【春の遠足】で【学食の明日】をサバイバル

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月06日〜06月09日

リプレイ公開日:2005年06月13日

●オープニング

 気温の低いイギリスでも、花の頼りが届き、新緑の季節となった。そんな時期、通達が出されたのは、春の遠足だった。
 遠足とは言っても、ケンブリのご近所で済ますわけではなく、1日かかる場所へと赴いて、お泊りと言うものである。
 だが、その泊まり先を提示されて、パープル女史は頭を抱えていた。
「うーん。どれも一長一短よねー。どうしようかしら」
 その目の前には、行き先の候補が書かれた木の板がある。いずれも、学園上層部から通達されたものだ。
「何かあったんスか?」
「それがねー。行き先に迷ってるのよ。学食のお兄さんに、頼まれちゃって、学食新デザートの開発用材料も取ってこなくちゃならなくなってねぇ」
 同僚の教師に尋ねられ、彼女は困った表情のまま、そう言った。と、その回答に、同僚は怪訝そうな表情を浮かべる。
「はぁ。デザートメニューの開発ですか‥‥。遠足って、交流目的じゃなかったでしたっけ?」
「全体目的はね。フリーウィルは、食べられる野草とそうじゃない野草の見分け方とか教えなきゃいけないし。まぁ、そんなもん教えなくても知ってる奴いるんだけどね」
 レンジャー技能の高い学生は多い。わざわざ教師が教えなくても、他の授業でいくらでもフォローがきくといった風情だろう。
「それに、いくら交流目的の遠足つったって、向こう行ってのほほんと野草料理して、夜は枕投げして、怪談とエロ萌え話で徹夜って言うのもワンパターンだしさ。一緒に解決しようと思ったのよ」
 確かに、行って一晩騒ぐのもOKだろう。だが、昼間っから大騒ぎと言うわけにも行かない。そこでパープル女史は、野草探しを兼ね、以前から頼まれていた学食新メニューの話を持ち込んだ‥‥と言うわけだ。
「両方行くとかは、出来ないんですか?」
「日程的に難しいんで、どれかに絞らなきゃいけないのよね。二つにいけるなら、花畑と川にとか、草原と森とかに出来るんだけどね」
 学園行事なので、期間が決められているらしい。それに、他の授業もあるので、長々とはスケジュールを取っていられないと言ったところか。
「どうしようかな。花畑は綺麗だけど、デザートに向くハーブがあるかどうか微妙だし、草原はハーブも食材も豊富だけど、どっちかっつーとメインディッシュ用だし。川と滝は川魚もカニも採れるけど、ハーブがないし。大樹の所は、果物はいっぱいありそうだけど、ハーブはどっちかーってーと、お薬系ばっかりだし‥‥」
 ただ行くだけならば、どこでも良いのだが、実習となると、どれも問題があるようだ。
「‥‥いいや。面倒だから、生徒に選ばせよう。それぞれに向き不向きがあるし、事前情報を片手に、目的を絞るのは、充分な授業になるわ」
 しばし考えていた彼女はそう言った。結局、論が出ないので、本人達に決めさせる事にしたらしい。
「メニューと切り離す事は考えてないんですね」
「もちろん」
 同僚のツッコミに、ニヤリと笑って、即答してみせるパープル先生だった。
 そして。
「と言うわけで、遠足先は、皆さんで良く話し合って決定して下さい。なお今回は、サバイバル訓練も兼ねますので、各遠足先に対応した道具等々は、自分の持ち物を工夫して、調達してね」
 どうやら、スパイ養成クラスでは、遠足と言う名の実習になりそうだった。

●今回の参加者

 ea1812 アルシャ・ルル(13歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)
 ea2059 エリック・レニアートン(29歳・♂・バード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6870 レムリィ・リセルナート(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

セリア・アストライア(ea0364

●リプレイ本文

 相談の結果、大樹の森で材料を探す事になった。理由は、樹液や果物を原料にしたデザートや、薬系ハーブでも、それなりに使えそうだと言う結論に至ったからである。
「馬、連れてこれてよかったわねー」
「シナモン、ちょっと狭いけど、我慢してね」
 森と言っても、それほど鬱蒼としたものではない。その為、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)もアルシャ・ルル(ea1812)も、愛馬や愛驢馬を連れてくる事が出来た。パープル女史曰く、キャメロットの依頼の様に、急ぐ旅ではない。ある程度広さがある森で、たずな捌きを練習するのも、それはそれでスキルアップに役立つに違いないとの事。
「さすが先生。考えてる〜」
「単に自分が遊びたいだけじゃないのか」
 レムリィ・リセルナート(ea6870)が褒める半面、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)がツッコミを入れる。だが、パープル女史は、「バカねー。この腕じゃ、片鞍乗りがせいぜいでしょ」と、少し寂しそうに笑って、自身の左腕を軽く叩いて見せた。
「なんだか、すごい先生ですね‥‥」
「あれでも、スパイ養成クラスを引っ張っている教師なんだから、世の中わからないよな」
 そのエルンストはと言えば、自身が連れてきたハーフエルフの少年に感想を言われ、パープル女史の事をそう評している。
「お前は、もっとレディらしくなれよ」
「は、はい‥‥」
 学園の生徒となった事で、だいぶ打ち解けて来たようだ。エルンストに励まされて、少年は照れたようにうつむいている。
「先生、キャンプはこの辺りでいいですか?」
「そうね。分かりやすい目印だし。例え森で迷子になっても、戻ってこれそうね」
 そんな中、引き合いに出された方のパープル女史は、ソフィアにキャンプの設営場所を尋ねられ、OKを出している。ソフィアが提案したのは、ランドマークともなっているオークの木だ。
「大きなオークの木ー‥‥」
「何百年も前から、ここで森を見守ってきた家長殿よ。もしかしたら、王家が興るよりも前からね‥‥」
 他の木々より、数mはぬきんでた巨木。それを見上げるパープル女史の横顔は、懐かしい友人に会ったような表情をしていた。
「レディ‥‥?」
 荷物を広げて、設営作業を続けていた東雲辰巳(ea8110)が、思わず見とれるほどに。
「東雲、ちょっといいかしら?」
 と、そんな彼を、レムリィが呼び留めた。
「あのねあのね。さっき、先生がこっそり教えてくれたんだけど、目覚しい活躍を見せたら、とっても素敵な事をしてくれるとか、しないとか‥‥」
「なにっ! 本当か!?」
 素敵なセリフを吹き込まれて、東雲の目付きがきらーんっと変わる。
「私、パープル先生の弟子だもん☆」
「よし! 俺に全て任せておけっ! レディの為だっ! 設営なんぞあっとゆーまに済ませてやるっ!」
 根拠のない説得力にも関わらず、彼はあっさりと信用したようだ。
「がんばってねー」
 そんな東雲に、レムリィはニヤリとほくそえみながら、手抜きを決め込むのだった。

「さて、ベースキャンプが出来たんですけど、作るものを決めましょうか」
「あまり、料理は得意ではないのですけど‥‥。学食のメニューでしたっけ?」
 ソフィアの提案に、アルシャがそう尋ねてきた。どうやら、そう言った事は得意ではなさそうだ。
「デザートを試作出来るように、材料を集めて来て欲しいそうですわ」
「作り方はわからないんですけど、果物のシロップ煮や、フルーツソース、それにナッツや胡桃を混ぜたクッキーは食べた事があります。そう言うのでよろしいのでしょうか?」
 頷くソフィアに、彼女は知っていた雑学知識をご披露する。実際どうやって作るのかは、わからなかったのだが。
「あら、美味しそう」
「そうだね。今回新しく開発するのはデザートだから、女性をターゲットにしたものはどうかな? それだったら、ハーブが薬用のものでも、工夫次第で使えると思う」
 女性って、そう言うの興味あるんだろう? と続けたのはエリック・レニアートン(ea2059)。彼は、ハーブがどこに生えているかは詳しくなかったが、その材料を使ってのデザート作りは得意なようだった。
「それじゃ、手分けして果物とハーブを集めてきましょう。この時期、何が取れるんですか?」
「今の時期だと、ベリー系かなぁ。流石に葡萄はないだろうし。梨や林檎は、まだ花が咲き乱れてる頃だしねぇ」
 ソフィアの問いに、アルシャはそう答える。ブラックベリーやラズベリー、カシスの実と言った果物が、この時期のイギリスでは採れる。プラムは、かなり高価な代物の上、イギリスでは採れないので、ドーバーあたりでは他国から荷揚げされるかもしれないが、ケンブリッジの森では、流石に探すのは無理だろうと言う話だ。
「この辺じゃ、桃なんて取れないですしね。秋の果物も、諦めた方が良いと思います」
 そんな彼女達に、この時期の森で取れるものをご披露するエレナ・レイシス(ea8877)。何しろ、時期はまだ6月。一般的に秋の果物と呼ばれている果実は、まだ早すぎるそうだ。
「でも、イラクサやセージなんかは、探せばあると思います。あと、ごぼうとかも」
 全て薬として利用できる植物である。ごぼうはあまりメジャーではないが、華国やジャパンでは、滋養強壮の薬として利用されているそうだ。
「それじゃ、夕方までにキャンプに戻ってきなさいね。後は、あまり離れない事。迷子になったら、探しに行くのが大変だから」
 こうして、森の食材探しは、幕を開けるのだった。

「セージは、花の赤いものは取らないで下さい。毒がありますから」
 見本の草を示しながら、エレナはそう言った。口で説明するより、聞き手に回る方が好きなのだが、他に手段がないので、博物誌代わりになったようだ。
「ねぇねぇ、これって美味しそうなんだけど、食べられるのー?」
「そっちの赤いのはOKですけど、紫色のは止めておいた方がいいですよ。お腹を壊しちゃいますから」
 しかも同じ植物に見えても、毒があるものと、そうでないものがある。その違いを、具体的に示すエレナ。
「エレナが詳しくて助かったな。植物の根によっては、茶にしたりクッキーに出来たりする事は知っていたが、方法も、なにがどう使えるのかも、俺にはわからんからな‥‥」
 その様子を見て、エルンストがそう言った。彼も、リコリスやたんぽぽ等が、お茶や薬になることは知っているが、あくまでも雑学の範囲。どう加工するかまでは、わからない。
「材料さえ用意してくれれば、僕がなんとかするよ。木苺ならパイだし、ローズヒップは、ティーだけじゃなくて、色々使えるしね」
 まぁその辺りの事は、エリクに任せておけば大丈夫だろう。既に、集められた材料を綺麗に洗って、下ごしらえを始めている。
「あったー?」
「うーん。でも、ちょっとだけだよー」
 手の届かない場所は、ソフィアがプラントコントロールで、枝先を下げている。果物班とハーブ班は分かれていたが、あまり遠出すると迷子になりそうなので、つかづ離れずと言った位置関係で、捜索中の模様。だが、採れるのは低木の実ばかりで、大樹の実は、中々見付からなかった。
「しかし、木の実はなかなかないものだな‥‥」
「季節じゃないですから。でも、木はありますよ。ほら」
 ぼやくエルンストに、エレナがある木を指し示してみせる。
「わぁ‥‥綺麗‥‥」
「秋になったら、実がなりそうです」
 レムリィがそう言った。そこには、真っ白な花をつけた林檎の木があった。
「そしたら、ジャムを作って‥‥。ああ、木苺を挟んだパンも美味しそうだけど、林檎ジャムを塗って挟んだパンも美味しそう‥‥」
 ハーブを探していたセラが、何やら御馳走を思い出したらしく、頬を緩ませる。と、それを見たエルンストが、こう尋ねてきた。
「そう言えば、花で思い出したが、蜂蜜はどうしたんだ? デザート作りには、必要だろう」
 確かに果物の甘みや、ハーブの風味付けもあるが、蜂蜜は蜜だけではなく、その他にも役に立つと言うもの。
「ミツバチの巣なんて、どこかにありましたっけ?」
「さっき、遠くの方をでっかい蜂が通り過ぎて行ったぞ」
 セラの疑問に、やはりハーブを探していた東雲が、森の奥を指し示す。
「なんでおっかけないのよー」
「昼日中に、無装備で相手に出来るかよ。狩りでも何でも、疲れてきたところを狙うのが相場だろう」
 武器を片手に、ぶつぶつと文句を言うレムリィに、彼は設営時の仕返しとばかりに、そう返している。
「そもそも、巣を探さないと、蜂蜜も取れないだろう。さてどうするか‥‥」
 蜂取りは経験がないが、猟と同じ要領なら、基本は変わらない。策をめぐらそうとする東雲に、エレナがこう言った。
「ここに、美味しそうな餌があるじゃないですか」
 その彼女が指し示した先では、林檎の花が良い香りをかもし出している。
「でも、どうやって捕まえるんです?」
「バカもの。何の為の魔法だ。スリープをかけて眠らせれば良かろう」
 セラの問いに、エルンストの小言が炸裂した。バードのスリープで蜂を眠らせ、目印を付けてから放す。巣に戻った所を、一網打尽と言うわけだ。結果、林檎の木によってきた蜂に、スリープをかけ、ひもを結びつけて放し、それを追いかける事となった。
「蜂、こっちに飛んで行ったんでしたっけ?」
「ちょっと待ってて、聞いてみるから」
 ソフィアがグリーンワードで、森の木々に尋ねている。単純な事しか答えない為、多少時間はかかったが、なんとか方向をつかめたようだ。
「ありました。あれですね」
 目の良いアルシャが、木々の間に鎮座している蜂の巣を見つけて声を上げる。
「どうやって捕獲するんだっけ?」
「この間、市場で聞いた話じゃ、煙でいぶすと言っていたが‥‥」
 エルンストの雑学セリフに、セラフィマ・レオーノフ(eb2554)が差し出したのは木の枝。森で火を起こす際には向かないので、避けた方が良いと言われている種類だ。
「こ、これでいいの‥‥かな?」
 やりかたが良く分かっていないご一行。雑学知識を元に、とりあえず煙を起こしている。
「蜂さんが襲ってきたよぉー!」
「大人しくなるんじゃなかったのかー!」
 が、むろんその程度では、蜂は敵襲だと勘違いするだけだ。ぶんぶんと羽音を立てて襲ってくる蜂たちに、レムリィが悲鳴を上げる。単体では大した事はないのだが、何しろ数が多い。
「先生、何とかしてよー!」
「し、仕方がないな。ストリュームフィールド!」
 東雲とレムリィが蜂の相手をしている間に、エルンストがストリュームフィールドを唱えて足止めしていた。
「今の内にって、高くて届かないんだけどっ」
 技量が高くても、遠距離戦になれていないレムリィの剣は、巣までとどかない。
「どけ! 俺がやる!」
 東雲が、巣へソニックブームをうちこんだ。どさりと落ちたそれを、彼女は素早く拾い上げる。
 こうして、一行は無事、蜂蜜を手に入れるのだった。

 材料は手に入れたものの、無茶をしまくったご一行様は、不寝番の都合で、キャンプにいたパープル女史に怒られる事になった。
「お説教はそこまで。料理、出来たよ」
 喧嘩をするとお腹がすくもの。そう言ったわけではないが、エリクが仲裁するように、出来上がったデザートと料理を、皆の前に並べる。
「わぁ、美味しそう‥‥」
「試食品だから、上手く行っているかどうかわからないけど。たぶん、食べられなくはないと思う」
 自信たっぷりのエリク。てなれた様子の彼に、レムリィは挑戦は受ける! みたいな顔をして、こう言った。
「ふふふふ、ケンブリ生徒の舌は肥えてるわよ?」
「ご期待に添えるだけのものは、作ったつもりだよ。まぁ、メニューの半分は、そこの人の提案だけどね」
 彼が『そこの人』と言ったのは、セラである。彼女の話を元に、エリクが作ったのは、こんなメニューだ。
 レムリィが持ち込んだ新鮮な冷たい牛乳から作ったバターを、保存食として持ち込んだ塩パンに塗り、ハニーラズベリージャムをはさんだものである。塩気のパンに、バターと蜂蜜がしみて、手軽で美味な料理である。
 他に、たんぽぽのフライ、チェリーのクッキー、ブラックベリーのパイ、ローズヒップティに、リコリスティ、黒すぐりの牛乳割り。どれもケンブリッジの欠食児童達の胃袋を満足させるには、充分なものだ。
「よし、つまみもそろった所で、とっておきのおちゃけを‥‥」
 ソフィアがそう言って、ベルモットを出してくる。
「そう言えば、2人足りないけど‥‥?」
「エルンスト先生なら、さっきハーフエルフの男の子連れて、オークの木の上に行っちゃいましたけど」
 それを注いでいたエリクに、そう答えるエレナ。入学したばかりと言うハーフエルフの少年を連れて、大樹の上にリトルフライで上っているらしい。
「エルンストったら、何を挙動不審ってるかと思ったら、そう言うことなの‥‥」
 それを聞いたパープル女史、目をきらーんと輝かせて、興味深々と言った風情だ。
「せんせー、エルンスト先生とあの子、どう言う関係なんですかっ!?」
 思いっきり野郎カップルに、興味深々なセラとソフィア。
「先生思うに、あの2人は‥‥」
 具体的な表現は倫理規定に違反するので避けるが、ヒノミ・メノッサ著、禁断の愛の書に書かれているよーな内容の、大人の萌えトークが炸裂したらしい。大喜びで聞いている2人以外は、なんとコメントして良いかわからないようだ。
「れでぃっ。そんな話をいたいけな少年少女に教え込むんじゃないっ」
「少年少女じゃないもの。この間、円卓の騎士様の一人に、頭撫でてもらったしっ!」
 いーだろー! とふんぞり返るレムリィ。当の本人が「あらうらやましい」と呟いていたが、東雲は聞こえていない様子で、「そう言う問題じゃなくてだなぁ!」と、追い掛け回している。
「下が騒がしいな‥‥。いったい何をやっているんだか」
 そんな外野の騒ぎに、樹上のエルンストは少々呆れ顔。
「でも、何だか楽しそうです」
 人一人がやっと座れるほどの枝の上。落ちないように抱えられた少年は、うらやましそうに笑う。
「次に負けたら、そのいかにもヒノミ・メノッサがデザインしたような褌まで脱ぐ事になるけど‥‥?」
「構うもんかー! もう一勝負だ! 今度は負けん!」
 下の東雲たちはと言うと、持ち込んだ大理石のチェスで、脱ぎゲームになったらしく、次々と旅装束が宙に舞っている。すっかり別目的になってるが、遠足に徹夜で大騒ぎはつき物だ。
「偉大なる森の主、豊かな緑の恵みを分け与えてくれたこと、感謝致します」
 夜遅くまで続く騒ぎに、機嫌を損ねては‥‥と思ったソフィアは、グリーンワードで、オークの巨木に、礼を述べるのだった。