【栄光のメニュー】特選素材を手に入れろ!
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月15日〜06月20日
リプレイ公開日:2005年06月20日
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●オープニング
冒険者の酒場・グローリーハンド。物語は、その厨房が始まる。
「うちの店に、料理を増やしたい?」
「そうなんッスよ。お嬢。普段お世話になっている冒険者様に、もっと栄養のある料理を食ってもらおうって思いましてねぇ」
厨房に出入りしている魚屋のヤスは、グローリーハンドの看板女将、エリーゼにそう話していた。
「ヤス〜。子持ちのおばさんに、いい加減、お嬢はおよしよ。だいたい、顔に、冒険者の懐からおぜぜを絞ろうって、きっちり書いてあるじゃないか」
「えへへへ。ばれちまいましたか。いやー。なんだか金回りが良さそうなんでねー。こっちもおこぼれに預かりてぇなぁと。孫に小遣いの1つもやって、気風の良いとこ見せてぇじゃねぇッスか」
かなり年齢の行っているヤスは、禿かけた頭をかきつつ、エリーゼの指摘にそう答える。あまり嘘の付く事は出来ない御仁のようだ。
「あんまりがっつくんじゃないよ。で、どんな料理を出したいんだい?」
「へい、実は‥‥お出入り先の奥様から、レシピを頂きまして。これなら、何とか開発できそうだなぁと」
その彼が差し出したのは、古い羊皮紙に書かれたレシピである。
「うちじゃ、調達出来ない食材も多いねぇ‥‥」
イラスト付きのそれには、この辺りではあまり手に入らない食材や、古くて読めない文字等、さらには食用モンスター使用が前提のものも、も多く書かれていた。
「けど、お嬢ン家の料理人なら、素材が同じなら、アレンジして、店で出せるメニューにも出来ると思いやす。何とか、開発できやせんかねぇ?」
もっとも、それらの食材を、今ある食材に差し替えて作る事は、プロの料理人にしてみれば、それほど難しくはなさそうではある。
だが、エリーゼにしてみれば、新たにメニューを開発できるほど、財力に余裕があるわけでもなかった。
「そりゃあ協力したいのは山々さ。けど、そうすると、かなりの量の材料が必要になるさね。それほどの材料をタダで提供できるほど、うちも儲かっちゃいないから」
前の日の残りエールばかり注文する不良客も少なくないグローリーハンド。儲かっているように見えるが、そうでもないのかもしれなかった。
「そんじゃ、その材料を調達できればいいんッスね?」
「そりゃあまぁ‥‥」
ヤスの申し出に、頷くエリーゼ。
「わかりやした! このヤス、命にかえても、その開発用食材を手に入れてきやす! それじゃ、ごめんなすって!」
それを見たヤス爺さん、やや芝居がかった口調でそう言い残すと、即座に勝手口を飛び出して行く。
「相変わらず騒がしいじーさんだねぇ。まぁ、話だけは通しておいてやるか‥‥」
残されたエリーゼさんは、厨房の料理人たちに、レシピを持って行くのだった。
ところが。
「あのー、なんかあったんスか?」
キャメロットの港では、漁に出ようとしている船の前で、なにやら漁師がぼそぼそと相談している所だった。
「ああ。別に壊れてるとかってわけじゃないんだが、ちょうど漁場の近くに、ラージレイとシャークが出やがるんだ」
「そんなぁ‥‥」
がっかりした様子のヤス。肩を落とす彼に、船乗りさんはこう言った。
「まぁ、ラージレイといやぁ、煮付けにすると美味いって聞くんだけど、ケツにでっかい針がついててなぁ‥‥。おっかなくて海に出れねぇよ」
と、そんな彼らにある提案をした御仁が現れた。
「なら、もっと大きな船ならば問題はないだろう」
「バンブーデンの旦那! 出してくれるンスかい?」
他ならぬドーバーの貿易商、バンブーデン伯である。
「一撃を耐え抜ける、ひと回り大きな船ならば、何とか用立てられる。このままでは、お前達も漁が出来ないだろうし。なぁ?」
「そりゃあそうッスけど‥‥」
確かに、このままではドーバーに向かう事は出来ても、漁に出る事が出来ない。そんな漁師達に、バンブーデン氏はこう言い含めた。
「ならば、漁場を守り、なおかつキャメロットの人々に新たなメニューを提供出来るなら、安い買い物だ。なぁに、何も貴様らに危ない橋を渡れとは言わん」
「はぁ‥‥」
どうやら、操船は彼らではなく、冒険者達に頼む予定のようだ。
「ヤスとか言ったな。船と冒険者は貸してやる。それで良いかな?」
その代わり、出来上がった暁には、納入にうちを使ってもらう約束で。と付け加える伯。やはり彼も商売がらみのようだ。
「ありがとうございヤス! んじゃ、早速ギルドにひとっ走り行ってきやす! あだっ、腰がっ!」
「やれやれ、騒がしいご老体だ」
相変わらず走り回る元気な爺さんに、バンブーデンもエリーゼと同じ感想を漏らすのだった。
『酒場の特選素材を手に入れるのに邪魔な、ラージレイとシャークを、仕留めて来て下さい』
ギルドにそんな依頼が乗ったのは、それから程なくしての事である。
●リプレイ本文
●撒き餌
地元漁師からアレクサンドル・リュース(eb1600)が聞き出した情報を元に、目的の海域についた一向は、とりあえず碇を下ろし、様子を見る事にした。
「確か、この辺って言っておったのぅ。どこにいるのじゃ?」
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が、テレスコープで、周囲の海域を注意深く観察しているが、魚影は見えない。
「もっと良く海面を見るのじゃ。形はわかるのであろ? 影を見ればわかるはずじゃ」
「うむ‥‥。目の良さには、自信があるのじゃがのぅ‥‥」
村上琴音(ea3657)がアドバイスをするものの、水面はどこまでも同じ様に見える。穏やかな、銅鏡のように。
「時間がないわけじゃねぇから、ゆっくり探しなよ」
「わかったのじゃ」
クリムゾン・コスタクルス(ea3075)の言葉に、ユラヴィカは船の舳先に座り、再び魔法を唱える。
「確か、底の方で砂被ってる事が多いって聞いたのじゃが、あれはエイだったかヒラメだったかのぅ‥‥」
聞きかじっただけの不確かな知識ではあったが、彼はそれを参考に、水底の方へ意識を向けて見た。さすがに海底までは見渡せないが、表面を泳ぐ魚くらいは、なんとか判別できるかもしれないと思って。
「これで釣るのは出来ないんですか?」
「サイズ考えろや。いくらエイつったって、ちょっとした小屋くらいあるんだぜ。竿の方が折れちまわぁ」
船の上では、そのユラヴィカが馬から降ろしていた漁師用具を見て、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)がそうたずねている。しかし、さすがに5mの代物は、対応外だと、クリムゾンが言う。
「ふむ、ムリか‥‥。せっかく好物を聞いてきたのだが‥‥」
その様子を見て、リュースがそう言った。その彼が、地元の漁師に色々と聞き込んでいたのを知っている琴音は、なるほどなと、納得した表情で、その続きを問うてみた。
「確かに、寄せ餌をまいてみれば、潜んでいるエイを引き寄せる事が出来るかもしれんの。ところで、その好物とは?」
リュースが、「ああ、こう言う奴だ」なんぞと言いながら、舳先のユラヴィカの首根っこを押さえて連れてくる。
「って、なんでわしなのじゃぁぁぁ!」
「つべこべ言わずに、餌になって来い。ロープは付けて置いてやるからっ」
その胴体に、自身を船に縛り付けていたのと同じロープを巻きつけると、リュースは彼を、槍投げの要領で、海面へ飛ばしてしまう。
「うひゃあぁぁぁ」
落ちたら終わりなので、ユラヴィカ、悲鳴を上げながら、水面近くを飛び回っている。
「ついでに、シャーク用のも作ってきたんだが」
ちなみに、サメ餌は、生魚と内臓を袋に詰めた、強烈な臭いを放つ物体だ。
「それは後でいいじゃろう。同時に来ると面倒じゃし」
1匹づつ仕留めたい琴音。その直後、彼が言った通り、船が大きく揺れた。
「皆、エイが現れたのじゃ〜!」
ユラヴィカが、息を切らせながら、そう叫んでいる。直後、水面に影が現れたかと思うと、ラージレイが巨大な体躯をひらめかせて、挨拶代わりのジャンプをして見せた。当然、揺れまくる船。回避に自信のないティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)と、踏ん張りそこなったレフェツィア・セヴェナ(ea0356)が、しりもちをついてしまっている。
「皆様にセーラ神様の御加護がありますように‥‥」
漁の始まりを告げるその揺れに、ビター・トウェイン(eb0896)がそう言って、グットラックの魔法を唱えるのだった。
●捕獲
漁は始まったが、大変なのは餌である。
「寄るな触るな! わしはえさじゃないーー!」
何とか避けようと、サンレーザーを撃つユラヴィカ。逃げる事には自信がある上、グットラックの効果もあって、何とかやりすごせてはいるようだ。
「おっしゃあ、んじゃあ、早速本日の特選素材になってもらおうかぁ!」
アネゴ肌で男勝りな特徴を、遺憾なく発揮しつつ、クリムゾンは、持っていた矢を、頭の部分めがけて放つ。だが、シューティングポイントアタックを心得ていない彼女、目やエラなどの弱点と思しき部分には、まったくあたらない。
「意外と早いな‥‥」
しかしルシフェル・クライム(ea0673)は、それが決して、彼女の腕が悪いわけではなく、相手が同じくらい素早いせいだと見抜いていた。
「クリムは操船に集中してて! 船を壊されたら、終わりなんだから!」
「すまねぇ!」
レフィが波の衝撃から立ち上がりながら、そう言った。足手まといになるよりはと、クリムゾンは櫂を握りなおす。
「それでも、ダメージは入っているだろう。俺に考えがある。出来るだけ引き寄せてくれ!」
「そんな事言っても、結構難しいんです、よっ!」
高速詠唱のウインドスラッシュで、エイを逃がさないようにしながら、そう言うフィーナ。魔法を当てられて、くるりと方向転換したエイは、まっすぐ船へ向かってくる。
「くそ! 落ち着けっての!」
それほど操船技術が高いわけではないクリムゾン、揺れる波の上、船を安定させておくのが精一杯のようだ。
「ルシフ‥‥何を‥‥?」
そんな中、不安げな麗の視線の先では、ルシフェルが、ロングスピアを片手に、へさきへと向かう。
「あの尻尾をなんとかせんと、安心して料理が出来ないだろうが!」
「来たのじゃー!」
ユラヴィカが警告をする。その刹那、ルシフはラージレイの背中に、飛び乗っていた。
「邪魔なんだよ! これが!」
彼が狙ったのは、ラージレイの尾。きらりと輝く毒針を、切り落とそうとスピアを振るう。
「うわぁっ」
だが、不安定なエイの背中では、思うように安定せず、彼は尾の一撃で、放り出されてしまう。あらかじめ縛りつけていたロープがなければ、海に投げ出されてサメの餌になっているところだ。
「く‥‥。やはり私の腕ではムリなのか‥‥」
「喋らないで下さい。今、手当てしますから」
悔しそうなルシフェルに、ビターがアンチドートを施している。毒に侵されていたとしても、これで大丈夫だろう。
「すまない‥‥。俺が不甲斐ないばかりに‥‥」
「おのれ‥‥食材の‥‥分際で‥‥。私の‥‥」
その様子に、麗蒼月(ea1137)は不機嫌そうに、鉄扇を鳴らす。近接戦闘用のそれでは、あまり手は出せないのだが、目の前でルシフェルを傷つけられて、悔しい模様。
「心配するな。この程度では倒れん」
自分が庇おうと思ったのに、これではどっちが守り役か分からんな‥‥と、ルシフは自嘲気味に呟く。
「サメまで来たのじゃ〜」
戦闘の結果、傷付いたラージレイの臭いに、サメ達が寄って来た。リュースの言う通り、血の臭いを嗅ぎ付けたらしい。
「シャークはとりあえず無視しろ。落ちないようにしていれば良い。勝手に餌に食いついてくれるだろう」
「そんな事言ったって、揺れるのよ〜!」
シャークにホーリーを唱えていたレフィ、リュースの指示に、悲鳴を上げながら、船にしがみついている。
「琴音さん、頼むで!」
「わかったのじゃ!」
サメの数は3匹。どれも、5m級の大物である。話に出ていたシャークだろうと見当をつけた琴音は、ティファルに言われて、マジカルエブタイドを唱える。
ところが。
「しまった! 水位は下がったが、その分、エイまで下がっておる!」
唱え終わった潮位が、3mほど下がり、周囲に水壁を作る。しかし、エイが空中に取り残されるわけではなく、水に潜ったままだ。
「考えてみたら、水位が下がっても、地面がなきゃ同じなんですよね‥‥」
ウインドスラッシュを打ちながら、そう言うフィーナ。以前の潮干狩り場所と違い、水位が下がっても、水がなくなるわけではない。壷の水をこぼしても、中の魚が浮くわけではないのと、同じ理屈である。
「良いから、さっさと撃て! ダメージくらいは入るだろ!」
ルシフェルがそう言った。先ほどから、ラージレイに細かい傷は増えている。たとえ引っ張り出せなくても、どうにかなるだろうと考えたらしい。
「捕まえたぁ! 解けないうちに仕留めて〜!」
魔法の得意でない彼に変わって、コアギュレイトを放ったレフィが、動きの止まったラージレイを指して、そう急かす。
「よっしゃあ、いっちょブチかまさせてもらうで〜!!」
「ひやぁぁぁっ」
雷の苦手な琴音が逃げ回る中、ティファルがライトニングサンダーボルトを放った。まっすぐのびる電撃は、ラージレイだけではなく、シャークにもダメージを与えている。
「あ、エイが逃げてく!」
「サメも釣られて行くな‥‥。少し様子を見るか‥‥」
たまらず逃げて行くラージレイ。血を流しつつ逃走するそれに、食欲を刺激されたシャークも、後を負っていた。
「考えてみれば、サメは血の臭いに敏感じゃから、エイを上手い事傷つけたら、サメが食いついてくるのは当然じゃな」
「弱肉、強食‥‥世界の、理ね‥‥」
後は、共食いになるのがオチであろう。波間に漂う血に、ユラヴィカと麗がそう言った。
「冗談ではない。このままでは、食材がなくなってしまうのじゃ!」
納得行かないのは琴音ちゃんである。普通の戦闘なら、そのまま放置でも構わないのだが、せっかくおいしい食材が目の前にぶら下がっているのに、みすみす逃してなるものかと言った風情だ。
「わかった。どうしてもと言うなら、仕方がないな。追いかけさせてくれ」
「お、おう」
逃がした魚は大きいぞと言わんばかりの彼女に、リュースがクリムに船を進ませた。
「少しおこぼれを貰っても、よろしいか、な! と」
サメと格闘中のラージレイ。水面に浮き出たその尻尾を、彼は根元からロングスピアの一撃で、切り取ってしまう。
「この人数で食べるなら、これくらいで充分だろう?」
「それもそうじゃな。足りない分は、これから釣ればよいじゃろうし」
船の上に引き上げられたそれは、10人分の材料としては充分だ。
「漁師用具、持って来てよかったね」
「うむ、サイズがちっちゃくなって、少々残念だがの」
こうして、腹ペコあどべんちゃらぁずは、多少中身は変わったものの、無事、食材を手に入れるのだった。
●調理
陸に戻ってきた一行は、メニュー開発と称し、早速調理に取りかかっていた。
「やはり、魚介類は新鮮な物の方がおいしいしのぅ。今から出来上がりが楽しみじゃ」
ラージレイの尻尾を、一口大の切り身にしながら、鼻歌なんぞ歌っている琴音。
「ふふふ。イギリス、の‥‥不味い、料理には‥‥飽き飽き、していた、ところ‥‥なのよ、ね」
華国語でぼそりと呟く麗。
「何か言われとるで」
「余計なお世話です」
語学に詳しいティファ、イギリス出身のフィーナをつついている。そんなやり取りに、麗はくすりと笑みを浮かべて、こう言った。
「あら、華国では‥‥猫、も、食べるのよ‥‥」
「この子は食材じゃないんですから、食べないで下さい」
麗の嘘に、フィーナ嬢は、怯える愛猫を慌てて抱き上げている。
「こらぁ! クリムってば、試食は後にしてよぉ!」
「いいじゃねぇの、ちょっとくらい」
一方、役目を済ませたクリムゾンは、料理を作っているレフィに、つまみ食いの咎で追いかけられている。
「調味料持ってきたぞ。これでいいのか?」
そこへ、リュース達が、味付けの調味料を持ってきた。酒とビネガー。オリーブオイル等である。
「うむ。これだけあれば、豪勢な食事が作れそうなのじゃ」
他にも琴音が取って来たアジやいわし等が、食べられるのを待っている。
「アジは揚げ物にして、ビネガーをかけて食べると美味しいそうじゃ」
「マリネかぁ。うん、わかった。作ってみるよ」
ユラヴィカのリクエストに、リフィは切っておいた魚に、味付けを始めた。既に、ビネガーに漬け込んであるそれは、野菜を刻んだものを混ぜ、オリーブオイル等を振りかければ、立派なお魚のマリネが出来上がる。
「あの‥‥。私‥‥これも‥‥」
そこへ、麗が物々交換で手に入れてきたらしいスモークサーモンを差し出した。
「あとは、貝のソテーなんか美味そうだな。海老とかもあれば良いんだが」
「えー、海老っちゅうたら。やっぱフリッターやろ。ソース付けて食うと、ごっつ美味いで〜」
食べた事があるのだろう。そう提案するルシフに対抗するように、ティファルがそう言った。これだけ各国の出身者がいるのだから、それぞれの国のソースをつけて、『シュリンプフリッター・レインボーソースがけ』って言うのはどうや? と、続けている。
「そこまで本格的なものは、ここでは出来ませんけど、簡単なものなら」
それを聞いたビターが、オリーブオイルと胡麻を使って、素朴で家庭的なソースを作って見せた。海藻にかければ、立派なサラダの出来上がり。
「スープができたぞぇ〜」
ちょうど、魚のスープも出来上がった模様。かくして始まる試食会と言う名の宴席。
「ダメよ。それは‥‥私の‥‥」
「ちょっとくらい、いいじゃないかよ。あだっ」
食事にはうるさい麗、自分の分だけでは飽き足らず、少々つまみ食いに走ろうとしたクリムゾンを、扇子でぺしりと教育的指導。
「だって、私の‥‥だもの。上げないわ」
食べ物では苦労してきたらしく、麗嬢は皿を奪われたくないとばかりに、少し離れた場所へ席を立つ。
「仕方がないな。連れ戻してくる」
ぶっきらぼうにそう言ったルシフ、ローズキャンドルとシェリーキャンリーゼを手に、1人で食べている麗の元へと向かった。
「お前、本当に美味しそうに食べるなー」
マリネをつついていた麗を見て、ルシフはそう言いながら、その食べっぷりを、しばし鑑賞中。
「ほらほら、ついてるぞ」
その口元に、フライの欠片がついていた事に気付いた彼、刺繍入りハンカチで、そっとふき取ってやる。
「ありがと‥‥」
触れられて、食べるのを止める麗。差し出された酒で、喉を潤す。
「あの、な。蒼月。渡したい‥‥ものがあるんだが」
落ち着いた様子の麗に、ルシフはぎこちなく名前を読んで、バックパックから、とあるケースを出した。
「あら‥‥私を、捕まえる‥‥決心、が、ついた‥‥の?」
驚いた表情を浮かべる麗。それは、ケースの中に、愛を誓う男女の彫り込まれた、銀製の指輪だったから。
「まぁ‥‥な」
ぎこちない返答をするルシフ。その手から、指輪を渡されそうになった彼女、受け取る代わりに、左手差し出した。
「蒼月‥‥」
薬指にはめられる誓いの指輪を、黙って見つめていた麗は、おもむろに自分の持っている誓いの指輪を出し、ルシフに押し付ける。
「あげる。好きな、指に‥‥」
不貞腐れたようにそっぽを向きつつ彼女。ただし、その頬は、照れくさいのか、耳まで真っ赤である。
その先は、書くだけ野暮と言うものであろう‥‥。