潮干狩りいきませんか

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月06日

リプレイ公開日:2005年06月07日

●オープニング

 それは、ドーバーのバンブーデン家邸宅から始まった。
「失礼いたします。カンタベリーから、約束していた品の受け取りに、お客様がいらっしゃってますわ」
「ああ、通してくれ」
 トゥインにそう言われ、バンブーデン家の執事兼秘書のハイランドは、訪問者を客間へと案内する。そこへ、姿を見せたのは、いつぞや、議長に招かれたと言うジャパンの青年、茅野鶴乃介である。
「鶴乃介とか言ったな。イギリスの暮らしには、慣れたかい?」
「ええ、もうすっかり。この通り、イギリス語も話せる様になりましたし」
 生粋のジャパン人の彼を、ハイランドは気に入っているらしい。珍しがっているだけなのかもしれないが。
「それで、頼んでいた品は、集まりましたでしょうか?」
「ああ、この通りだ」
 その彼が、鶴之介に差し出したのは、なにやら黒くて小さな貝の殻である。
「手間を取らせてすみません」
「いや、これも商売だしな。多少、砕けているが、構わないか?」
 見れば、貝はその何割かが、粉々になってしまっている。それでも良いかと尋ねると、彼は頷きながら、何枚か金貨を差し出す。
「ええ。どっちみち、後で粉にしてしまうから。これは、約束の代金です」
「半分で構わない。廃品だからな。しかし、こんな小さい貝の欠片、何に使うんだ?」
 その中から、ハイランドは一枚だけを抜き取り、代価として受け取っていた。
「染物です。私の故郷では、色の濃い貝からは、上質の染料が取れるんですよ」
 そう言うと、鶴之介は貰った貝殻のうち、何枚かを取り出し、テーブルの上で潰してみせる。と、その粉は、濃い紫色となった。
「うん、やはり水が良いんだろうね。とても綺麗な色に染まりそうだ。これなら、姉も喜んでくれると思います」
 出来上がりに満足そうな彼。その様子に、『なるほど』と言った表情を見せていたハイランドは、こう尋ねてきた。
「と言う事は、もっと大きな貝なら、もっとたくさん取れるのか?」
「ものにもよるでしょうけどね。これくらいの色の、もっと大きな貝が、この近くで、取れればよいのですが‥‥」
 見本の大きさを、手で示してみせる鶴之介。それを見たハイランド、こう申し出た。
「ふむ。お館様なら知ってるかもしれんな。そろそろ帰っておられる頃だし、聞いてみよう」
「大きくて色の濃い貝か‥‥。そうだな‥‥。このあたりなら、砂地も多く、ジャイアントムールも生息しているだろう」
 その彼の主、バンブーデン伯爵が、沿岸地図に示したのは、とある入り江だ。
「なるほど。確かその辺りは、ジャイアントクラブや、ローバーも目撃されていたな。鶴之介殿、確かこの二つも、材料になると伺ったが」
「ええ。材料はごく一部ですが‥‥」
 ハイランドの言葉に頷く鶴之介。どこをどう使うのかは分からないが、織物の素材として活用出来るらしい。
「大きければ、数も少なくて済もう」
「狩りに行くのならば、私もお供を。やはり、自分の目で確かめたいですし」
 そう申し出る鶴之介。と、それを聞いたバンブーデン氏、書状をしたためながら、こう言ってくれる。
「ふむ。議長殿には、わしから言っておこう。何が出て来るかわからん。護衛の冒険者を雇っておけ」
「かしこまりました」
 頷くハイランド。ところが、その直後である。
「その話、このトゥインにも乗らせて下さいましっ」
「聞いていたのか‥‥」
 バターンっと扉が開いて、乱入するトゥインちゃん。興奮した様子で、こうまくしたてた。
「聞こえちゃっただけですわ。ねぇお館様ぁ、トゥイン、綺麗な貝のペンダント作りたいですわー。御方様も、美味しい貝のスープを、きっと召し上がりたいと思っておられるに決まってますぅ。ついてって良いでしょー?」
 そして、ごろごろと喉を鳴らして、バンブーデンに擦り寄る彼女。主が、仕方なさそうに「大人しくしてるんだぞ?」と、それを許可すると、
「やったー! お館様、大好きー♪」なんぞと、みえみえの甘えっぷりで、喜んでいる。
「と言うわけで、一人余計なのが増えたが、面倒を見てやってくれ」
 使用人と客人は、苦笑しながら、「わかりました」と頷くのであった。

 そして。

『染料となる大きな貝を集めたいので、護衛とお手伝いを募集します』

 場所と金額、そして同行者2名が記された依頼書が、キャメロットギルドに張り出されるのだった。

 一方その頃、現地では。
「なぁにぃ!? 人のシマで、潮干狩りをやろうってかい! 良い度胸じゃないか!」
 岩にかこまれた浅瀬では、部下から話を聞いたらしい海賊団のリーナが、激怒していた。
「やるのは構いませんが、お頭、うかつに手を出すと、こないだみたいになりかねませんぜー」
 が。部下にそう言われ、とたんに頭を抱えている。
「そうなんだよなー。おまけに、湾とは言え、陸地だしなー。お前ら、黙って聞いてねぇで、良い知恵搾り出しやがれ!」
 お頭に怒鳴られ、ぶんぶんと首を横に振りながら、「「無理ッスよー」」と訴える部下達。
「ふふふ。良い事教えてあげようかー♪」
「だれだっ!」
 そこへ、子供が歌うような声を出して、現れる人影。
「妖しいものじゃないよーん。黒の御前のお・つ・か・い☆ ロイヤルオーダーの運び手、リリィベルちゃんでーす♪」
 岩場の上で、一回転してみせる、道化師姿のシフール。彼女のセリフに、リーナは少し緊張した面持ちで、こう聞いてきた。
「御前様の‥‥? で、何の用だよ」
「人間と違って、モンスターは言う事聞きやすいからねぇ。御前様におすがりすれば、あーっと言う間に、浜辺は素敵な屠・殺・場☆」
 でーっかいカニとかー、貝とかー、イソギンチャクもいたりしてぇ♪ と続けながら、彼女は何がおかしいのか、ケタケタと笑っている。
「なるほど、そいつらを使って、海へ引きずり出せば良いってかい」
「そう言う事ー。じゃ、確かに伝えたよん☆」
 リーナが、策を思いつくと、リリィベルはくすくす笑いながら、岩場の向こうへと姿を消した。
「よし、やるぞ。おめぇら! 冒険者どもに、一泡吹かせてやろうぜ!」
「「がってん承知!!」」
 気勢を上げる海賊達。どうやら、潮干がりは、ただの行楽イベントには、終わらない模様である。

●今回の参加者

 ea0007 クレハ・ミズハ(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea6118 ティアラ・サリバン(45歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7050 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「鶴之介殿、お久しぶりです。今回は、貴殿が同行すると聞いて、持ってきたものがあるのです」
 女性からプレゼントをされる経験は、あまりないのだろう。怪訝そうな表情を浮かべている鶴之介に、フローラ・タナー(ea1060)が差し出したのは。
「こ、これはー‥‥」
「知り合いから貰ったのですが、お役に立てればと思いまして‥‥」
 彼女の手に合ったのは、イギリス王国博物誌と‥‥真新しい六尺褌と、越中褌。姉の小鳥には、かんざしやら鏡やら、女性らしい品々だ。
「あ、ありがたく頂戴いたします」
 女性からの贈り物を、無下に断るわけにもいかないと思ったのだろう。鶴之介はそう言って、多少表情を引きつらせながらも、それを受け取っている。
「いいなー。いっぱい貰ってー」
「あら、トゥインさん。そんなに騒がなくても、貴方にもちゃんとありますよ」
 うらやましそうに指をくわえているトゥイン、そんな彼女に、フローラは『ありきたりのものですけど』と言いながら、バックパックに入っていた水晶のペンダントを差し出した。
「君がつければ、きっともっと綺麗に輝くと思うよ」
 そこへ、ここぞとばかりにそうねじ込んだのは、真幌葉京士郎(ea3190)である。彼は、その彼女が手にしたペンダントを、まるで極当たり前と言った仕草で拾い上げ、トゥインの胸元へと飾ってしまう。
「姿を見かけたら、共に季節の香りを味わいたくなってね。君の姿も、日差しの中へ出れば、もっと輝くだろう。いかがだろうか?」
 優しく手を差し出して、トゥイン嬢の手を取り、その甲に口付けてしまう京士郎。
「いやですわ。そんな‥‥。きゃあ、どうしましょう〜」
 そのセリフに、すっかり舞い上がっちゃったトゥインちゃん、自分から行きたいと言った事なんぞ、すっかり忘れて、耳まで顔を真っ赤にしてしまっているのだった。

「潮干狩りー。しおひっがりー。がんばって、いっぱい持って帰りましょうー♪」
 とっても楽しそうに歌いながら、足を踏み入れているルーシェ・アトレリア(ea0749)。
「懐かしいな。昔は妹と共に、海へ遊びに行ったりしたものだ」
 クレハ・ミズハ(ea0007)が故郷で家族と過ごしていた日々を思い出しながら、そう言っている。もっとも、彼の場合、妹に引きずられて拒否権ナシの強制連行な場合も多かったようだが。
「これが浜辺ですか‥‥。しかし、暑いですね‥‥」
 一方、同じ音楽関係の御仕事でも、どちらかと言うと演奏の方が得意なソラム・ビッテンフェルト(ea2545)は、身に着けた白い装束をぱたぱたと仰いでいる。遮るもののない浜辺は、既に初夏の気温だ。
「ソラム殿、その白い服では、浜には入れないのではないか?」
「この方が涼しいですし。それに、遊ぶ気ありませんから」
 琴音の問いに、すっぱりとそう答えるソラム。仕事だと割り切ってしまっているらしい。
「日差しも強いしな。フローラ殿、その冠、なんとかならんか? 座れないんだがー」
 普段は、フローラの頭の上に大人しくしているティアラ・サリバン(ea6118)、不満そうにそう言った。今、彼女の頭には、茨の冠が乗っかっている。おかげで、ちくちくして座りが悪く、不満タラタラである。
「良いじゃありませんか。運動不足は美容にも良くありませんよ」
 冗談交じりに、そう答えるフローラ嬢。外すつもりはないようだ。
「そうそう。よく学び、よく戦い、よく食べる! そうしないと、強くなれないよ。いつか‥‥ゴルロイスくんよりも強くなるんだっ! ねぇ? 京士郎さ‥‥ん?」
 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)が、以前、同じようにゴルロイス卿と対面した京士郎に、同意を求めている。だが、その彼はと言うと。
「彩る染料。嬢には飾り、残りのものには季節の香り‥‥この依頼、実に風流だ‥‥。そうは思わないかい? トゥイン嬢」
「まぁ、またそんな事仰って‥‥☆ いくら私でも、騙されませんわよ‥‥♪」
 頬を染めつつ、恥ずかしそうに逃げ回っているトゥイン嬢に、微笑みながら、愛を囁いていた!
「いやいや。私はただ、この光景を愛でているだけだよ。君にも見せてあげたいな。我が故郷の美しい姿をね」
「そう言っていただけると嬉しいですわ。いつかお伺いしたいものです☆」
 既に、ここへ向かう道すがら、退屈させないようにと言う名目で、ジャパンにいた頃の、潮干狩りの思い出などを、語り聞かせていた彼、どうやらトゥイン嬢には気にいられた模様。
「どうでもいいが、やっぱり口説いてるな」
「貝探し、けっこう大変そうですけど‥‥頑張って下さいね」
 呆れ顔のティアラに、ソラムは棒読み上等で、励ましているふりをして、やっぱり呆れている。

 で。
「カニがでたぞーーー!」
 投網を投げ込んで、普通のカニさんや貝さんを、捕獲していた村上琴音(ea3657)の元へ、ティアラが文字通り飛び込んでくる。
「きしゃーしゃしゃしゃしゃ!」
 はさみを打ち鳴らしながら、なんとも言えない鳴き声を上げ、浅瀬から顔を出したのは、差し渡し2mちょっとの大きな大きなカニさんである。
「い、幾ら大きなカニと言ったって、あれはデカ過ぎるのではないかのー!?」
 普通のジャイアントクラブより、ふたまわりほど大きい。はさみも、鋭そうだ。
「飛ばすぞ! しっかり捕まっておれ!」
 船頭稼業の琴音さん、巨大カニに昼飯にされないように、急いで小船を、陸地へと向ける。
「鶴之介殿達は、私がお守りします! その間に、あの巨大生物を切り身にしちゃって下さい!」
「よぉし! まずはカニ君。君が今日の晩御飯だッ!」
 2人が陸地へ向かうのと入れ替わるようにして、ピアがクレイモアを抜く。その間に、常葉一花(ea1123)は速やかに同行者2人を、安全な場所へと移動させていた。
「私もお手伝いいたしますの!」
 一応、『御方様の護衛』と言う役目を仰せつかっている都合上、黙っているわけにいかないのだろう。そう言い出すトゥインちゃんに、ピアはクレイモアをぶんぶんと振り回しながら、こう言った。
「大丈夫よ。任せといて。ただし、離れててね。戦ってるあたしは、ちょっと危険だから☆」
 指先を振って、『来ちゃだめよ♪』とアピールするピア。
「でもぉ。1人でのほほんと見てるなんて、御方様がお許しになっても、私の心意気が‥‥って、わぁぁっ!」
 不満そうなトゥインちゃんに、カニの一撃が下ろされる。だが、それは直前で、京士郎の剣によって阻まれていた。
「‥‥いくら甲羅が硬かろうと、この一撃に斬れぬものなし。トゥイン嬢には、指1本触れさせはせぬ」
「京士郎様‥‥☆」
 目の前で、女性を守るジャパン騎士の勇姿を見せられて、トゥインちゃんはすっかりのぼせ上がっている。
「私は置いてけぼりですか」
「まぁまぁ」
 一人放置された形となった鶴之介はと言うと、一花になだめられていたりするのだが。
「虫だから、スリープは効かないかもしれないわね‥‥。では、足止めしちゃいましょう」
 ラブコメ仕様になる中、ルーシェが相変わらずの口調で、シャドウバインディングを使う。
「ちっ、抵抗されてしまったようだな」
 残念そうなクレハ。確かに影を捉えたはずのカニは、相変わらず元気にピアと追いかけっこだ。
「ソラムもちったぁ魔法撃っとけよー」
「蟹って苦手なんですものー」
 そのクレハに、促されるソラムだったが、わしわしと足を動かす姿に、顔をしかめるばかりだ。
「ちょっとぉ! なんとか動きとめてよ! 硬い以前に、意外と早くて、こっちがダメージ食らっちゃう〜! きゃあんっ」
 クレイモアを扱えるような技量の持ち主なピアだったが、武器が重い分、カニの攻撃を避けきれるほどの素早さはない。大きなはさみに、弾き飛ばされてしまう。
「大丈夫です?」
「ええ。助かったわ」
 同じ様に前線に出ていたフローラがかけよって、ピアの怪我にリカバーを施す。
「しかし、こうも素早いと‥‥」
 そのフローラ、悔しげに唇をかみ締める。今回の面々は、戦闘力が高いほうではない。何とかして、動きを止めないと、こちらの方が昼メシにされてしまう。
「大変だ! ローバーが暴れてるぞ!」
「こっちからは、大きなムール貝が!」
 そこへ、今度は差し渡し2mはある巨大イソギンチャクと、差し渡し2mはある巨大なムール貝が、冒険者達を昼飯にしようと、毒々しい触手を伸ばしてきた。
「って、イソギンチャクはともかく、なんでムール貝まで動いて襲ってくるのじゃーーー!」
 大慌ての琴音。大磯巾着の話なら、故郷でも聞いた事があるが、これだけ大きなムール貝なんぞ、見た事がない。
「こ、こんな所で驚いてなどいられませんわ! 御方様に、おいしい貝を持って帰るんですの! えいっ」
 ぺしぺしと枝持って、その貝を叩いてみるトゥインちゃんだったが、逆に触手で叩かれて、お肌を真っ赤にしてしまっている。
「無茶をする娘さんだ。大人しくしていろと言われてるだろうに」
 痛いですのーと半泣き状態のトゥイン嬢、京士郎に『下がっていて』と、追いやられてしまう。
「腕を出せ。治してやるから」
 ちなみに、赤くなったお肌は、クレハがリカバーをかけてくれた。
「しかし、これだけ大きいと、粉にするのが大変ですねー」
「その前に捕獲しないと行けないのだが、この状況では、近づけないな」
 そう言う鶴之介に、うんうんと頷いているクレハ。その彼らの目の前で、きしゃきしゃしゃげしゃげと、奇妙な鳴き声を上げて威嚇する巨大磯生物達。浜辺や岩肌にでーんっと構えているので、少し離れれば追いかけてくる事はないのだが、うっかり近付くと、触手がぶっとんでくるので、うかつに側にも寄れなかった。
「水からひっぱりだせば、小さくなるのではないかの? その辺に生えている磯巾着のデカイのなら」
「そんな事はない。普通の磯巾着と違うからな」
 琴音のセリフに、ティアラがそう答えた。普段は小さくなっているが、別に水中専用と言うわけではない。その証拠に、水のない鍾乳洞でも、時たま襲われると、彼女は説明する。
「でも、水分がなくなれば、動きは鈍る可能性はあるぞ」
「わかりました。貝は、こちらで何とかします。幸い、動きはたいして早くありませんし」
 それでも、足元が不安定な水場でなくなるだけ、マシと言うものである。動かないが、触手だけ伸ばしてくる巨大ムール貝は、フローラのインセクトスレイヤーが、文字通り殻を叩き割りに行く。まぁ、1人では足りないので、クレハが援護に向かったのだが。
「可能性があるなら、やって見る価値はあるのじゃ!」
 ムール貝の脅威がなくなったとたん、琴音はマジカルエブタイドを唱えた。と、ぐぃーんと水位が下がり、カニと磯巾着の周囲に、砂地を露出させる。すなわち影が出来る空間を。
「今度は逃げないで下さいね!」
 そこへ、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)が済ました表情で、シャドウバインディングを放つ。今度は、ルーシェが使ったものより、ワンランク上の代物だ。
「ディアッカなーいす! よし、これで後は切り刻むだけじゃ!」
 じたばたとその場で暴れるカニさん。その様子を見て、琴音がそう言った。
「OK! あたしの剣が光って唸る! 蟹味噌食べたいと轟き叫ぶ!! ひっさぁつ! バーストスマァッシュっ!!」
 動けなくなったカニなど、おそるるに足らず。その刹那、ピアがバーストアタックとスマッシュEXを叩きこんだ。
「本当は嫌なんですけど‥‥第7獄の氷に包まれよ! アイスコフィン!」
 脅威になっていた爪を切り落とし、でかいだけのカニもどきになったそれに、とどめとばかりにソラムがアイスコフィンを放つ。
「よし。後は、あのでかいのだけじゃ!」
 そう指示する琴音。戦力が集中すれば、動かない貝などおそるるに足らず。程なくして、文字通り殻を砕かれて、解体されるジャイアントムールだった。

「うむ。魚介類はやはり新鮮なものに限るなー」
 それから、数時間後。味身をしながらうなずくクレハ。
「トゥイン嬢、これを」
 夕食を待つ間、京士郎がトゥインに差し出したのは、幾つかの貝殻である。
「似合うのではないかと思って、集めておいた‥‥。是非後で、君の着飾った姿を見せて欲しい。この後の、素敵なディナーの時にでもな」
 やっぱり口説いている彼。おかげで、顔を真っ赤にしたトゥインちゃんに、照れ隠し気味に突き飛ばされ、苦笑い。
「あーあ。すっかり騙されておるのぅ。だいたい、網焼きにディナーもへったくれもないと思うのだが」
「海鮮スープって言ったって、貝メインのごった煮ですからねぇ」
 同じジャパン人の女性陣‥‥琴音と一花は、同郷の暴走に、少々呆れ顔だ。
「さて、出来たぞ。漁師料理なんで、口にあうかどうか判らんが、存分に食うのじゃ」
 料理をしたのは琴音のようである。とは言え、漁師が浜に上がってとるようなものなので、どちらかと言うと大雑把なスープなのだが。
「鶴之介殿。蟹やローバーの命を奪ったのだから、食事の前に、祈りを捧げませんか? あなたの祖国では、たしか成仏‥‥と言うのだったかしら?」
「そうですね。カニさん、貝さん、迷わず成仏して下さい」
 鶴之介は、フローラの勧めで、手を合わせている。ただし、かなり棒読み。
 こうして、巨大カニと巨大貝は、腹ペコ冒険者の胃袋に、順当に納まるのだった。