【妖精王国】赤い帽子と笛の音

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月23日

リプレイ公開日:2005年07月26日

●オープニング

 閉架書庫とローズガーデンの話は、報告書としてまとめられ、生徒会長へと報告されていた。
「東の森の妖精王国‥‥ですか‥‥」
 職員室で、考え込んでいる生徒会長殿。
「どうも何人か紛れ込んでるみたいね。悪い事が起きなきゃ良いけど‥‥」
 そんな彼女に、嫌な予感が、この間から消えないのよ‥‥と、壁により掛かりながら答えているミス・パープル。
「それが‥‥もう起きてるんですよ‥‥」
「‥‥なんですって。どう言う事よ」
 声を潜める生徒会長。と、彼女は『教師に隠し事なんて、良い度胸ね』と言わんばかりに詰め寄ってきた。
「実は、森に向かったまま、帰って来ない人が何人か‥‥」
 彼女の話では、東の森に行ったまま、戻らない者達の噂があると言う。元々、迷いの森であるそこは、生徒の出入りは殆どないが、ケンブリッジに住むのは、何も生徒ばかりではないのだ。
「そう。それを聞いたら、調べてこないわけには行かないわね‥‥」
 さて。その間の授業は‥‥と、スケジュールと課題の調整を始める彼女。と、その時だった。
「すみません。あの、パープル先生、いますか?」
 職員室の入り口から、顔を出すハーフエルフの少年。何度か顔を合わせた事のある生徒である。
「実は‥‥東の森に行きたいんですけど‥‥。生徒立ち入り禁止って言われて‥‥」
 そう申し出る彼。事情を聞くと、こう続けた。
「なんでも、あそこで妖精さんに会うと、金がもらえるって言うから‥‥。あ! べ、別に、お金に困っているわけじゃないんです! ただ、ある人にプレゼントが贈りたいんですけど、材料にそう言うのがいるって言われて‥‥。けど、この辺じゃ、金塊なんて手に入らないし‥‥」
 どうやら彼は、プレゼントの材料になるものを探しているらしい。話の中に、微妙に作為的なものを感じたパープル女史は、少し厳しい表情で、その出所を問うた。
「えぇと。東の森で、妖精さんに会ったっていう吟遊詩人さんが、仲良くなると、金をくれる時があるって、話してくれたんです」
 なんでも、金色の光る粉をまとった妖精が、ダンスのお礼に金塊を貰った事があるとか、お菓子勝負に買ったシフールが、金の欠片を貰ったとか、そんな話である。
「やっぱり調査が必要のようね」
 それを聞いたパープル女史、職員室の壁に立てかけてあったライトハルバードを手に取る。
「一応、メンツを集めておきますか‥‥」
 不安に駆られたらしい生徒会長は、何かあった時の為にと、東の森に行ってくれる生徒達を探し始めるのだった。

 数日後、ハーフエルフの少年とパープル女史は、東の森にいた。
「森って言っても、広いから‥‥。どこから探そうかしら‥‥」
「僕は良く分からないので、先生にお任せします‥‥」
 ところが、その時である。
「笛の音‥‥?」
「何だか心地いい‥‥」
 2人の耳に届く、怪しげな笛の音。ねっとりと耳に絡みつくそれを聞いて、今まで大人しくしていたはずの少年が、誘われるように前へ出る。
「待ちなさい。様子がおかしいわ」
「大丈夫ですよー。ほら、なんともない」
 引き止めるパープル女史。だが、彼は踊るようなステップを踏んで、森の奥へと向かってしまった。
「危ないっ」
 その刹那、少年に襲いかかる、赤い帽子の小柄な影。振り下ろされたナイフが、彼に突き刺さる寸前、パープル女史のハルバードが、それを跳ね除けていた。
「あんたが行方不明騒ぎの張本人ね‥‥」
「ナに言ってる? 女に子供、特に帽子が良く染まる‥‥。ダンナが教えてくれた。それだけ」
 その切っ先をつきつけるパープル女史に、赤い帽子のモンスターは、そう答えた。その言動から察するに、レッドキャップと呼ばれる、邪悪な妖精だろう。
「お前、柔らかそうな血シテル。子供、肉柔らかそうダ。骨は集めて飾りにするんダ‥‥」
 舌なめずりをするレッドキャップ。笛の音に踊るようにして、そう笑う。周囲にいた、手下らしい光の球を模した様なモンスターが、釣られるように舞っていた。どうやら、人の子が、動物を食べたり、加工したりするのと、同じ感覚らしい。
「このまま野放しには出来ないわね。少年。あなたは、森の外へ出なさい。行き先は、わかっているわね?」
 生徒を材料にさせるわけにはいかない。そう考えたらしいパープル女史は、ライトハルバードでもって牽制をしながら、少年を出口の方へ向かわせるのだった。

「それで、それっきりなんですか?」
「ごめんなさい‥‥っ。僕、怖くて‥‥っ。それで‥‥っ」
 学園に逃げ返ってきた少年は、生徒会長に、泣きじゃくりながら、事の経緯を報告している。
「パープル先生の事ですから、無事でいるとは思いますけど‥‥。気になるのは、笛の音ですね‥‥」
「なんだか、ついて行きたくなるような笛の音でした‥‥」
 モンスターと遭遇した時も、ずっと鳴り響いていた笛の音。それが、2人の身体を重くしていたのは、彼も感じていた事だ。
「先生、大丈夫かな‥‥」
「あの辺りは、隠れられる廃屋やら、洞窟やらも多いですし、先生だって、騎士学校の面々と手合わせ出来るくらいですから、生きているとは思います。ただ、身動きが取れなくなっている可能性はありますね‥‥」
 モンスターに遅れを取るようなパープル女史ではないが、さりとて左腕は麻痺したまま。おまけに笛の音が足かせとなる状況。油断は出来ない。
「探しに行って来て、くれます?」
「はい!」
 置いてきた事を心残りに思っていたのだろう。そう言うと、ギルドへ走って行く少年だった。

 その頃、パープル女史は‥‥と言うと。
「まいったわね‥‥。身動き、取れなくなったわ‥‥」
 とある廃屋で、左腕と右足の応急手当をしながら、外をうろうろしているモンスターを警戒している。
 その周囲には、やはり笛の音が響いているのだった。

●今回の参加者

 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 迷いの森は、馬で入るには向かない場所だ。それほど離れていないためもあり、生徒達は、少年とベアータの案内で、必要なものだけを持って、東の森へと入っていた。
「レディ‥‥」
「ランスくん‥‥」
 さっきから、一言も喋らない東雲辰巳(ea8110)。同じ様に、思いつめた表情のマカール・レオーノフ(ea8870)。彼も、お気に入りの少年、エルフのランスくんが、妖精騒動に巻き込まれ、行方不明らしい。2人とも気が気ではないようだ。
「早く見つけませんとね」
 そんな中、アディアール・アド(ea8737)が手馴れた様子で、グリーンワードの魔法を唱えた。彼の目の前には、妙に手入れされた感のある太い木。おそらく、こちらに薬草や毒草を入手しに来た時に、目印代わりにしているのだろう。
「紫の女性は、廃屋のあたりまでは見たそうです。あと、レッドキャップは、その近辺を中心に、数日前から現れているそうです」
 なんどか魔法を繰り返した結果、彼はそう言った。
「わかった‥‥。ちょっと待ってろ」
 少年の案内で、木々の間に、廃屋や洞窟が見られるエリアに来たエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は、そう言うとブレスセンサーの魔法を唱える。
「特定出来んな。もう少し、絞り込まないと」
 しかし、反応が多すぎて、どれがパープルだかわからない。と、そんな彼に、ベアータ・レジーネス(eb1422)がこう言った。
「木のある場所を除外してくれ。それで、どうにかなる筈だ」
 エルンストよりは、森の地理に明るい彼は、その土地勘でもって、アドバイスしてくれる。
 そんな時だった。どこからともなく流れてきた、笛の音。耳に心地よいそれを聞いて、少年が怯えたようにエルンストの影に隠れてしまう。
「確かめてみるよ」
 そう言って、ファム・イーリー(ea5684)がサウンドワードの魔法を唱える。返ってきた答えを見るに。やはりあれが、惑わしの笛のようだ。
「つまり、たどっていけば、レディの所にいけるわけだな」
 それとは対照的に、東雲はしめたとばかりに、そう言った。
「これ、持って行ってください。笛の音なら、耳に栓をしておけば大丈夫ですから!」
 そう言って、持っていたお手製の耳栓を投げるアディ。それを受け取った東雲は、すぐさま、森の奥へと向かう。後を追うマカールとエレナ・レイシス(ea8877)。
「班を二手にわけよう。いざ救出になった時に、笛の音で力が出せないと、逆にこっちが痛手を受ける」
 パープルの事は、3人に任せておけば大丈夫だろう。そう判断したエルンストは、彼らが動きやすいよう、まず笛を断ち切る事を提案する。その傍らで、ファムがレジストメンタルの魔法を唱えていた。
「くれぐれも、無茶はしないで下さいませ!」
 セレナ・ザーン(ea9951)がそう忠告する。無理やり倒そうとして、返り討ちにでもなったら、元も子もないからだ。
「く‥‥。近くにいる事はわかっているんだが‥‥」
 とは言え、東雲たちだけでは、流れてくるその笛の音源を突き止める事が出来ず、足止めを食らってしまう。
「ここは一か八かだ。なに、食らっても大した事はない」
 そう言って、エルンストは、ムーンアローのスクロールを広げた。精霊語で読み上げられたそれは、彼の思念に応じて、魔法の矢を発動させる。と、矢は木の向こうにいた大きな影へとぶち当たり、一瞬、笛の音が途切れさせた。
 それは即ち、その大きな影が、怪しげな音の発生源だと言う事。
「く‥‥。遠くてサイレンスが届かん‥‥!」
 止めさせようと魔法を唱えるベアータだが、彼の力量では、せいぜい15mが効果範囲だ。100mほど向こうにいる彼には、到底届かない。
「任せて! そう言う時は、歌で撹乱しちゃえば良いのよ!」
 そう言うと、ファムは持っていた竪琴をかき鳴らした。そして、メロディーの魔法を唱えると、笛の音を妨害しにかかる。

 私の声を聞いて♪ 私の音を聞いて♪ 浮気しちゃ、イヤ♪ 惑わされないで♪
 
 静かな森に響く、学園の陽気な歌姫の声。笛の音を掻き消す明るいその歌は、メロディーの魔法効果で、耳栓をしたアディの心にも響いていている。そんな彼女の声は、一般的な吟遊詩人の大きさと同じだったが、向こうは、たくさんの人間が現れた事にか、次第に遠ざかって行った。
「ひゃひゃひゃ。ダンナが言ったとおり、もっとたくさんの人間来た。帽子、赤く赤く染められる‥‥!」
 代わりに現れたのは、赤い帽子に錆びた剣、そして取り巻きの様にウィル・オ・ザ・ウィスプをつれた邪悪な妖精‥‥レッドキャップ。
「あの光は‥‥! 確か、先生と別れた時にもいました!」
 少年が、エルンストの後ろから身を乗り出すようにして、そう言った。
「だとすると、先生はその向こうの廃屋に隠れているようですね‥‥」
 マカールが、今しがたレッドキャップが現れた廃屋を見て、そう告げる。
「くそ、これじゃ近づけん‥‥」
 しかし、その前にはふよふよと舞う光の妖精達。手を出しあぐねている東雲。あれさえなければ、と唇をかみ締めている。
「東雲さん、これ、使って」
 そんな彼に、ファムがバックパックから取り出したのは、柄に古めかしい文様の刻まれた長さ40cm位の短剣。イースターの時に、エチゴヤ福袋から手に入れる事が出来たと言う、魔法の剣‥‥ダーク。
「わかった。俺が祈る間、持たせてくれ」
 東雲がそれを受け取ると、ファムは再び竪琴をかき鳴らした。

 惑いの音を聞くな♪ 暗き音に惑うな♪
 汝を導く、音が在り♪ 真実を照らす音が在り♪
 我が歌が、福音の音ぉ♪

 その歌声は、勇気の歌。士気を上げ、まやかしの歌に抵抗する術を得るもの。タイトルをつけるならば、冒険の夜に飛べ。
「何だか知らないが、楽しくなってきたぞぉ」
 もっとも、それはレッドキャップにも同じ効果を及ぼす。馬鹿にするように笑う彼に、ファムはこう言った。
「その通りっ! そんなの、分かってるよ」
 首を傾げるレッドキャップのその前で、東雲が地面につきたてたダークの剣から、結界の力が迸る。注ぎ込まれた魔力が、エレメントにのみ効果のある鎖を、ウィル・オ・ザ・ウィスプへと絡みつかせる。
「ソコの! 何をした!」
「悪いが術をかけさせてもらった。意地でも、レディを助けなきゃ行けないんでな」
 動きの少し鈍くなった光る玉に気付いたレッドキャップに対し、そう言い放つ東雲。
「おのれ、やるのだ! オマエ達!」
 立ちはだかるように、ウィル・オ・ザ・ウィスプが群がろうとした。
「させませんよ!」
 しかし、そこへ様子を見守っていたアディが、プラントコントロールで、周囲の蔦を操作する。
「殺すなよ。そいつには、聞きたい事が山ほどあるんだからな!」
「わかった」
 エルンストが、生け捕りにする旨を伝えると、ウインドスラッシュで、ウィル・オ・ザ・ウィスプを叩き落としている。ばりばりと雷をまとうその球で、味方の生徒が怪我をしないように、ストームの魔法で吹き飛ばそうとするベアータ。
「ブラックホーリーじゃ、らちがあかない‥‥」
 苦戦しているマカール。彼の持つ神聖魔法では、ウィル・オ・ザ・ウィスプに、有効なダメージが与えられていない。せめて、剣がまともに使えていれば、話は別なのだが。
「マカールさん! 剣をこちらへ!」
 右腕に装備したショートソードを振ろうとしていない彼を見て、エレナがバーニングソードの魔法を唱えた。彼女のおかげで、何とか自分の獲物を振るえそうだ。
「ありがとう。これで何とかなりそうです!」
 そう言うと、彼は剣にさやをつけたまま、レッドキャップに向かって行く。狙うは、その持った錆びた剣。武器さえなければ、攻撃力は格段に落ちるとばかりに、ディザームをかける。
「わ、わしの剣が! お、おのれぇ!」
 攻撃力は高いが、回避力はそれほど高くなかったのだろう。マカールの剣先は、小気味良い音を立てて、彼の剣を弾き飛ばす。はるか向こうの地面へと突き刺さるそれを見て、レッドキャップは、今度は自前の爪でもって、その帽子を血で染めようとした。
 そこへ立ちはだかるセレナ。オーラ魔法の鍛錬をしていなかった事を後悔していた彼女だったが、代わりにエレナのバーニングソードがかかっている。
「食らえぇい!」
 レッドキャップの爪が、セレナのネイルアーマーとローブに突き刺さる。それをあえて受け止める彼女。人、それをデッドorライブと呼ぶ。
「これ以上、どなたの血もながさせませんわ!」
 その、繰り出された爪と交錯する様に、彼女の剣が逆手に持ち変えられた剣。カウンターアタックにスマッシュを合成したその剣は、避けようとのけぞったレッドキャップの、薄い胸板に、深々と突き刺さる。半ばまでその身に剣を埋もれさせた傷から、血を流しつつ、地面に転がるレッドキャップを尻目に、東雲はレディがいると思しき廃屋の扉をけり開けた。
「レディ、無事か!?」
 薄暗いその場所で見たのは、何度かレッドキャップとやりあったのだろう。麻痺した左腕を盾代わりに、重症を負ったパープル女史の姿だった。壁により掛かるようにして、倒れた彼女は、知った声に薄く目を開ける。生きてはいるらしい。
「ちょっと我慢しろよ‥‥」
 持っていたポーションを口に含み、パープル女史のそれを強引に含ませ、一気に流し込む。
「馬鹿、何するのよ‥‥」
 憎まれ口が叩けるようになった辺り、命に別状はなさそうだ。
「死ぬよりましだろ。気にするな。立てるか?」
 ほっと胸をなでおろし、パープル女史に肩を貸す。素直に助け起こされる彼女に、転がっていたライトハルバードを、しっかりと握らせる。
「これ以上戦うなら、今度はファイヤーバードをお見舞いしますよ」
 外へ出ると、悔しげなレッドキャップに、エレナがそう言っていた。
「精霊を操り、人を惑わす。あなた方は何者ですか?」
 ウィル・オ・ザ・ウィスプを倒し終えたベアータも、余力を残した状態で尋ねる。
「先ほどの笛の音もある。関係を喋ってもらおうか」
 エルンストの威圧感は、レッドキャップですら、怯えさせるものだったらしい。表情をひくつかせた彼は、あさっての方向を向きながら、ぺらぺらと喋った。
「笛の音は、ダンナが妖精に言う事聞かせる為に吹いてるのさ。妖精は、王国の住人。人間に言う事聞かせる為に、金をあげると言って、気を引いている」
 要約すると、こうだ。
 彼に笛の音で助力したダンナことギャリー・ジャックは、ある目的の為に、ある聖なるアイテムを探している模様。レッドキャップは、それを手伝う変わりに、笛の加護を手に入れたそうだ。
 妖精達は、それを探されたくなくて、力を貸してくれる存在を、人間達の間に探している模様。
「繋がったな」
 そう言うエルンスト。花嫁騒動で、ランスや少年に、いらん知識を吹き込んだ吟遊詩人も、それに関わる者らしく、実は同一人物だと言う事が、少年の証言と、マカールの目撃情報から、はっきりと分かっている。
「行方不明者は、どこへ連れていかれたんです!?」
「知らない。でも、ダンナは、妖精の護衛連れてる。とても強そう。俺も、仲間に入れてくれると、旦那は言った」
 マカールが問い詰めると、彼はきしゃきしゃと馬鹿にした笑いを浮かべる。ボスが連れているのは、自分レベルの邪妖精ではないと言いたいのだろうか。
「‥‥っ」
 可愛がっていたエルフの少年が行方不明になったのも、その為だと思っているマカールは、何かを堪えるように、強く拳を握り締めている。
「よしなさい。そいつはタダの下っ端。責めても知らない事は吐きはしないわ」
 そんな彼を制したのは、東雲に身体を支えられ、ライトハルバードを杖代わりにした、パープル女史だった。
「先生がそう言うなら‥‥」
 厳しい表情を浮かべたままの女史に、ようやく剣を納めるマカール。その隙に、レッドキャップは逃亡してしまう。と、そんなパープル嬢に、エルンストはいきなり説教を始めた。
「だいたい、情報が事前に入っていて、生徒達入り禁止なのに、生徒と2人で出向くのは、無用心に過ぎるぞ。パープル」
「だ、誰のせいだと思ってんのよ‥‥」
 ぶすくれる彼女。その視線は、エルンストの後ろで、申し訳なさそうな表情をしていた例の少年に注がれている。
「一度、学校に戻りましょう。どうやらここは、一般の人が長居をするには、向かないようです」
 そんな彼らに、アディが周囲を見回しながら、そう言った。笛の音も、邪悪な妖精も消えたが、元・迷いの森。どこからモンスターが現れるかわからない。
「わかった」
 彼に言われて、パープル女史を、東雲が横向きに抱えあげる。いわゆる御姫様抱っこと言う奴だ。
「って、降ろしなさいよぉ!」
「病人は大人しくしてろ」
 顔を真っ赤にして、じたばたと暴れるパープル女史。その様子に、少々うらやましそうな少年。
「少年。ちょっと手を出せ」
 そんな彼に、エルンストはぶっきらぼうにそう言って、ポケットから何か光るものを取り出すと、少年の手のひらに乗せた。
「約束しただろう。名を、つけてやると」
 驚いて顔を見上げる彼。誓いの指輪に掘られた文字には、アルヴィンと名前が彫られている。
「ありがとう、先生! 大好き!」
「こら、ひっつくな!」
 嬉しそうに飛び付いて来る少年改め、アルヴィンくん。くすぐったそうに押しのけるものの、まんざらじゃない様子のエルンスト。
「ランスくん‥‥。どうか、無事で‥‥」
 その一方で、改めて、神に祈らずにはいられないマカールだった。