●リプレイ本文
「パープル、お前は学校に残ってて欲しい」
「そうねぇ‥‥。戦力としては、あたしがいなくても、大丈夫そうだけど‥‥」
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)の申し出に、並ぶ面々を見回すパープル女史。だが、エルンストは「そう言う意味じゃない」と前置きして、その理由をこう説明する。
「どうも、このところの依頼などから見て、学生の中に、敵の息のかかった者が紛れ込んでいるようなんでな。お前には、そいつらの監視と牽制を頼みたいんだ」
「ふむ‥‥」
本格的なあぶり出しは、別に生徒を集める必要があるだろうが、少なくとも、行動不審な人物に注意するだけなら、可能だろうと、主張する彼。
「俺からもお願いします。留守している間に、ランスくんの様に、さらわれてしまう人がいたら問題ですから」
「まぁ、本調子じゃない先生だとしても、あたし達より強いから、任せて安心かなぁーなんて☆」
マカール・レオーノフ(ea8870)とミカエル・クライム(ea4675)が、交互にそう言った。3人から言われたパープル先生、黙ったままの東雲辰巳(ea8110)に、意思を確かめるように問いかける。
「あんたは、どうなの?」
「そうだな‥‥。ハーブティでも飲んで、ゆっくり疲れを癒していて欲しいな‥‥。情報の裏づけや、生徒達の動きだったら、寝てても采配出来るだろ」
彼も、無理を押しての参戦には、賛成しかねるようだ。
「‥‥そこまで言うんなら、あたしはここで待ってるわ。ランスくんの事、くれぐれもよろしくね」
「もちろんです。絶対に無傷で持って帰ってきます」
決意に満ちた表情で、マカールはライトハルバードをしまうパープルに、答えてみせるのだった。
出発から2日後、一行は、ミカエルから聞いたと言うジャイアントクロウ(以下カラス)の知識を携えて、妖精王国へとたどり着いていた。
「‥‥思いっきり餌サイズなボクだけど! 相手が強大だからこそ、闘魂燃えるっ! 愛の試練も燃えあがるっ! 今晩のおかずは焼き鳥食べ放題ーーー!」
見えてきた妖精の巨木と、どこからともなく響いてくるカラスの声に、わくわく気分のシャンピニオン・エウレカ(ea7984)。『王子様(マカール)のお姫様(ランス)がピンチ』と言うシチュに、萌えているようだ。
「カラスって食えたっけ?」
「さぁ‥‥。あんまり聞いた事はないが‥‥」
彼女の言う『焼き鳥』が、実は『ジャイアントクロウの焼いたやつ』だと思ったジーン・インパルス(ea7578)、じと目で博学そうなエルンストに尋ねるが、彼もカラスが焼き鳥に適している話には、首をかしげている。
「しかし‥‥この状態では、うかつに誘導出来ないなー」
「魔法撃ったら、炎上しちゃいそう」
そんな中、周囲を見回しながら、ミカエルとシャンピニオンがそう言った。森の中にある妖精王国は、下手に魔法を撃ったら、そのまま盛大な火柱の上がりそうな可燃物が、かなり多い。
「この近く、どこか、見晴らしの良い空間ってない?」
案内してくれた妖精に、そう尋ねるシャンピニオン。障害物のない場所の方が、狙われやすいが、燃え広がる可能性も少ないと見ての問いだったが、案内役は首を横に振る。
「ダメか」
諦めて肩を落とす彼女。
「じゃあ、最初の案でいいかな? 時間は昼間で良いよね」
確認するようにミカエルが言う。相談の結果、カラスをおびき寄せて、魔法で一斉攻撃と言う事になっている。参加者に魔法使いが多いための策だ。
「ランスくんは、どうするんです?」
「夜のふけた辺りが良いと思うんだけど‥‥」
マカールの問いに、ミカエルは時期をずらすように提案した。しかし、それにはエルンストが反対する。
「いや、あれをやるなら、夜ではなく昼間の方が良いと思うぞ」
その手には、アーモンド・ブローチに、フランク偽造メダルなど、『光る物』が握られている。
「囮には、俺がなります」
それらを受け取りながら、マカールがそう申し出る。と、彼の綺麗な金髪を見て、ジーンが新緑の髪飾りを取り出した。
「目立つ髪してるもんなー。付けてみるか? きっと似合うぜ?」
にやにやとしながら、飾ってみたくて仕方がない様子のジーンに、マカールは『これもランスくん救出の為っ』と、渋々了承するのだった。
そして。
「王子様、気を付けて下さいね」
「はい」
シャンピニオンが、グットラックの魔法を、マカールにかけている。彼だけではない。他の皆にも、同様の魔法で、幸運を与えていた。
そのフォローを受けたマカールは、ミカエルが作り出したアッシュエージェンシーの身代わりと共に、木の根元へ座る。いかにも、迷い込んだ神聖騎士が、携帯品を眺めているような風情で。髪には、ジーンから預かった、深緑の髪飾りが光っている。
「クアァ‥‥」
だんだんと近付いてくる烏の鳴き声。その声に、マカールは緊張した面持ちで、持っていた月桂樹の木剣の柄を握る。
「来ましたね。良い子ですから、そのまま寄って来て下さいよ‥‥」
はばたき音を響かせ、一度、樹上に止まるカラス。
「くぁぁっ!」
一呼吸置いて、カラスは勢いよくマカールめがけて突っ込んできた。
「甘いっ」
しかし、マカールとて経験を積んだ神聖騎士。カラス如きの攻撃など、マントをたなびかせ、優雅に避ける。そう、シャンピニオンが思わず「きゃーー。かっこいー☆」と、悲鳴を上げる位に。
「くァァっ! くぁぁっ!」
「ほらほら、欲しいのはこっちですよっ!」
そのまま、地上近くで、接近戦に持ち込んだ彼は、あらかじめ木の枝で目印を付けられた辺りへと誘導した。剣で受け流すように、そこへ叩きつけると、仕掛けておいたミカエルのファイヤートラップが発動する。
「くぁっ!?」
「よし、1匹撃破」
上手い事発動したそれは、ジャイアントクロウの両翼を、思いっきりこがしていた。にまりと拳を握り締めるミカエル。
「まだ2匹残ってるぞ!」
そんな彼女に、ムーンアローで牽制していたエルンストが、上空をさした。見れば、もう2匹が、こちらへ向かって急降下してくる所だ。
「て言うか、燃えてますーー!」
どうやら、ファイヤートラップの炎が、木に燃え移って、目印になってしまっているらしい。
「やばっ。ごめっ」
慌てて、ファイヤーコントロールで、炎を小さくする彼女。
「ったく。山火事は起こすなって言っただろ!」
その間に、プットアウトを唱え終わったジーンが、さくさくと消火していた。オレンジ色のローブに、青字で記された『CAMELOT』と、その上に被る大きな黄色い『R』の文字は、伊達ではない様だ。
「くわぁっ。くわぁっ!」
それを見たカラスは、地上にはなるべく降りずに、攻撃を仕掛けてくる。頭は街中のカラスくらいと言ったところか。
「えぇい、うっとおしい。空を飛ぶのが、偉いわけでもあるまいに」
中々降りてこないカラス達を、地面に落とすため、ウインドスラッシュを叩きこむエルンスト。牽制の為、初級レベルではあったが、充分に効果はあったようだ。本当は、鷹にも攻撃をさせたかったが、鷹も、そこまで無茶は出来ないらしい。
「これ以上、好きにはさせません!」
空中戦が得意なのは、カラスだけではない。降りて来た彼らめがけて、エレナ・レイシス(ea8877)がファイヤーバードを唱えた。魔法の炎を纏った彼女は、空中へと舞い上がり、カラスへと体当たりする。踏み台にされ、翼を焦がされるカラス。
「あたしもやろうっと」
彼女と入れ違うようにして、同じ魔法を唱えるミカエル。
「あ、逃げた!」
2人から、翼を焦がされたカラスは、自身が重傷になる前に、何処かへと飛び去ってしまった。
「ダメージは負わせたから、後は、森のモンスターが何とかしてくれるわ」
既に、重傷に見受けられる怪我を負ったカラス。ふらふらのそれは、森に潜む他のモンスター達が、餌がわりにしてしまうだろう。
「出番なかったー」
「まぁまぁ、無事で良かったじゃないですか」
誰も怪我をしなかったので、リカバーを使う必要がなく、ぶすくれるシャンピニオンを、剣を納めたマカールが、そう言って慰めるのだった。
今回は、カラスを倒すのが目的ではない為、戦いが一段落した一行は、手薄になった森から、巨大樹へと足を向けていた。
「なんか、あっさり終わっちゃって、拍子抜けなんだけど‥‥」
「所詮、カラスはカラスと言う事ですよ。それに、それだけじゃないですし」
不満そうに口を尖らすシャンピニオンに、厳しい表情を崩さないまま、マカールがそう言った。
「そうだな。パープルがどれだけ押さえ込んでいるかわからないが、警戒しておいた方が良い」
同じ表情のエルンスト。
「カラス以外の敵か‥‥。現れなきゃ良いんだけど‥‥」
まだ、完全に依頼が済んだ訳ではない。そう思い、シャンピニオンも表情を引き締める。
「いたぞ」
と、インフラビジョンで、捕らわれた人達を探していたジーンが、そう言った。
「無事なようですね‥‥」
皆、不安そうではあったが、酷い目に合っていると言う感じはしない。ほっと胸をなでおろすマカール。
「キャメロットレスキューだ。怪我をしている奴はいないか?」
鍵を壊し、安全を確かめる彼。呼びかけると、移動の際に手傷を負ったのか、何人か申し出てくる。ありあわせの道具で、手当てするジーン。このあたりは、キャメロットレスキューの名に恥じない手際の良さだ。
ところが。
「‥‥ランスくんがいない‥‥」
「えっ」
頭数を確認していたマカールの表情が、硬く強張っている。聞きかえすミカエルの前で、彼は手当ての終わった1人に、その行方を確かめた。
「すみません。これくらいの‥‥金髪のエルフを見ませんでしたか?」
「そいつかどうかわからないけど、金髪や銀髪の人は、男女問わず、別の部屋に連れていかれました〜!」
カラスの餌にするとか何とか言ってました! と、他にも何人か連れていかれた事を話す彼。その弁を証明するかのように、カラスの鳴き声が響く。
「しまった! あのカラス、本隊じゃないのか!」
どうやら、先ほど現れたのは、雑魚だったらしい。数が同じなので、間違えたようだ。
「場所は!?」
「上のほうだと思います! た、たぶん‥‥」
答えを聞き終わるか終わらないかのうちに、マカールは牢がわりのそこを飛び出していた。
「間にあって下さいよ‥‥。神様、お願いですから、ランスくんにご加護を‥‥!!」
首に下げた十字架に触れ、己が信じるジーザス教の神に祈るマカール。音を頼りに、上へ登ると、そこにいたのは。
「クァァ‥‥」
ランスを突付こうとする、さきほどよりひと回り大きなカラス。
「待てっ!」
「クァッ!?」
牽制代わりに、ブラックホーリーを放つ彼。舞い上がるカラス。ランチタイムを邪魔されて怒ったのか、マカールにくちばしを向ける。
「く‥‥っ。これじゃ近づけない‥‥」
激しい羽ばたきに、顔をしかめる彼。
「王子様のお姫様を、生贄にしてたまるもんかー!」
そこへ、視界を遮るように、シャンピニオンが飛んで来る。王子様の悲しむ顔は見たくない。
「ランスくんっ。大丈夫ですかっ」
「マカールさん‥‥っ‥‥」
彼女が囮になっている間、ランスに駆け寄るマカール。安心したのか、ぽろぽろ泣き出す彼。
「よくも人のお姫様に手を出してくれましたね‥‥」
無事な姿を確かめたマカール、ゆらりと立ち上がる。瞳が、静かに怒りで染まる。狂化というわけではないが、充分頭に来ているようだ。
「あーあ、カラスくん。マカールさん怒らせちゃったわねぇ」
ミカエルが、怒りを表すかのように、ファイヤーコントロールで、炎を舞わせている。
「悪しきカラスよ! 神の裁きを受けるのです!!」
「クェェェェっ!!」
その怒りの矛先を向けられたカラスは、あっという間に切り身にされてしまうのだった。
「キャメロットレスキューの前で、人を食い倒そうなんざ、100年早いんだよ!!」
ぷしゅうと煙をあげるカラスの前で、ジーンがそう言ったとか言わないとか。
帰り道。
「どうやら、王国に被害が出る前に、片付いたようだな」
他の依頼参加者が、どうにかこなしているらしい事を、妖精から聞いたエルンストが、そう言う。
「当たり前だ。俺の目の前で、放火なんかさせるかっての」
自分が参加していたわけではないが、胸を張るジーン。
「こっちも片付いたみたいよー」
「よっぽど怖かったらしいですねー」
ミカエルとエレナが、マカールにくっついたまま離れないランスくんを見て、そう言った。まだ震えが止まらないらしく、怯えた少年は、頼りがいのある神聖騎士様の後ろに隠れっぱなしだ。
「とりあえず、少年は任せた。で、ディナ・シー。ちょっと聞きたい事がある」
「何?」
エルンストの問いに、王国の外れまでと見送りに来た妖精は、小首をかしげた。
「実は‥‥。学校でこんな事があったのだが‥‥」
と、彼は石版が見付かった経緯と、その解読内容を話し始める。悪しき巨人と、それを封じた魔法使いの話を。石版に記された、「ゴグマゴクの魔法使いは不死身だ。殺しても何度でも蘇る」と言うメッセージを。
「えっ! どうしてそれを‥‥!」
それを聞いて、驚く妖精さん。
「知っているのか?」
「ボクらディナ・シー達の間に伝わるお伽話だよ。グランタとゴグマゴクってのはね‥‥」
問いただすエルンストに、彼は伝わる伝説を話す。内容は、石版に記されていたものと同じ。かつて、妖精王国の南側一帯を支配していた巨人族、ゴグマゴグが、人間との戦に破れて、王国へと逃げ込み、乱暴を働いた。そこで、魔法使いグランタに命じ、巨人達をゴグマゴクの丘で、石に変えたことまで同じである。
そして、妖精王国を攻めたギャリー・ジャックには、他に、協力者がいるらしい事も、彼は話してくれた。
「ふむ‥‥。そうすると、目覚めのベルだけではなく、その丘の警備や警戒を行う必要があるか‥‥」
「でも、あそこには結界が張ってあって、容易には近づけないよ」
手配を思案するエルンストに、彼はそう言う。なんでも、丘の周辺には迷いの森の他、空中侵入対応の為の、魔法障壁がかけられており、空を飛ぶなどして、視認しようとした場合でも、あまり木の生えていない地域が周辺数キロに広がっている場所が見える程度しかわからないそうだ。
「それでも、何か手を打っておく必要があるだろう。俺からパープルに頼んでおく」
危険の芽は、早く摘み取ってしまった方が良いと、そう主張するエルンストだった。