フィッシュ・ファイト!

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜08月01日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

 キャメロットは霧の街である。当然、周囲の村‥‥いわゆる同市郊外と言われている場所も、例外ではなかった。
「しっかし、すごい濃さの霧だなー。いつもこうなのか?」
 遠方の町から、船を見学に来たと言う商人は、キャメロットの濃霧は初めてなのか、その視界のなさに、目を見張っている。
「ああ。起こっても不思議はないんだけど‥‥」
 だが、港の案内を勤める青年は、言葉を濁した。ぴーんと来た商人、目を細めるようにして、こう指摘する。
「つまり、この時期に、この濃さは異常だと‥‥」
「あ、目指す船は、この辺りに停泊していた筈ですよ!」
 急に口調を変え、その場を上手い事ごまかす案内係。ところが、その矢先の事だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
 霧の向こうから響いてくる若い男の悲鳴と、ばしゃばしゃと激しい水の音。
「何だ!? 今の悲鳴!」
「さ、さぁ‥‥触らぬ神にたたり無しとも申しますし、早く立ち去った方が良いかと‥‥」
 興味を示す商人の袖を引っ張って、早い所その場を立ち去りたい案内人。どうでも良いが、やっぱり口調が変わっている。
「そ、そうですか? い、いや、フツウですよ〜。あ、あはははは‥‥」
 その事を指摘すると、彼は顔を引きつらせて、乾いた笑いを浮かべた。そして、顔を近づけてくる商人から逃れ、一歩下がろうとした。
 だが。
「え? もう港‥‥?」
 その足元が何かにぶつかり、彼は驚いた表情を見せる。
「おっかしいなぁ。岸壁には、もう少し距離があると思ったんだけど‥‥」
 よく見れば、霧の中、薄ぼんやりと危険防止の策が浮かんでいた。
「実は方向音痴とか?」
「生まれも育ちも港と船の中ですよぉう。そんな事あるかって感じですぅ」
 商人のからかうような問いに、ぶんぶんと首を横に振る案内人くん。そうでなければ、案内人稼業などやってはいない。
「ところで、私が見る船は、どれなんだ?」
「もう少し先です。まだ内装の修復が終わってないんですが、もう出航は出来ますよ。わぁぁぁっ!」
 そこまで解説した直後、案内人くんの姿が掻き消える。よく見れば、手すりを突き抜けて、腰まで水に浸かってしまっていた。
「おいおい。大丈夫か? あーあ、びしょぬれじゃないか」
「いやぁ、すみませんねぇ〜。うーむ。霧で方向感覚が狂わされてるのかなァ‥‥」
 普段は、こんな事ないのに‥‥と、当の本人も戸惑った様子だ。そう言いながら、慣れた様子で、岸に上がろうとしたその時である。
「あれ? なんだ? こんな所まで、濡れて‥‥ぎゃあ!」
「ど、どうした‥‥」
 ちょうど近くに止まっていた、資材搬入用の小船に手をかけようとして‥‥先ほどよりも大きな悲鳴を上げる彼。
「し、死体が! 生きてないモノがっ!」
「うわぁぁっ」
 商人の方も、根性が据わっているわけではないのか、小船の中に横たわる若い男の全裸死体を見て、思わずへたり込んでしまう。
「どうしてこんな所に‥‥」
 商人が首をかしげたその時だった。ばしゃばしゃと、何か大きなモノが、姿を見せた。
「何の音だ‥‥?」
 だんだん近づいてい来るそれは、巨大なヒレを水面から出し、数頭の群でこちらへと向かってくる。
「さかな‥‥?」
「いや、ソードフィッシュだ!」
 商人がそう言った刹那、銀色の身体を跳ね上げるソードフィッシュ。
「逃げろ!」
「けど、あれ放っておくわけには‥‥!」
 商人の言葉に、小船の上の死体をさす案内人くん。同じ水辺で生計を立てる者として、見過ごしには出来ないと言った所か。
「構うな! 後でギルドに頼めば良いっ!」
「ぎゃあっ! 来たぁっ!」
 しかし、魚の方は、そんな事にはお構いなく、次なる生餌を捕らえようと、水に浸かったままの案内人くんへと進路を切り替える。
「早く岸に上がれ! 海中にひきづり込まれたら、食われちまうぞ!」
「うぎゃぁぁぁぁ」
 せかされて、慌てて岸へと上がる案内人。すんでの所で難を逃れた2人は、そのままギルドへと駆け込むのだった。
「と言うのが、事件のあらましだ」
 幾つかの事前調査‥‥と言う名の聞き込みを経て、冒険者達へと依頼が持ち込まれたのは、それから数日後の事だった。
「しかし‥‥ソードフィッシュが、こんな港近くの岸壁まで来るものなんですか?」
 普通は、外洋船が行き来するような場所に、時折見かけられるモンスターである。と、担当の事務官は、依頼主の話として、こう付け加える。
「おそらく、何者かが操っているんだろう。余力があれば、突き止めて欲しいとの事だ」
「手がかりはあるんですか?」
 相手は水中の生き物だ。何もない状況で、倒してくださいと言うのは、分が悪すぎる。と、事務官は、関係者の話として、こう述べた。
「ソードフィッシュが現れたのは、修復が追い込みに入ったここ一週間以内だ。襲われるのは、現場作業員の、20歳前後の若者ばかりらしい。服ごと食う気はないらしく、必ず『剥いて』から、水中にひきづり込むそうだ。おそらく、船の修復に反対する勢力が、魔法でたきつけたとか、その辺りだろう」
 つまり、ソードフィッシュはあくまで下っ端でしかなく、ボスは別にいるかもしれないと言う事らしい。
「依頼主は、修復が安全に再開でき、納品が出来れば、それで良いと考えている。自分の力量と相談して、方向を決めて欲しい」
 と、事務官は、そう言って依頼の説明を締めくくるのだった。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea0261 ラグファス・レフォード(33歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea0502 レオナ・ホワイト(22歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea0836 キラ・ヴァルキュリア(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea0885 アーサリア・ロクトファルク(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2231 レイヴァート・ルーヴァイス(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4586 ユミル・ヴィンドスロート(32歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea4714 ジェンド・レヴィノヴァ(32歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「えぇと、こっちが小型船用で、向こう側が大型船用、あっちが修理用ドッグか」
 港で、そう呟くカルナック・イクス(ea0144)。外敵に襲われる事を考慮しているのか、あちこちに、身体を潜められそうな場所や、少し高くなった台などがあり、それはそれで活用できそうだった。
「どう? 少しは何か見れた?」
 積み上げられた大きな木箱の上から戻ってきたカルに、キラ・ヴァルキュリア(ea0836)がそう聞いてきた。
「そうだな。ソードフィッシュが行動できそうな、大型船の泊まっている場所は、確認出来たけど、全体像は無理って所かな。まぁ、奴は浅い所には来ないから、主戦場はそっちになると思うけど」
 生き残った作業員達から聞いた話では、ソードフィッシュは、自分の身体が入れる場所にだけ、現れるようである。そんな彼らが向かった大型船停泊用の桟橋では、霧の立ちこめる中、釣り糸を垂れている2人がいた。
「釣りは根気が肝心なのじゃ。ファイトなのじゃ」
 ぴくりとも動かない浮きに、不満そうなユミルの表情を見て、村上琴音(ea3657)はそう言ってわらいかけた。言葉はわからないが、ゼスチャーとその表情に、励まされたと感じ取ったユミル・ヴィンドスロート(ea4586)、竿を握りなおしてみせる。
「しかし。本当は外洋で釣るべきものなのじゃろうけど。まさかこのような場所でつることになろうとは思わなんだ」
 本来は、小型船で沖合いに出て、そこで釣り糸を垂らすべきモノである。
「どうでも良いけど、なんで俺、釣り糸つけられてるんだ?」
 納得行かない御仁がもう1人。琴音の釣竿に、糸でくくりつけられているラグファス・レフォード(ea0261)である。
「男子のくせに、つべこべ言うでないわ。だいたい、餌になりたいと志願したのは、貴殿の方ではないか」
「俺はそんな事言ってねぇッ! 単に作業場周辺の警護をやった方が良いんじゃねぇかって、提案しただけだっ!」
 反論するラグ。しかし、琴音は平然とした表情で、こう続ける。
「そのあとで、生餌にあたるわけか? とか言うとったではないか。撒き餌になるのも、生き餌になるのも、大差はあるまい」
「そう言う事は、ユラヴィカ辺りに言えばいいだろー!」
 しかし、メンバー唯一のシフールであるユラヴィカ・クドゥス(ea1704)は、現在フローラ・タナーと共に、黒幕の探索中だ。その辺の一般市民シフールを捕まえて餌にするよりは、戦える餌の方が、都合が良いと言う訳で。
(「絶対に剥かれないようにしないと。死体を裸でさらすのは嫌だしな」)
 食い殺されるのはまだ、技量が足りなかったと言う事で、諦めもつく。教会の白クレリックに頼めば、借金と引き換えに、行き返してもくれるだろう。だが、衣服をひっぺがされ、死体となってまで恥を晒すのは、勘弁願いたかった。と、その彼の表情が緊迫しはじめる。沖の方から、ぱしゃりと何かが跳ねたような音が聞こえてきたからだ。水の中で、何とか弓を射る姿勢を見せる彼に、特徴あるソードフィッシュの音が聞こえてくる。
「よし! 今じゃ、ユミル!」
 その巨大な体躯は、自分1人では賄いきれない。そう判断した琴音、ユミルにゼスチャーで、針をひっかけるように指示を出す。幸いな事に、ソードフィッシュの注意は、目の前の美味しそうな餌もとい、ラグの方へ向いている。
「おぉし! 琴音行くわよ!!」
 びゅいんっと釣り糸が唸り、ソードフィッシュの尖った頭に、針が引っかかる。
「さ、魚風情がッ! 大人しく餌になりなさいよっ!」
 流石にモンスターのパワーは、ユミル1人でどうにかできるものでもない。このまま押さえていては、得意の斧も振るえなかった。
「頑張れユミル! 相手は水中の生き物じゃ。とにかく陸に揚げてしまえば、その力は半分以下になるのじゃよ!」
「わかってるわよっ! 今やってるじゃないの!! あっ!!」
 引っ張るソードフィッシュの負荷に耐え切れず、釣り糸の方が先に根を上げた。急に手ごたえがなくなり、引き上げてみれば、途中でぷつりと途切れている。
「むう。軟弱な釣り糸め。気にするな。こうなったら、投網に切り替えるのじゃ!」
 何が『こうなったら』なのかは、よく分からないが、琴音はそう言って、バックパックから投網を取り出す。回収用の紐を、愛馬につなげ、彼女はこう続けた。
「これなら、体力負けなぞ、ぜったいにせん。皆、ソードフィッシュを追い込むのじゃ!」
 ジャパンでは『追い込み漁』と呼ばれている漁法である。2人が魚から離れたのを見て、ラグとカルが、それぞれ弓を放った。猛り狂ったソードフィッシュ。やる気は満々とばかりに、くるりとUターンする。
「ふんっ。ここには私もいる事を、忘れてもらっちゃ困る。刺身にしてあげるわ!」
 突進してくるソードフィッシュを避けるようにして、ダガーを構えるキラ。
「こう霧が凄いと、身動きが取れない。でも!」
 殺気だけは、霧の向こう側からでも、伝わってくる。大して賢くはないモンスターだ。それを利用すれば、簡単に攻撃できる筈だった。
「来た!」
 シャァァァァッと水音を蹴立てて、キラに襲いかかるソードフィッシュ。
「くうっ」
 流石に通常の魚とは、面の皮の厚さがちがうらしく、ダガーの切れ味が悪い。ダメージを与える事は出来たが、引き裂くまでにはいたらなかった。
「魚はだいぶ弱って来ておる! これでも食らうのじゃ!」
 そこへ、琴音が投網を仕掛けた。それは、ソードフィッシュの上に覆いかぶさり、その大きな体躯を拘束する。
「今日は大漁なのじゃぁぁぁぁ!!!」
 そーれ! とばかりに、網を引っ張る琴音嬢。なかなか根を上げないソードフィッシュ。ノーマルホースには、負けないと言ったところだろうか。
「しまった! 網が!!」
 先に、網が音をあげる。勢い余って、水面に飛び出したそれは、空中で反転し、琴音に襲い掛かろうとする。
「!? 後ろ! 下がって!!」
 ユミルがそう言って、琴音を突き飛ばす。ソードフィッシュの攻める方向性は変わらない。だが、相手は非力な11歳の少女ではなく、極寒の大地で鍛えられたロシアン・ナイト様だ。
「貰ったァァァァ!!」
 ちょうど、向かい合う形となったユミルの斧が一閃する。それは、キラの突き刺した傷と、カルとラグの討った矢の為もあり、体力の衰えたソードフィッシュを、2枚に下ろしたのだった。

 その頃、もう1つのソードフィッシュ退治班は、修理している最中だと言う船の方へと向かっていた。
「けっこうボロボロだね。お化けが出そうだよー」
 レイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)の後ろに引っ付いて、そのマントを握り締めながら、そう言うアーサリア・ロクトファルク(ea0885)。
「アーサリア、マント引っ張るなよ。延びちゃうだろ」
「だって〜、怖いし〜」
 船の周囲の地形と、内部を調べる為、中に入り込んだレイ。工事中の中は薄暗く、今にもその影から、ゴーストが出て来てしまいそうである。
「2人とも、じゃれてないで、そろそろ外に出た方が良いぞ。霧が濃くなってきたからな」
 そこへ、後ろから黙ってついて来ていたジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)が、ぶっきらぼうな調子で、そう言った。見れば、船窓の外が、次第に霧に包まれている。
「ふむ。そろそろのようだな」
「ちこうも視界が悪いと、下手に動けないな」
 アッシュが、現場を見て、そんな感想を漏らす。耳を澄ませば、ばしゃばしゃとどこからともなく水音が響いてくる。敵が近い事を感じ取り、レイが自身にオーラエリベイションをかけた。
「気を付けて」
 アーサリアがそう言いながら、レイとアッシュ・クライン(ea3102)に、グッドラックの魔法をかける。
「さっき調べたかぎりでは、向こうの小型船用のあたりが、足場がしっかりしているようだ」
 外へ向かったレイは、そう言った。だが、それにはアーサリアが、こう指摘する。
「けど、お魚さん達、そっちまで行かないみたいだよ。どうするの? レイ」
「仕方がないですね。やっぱり、水に入るしかなさそうです。お互いの位置が確認できるように、1m以上離れないようにしましょう」
 そう言って彼は、自ら港の浅い所に飛び降りた。続いて、アッシュも。と、その直後、水音を蹴立てて、黒い大きな影が、姿を見せる。
「上手く囮に引っかかってよー」
 魔法の詠唱準備にはいりながら、そう呟くレオナ・ホワイト(ea0502)。
「来なさいッ。バケモノ魚め!」
 その目の前で、後衛いや、アーサリアを庇いながら、両手に剣を構え、膝まで水につかりながら、レイはソードフィッシュが来るのをじっと待った。
 ばしゃりと、大きく跳ねるソードフィッシュ。その剣角は、正面のナイト2人つまり、レイとアッシュに向けられている。
「レイ!」
「はぁっ!」
 その体躯を、ダブルアタックで刺そうとするレイ。だが、その剣は、体に届く前に、自慢の剣角によって弾かれていた。
「くそっ、何てやつだ! ならば剥かれる前に、三枚に下ろしてやる!」
 横合いに回りこんだアッシュがそう言った。そして、下から突き刺すようにして、ソードフィッシュを狙う。しかし、以外と動きが素早く、捉え切れない。
「どうする?」
「もう一度ひきつけて。私に策があるわ」
 一度、海岸から離れ、もう一度向かってこようとするソードフィッシュを見て、レオナがそう言った。そして、すぐ近くにいたジェンドに、ある事を頼み込む。無口な彼女は、黙って頷くだけだが、用は足りる。
 ばしゃり。もう一度、ソードフィッシュが跳ねた。
「ぐっすりとお眠りなさい。スリープ!!」
「サイレンス」
 炸裂した魔法により、ぼとりと水面に落ちるソードフィッシュ。そこへ、アーサリアがコアギュレイトを打ち込み、身動きが取れなくなった所で、レイとアッシュが、剣を刺していた。あとは、もう3匹目のソードフィッシュと黒幕を探すのみである。

「ここからなら事件が起きても見渡せるわね」
 依頼人から手に入れた地図を片手に、船の見渡せる場所に陣取ったフローラ・タナー(ea1060)は、そう呟いた。そこへ、ユラヴィカが、自前の占術用品一式を手に、ふらふらと飛び込んでくる。そも、船の修理に人死出してまで妨害〜、というのが胡散臭いのじゃー。という、ユラヴィカの主張により、2人は依頼人の背後関係を、本業の占い師能力をフルにつかい、調べ上げていた。
「で、どうなってるんです?」
 クリエイトハンドで、ねぎらいの食事と水を差し入れつつ、そう尋ねるフローラ。と、ユラヴィカは、押さえたナイショの事前情報を、『依頼人の利益と守秘義務を守るのが、冒険者なのじゃ』と、注釈を垂れた上で、こう語りだす。
「あの商人さん、船の修理ドックを確保するのに、人魚さんがよく目撃されているって話の海岸を、買い占めちゃったり、船も商売だけじゃなくて、ちょっと人前には出せない裏仕事に使っちゃったりと、悪どい事やってるみたい」
 要は、その痛い目を見た連中が、ちょっとした復讐のために、ソードフィッシュをここまでおびき寄せたと言うわけらしい。
「でも、おかしくない? 一般人が、ソードフィッシュを呼び込めるわけないでしょ。確かめて見る必要がありそうね」
「普段は、港のあのあたりにいるそうじゃ。ふんづかまえて、締め上げてやるのじゃ!」
 きゅっと首を絞める真似をしながら、フローラの提案に、そう答えるユラヴィカ。見れば、そのたむろっている船小屋は、彼らが潜んで射る場所から、さほど遠くはない。そう言って、ユラヴィカは空へと舞い上がる。そこへソードフィッシュを倒し終えたキラとユミル、そしてレオナが追いついてきた。心強い味方と共に、フローラは彼らがたむろしていると言う船小屋の近辺に向かったのだが。
「何者!?」
 やらかしたかしら。と言った表情を見せるユミナを、フローラが制す。自分達が見付かるのは、計画のうちだ。
「フローラ! 敵はあっちに逃げたのじゃ!」
 いかに霧が濃くとも、ユラヴィカのパッシブセンサーは、その影を確かに捉えている。距離と方向さえわかれば、あとは、回りこむだけだ。
「光ってる所は?」
 ウィザードが、術を使う際にみせる輝きを目印に、その影を探すレオナ。だが、その光は見えない。代わりに、彼女の耳に届いたのは、石畳をてってってと走りぬける音。
「見つけた!」
 目のよいキラが、影を捉えてそう言った。
「喰らいなさい、皆の気持ちを! そして悔やみなさい!!」
 キラが、チャージングを食らわせる。そこへ、すかさずレオナがスリープの魔法を放つ。ぱたりと倒れた所を、ユラヴィカがロープを引っ掛けていた。
「まったく手間とらせて〜」
 ぐるぐる巻きにされた相手をよく見てみれば、まだ若い少年だった。キラは、倒れた彼を押さえ込んで、ダガーを突きつけ、殺気を放ちながらこう問う。
「こんな事をする理由を言いなさい。言わなかったら、ここで倒すわ」
「ひぇやぁぁぁ、な、何の話ですかっ! 僕は、ただある人に、妨害して欲しいって頼んだだけで、殺してなんて言ってません〜っ!!!!」
 しばられた少年は、怯えた表情でそう告げる。どうも、話がおかしい。そう思って、さらに問い詰めると、彼は充分反省したのか、ぺらぺらと事の真相を話始めた。
「実は僕、マーメイドなんです。お気に入りの場所に、港作られちゃって、腹立たしく思ってたら、ある人が手伝ってあげるから、人間達を懲らしめないかって」
 どうやら、カルの予想も、あながちハズレではなかったらしい。作業員を殺した件については、その『手伝ってくれた人』がお膳立てしていた事で、自分は知らなかったと、彼は涙ながらに語る。その様子を見るに、嘘をついているわけでは、なさそうだった。と、その刹那、霧が濃くなる。その霧の中心部にいたのは、フードを目深にかぶった、小柄な人影。
「へぇ、黒幕さん? ごめん、死んで」
 ユミルが、そういいながらウォーアックスをつきつける。と、その人影はくぐもった声で、こう笑った。
「人間風情が。じゃが、それだけの相手を、わしとこやつだけで相手にするのは、いかにも不利。ここは大人しく撤退するとしよう」
 こう霧が濃くては、相手を特定する事もままならない。
「魔法を使った形跡がない。いったい、何なの? あいつは」
「名前だけは教えてやろうか。我は、そうだなお前たちの言葉で、クルードと言う種族に当たるものだ」
 レオナの問いに、その『影』はそう言った。そして、霧の中にも関わらず、鈍りのない動きで、その白きカーテンの向こう側へと、姿を消して行ったのだった。
 後日、その謎の怪人物は、霧の夜に現れると言う悪魔である事が、判明したと言う。