの依頼があって、ラッキーでした♪」
 集まった面々の前で、そう言うセラフィマ・レオーノフ(eb2554)。彼女も、愛馬と愛にゃんこを連れている。そんな中、集まっている動物たちに、鼻の下をのばしていた豊鷹莉奈(eb2303)、こんな事を言い出す。
「まったく、こんな依頼が出るなんて、全然躾がなっていないな」
 ボーダーコリー連れの彼女、はしゃぐわんこになつかれて、嬉しくて仕方がない筈なのだが、どうやら天邪鬼な性格が災いしている模様。
「その割には嬉しそうよ。あなた」
「そそそそそんな事はないぞっ。そんな事はっ」
 フェーラ・カタリスト(ea6878)にそう言われ、莉奈は真っ赤になってしまう。照れくさいようだ。
「勉学の間の息抜きと言うのも必要だろう。それほど目くじらを立てるなよ」
「う、うむっ。た、たまには必要だなっ。うん」
 そのフェーラの恋人、ヴォルグ・シルヴァール(ea6865)に諭され、彼女は自分に言い聞かせるように、そう言った。
「まぁ、ペットの他にも、飼い主や、ただ遊びたいだけの人も来るだろうから、それなりに考える事は多いなー。どうする?」
「皆で楽しく遊べるように、工夫したいですね。それに、もてなしの方も忘れないようにしませんと」
 場所は確保できたが、それだけでは、不十分と考えたヴォルグが、フェーラに尋ねているが、彼女としては得意な料理を作るくらいしか、思いつかないようだ。
「じゃれあうのは、運動不足が原因だな。ここは1つ、運動できるものを作ると言うのはどうだ? 障害物競走が出来るような」
 そんな彼らに、自身もペットを飼っている経験と知識から、莉奈嬢が提案している。
「ふむ。面白そうだな。先生、何か借りれないか?」
「キャンプ場内にある備品なら、好きに使って構わないわよ」
 結局、ユエリー・ラウ(ea1916)とミカエル・クライム(ea4675)に引きずられる形で、ついてこさせられたパープル女史、原状復帰を条件に、許可を出している。
「ただし、糞はきちんと掃除しておけよ。それと、しつけはきちんとしておくこと」
「私の白銀は、そんなに悪い子じゃないぞっ」
 エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が、掃除用の小さな袋を配りながらそう言うと、莉奈嬢がちょっとむっとした表情で、愛犬に『お手』をさせている。どうやら、彼が気にするほど、困ったくんなわんこは居ないようだ。
「しつけが出来ているなら、それでいい。さて、では準備に取り掛かるとするか」
「えぇと、これを運べばいいんですね。それと、皆さんの荷物を‥‥」
 キャンプ場の片隅に置かれていた荷台や、樽、木材等を、上手い事組み合わせようとする莉奈嬢。セラが、愛馬と共に、それを引っ張り出そうとしている。
「重いから、私が運びますよ。女の子に、力仕事は大変ですものね」
「え、あの‥‥」
 だが、そんな彼女の荷物を、ユエリーが持っていってしまった。
「学食の皿、20枚くらい運べば足りるか? 食材は、メインだけ持って行って、ハーブ類は現地調達で良いと思うんだが」
「小麦粉だけ運んでくださいね。あれ、野生じゃ生えてませんから」
 彼だけではない。フェーラの指示に、ヴォルグも皿や食材などを、次々と運んで行ってしまう。
「おう、任しとけ。こいつの料理は天下一品だからなー、期待していいぞ」
「まぁ、ヴォルグ様ったら」
 もっとも、セラの仕事を奪おうと言う魂胆ではなく、単に彼女の負担を軽くしようと言う男気だけだったのだが。
「あー。フェーラさん赤くなったー。もしかして、らぶらぶ?」
「ん? 俺とフェーラの関係か? んー、まぁいわゆる『男女の深い仲』って奴だ」
 褒められて赤くなったフェーラを見て、愛を叫んだ乙女のミカエルは、きらーんと目を輝かせている。
「いーなーいーなー。ねぇ、あたしに手伝える事があれば、何でも言ってね。料理は上手くないけど」
「ありがとう。じゃあ、スープ作りでも手伝ってもらおうかしら。まずは薪を集めて、火を起こさないとね」
 火の精霊魔法を得意とするミカエルにとっては、朝飯前の仕事だ。それを聞いて、すっ飛んで行く彼女。
「どうしよう。ほんとに役立たずだ‥‥」
 そんな楽しそうな彼らとは対照的に、寂しそうなセラ。自身がやろうとした仕事には、全て他にもっと出来る人がいる。それを押しのけてまで、仲間に入る勇気は、彼女にはなかった。
「セラちゃん、一緒に薪拾いに行こう☆」
「え‥‥」
 ところが、そんな彼女を、ミカエルが引っ張り出す。
「あたし1人じゃ大変だもの。ねぇねぇ、先生も手伝ってよー」
 彼女ばかりではない。パープル女史まで、仕事に借り出そうとしているミカエル。もっとも、女史には「左腕動かないんじゃ、力仕事は無理だっての」と、嘘ばりばりな理屈をつけて逃げらてしまうのだが。
「なんだ、私の考えすぎ、みたいね」
 兄の手紙にあった通りだと確信するセラ嬢。どうやら、仲間はずれを食らっているかもと思ったのは、彼女の思い過ごしだったようだ。
「楽しそうだなー‥‥」
 そんなセラの耳に届く、小さな声。振りかえって見ると、周囲の木立の中で、うらやましそうにこちらを見ている少年の姿があった。
「そんな所にいないで、こっちにいらっしゃいな」
 だが、彼女が声をかけると、少年は小動物が驚いて逃げるかのように、走りだしてしまう。
「あ、待って! 別に何もしないからっ」
 追いかけるセラ。相手はあまりスピードを出していなかったらしく、すぐに追いついていた。知っている者が見れば、以前花嫁依頼で綺麗に洗われた少年だと気付くが、残念ながら皆、初対面だ。
「あれ、お友達? 初めまして。あたしは炎熱の女帝こと、ミカエル・クライムよ♪」
「その、ボクは‥‥」
 そこへ、ミカエルも顔を出して、軽くご挨拶。戸惑う少年に、セラが耳を示しながら、こう言った。
「私も同族だから、そんなに怖がらなくても良いよ。それに、ロシアを出てから、あまり‥‥その‥‥」
 良い目を見ていないから。と、言葉を濁す彼女。冒険者ギルドはともかく、一般の場所では、それなりの憂き目を見てきたようだ。
「ほら、そんなに緊張しないで」
 どう声をかけて良いか分からず、沈黙してしまったセラの変わりに、タチアナ・ユーギン(ea6030)がこうきり出した。
「ここは、可愛い動物達を愛する人が、皆で仲良く語らう場所なのでしょう? だったら、つまらない拘りは捨てて、皆で楽しみましょう。ね?」
「あ、はい‥‥」
 しかし、積極的な彼らに、少年は戸惑ったままだ。
「料理の準備が出来たわよー。皆、運んで頂戴☆」
 そこへ、作り終わったらしいフェーラが、呼びに来た。本当はもう少し手の込んだものを作りたかったようだが、皆でつつける方を優先した所、庭で肉や魚や野菜を焼きつつ、動物と戯れると言う方式を選んだようである。まぁ、そんな中でも、腕によりをかけたシチューが出来上がりつつあって、立ち上る香りが。食欲を煽っている。
「お前も、いっその事ケンブリッジに入学したらどうだ? ここは、俺達みたいな奴も受け入れてくれる。もう、隠れてこそこそ生きなくても良くなるぞ」
 お腹の空いた学生達が、キャンプ場へ戻って行く中、エルンストは件のハーフエルフ少年にそう言った。かなり、気の弱いタイプの少年を、公的に受け入れを表明しているケンブリッジに入れれば、少しは改善されると考えたらしい。幸いな事に、ケンブリッジには同族も多い。同じ経緯を持つ者も、少なくないだろう。
「そう‥・・ですね。行って、みます‥・・」
 こくんと頷いた少年は、彼と一緒に、人々の輪の中へと入って行くのだった。
「そーれ、GO!」
 ペットを飼っているわけではないが、一般的な動物の知識は持ち合わせているヴォルグ、棒切れを投げて、それを取ってきてもらっていた。
「キミ、名前はなんていうのかなぁ?」
 そのわんこに対し、莉奈嬢が名前を尋ねている。普段の冷たい口調は影をひそめ、まるで純真な女の子のように、話しかけている。
「え、えぇと。ロットって言います。僕の名前がランスだから、湖の騎士様にあやかって〜」
「そうか、良い名前だな」
 自慢話めいたランスの話にも、ヴォルグは嫌な顔1つせず、ロットを撫でながら、聞いてあげている。
「この子のはミーリィ。こっちのはドゴーダって言うのよ。そっちの子は?」
「この子は白銀。そっちのは茶々と言うんだ」
 だが、タチアナ嬢が、自身のペットを紹介しながら、家族の名を尋ねると、いつもの調子に戻っているあたり、女の子らしさを見せるのは、動物達だけのようだ。
「わ、私のはリエースとルゥナーって言うんですよ。可愛いでしょう☆」
「こら! そんなに舐めないでよ。ちゃんとあげるからぁ。にゃああっ、どこ舐めてるのー。ああっ。レヴァが呆れてるじゃない〜」
 一方では、セラの所のルゥナーに、ミカエルがしこたま舐められている。さっき食べた焼き魚の臭いが、猫達をひきよせてしまっているようだ。
「なるほど。キミたちが噂の花嫁候補なんですね? 妹から、お噂はかねがね」
 その頃、ユエリーはと言うと、わんこを飼っている花嫁候補達と、歓談中である。
「どんな噂なんだろう‥‥」
「いや、きっと家庭に入ったら、楽しくなるだろう人達って、聞いただけですよ。あぁ、ヴィオラとロサに乗りたいなら、言ってくださいね」
 グラウンド一周くらいなら、やったことなくても、出来ますから、と続けるユエリー。
「私は違う話を聞きましたけど‥‥。あの、ランスさんってどなたですか?」
「あ、はい。僕ですけど‥‥」
 そんな中、セラはある少年を探していた。呼び出されたエルフの彼は、運んでいた料理を置くと、彼女の前に進み出る。
「あの、顔に何かついてますか?」
 じーっと見つめられて、首をかしげるランスくん。と、セラは何を思ったのか、その手を握り、まるで花婿の妹が挨拶をするかのように、頭を下げた。
「い、いえ‥‥。えと、その‥‥。兄をよろしくお願いいたしますっ」
「え、えぇぇぇっ!? ど、どう言う事っ」
 驚いたのはランスくんの方である。
「だって、お義姉様になってくれる人だって、お兄様が‥‥」
「そ、そんな話聞いてませんよーー」
 ぽっと頬染めるセラ。なにをどう伝わったのか、ランス君に関する兄の花嫁育成話が、かなり歪んで曲がって間違ってロシアの実家に届いたらしい。どうしたら良いかわからないランスくんに、エルンストがこう言った。
「ランスもそこの少年も、まだ候補と言うだけで、嫁には行ってないから、ここいらで落ち着くのも悪くないかもしれんな」
「フォローになってないわよ。エルンスト」
 気になっていたらしい彼。上手い事嫁入り先が見付かって、ほっとしていると言った風情だ。まぁ、新手のいぢめとも取れるが、少しはこの状況に慣れたんだろう。
「冗談が出るようだと、だいぶ落ち着かれたようですわね。では、座も盛り上がってきた所で、ダンスを‥‥。タチアナ様、伴奏をお願いいたしますわ」
 そんな中、一通り片付けも終わったフェーラが、マントをバックパックに入れながら、そう申し出た。
「はーい。何かリクエストがあるかしら?」
「踊りやすい曲がいいですわ」
 竪琴を爪弾きながら、尋ねてくるタチアナ嬢に、フェーラさんは、たおやかな仕草で、軽くステップを踏んでみせる。
「それじゃ、初夏らしい曲を‥‥」
 明るい日差しには、明るい曲が似合う。そう思った彼女は、持っていた竪琴ではなく、ドゴーダに積ませていたリュートベイルを持ってきた。メロディーの魔法が込められたそれは、人々ばかりではなく、動物達の心も穏やかにさせているようだ。そんな中、フェーラは、金色の髪に、太陽の光と言う装飾を浴びながら、優雅に民族舞踊を踊っている。
「って、こら! 踊ってる最中に、飛び掛っちゃダメだろ」
 と、そのキラキラに引かれたのか、ランスくん家のロットくん、わふわふとじゃれ付いている。
「こ、困りますわ〜。この子、人の柔らかい所ばっかり舐めるんですけど〜」
 しかも、何をどう思ったのか、関節の裏だとか、ほっぺだとかを狙う始末。
「その割には、鼻の下が緩んでいますよ」
「だって、無下に振り払うわけにもいきませんし‥‥どうしましょう〜?」
 が、フェーラとしては、あながち悪い気分でもなさそうだ。問題は、踊り子としての衣装の露出が高いので、ちょっとセクシーな光景になってしまうところだろうか。
「うーん。フェーラにじゃれつかれるのは嫌だが、引き剥がすのもなんだし‥‥複雑な気分だ」
 彼氏のヴォルグは、複雑な表情だ。悪気がなさそうなわんこなので、しかりつけるわけにもいかずに、嫁さんを子供に取られた気分になっているらしい。
「よし、少ししか呼べないけど、黒雹も呼んじゃうね」
 笑い転げるフェーラを見て、気を良くした莉奈嬢、大ガマの術を唱えた。
「この子が黒雹。ひんやりして、気持ち良いよ」
 ぺとっと肌をつけて、愛ガマを紹介する彼女。と、その体長3mのカエルくんは、目の前で腰を抜かしていたハーフエルフの少年のほっぺに、べろーんっと舌を伸ばした。
「ひやぁぁぁっ。舐められたーー」
 驚いた少年の、瞳と髪の毛が赤くなりかける。そのまま狂化されたらまずいと判断したタチアナ、スリープの魔法を唱える。
「あ、倒れた」
 おかげで、他の面々には、驚いて倒れたように映ったらしい。
「きっと嬉しくて寝ちゃったんでしょう。あ、ちょっとこの子、お借りしますよ」
 そんな彼をよこいせと抱き上げると、タチアナはセラが抱えていたルゥナーを連れて、その側へと寝かせてしまう。そのお腹のもふもふふかふかっぷりに、寝こけた少年は、なんだか幸せそうだ。
「私も混ぜてもらおうーっと」
「ずるいですぅ。私もモフらせて下さいよー」
 一撃必殺の魅力は、彼だけではなく、ミカエルやセラ自身も撃沈してしまったらしい。
「はいはい。皆仲良く、ね」
 タチアナ嬢にそう言われ、一緒くたにお昼寝タイムになる2人。
「ヴォルグ様、私も何か飼いたくなってしまいましたわ。私は猫を飼いますので、ヴォルグ様には、犬を飼って頂ければ‥‥と」
「そうだなぁ。今度、市場でペット関係を見て回ってみるか‥‥」
 ここぞとばかりにおねだりしてくる恋人に、彼は仕方がなさそうに、そう答えている。
「いいなー。幸せそうで‥‥」
 片思い進行中のミカエル、うらやましそうな表情で、そう呟く。そんな彼女にも、五月の日差しは、優しく降り注ぐのだった‥‥。