【聖杯戦争】貴婦人の旋律は陰謀の調べ・2

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 96 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月23日〜07月30日

リプレイ公開日:2005年08月01日

●オープニング

●昔の、夢
 深夜。
 寝苦しい夜だった。開け放した窓からも、吹き込む風は重く湿っており、不快指数だけが増している。そんな夜の事。
「ん‥‥」
 寝苦しそうな館の主、ギルバード・ヨシュア。うなされているのだろうか。額に汗が浮かぶ。
「やめ‥‥っ」
 はっと何かに気付いたように、跳ね起きる彼。身に着けた寝巻きが、汗でぐっしょりと濡れていた。
「夢か‥‥」
 ほっとしたように、額に手を当てる議長。
「まさか、今更昔の話が出てくるなど‥‥。どうかしている‥‥」
 自身に言い聞かせるかのように、そう呟いて、ベッドを降りる彼。
「何か、不吉な事が起こらなければ良いが‥‥」
 昇る月は、その不安を示すかのように赤く塗られていた‥‥。

●極秘指令
 事態が動いたのは、オクスフォード侯が、何やら不穏な動きをしているとの情報が、議長にもたらされた矢先の事だった。
「貴婦人の、誘拐?」
「はい。キャメロットの‥‥正式なギルド依頼ではないのですが‥‥」
 カンタベリーは、ギルバード議長の邸宅。帰宅したレオンから、彼はそう報告を受けた。
「どう言う依頼だったんだ?」
「何でも、とある貴婦人を、極秘裏に連れ出して欲しいとの依頼でした。詳しい事は、依頼を受けてから話すと言われ、聞き出せなかったのですが、おそらくは、舞台となる屋敷に連行され、仕事をさせられる事かと」
 キャメロットばかりではなく、ドーバー、そしてカンタベリーの各酒場を中心に、そんな勧誘が、密かに行われていると言う話だ。
「そなたについた精霊殿は、なんと仰っている?」
 それが、キャメロット周辺だけなら、さして気に止める話ではなかっただろう。だが、自分の管理する地域で、しかもレオンの口ぶりから察するに、それだけではない様子。ゆえに、議長は彼に加護を与えている者の啓示を尋ねる。
「はい。確たる証拠はございませんが、その怪しげな求人募集に、オクスフォード侯に連なる者と言う大物の気配をちらつかせている事、また、同じシーンに、女性の影がちらついている事を教えてくれました」
「モルゴース殿か‥‥。宮中で話していた噂は、誠だと言う事だな‥‥」
 職業柄、王室への出入りも少なくはない議長。未だ、ナイト職を放棄していない事もあり、宮廷内の噂は、数多く耳にする。良きにしろ、悪しきにしろ。その中で、オクスフォード侯が反旗を翻している事、その影で、モルゴースが動いている事。それは、確かな情報のようだ。
「まずいな‥‥。こんな所まで、話が及んでいるとは‥‥。計画を急がねばならん‥‥」
 なにやら、思う所のあるらしい議長。考え込む仕草を見せる。
「いかが、取り計らいましょうか?」
「まずは、不穏な動きを知らせねばなるまい。私1人で動いては、怪しまれるのがせいぜいだからな‥‥」
 織物評議会議長としての紋章が入った、公式の文書としても使える羊皮紙に、彼は事の次第をすらすらと書き込んでいる。
「これを、キャメロットまで持って行け。陛下に直接会う事は出来ぬだろうが、それなりには扱ってもらえるだろう」
「かしこまりました」
 議長からそれを受け取り、頭を垂れるレオン。
「そうだな。何人か護衛を雇っていけ。おそらく、こちらの動きは、連中にも知られる所だろう」
 先のマダム・タリスの件もあり、たとえカンタベリー内とて、どこでデビルの目が光っているかも分からない。王城へ向かうとなればなおさら。いずれ、襲撃者も現れるだろう。それが、海であれ、山であれ。
「出来るだけ、目立たぬように‥‥な」
「御意に」
 こうして、キャメロットへと向かう伝令を護衛する為、冒険者達には、極秘裏に指令が流されるのだった。
 だが、その頃議長は。
「念には念を。彼らの手腕を疑うわけではないが、少々手回しも必要だな‥‥」
 別の書状を、今度はキャメロットギルドへと、発信するのだった。

●密やかな、依頼
 そして、冒険者達の元には。
「議長が、拉致?」
 怪訝そうに聞きかえすヒメニョ嬢。
「しーっ! 声が大きいよ。それに、語弊がある様な言い方、しないでよね」
「だって、これ、そうにしか見えないじゃない」
 話し相手は、ドーバーのバンブーデン公の下で生活しているトゥイン嬢である。どうやら、2人は知り合いらしい。
「だから、違うのよ。なんでも、とある陰謀を砕く為に、わざとこう言う依頼を出したんですって」
「ホントに?」
 疑わしげな視線を向けるヒメニョ嬢に、彼女は「絶対だって! 御方様から聞いたんだもん。間違いないよ」と訴えている。
「怪しいなぁ。まぁ、依頼自体は出しておくけどさー」
 さらさらとサインをするヒメニョ嬢。こうして、ギルドには2つのの依頼が並ぶ事となった。1つは、伝令の護衛。もう1つは。

『王宮のとある貴婦人を開放する面々を探しています』

 名前を明かせぬが、王宮の貴婦人を極秘裏に連れ出す為の面々を探している。詳細は依頼を受けてから。なお、危険な任務なので、注意されたし。

「さて、姫。どう動かれますかな‥‥?」
 依頼の写しを眺めながら、議長はそう呟いていたと言う‥‥。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea2843 ルフィスリーザ・カティア(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)

●サポート参加者

アリスティド・ヌーベルリュンヌ(ea3104)/ セレス・ハイゼンベルク(ea5884)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ 鷹杜 紗綾(eb0660

●リプレイ本文

 冒険者達は、それぞれに別れて、まずは相手方貴婦人の情報収集をする事になった。敵を知り、己を知れば百戦危うからずと言うわけである。
 とりあえず、キャメロットでも高級と称される住宅街では、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)が近所のお屋敷に出入りしている下働きの女性を捕まえて、聞き込みの真っ最中。
「なるほど。この辺りには、王族に近い要人が多いのですね‥‥」
 住宅街の一角にある店の軒先で、きゃあきゃあと勝手に盛り上がる彼女達をなだめつつ、前髪を変え、ツインテールにしたティアは必要な情報を引き出していた。
 その結果わかったのは、護衛となるべき対象が、かなり王族に近い貴族だと言う話だ。その話を伝える為、彼女は符丁を決め、酒場へと戻る。
「さて、怪しい人物つったって、どいつもこいつも、クセのありそうな奴ばっかだよなぁ‥‥」
 そこで、怪しい人物をチェックしていたクリムゾン・コスタクルス(ea3075)は、周囲を見回してそう呟いた。高級住宅街と違い、どこもかしこも一般人とは違う気配を感じさせる者達ばかりだったから。
「ん‥‥? あれは‥‥」
 その中でも、ひときわ様子の違う者達。すぐ側に、いつもの柔術着を脱ぎ、ローブを纏った瀬方三四郎(ea6586)の姿がある。
「ダンナは上手く潜り込んだみたいだね。んじゃ、さっさと引き上げますかね」
 クリムゾンとしては、それだけ知れば充分だ。彼が、さっさと姿をくらましたのを見て、席を立つ。
「なるほど、高級住宅街で‥‥ですか‥‥」
「危うく、侵入方法を教えてしまうところでしたわ」
 別の酒場では、ルフィスリーザ・カティア(ea2843)がティアから、偽ヒメニョに会った話を聞いていた。
「しかし、メンツの詳しい事がわかりましたから、それで充分ですよ。ふむ、だとすると、聞き込みとは別の手段が考えられますね」
「例えば?」
 話を聞いたルフィスは、クリムゾンに首を傾げられ、持っていたマリアヴェールを被る。そう言えば、着ているのは綺麗な礼服だ。
「貴婦人には、捧げられるプレゼントが多いんですよ。色々とね」
「なるほどねぇ。あたしには出来ない芸当だ」
 彼女はその話術で、高級住宅街へと入り込むつもりらしい。良い作戦だと思ったクリムゾン、自分もその手で、相手側へ入り込む事を決めた。
 で、その高級住宅街では。
「うふふふ、リュドりんの背中、ふっかふか☆ あったかくてふっかふか☆」
 愛犬の背中に埋もれながら、頬を緩ませているカファール・ナイトレイド(ea0509)。これで仕事が絡んでいなければ、そのまま昼寝を敢行しているわけなのだが、今日はそうは行かない日である。さすがに、道端を歩いているわんこにまで、注意を払う警備員はいないだろうと踏んだカファ、リュドりんに潜んだまま、堂々と横を通る。
「待て! わんこ!」
 さすがにわんこに冷や汗は流れないと思うが、厳しい調子で引き止められ、思わず足を止めてしまうカファ付きリュドりん。片足を上げたまま、じーっと固まってしまう。
「ねーさんねーさん。犬に言っても無駄だと思うぜ?」
 彼女の窮地を救ったのは、警備兵達を監視していたヲーク・シン(ea5984)だった。それだけではなく、いかにも怪しげな人物と言わんばかりの様子で、中の女性警備兵に、誘いをかけている。当然、即答される彼。
「そんな事言わないで頼むよー。なんなら、色々イイコト教えてあげるからさぁ」
「しつこいぞ、貴様」
 どうやら、ナンパにかこつけて、警備を混乱させ、相手側の接触を待とうと言う作戦らしい。
「つれないなぁ。せっかく‥‥良い情報教えてあげようって思ったのに」
「何?」
 こっそりと囁くようにして、わざと集めた情報を‥‥かなり捻じ曲げて‥‥教えるヲーク。と、それを聞いた相手は、話に乗ってくる。そうして、ヲークが上手い事、場を混乱させている頃。
「上手く行ったね、リュドりん☆」
「わぅ」
 どさくさに紛れて、姿を消したカファは、愛犬の頭を撫で撫でしつつ、目的の貴婦人宅へと向かっていた。彼女の手元には、イェーガー・ラタイン(ea6382)が作成した、高級住宅街の簡単な見取り図がある。
 巡回の間を縫って作成したと言うその地図を片手に、彼女がその場所へ赴くと、そこには見覚えのある青年がいた。
「あれ? ショウゴりん? どうしてここに‥‥」
 しかも、いつもの格好ではなく、礼服を身に着けたショウゴ・クレナイ(ea8247)である。ミミクリーを使って動物になっていた彼、この場所を探し当ててきたようだ。
「失礼します。ショウゴ・クレナイと申します。火急の用があると承り、面会に参りました。館の主にお取次ぎ願います」
 人目を避けるかのような変装っぷりだが、身についた雰囲気は隠せない。深々と一礼する彼と、彼のつれた愛馬スレイブを一瞥すると、召使らしい御仁は「そう言えば、吟遊詩人と商人が来ると言っていたな。その用向きか‥‥。中庭で待っておれ」と、本家の人間に取りついでくれる。
「やけにすんなりは入れたな‥‥」
 断られて元々だと思っていた彼、おもわぬ素直さに、逆に疑いを抱いてしまう。
「しょーごりん☆」
「うわっ、びっくりしたっ!」
 と、その時。後ろから『だーれだ』とばかりに飛びついた者がいた。カファである。そんな折、ベランダへと姿をみせる護衛対象。何とかして中へ戻そうとする護衛。おそらく、彼ら冒険者が意図的に流した噂で、警戒しているのだろう。と、カファはそんな彼女のところに、ぱたぱたと飛んで行って、小豆味の保存食を片手に、軽くご挨拶。
「こんちわぁ、おいら、カファって言うんだ。お土産持ってきから、仲良くしてほしいなっ」
「まぁ、可愛いシフールの女の子」
 にぱっと笑顔を浮かべて、そう言った彼女、貴婦人には気に入られたらしい。と、彼女はその足元で、おいてけぼりを食らったリュドりんを撫でつつ、呆然としているショウゴを見て、お茶に誘ってくれた。
「どうやら、上手く入り込めたようですね」
 呼ばれた気晴らしの『吟遊詩人』のルフィスに、『商人』のクリオ・スパリュダース(ea5678)。2人とも、それぞれのコネを使って、護衛対象が『王族に近い高貴な婦人』だと知り、ここに来たわけなのだが。
「私は繋ぎに動く。後は頼む」
 クレオは、他にやる事があるらしく、踵を返す。
「さて、ではお茶に歌を添えるのはいかがですか?」
「まぁ、是非お願いしますわ」
 残されたルフィス、何ごともなかったように、貴婦人の屋敷へ上がりこみ、持っていた楽器をひと鳴らし。
「うーん、どっかで見たような‥‥。まぁ、お近づきになれたから、良いか」
 多少複雑な感情は残ったものの、上手い事もぐりこめたショウゴは、そのまま護衛の任務に付く事にするのだった。

 その頃、敵側に潜り込んだ面々はと言うと。
「何だか集会みたいですね‥‥」
 まるで何か危険な儀式を行う面々のように、ずらりと整列し始める一行の姿に、三四郎が持ち込んだ荷物の中のディアッカ・ディアボロス(ea5597)、聞き耳を立てた。
「あの御仁は、一体?」
「スポンサーと言う所かな。どっかの大物の配下らしいが」
 一方で、男の正体を、イェーガーが小声で尋ねている。本当なら、彼の弁を証明する為にも、リシーヴメモリーでも使いたいところだが、魔法発動の光で、存在がバレるのもまずい。そう思ってディアッカは、ひたすら息を殺していた。
「なるほど。確かにあの依頼には、それなりの金が動くのも合点が行く‥‥」
「まずいですね‥‥。あれは、確かこの間の‥‥」
 その彼が、納得した表情をした直後、現れた男を見て、ディアッカはそう呟いた。見れば、リリィベルと共に暗躍しているらしき御仁である。
「ちゅうわけだ。どうやら、何か嗅ぎまわってる子ネズミちゃんがいるらしいから、気ぃつけろってさ」
 その男が、忠告じみた訓示を垂れる。不味いと思ったクリムゾン、ここぞとばかりにこうねじ込んだ。
「こいつは酒場で聞いたんだが、拉致依頼を妨害する依頼っていうのがあってさ、その依頼を受けた奴ら、もう現場についてるぜ。それに連動して、警備も強化されている。そいつらの期間はせいぜいあと3日ぐらいだから、その後にでも動けばいいんじゃねぇか?」
「俺のところは逆だなぁ。どうやら、情報が錯綜してるぞ」
 彼女の意見に、意を唱える御仁もいる。どうやら、依頼に参加した者達が流した撹乱情報が、上手く機能しているようだ。
「実はな、複数に『王妃または貴婦人を保護する様』依頼が回っている。発覚してもしなくても消される可能性が高い。デビルの投入が本命で、俺達を消すのも彼等の仕事と思われる、対抗武器が用意出来ない場合、最悪依頼を下りた方が良い」
「聞いた事があるな。その話」
 イェーガーの申し出に、仲間のヲークが、いかにも知っていたような顔をして、相槌を打っている。
「それと、いい情報を教えてやろう。もうすぐ警備の人員が、戦争に引き抜かれて減る。その時を狙って仕掛けようぜ」
 真っ二つに分かれたヲークのセリフに、それを聞いた相手は、悩んだ挙句さっさと仕事を終わらせてしまう事を選択する。
『話は聞きました。他の人に連絡してきますね』
 テレパシーでそう言って、ディアッカはこっそりと荷物から抜け出て行く。
「つまり、動くのは今夜‥‥と言った所ですね」
 一方、投げ飛ばされたディアッカはと言うと、符丁を使って呼び集めた他の面々に、事の次第を伝えている。
「そう言う事。貴婦人殿には、警戒するよう伝えて置いてくれ」
 そのまま、連絡役に徹するディアッカ。こうして、冒険者達はそれぞれの陣営に潜りこんだまま、運命の日を迎えるのだった。

 その日の夜のことである。闇に紛れるように、顔を布で覆った彼らは、イェーガー達がわざと持ち込んだデータを元に、いよいよ結構に及んでいた。
「普通の警備以外にも、雇われた連中が居るかも知れない、慎重に行こうぜ」
 そう言って、同じ依頼を受けた面々を引き止めているヲーク。直前までは、仲間のフリをするのが、入り込んだ面々と、符丁で決めたお約束事だ。
「あれが目標だな‥‥」
 その彼らの導きで、目標となる貴婦人の屋敷へと向かう彼ら。と、ヲークはまるで、軽率な男であるかのように、塀へ足をかけた。
「慎重に行けよ。警備兵が来たらコトだからな」
 警告しながら、うかつな真似をするヲーク。もちろん、わざとである。目的は‥‥警備の連中をたたき起こす為。その思惑通り、がたがたと物音を立てられて、中の警備が反応する。舌打ちするヲークに、三四郎が当然の様に、こう言った。
「むう、仕方がないな。私が連れ戻してこよう」
 後は、このままヲークを連れて、トンズラこけば良い話である。
「奥方様、こちらへ」
「は、はい‥‥」
 一方、被害者となった貴婦人は、ルフィスが安全な場所に誘導しようとした。
「そうは行くか! 連れてこなけりゃ、こっちが殺されるんでな!」
「うわっ」
 だが、その行く手を阻むように、ウインドスラッシュが叩きこまれる。思わず足を止めてしまう貴婦人を、他の面々が、横からかっさらっていた。
「おし、逃げるぞ!」
 目的を果たせば、長居は無用。そのまま逃げ出す彼らの前に、ショウゴに呼び集められた警備が追いすがってくる。
『止めときます?』
『うむ、頼むぞ』
 しかもその警備は、逃げようとしたヲークと三四郎もターゲットにしている。明確な接触を避けたい彼らを、ディアッカがシャドウバインディングで足止めしている。
「わわっ。何するんだ、このしふしふ!」
「あっちに怖い人がいて、おいらの事を捕まえようとするんだよぉう」
 彼の魔法だけでは、対処しきれないと思ったカファ、仲間が逃げる逆方向から、警備隊へと体当たり。うるうると瞳をうるませて、あさっての方向を指し示す。それを聞いた警備隊、その偽情報に、妨害役を冒険者達に一任してくれた。
「少し眠ってて下さいね!」
 追いついたルフィス、そう言ってスリープの魔法を唱えた。
「四肢よ! 伸びろ!」
 ミミクリーを使ったショウゴの腕が伸び、犯人に立ちふさがる。
「あんまり傷つけないで下さいよ!」
「くっ。あそこに貴婦人がいたんじゃ、スレイは使えない‥‥」
 チャンスがあれば、スレイを駆り、チャージングでも食らわそうと考えていたのだが、腕に抱えられた貴婦人がいる限りは、それも難しい。
「悪いが、そこまでだ」
 ところが、彼らが用意していた馬車に、貴婦人の女性を連れ込もうとした刹那である。その馬車の影から現れた御仁がいた。
「ハーネスは切らせてもらった。いくら馬車でも、馬がいなければ、何も行えまい。え? オクスフォード侯の配下殿」
 クレオがこれ見よがしに切られたハーネスを見せつけ、その正体を暴いてみせる。顔色の変わる拉致犯達。
「情報に踊らされて、必要物資のチェックを行わなかったのが、貴様達の運の尽きだ。どうする? これ以上戦うなら、容赦はしないが」
 種を明かせば簡単なこと。他の面々が、情報撹乱に努めている間に、商人としてのコネを使い、調達された馬車の筋から、彼らの正体を突き止めただけの事だ。
「バレちゃあ仕方ねぇな。その通り、俺様はオクスフォード侯配下に雇われた奴よ。こうして‥‥王妃殿を掻っ攫う為にな!」
 冷たい表情でそう告げる彼女に、拉致犯の一人はそう言った。
「拉致して、何をさせるつもりだったのです!?」
「しらねぇよ。おおかた、イイコトでもするつもりだったんじゃねぇの? お前達の奉ってる王様のオヤジさんみたいにな!」
 そして、首根っこを押さえていた貴婦人に、ナイフでその首筋を凪いだ。倒れ伏す彼女。と、残ったチームリーダーは、手元に残った髪の毛を懐に、さっさととんずらだ。
「手ぶらじゃ帰れねーんでな! これくらいは貰って行くぜ!」
「く‥‥。逃げたか‥‥。先に手当てを‥‥!」
 ぐったりとしたまま動かない彼女に、イェーガーがポーションを飲ませている。
「大丈夫? 王妃様」
「いえ、恐れ多い‥‥。わたくしは、命じられるままに動いた、影武者の一人‥‥。王妃様は、安全な場所におられますから‥‥」
 目を覚ました彼女に、カファが顔を覗き込みながら心配そうな表情を浮かべると、彼女はそう言って安堵させるような笑みを浮かべた。だが、その直後、再び気を失ってしまう。
「かわいそうに。この方、いい生贄ですわ‥‥」
「戦争だからな。そう言う事もあるさ。ま、勝って言い分を通さなきゃ、無意味ってもんだがな‥‥」
 戦闘では、あまり活躍の場が無かったティアに、クレオはそう言う。
 戦とは、かくも哀しい物語なり。