妖精さんを助けて
|
■ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート
担当:姫野里美
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 2 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月06日〜07月12日
リプレイ公開日:2005年07月15日
|
●オープニング
●囚われた小さなプリンス
いつの世にも、趣味に走ったいわゆる『好事家』と言うのは多い。広い意味で言えば、カンタベリーの議長や、ドーバーのトゥイン嬢もその範疇に入るだろうが、今回、問題を起こしたのは、狭い意味での『好事家』と言う存在だった。
「どうして、こんな事に‥‥」
大きな鳥篭に入れられ、服をはがされたシフールの少年。いや、正確に言えば、その身には、薄手の布を一枚付けられたきりになっている。
「では、代金はこれで」
その彼の目の前では、そんな当たり障りのない商談をしながら、かなり多額のゴールド貨を支払っている女性がいる。
「また何かあれば申し出てねん☆」
その相手は‥‥やはりシフール。しかも、道化師姿の。
「黒の御前にはよろしくと、お伝え下さい」
「はーい。伝言承りましたー」
礼儀だけは正しく見える婦人に対し、お気楽な様子のシフール嬢。彼女は、そう言うと、屋敷を飛び出して言った。
「さて、これで全て成立しましたわ。ねぇ? 可愛いアスカくん」
彼女は、代価を支払った相手が去ると、そう言って、籠の中のシフールに歩み寄り、籠の隙間から指を差し入れ、まるで小鳥でも扱うかのような口調で、こう続けた。
「そんなに怯えなくても良いのよ? 坊や。あなたは私の大事なコレクション。大人しくしていれば、危害は加えないわ‥‥。今は、まだね‥‥」
くすくすと、その口元に怪しげな笑みが漏れる。
「い、家に帰して下さい‥‥」
「それは出来ない相談ね。あなたは、私が、買ったの」
まるで、聞き分けのない子供に言い聞かせるかのように、彼女は言葉をわけて強調する。そして、念を押すかのようにこう言った。
「その綺麗なお肌に、傷を付けられたくなければ、人形でいなさいね。彼らの様に」
「そんな‥‥」
その時だけ、まるで獲物を捉えた女狐の如き表情を浮かべ、少年‥‥アスカは怯えてしまう。彼女の指し示した先には、数多くの彫像が並んでいた。
「ふふふ。そうだわ。色々とお洋服を買ってあげる。お人形さんは、綺麗に着飾らないとね‥‥」
そんな彼の表情など、知ったことっちゃないと言った風情の貴婦人は、楽しげにそう言いながら、使用人に何か命じていた。
「誰か‥‥ここから出してよぉう‥‥。妹が待ってるのに‥‥」
だが、籠にはしっかりと錠が降ろされ、彼の細腕ではびくともしない。絶望にも似た感覚が支配する中、少年はそう呟くのだった。
●行方不明
それから数日後。
「針子が1人行方不明?」
カンタベリーはギルバード・ヨシュア議長宅では、屋敷の主が、使用人であり占い師でもあるレオンから、そんな報告を受けていた。
「はい。鶴之介殿と、小鳥殿の話では、数日前に、買い出しに行った後、戻って来ていないそうなのです」
なんでも、議長の下で働く彼が、上司である2人の依頼で、足りない材料を買いに行った所、そのまま帰ってこないらしい。
「探したのか」
「心当たりは全て‥‥。念のため占って見た所、どうやら買い出しの途中で、悪い御仁に攫われたようなのです‥‥」
議長のセリフに頷くレオン。心配になり、3人で話を聞きに行った所、買い物をした後の消息がぷっつりと途絶えてしまったらしい。
「行き先はつかめたのか?」
「いいえ。ただ、1つ気になる事が‥‥」
首を横に振る彼。続けて報告したのは、こんなセリフだった。
「最近、市郊外に居を構えた婦人が、シフール用の服を、やたらと発注しております。本人にも使用人にも、シフールがいると言った様子がありませんので‥‥もしかしたらと」
「ふむ‥‥」
怪しい状況証拠はてんこもりのようである。だが、それだけの状況ながら、議長達には今ひとつ踏み込めない事情があった。
「それに‥‥もう1つ、その御仁には強力な後ろ盾が‥‥」
「教会か」
言葉を濁すレオンに、議長はそう言った。彼ら織物評議会と、教会とは、色々な事情が重なって、あまり仲が良くない。どうやら、対象の婦人は、その教会関係者らしい。
「はい。多額の寄進をしておられる婦人だそうです。周囲では、その為もあってか、敬虔なジーザス教徒と言う評判が‥‥」
「やっかいだな。証拠に欠ける上、教会がバックアップ‥‥。下手に踏み込めば、こっちが文句を言われるか‥‥」
「夢見には‥‥確かにその針子が出てきたのですが‥‥」
レオンの占い能力は、今までも数多くの事件を予期し、解決の糸口となっている。だが、実際に動いているのは、冒険者達。いくら彼が主張したとしても、とうてい信じてもらえるものではない。それは、議長とて心得ている。
「‥‥わかった。お前が見たと言うのなら、信じても良いだろう。大切な針子だ。至急、キャメロットに赴き、冒険者を集めてくれ」
「かしこまりました」
それでも、大切な従業員を見捨てるわけには行かない。そう考えた議長は、レオンに探索と救出を命じるのだった。
『行方不明のお針子を1人、探し出して来て欲しい』
キャメロットに、そんな依頼が乗ったのは、それからまもなくの事である。
●リプレイ本文
カンタベリー。
織物業が盛んなこの町では、他の町と比べて服を扱う店も数多い。多くは、ギルが議長を務める織物評議会の会員だが、必ずしも議長が全てを把握しているわけではないようだった。
「うーみゅ。やっぱり、服をたくさん買ってもらえるのは、ちょっぴりうらやましいのじゃ〜‥‥」
キラキラした宝石が大好きなユラヴィカ・クドゥス(ea1704)、店に飾ってあるシフール用の服を、興味深そうに眺めながら、物欲しそうな表情を浮かべている。
「でも、その代わり、どこにも行けなくなりますよ」
そんな彼に、布を手に取りながら、釘を刺しているのはディアッカ・ディアボロス(ea5597)である。2人が訪れているその店は、糸や布などを売っている店である。完成品もあるが、巻かれた布や、綺麗に並べれられた糸などが、訪れる客を誘っていた。
「ほろよいベルモットの緞帳を縫ってくれていたお針子さんですし、無事に助けて上げなければ」
「う、うむ。人さらいはやっぱりいかんのじゃ」
彼にそう言われて、両腕をぱたぱたと、顔をぶんぶん横に振りながら、慌てて表情を元に戻すユラヴィカ。
「そうじゃのう。個人的には、置物だの人形だのと言うのが気がかりなのじゃ。この間の親子は逃げられてしまったしのぅ。魔法への対策をして行った方が良いと思うのじゃが」
指先を顎の辺りに当てて、小首を傾げる彼。額の上辺りに、『?』マークが浮かんでいる。
「せめて、人身売買の証拠でもあればいいんですが‥‥」
そんな彼に、バーゼリオ・バレルスキー(eb0753)がそう言った。手には、議長から手配されたと言う目立たない色の服がある。彼がそれに袖を通していると、奥から大量の衣装を抱えてきた常葉一花(ea1123)が、こう告げる。
「彼女、店にも来た事があるそうよ」
そう言って、衣装をディアッカ達の前に置く彼女。店長から聞いた話では、その時に、たまたまアスカくんが応対に出て、すごく気に入っていたとの事だ。
「その時に目を付けられたようですね。ですが、それだけでは証拠になりませんか‥‥」
「難しいですね。今回は人数も少ないですし、私達だけでどうにかするしかなさそうです」
ため息をつく人間2人だった。
「わぁ、すごい量なのじゃ」
「マダムのところに潜りこむ品だそうですよ」
一方で、衣装を目の前にしたシフール組は、目の前に置かれたその量に、目を輝かせている。
「ほらほら。借り物なんだから、あんまり乱暴に扱わないで頂戴」
「ちぇー」
試着する気満々だったユラヴィカ、少々残念そうである。
「遊びに来ているわけではないんですよ。それで、他にも同じ様な事件とか、ありましたか?」
「うむ。話を聞いて来た所、何人か行方不明者が出ているそうじゃ。その前に、必ずあのご婦人が姿を見せておる。じゃが、それを知った家族が、彼女の所に行って、家捜ししても、誰もおらなんだそうなのじゃ」
口調と表情を暗くして、おどろおどろしく話すユラヴィカ。少々怪談めいた話である。
「肝心のその女性の素性はわかったのですか?」
「それがさっぱり。ただ、敬虔なジーザス教徒とかで、10日置きには、教会に顔を出しているようじゃ」
一花の問いに、首を横に振りながら、そう答える彼。
「居なくなっている者達は、職業はバラバラじゃが、だいたい同じ様な年格好で、全て男の子じゃ。参考になるかのう」
ユラヴィカが差し出したのは、薄く切った木の板に書かれた行方不明者のリストだ。
「やはり、直接確かめに行ったほうが良さそうですね」
それを見たバーゼリオ、着替え終わった姿で、そう言った。少々、危険な行為になるが、救出のためなら、仕方がないと割り切った模様。
「あら、どちらへ?」
その彼が、着替えを馬に乗せて、店の奥へと向かうのを見て、一花が尋ねる。
「自分、動くのは夜なんで。今の内に寝ておきます。ああ、馬は議長の所に預けて置いて下さい」
徹夜は得意じゃないんですよーと、腕をひらひらさせるバーゼリオ。「わかりました」と頷く一花。
「さて。本領発揮と行きますか」
その口元に、何やら企んだ笑みが浮かんだのは、言うまでもない。
それからしばらくして。
ユラヴィカの入った籠を手土産に、一花は上手い事邸内に入り込んでいた。
「それと、これは街で聞いてきたのですが、珍しいコレクションをお持ちとか」
「聞いてどうするの?」
服屋に度々出入りして、シフールサイズの服を買っていた事は、紛れも無い事実である。厳しい表情のマダム。その彼女に、一花は、『ここで叩きだされてたまるか!』と、食い下がる。
「是非、見せていただきたいと思っただけです。他言は無用。2人だけの秘密にしておきますし」
そう言って、ちらりと籠の方に視線を送る一花。
「ああ、そう言う事。なら、構わないかもしれないわね。ついてきなさい」
答えも聞かず、マダムは席を立った。案内されたのは、屋敷の廊下。少し下っている所を見ると、奥の半地下へ続いているのだろう。
「ディアッカ、よろしくね」
いよいよ、乗り込むんですね。と、そう判断した一花は、持参していたバックに、声をかける。と、やはり小さな声で、「わかりました」と答える声。中に、ディアッカが潜んでいるらしい。
「アスカがいるのは、地下の秘密の部屋みたいですね‥‥。窓もないし」
バックの中で、リシーブメモリーを使ったらしいディアッカは、小声でそう報告してくる。
「何か仰って?」
「いえ、私は何も」
感づかれてはまずい。そう思った一花、ぶんぶんと首を横に振ると、慌ててこう言い繕った。
「あ、ああ! もしかしたら、噂に聴く家鳴りかもしれませんわ」
「昼間は出ないわ」
きっぱりと言い切るマダム。その氷のような視線に、一花は一瞬震え上がるが、何も知らない商売人のように、こう続けた。
「そうなんですか? 私、そう言う事には詳しくなくて」
「あれは、夜出るものよ」
まずい。疑われている。一花の後ろ頭に、冷や汗が浮かんだ。
『気を付けて。この人、家鳴りの事、良く知っているようです』
これ以上、声に出したら、バレてしまう。そう思ったディアッカは、テレパシーの魔法でもって、直接一花の思念に報告してくる。そんな彼に、短く頷く一花。
「さ、ここよ。私のコレクションルームは」
程なくして、彼女がマダムに案内されたのは、数々の置物の人形が並んだ部屋だった。
「立派ですわね。これなんか、まるで生きているよう‥‥」
素直な感想を述べる一花。見上げたその人形は、等身大のシフールサイズ。いずれも、男の子だ。
「ふふ。あの子もいずれ、ここに並ぶ事になるわ‥‥」
『気を付けて下さい。あのマダム、明日にでもアスカくんに魔法をかける可能性があります』
自慢げなマダム。その表層意識を読み取ったディアッカが、警告している。何をどうするのかはわからないが、マダムの脳裏には、加工の二文字が浮かんでいると。
「これは立派ですね。うちの商品も、飾りがいがありそうです」
だったらなおの事、ここで帰るわけにはいかない。そう思った一花は、その一体を眺めながら、自慢げにそう言った。
「まだ何かあるのかしら?」
「ここにはありませんが、早くても今日のうちには、最高の商品に仕立て上げられるかと。ただ、上に見付かると不味い代物なので」
議長や評議会の名前は、あえて出していない。代わりに、秘密の品と言わんばかりにして、人差し指を唇に押し当てている。
「ふぅん。そう。なら、あちらは私が抑えておくわ。教会に言えば、すぐにね」
密約を交わすかのように。そう答えるマダム。何か、策を思いついたかのように。
「では、持ち込みましたら、どなたかにお預けしておくと言う方向でよろしいですか?」
「残念だけど、ここには夜は人は来ないの」
一花のセリフに、彼女はそう答えると、持っていた扇を広げた。そして、口元を隠すようにして、こう告げる。
「そうね。貴方1人でおいでなさい」
「‥‥わかりました。では、この品々はその時に受け取りに参りますわ」
何か、ある。確信する一花。だが、ここは嘘でも何でも、信用を得る事が肝要。そう言って、彼女は首を縦に振り、籠とバックを置いて行った。
「運んでおきなさい」
残されたユラヴィカとディアッカが、どこかへ運ばれたのは、それからまもなくの事である。
「侵入者だーーー!」
表の見張りが騒ぐ声。
「どうやら、取り込み中のようですね」
舌打ちするマダムに、ほっとした様子でそう言う一花。
「安心しなさい。逃がしはしないわ。あなたもね」
「え」
だが、それも一瞬の事。今まで笑みさえ浮かべていたマダムの顔つきが、急に変わる。逃れようとする一花。が、その刹那、マダムの身を黒く激しい光が包む。生命力を奪われた彼女は、激しい脱力感と共に、その場に倒れこんでしまう。
「大人しくしていなさい。ふふふ、綺麗なお嬢さんね。高く売れそうだわ」
その顎を持ち上げ、マダムは楽しそうにそう告げてくる。動けない一花。
『ディアッカ! まずいのじゃ! 一花がバレた!』
その頃、ユラヴィカは、天井裏からその事に気付き、表のディアッカにテレパシーで警告を入れてきた。しかし、彼は表の玄関口で、警備の面々を相手に、逃げ回っている真っ最中だ。
『それで、アスカさんは!?』
『今一緒におる!』
一方のユラヴィカはと言うと、アスカを抱えたまま、身動きが取れなくなっている模様。
『でしたら、議長に危急を知らせに行ってください。ここは、何とか切り抜けて見せます!』
『わかったのじゃ!』
そういうユラヴィカの『声』と共に、テレパシーの魔法が途切れる。その間に、加勢していたバーゼリオが、静かにシャドゥフィールドの魔法を唱えた。その刹那、周囲は闇に閉ざされる。
「今のうちに!」
その間に、ユラヴィカはアスカを連れて煙突から脱出すると、一目散に議長の元へとすっ飛んで行くのだった。
そして。
「申し訳ありません、議長。評議会との関係は、さとられないようにしたつもりなのですが‥‥」
紆余曲折の結果、議長の家で、深々と頭を垂れる一花。その身には、痛々しい包帯が巻かれている。
「いや。これだけの人数で、よくやってくれた。アスカも戻った事だし、さすがに、彼女までどうこうとは言わんよ」
彼女の申し訳なさそうな表情に、そう答える議長。ソファーの傍らには、きちんと服をきたアスカが、申し訳なさそうな表情をしている。
あの後、捕らわれていた一花は、知らせを受けた議長の使い‥‥レオンである‥‥に、助け出されていた。
「彼女は、なんと?」
「部下のしつけがなっていない‥‥だ、そうだよ」
さんざん嫌味を言われたらしい議長、面白くなさそうな表情で、ソファーによりかかる。
「まぁ、しばらくは、大人しくしているだろうがな」
「‥‥いずれ、彼女とは、また顔を合わせてしまいそうですね」
無事、針子を助ける事が出来たものの、マダムとは、再びお付き合いをする羽目になりそうだった‥‥。