【聖杯戦争】貴婦人の旋律は陰謀の調べ・1

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 96 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月22日〜07月29日

リプレイ公開日:2005年07月30日

●オープニング

●館に潜む者
 とある、屋敷。
「あの男の部下が?」
 置物の人形の並んだコレクションルーム。そこでは、人形を愛でるマダムのもとに、とある青年がこう報告していた。
「イエース、マダム。奴だけじゃねーが、何か大騒ぎしやがってるぜ」
 短めの髪。袖のない薄手の服。首にはやたらアクセサリーがぶら下がっており、目付きの悪い表情で、テーブルの上に、お行儀悪く乗っかっている。
「ふむ‥‥。なにやら企んでおられるようね。巫女殿の仰られていた通りだわ」
「どうする? 御前は、出来りゃあ手ぇ貸してやれってさ」
 胡坐をくんで、偉そうにふんぞり返る彼。と、マダムは人形を撫でながら、こう尋ねてきた。
「まだ、あの子は疑われていないのでしょう?」
「つーか、はっきりするまでは、泳がしておくつもりなんじゃねーの? やっこさん」
 誰の事かはわからないが、その口ぶりからすると、何やらもぐりこんでいる様子だ。
「だったら、このまま彼女に動いてもらった方が良さそうね。私は、この間、コレクションを1個逃しちゃったから、しばらく大人しくしていた方が無難だし」
 マダムは今回、動くつもりはないらしい。ひらひらと『好きにやって頂戴』と言った風情で、そう言う彼女に、行儀の悪い青年はこう言った。
「せめて、兵隊くらいは出してくれよな。ウチの部下どもじゃ、近寄らせても貰えねーし」
「わかったわ。なら、連絡は取っておきましょう。あそこは、暗礁も多いですしね‥‥」
 その後ろには、ドーバーの海域を示す地図が、飾られていたと言う。

●極秘指令:王宮への伝令を護衛せよ!
 事態が動いたのは、オクスフォード侯が、何やら不穏な動きをしているとの情報が、議長にもたらされた矢先の事だった。
「貴婦人の、誘拐?」
「はい。キャメロットの‥‥正式なギルド依頼ではないのですが‥‥」
 カンタベリーは、ギルバード議長の邸宅。帰宅したレオンから、彼はそう報告を受けた。
「どう言う依頼だったんだ?」
「何でも、とある貴婦人を、極秘裏に連れ出して欲しいとの依頼でした。詳しい事は、依頼を受けてから話すと言われ、聞き出せなかったのですが、おそらくは、舞台となる屋敷に連行され、仕事をさせられる事かと」
 キャメロットばかりではなく、ドーバー、そしてカンタベリーの各酒場を中心に、そんな勧誘が、密かに行われていると言う話だ。
「そなたについた精霊殿は、なんと仰っている?」
 それが、キャメロット周辺だけなら、さして気に止める話ではなかっただろう。だが、自分の管理する地域で、しかもレオンの口ぶりから察するに、それだけではない様子。ゆえに、議長は彼に加護を与えている者の啓示を尋ねる。
「はい。確たる証拠はございませんが、その怪しげな求人募集に、オクスフォード侯に連なる者と言う大物の気配をちらつかせている事、また、同じシーンに、女性の影がちらついている事を教えてくれました」
「モルゴース殿か‥‥。宮中で話していた噂は、誠だと言う事だな‥‥」
 職業柄、王室への出入りも少なくはない議長。未だ、ナイト職を放棄していない事もあり、宮廷内の噂は、数多く耳にする。良きにしろ、悪しきにしろ。その中で、オクスフォード侯が反旗を翻している事、その影で、モルゴースが動いている事。それは、確かな情報のようだ。
「まずいな‥‥。こんな所まで、話が及んでいるとは‥‥。計画を急がねばならん‥‥」
 なにやら、思う所のあるらしい議長。考え込む仕草を見せる。
「いかが、取り計らいましょうか?」
「まずは、不穏な動きを知らせねばなるまい。私1人で動いては、怪しまれるのがせいぜいだからな‥‥」
 織物評議会議長としての紋章が入った、公式の文書としても使える羊皮紙に、彼は事の次第をすらすらと書き込んでいる。
「これを、キャメロットまで持って行け。陛下に直接会う事は出来ぬだろうが、それなりには扱ってもらえるだろう」
「かしこまりました」
 議長からそれを受け取り、頭を垂れるレオン。
「そうだな。何人か護衛を雇っていけ。おそらく、こちらの動きは、連中にも知られる所だろう」
 先のマダム・タリスの件もあり、たとえカンタベリー内とて、どこでデビルの目が光っているかも分からない。王城へ向かうとなればなおさら。いずれ、襲撃者も現れるだろう。それが、海であれ、山であれ。
「出来るだけ、目立たぬように‥‥な」
「御意に」
 こうして、キャメロットへと向かう伝令を護衛する為、冒険者達には、極秘裏に指令が流されるのだった。
 だが、その頃議長は。
「念には念を。彼らの手腕を疑うわけではないが、少々手回しも必要だな‥‥」
 別の書状を、今度はキャメロットギルドへと、発信するのだった。

●密やかな、依頼
 そして、冒険者達の元には。

『王宮への伝令を護衛する冒険者を探しています』
 
 大事な書状を王宮へ送る役目を、レオンが受け持った。道中、それを快く思わぬ者から、襲撃を受ける可能性がある。書状を含め、何とか安全に送り届けて欲しい。

「さて、姫。どう動かれますかな‥‥?」
 依頼の写しを眺めながら、議長はそう呟いていたと言う‥‥。

●今回の参加者

 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1314 シスイ・レイヤード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea2634 クロノ・ストール(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1600 アレクサンドル・リュース(32歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

逢莉笛 舞(ea6780)/ ルディ・リトル(eb1158

●リプレイ本文

「普段より人が多いですね‥‥」
 よく定期便ルートを使用しているフローラ・タナー(ea1060)が、周囲を見回してそう言っている。彼女の言う通り、カンタベリーには、なにやら同業の雰囲気を漂わせた人々が、お互いの様子を伺っている。
「友人が酒場で噂を流してたから‥‥。おそらくその影響もあるんだろうな」
 それを聞いて、ウォル・レヴィン(ea3827)がそう言った。確か、見えない敵に情報撹乱をする為、『カンタベリーより極秘任務をおった騎士が、取り急ぎ海路にて王宮に向かうらしい』等と、噂を流したと聞いている。
「今の世ん中あれ放題、うかうかしてると背中からばっさり‥‥という事もあり得るのでな。取れる手段は出来る限り取っておきたい。時にはブラフも有効だろう、これで襲撃者の戦力を二分出来れば、それだけ安全度は増すはずだ。まぁ、あくまで希望に過ぎないがな」
 その行為を、必要な事だと主張する真幌葉京士郎(ea3190)。そんな中一行は、全員が羊皮紙の偽ものを懐に持ち、耳や髪を隠すなどして変装。しかるのち、必要な物資だけを持って、軽装でキャメロットへ向かっての山越えを敢行したのだった。

「本当なら、最短距離で連れて行きたいところですが、表は色々と危ないですから。まぁ、これがありますし、多少無理しても大丈夫だと思いますよ」
「決して道がないわけではないようだしな。丁寧に偵察を行えば、いくぶん早くはなるだろう」
 カンタベリー近辺の地図を覗き込むようにして、そう言うフィーナ・ウィンスレット(ea5556)とロート・クロニクル(ea9519)。確かに、街道だけではなく、道なき道、獣道等々、様々『道』があるようだ。
「どうでもいいが、冠がちくちくするのぅ」
「少しの間ですから、我慢して下さいな」
 フローラの頭に乗っかったユラヴィカ・クドゥス(ea1704)、装備している茨の冠にマントを敷きながら、少々不満顔。
「この周囲には、襲撃者はいないようだが‥‥」
「油断しない方がいい‥‥。いつ襲ってくるかわからないしな‥‥。あまり急ぎすぎるのは、どうかと思うが‥‥」
 バイブレーションセンサーで、人の動きを調べていたアルス・マグナ(ea1736)に、駿馬に乗ったシスイ・レイヤード(ea1314)がそう言った。
「もし襲ってきたとしても、当の本人がいないんじゃ、探しようもないさ」
 ウォルが、面白い物でも見るような視線を、レオンに向ける。と、そこには。
「どうして、私がこのような姿に‥‥」
 髪の毛をアップにして、着物姿に身をつつんだ姿の彼。もちろん、小鳥から借りて来た女物である。
「いいじゃないか。女装も変装も、たいして変わらないさ」
 よく似合っているぜーと、にやにやしながらそう言うウォル。確かに、女性めいた顔立ちのレオンくん、化粧までされちゃって、一見するとたおやかな美少女だ。
「そろそろ、陽がくれますね‥‥」
 夕暮れ時特有の赤い光が、一行を照らす中、駿馬のフロドに乗ったフィーナが、そう言った。
「ああ。やはり、早めに移動して‥‥正解だった‥‥ようだ」
 そう答えるシスイ。あまり急ぎすぎると目立つとは思ったが、ここは駿馬を利用して、先を急いで良かったようだ。
「しかし、油断は出来ません。皆さんは、ここで休憩しててください。私は、ちょっと周囲を見てきます」
 その彼と同じ様に、フライングブルームを持ち込んでいたフローラは、そう言い渡した。
「ちょっと待て、調べてみる」
 アルスがバイブレーションセンサーの魔法を唱えた。と、魔法は彼に、周囲の『動き』を教えてくれる。
「ふむ‥‥。周囲にいるのは、獣程度か‥‥。とすると、焚き火でもしておくか‥‥」
「いえ、それは止めといた方がいいでしょう。目印にされますし」
 何とか、体を休められそうだと思ったアルスを、彼女は止めてくる。
「しかしな。我々とて、睡眠時間は充分に取っておきたいのだが」
「食料は後で私が作ります。暖は、これを」
 ウィザードの彼としては、せめて精神力が回復するまでは眠っておきたい。獣などに邪魔されたくないのだ。そう主張するアルスに、彼女は『一夜の辛抱だから』と、持ち込んだ枚数分の毛布を渡す。
「仕方なかろう。それも仕事だ。そうだな‥‥見張りは交代で、前衛と後衛、視力の優劣から、2〜3人くらいに分けた方が、無難じゃないかな」
「わかりました。では、見回りの間に、チーム分けをしておいて下さい」
 キャンプをしているわけではないのだ。少々厳しくとも、それは仕方がない。そんな主張をするアレクサンドル・リュース(eb1600)に、フローラは納得して、偵察へと向かう。そのかいあって、魔法を使う者達は、順当に休む事が出来たのだった。

 その日の深夜。
「レオン‥‥。眠れないのか?」
 フローラに借りた毛布に包まって、休んでいた筈のレオンが、なにやら厳しい表情で、見張りを勤めていたロートの所へ起きてきた。
「ああ‥‥。また、嫌な夢をみてしまって‥‥」
 よく見れば、化粧を施されたままの額の髪が、汗で張り付いてしまっている。
「もしかして‥‥。例の霊視か?」
「どうしてそんな事を聞く‥‥」
 警戒した表情のレオン。と、ロートは以前、ゴルロイスと会った事がある‥‥と伝えながら、こう言った。
「いや、以前の依頼で、ゴルロイス公にしてやられたものでな。気になっているだけだ」
「私も、それは聞きたいな。最近、宮廷での動きがあわただしいし」
 いや、彼だけではない。同じく見張りに出ていたフィーナも、そう申し出てくる。
「今回の黒幕‥‥。モルゴース様は、ゴルロイス公の娘だ‥‥」
 自分からは、あまり話したくはないのだろう。言葉を選んでいる様子のレオン。娘である事は、ロートも伝え聞いていた。レオンが議長から何を聞いているかは知らないが、おそらく、メレアガンス公をたきつけたのも、それを題材にして。事件の陰に女性ありと言うのは、昔から言われていた話だ。
 それが、議長は納得できなかったらしい。
「モルゴース殿自身は、どう言った方なのです?」
「一度だけ、遠くから見た事はある。綺麗な人だった。魔性の美しさと言うのかな‥‥」
 ケルトの秘術に通じ、デビルと親交があると噂される彼女。真偽のほどは定かではないが、何か裏がある女性なのは、間違いないようだ。
「それだけじゃないだろう」
 そこへ、己の伝え聞いた話を、教えに来るクロノ・ストール(ea2634)。
「俺の聞いた噂じゃ、モルゴース殿は、子を殺されたらしい‥‥王によってな」
「私は聞いていない。だが、虜囚となった妻子を、本人をいぶりだす為に、酷い目に遭わせた話は聞いた。モルゴース殿自身ではないにしろ、それに近い貴族や騎士の妻子が、ウーゼル公の手の者に嬲り殺された可能性はある‥‥」
 彼のセリフを、きっぱりと否定するものの、戦争の際には、酷い事が横行していた事を示唆するレオン。
「まぁ、俺の聞いてきた仔細も、所詮は噂程度。ただ、その噂に踊らされて、動く騎士は多いだろう。どちらにつくのであれな」
「‥‥狭間で、苦しむものもいる。王国への恩義と、不義を正すと言う大義名分の間でな」
 踊る者と踊らされる者。双方がいる。それが戦と言うもの。
「この乱に名誉は無いさ‥‥。私には民の笑顔を護る‥‥。それだけでいい」
「違いない」
 ロートもフィーナも、その意見には賛成してくれる。
「民の、笑顔‥‥か‥‥」
 だが、ただ一人、レオンだけは、厳しい表情を、崩さなかった‥‥。

 翌朝の明け方。
 フライングブルームを飛ばしていたフローラが戻って、ばたばたと騒ぎ始める他の面々。アルスのバイブレーションセンサーも、獣ではない人が、自分達の近辺に現れた事を告げている。
「この先に、奇襲されそうな地形があります‥‥っ‥‥」
 フライングブルームで飛びっぱなしだったフローラ、そう言うや否や、その場に倒れこんでしまう。
「無理を、するな」
 地面に転がる前に、京士郎が支えて、怪我をしないように横にしてくれた。
「偵察は俺が代わる。フローラ殿は、少し休んでいるといい‥‥」
「気持ちはわかるが、休む事も重要なのじゃ。それに、わしの方が、偵察には向いているしの」
 京士郎の頭の上に、ぴょこんと飛び出したユラヴィカ、日は落ちても使える魔法はあるし、シフールの自分の方が、隠れやすいと主張。
「すみません。では、お任せします‥‥」
 疲れてはいたのだろう。すぐに眠ってしまうフローラ。そんな彼女に、レオンが毛布をかけてくれた。
「この先に、待ち伏せされています。警戒して下さい」
 フローラの代わりに、フライングブルームで、空からの警戒に当たっていたフィーナが、警戒の結果を報告してくる。
「人数は‥‥10人と言ったところじゃのぅ」
「そうまでして、レオンに王宮へかけこまれたくないか‥‥」
 テレスコープの魔法を使って、待ち伏せの人数を告げてきたユラヴィカに、京士郎がそう答えている。
「だが、これを抜ければ、明日にはキャメロットだ。ノルマは1人1殺。なぁに、ポーションならたっぷりある! 遠慮なんぞせんでいい!」
 オーラ魔法を唱えたクロノの号令で、アルスが「もとからそんな事、考えちゃいないさ!」と、グラビティーキャノンをぶっ放した。
「どけ! まず数を減らす!」
 同じ様に、ロートが得意のライトニングサンダーボルトを放つ。ところが、先の魔法のほか、ローリンググラビティーを打ち込まれた程度で、彼らは笛を鳴らし、引き上げて行く。
「俺達が準備している事を知ったのだろう。向こうも先遣隊と言ったところだな」
 そう評す京士郎。誰が伝令か、確たる証拠をつかむまでは、戦力を温存しておくと言った所だろうと、告げる。
 しかし、それは即ち、確実にレオンを消そうとする動き。それを知った冒険者達は、王宮につくまで、気が抜けない事を悟るのだった。

 2日目の夕暮れ。
「やれやれ‥‥なんとか‥‥たどり着いた‥‥。慣れない‥‥事は‥‥するもんじゃ‥‥ないな‥‥」
 慣れない乗馬に、腰のあたりをさすりながら、見えてきた王宮に、ほっとした表情を見せるシスイ。
「まだ、王宮には遠い。これからがラストスパートだ」
 しかし、目指す場所までは、まだ数時間はかかるだろう。彼らがいるのは、まだテムズ川を越えていない場所なのだから。
「サンワードで、リリィベル達がいるかどうか、確かめたかったんじゃがのぅ」
「報告書にあったデビルか‥‥。確かに、カンタベリー関連の依頼には、人外の存在が、ずいぶんでてきたようだな」
 ユラヴィカに、残念そうにそう言われて、レオンの隣にいたアレックスは依頼を受ける前に読んだ、報告書の事を思い出す。
「しかし、面倒な事になっているようだな〜。早速お出迎えされるし」
 アルスが、あらぬ方向を見ながら、そう言った。とたん、冒険者達の間に、緊張が走る。
「気付いたか?」
「ああ、囲まれてるな」
 顔を見合わせないようにして、気配を確かめるアレックスとアルス。気付けば、周囲に人はおらず、ざっと20人ほどの人影が、あちこちに見え隠れしていた。予想外の速さに、慌ててかき集めたと言った所か。そんな中、動いたのはまずフローラだった。
「強行突破しましょう。私が、連中を引き受けますから」
 フライングブルームをレオンに貸し、彼女はそのよく目立つマントを翻し、立ち止まってこう叫んでみせた。
「そこの者達! 文句があるなら、出てきておいでなさい! それとも、我らをカンタベリーからの使者と知っての待ち伏せですか!?」
「いかにも。その書状、王宮へ届けられては不都合なのだよ」
 その声に答えるように現れた場所。それは‥‥フィーナの真後ろ。
「くっ! させるかぁ!」
 レオンを庇おうとした彼女を、クロノが突き飛ばした。勢い、地面に転がってしまったフィーナが、顔を上げた時に見た物は、相手の剣を、槍で受け止めている彼の姿だった。
「こいつを‥‥!」
 もみ合っているうちに、引きちぎってしまった相手の服の一部。それを、彼は、レオンに向かって放り投げる。
「このぉっ!」
「うぐっ!」
 その一瞬の隙をつかれたクロノが、大きく弾き飛ばされた。曇天の空に、真紅の飛沫を飛び散らせながら、彼が叩きこまれたのは、テムズ川の支流。
「レオン! 王宮まで飛んで! 彼なら大丈夫、きっと生きています」
「‥‥フローラがそう言うなら。わかりました。お願いします」
 自分には使命がある。信頼する神聖騎士に、諭されて、彼はフィーナと共に、フライングブルームを起動させた。
「目印は、王宮近くの教会。そこで落ち合いましょう」
 そう言って、王宮の方角へと進む彼ら。逃がさぬとばかりに、弓が、放たれる。その間を縫うように、フィーナは高速詠唱でウインドスラッシュを唱えた。そこへ、足止め役のウォルが、相手の弓使いに、オーラパワーを付与した小太刀を振り下ろす。一人、犠牲になった。
「貴様ら、御前の手の者か‥‥。悪いが、お前達に邪魔をさせるわけには行かぬ。いままでも色々好きに動いていたようだが、今回も大人しくお引き取り願おうか」
 京士郎に、訳知り顔で言われ、アレックスは彼が、デビルの存在を疑っている事を悟る。
「なんだよ‥‥。ばれているのなら、仕方がねーな‥‥」
 その彼のセリフを聞いて、一番手前にいた‥‥。そう、クロノを川に叩きこんだ御仁だ‥‥が、口調ばかりではなく、姿まで変える。そうそれは、確かあの時‥‥カンタベリーの村から逃げた御仁だ。
「せっかく、あのいけすかねぇ議長のペットをオモチャに出来ると思ったのによ。てめぇらと遊んでる暇はねーみたいだし、ここで失礼させてもらわぁ」
「待て!」
 そのまま、翼を生やして空へと舞いあがる彼を、アルスが追いかけようとする。
「いや、追わないでいい。いかにデビルとは言え、フライングブルームの最高速度に追いつけるはずもないからな」
 しかし、京士郎はそう言って彼を引き止めた。いかにデビルとは言え、警備の厳しい王宮に、危険を侵してまで深追いする事は無いと。
「そうだな‥‥。これで‥‥終わりじゃないような気がする‥‥。沢山の血が‥‥流れなければいいが‥‥」
 慣れない乗馬をこなしたせいで、あまり活躍できなかったシスイが、祈るような口調でそう言う。
「もう、クロノ以外に犠牲者を出したくないしな」
「いや、きっとアイツは生きてる。無事を祈って、酒でも捧げようぜ」
 アレックスのセリフに、ウォルがそう言った。直後、『お前が飲みたいだけだろう』と全員からツッコまれたのは、言うまでもない。