●リプレイ本文
「全く‥‥。いつまで妖精騒ぎが続くのでしょうか。これでは、錬金術の研究に勤しめません」
粉を布製の球に詰め込みながら、エリス・フェールディン(ea9520)がそう言っている。材料は判別つかないが、何やら錬金術の応用で、武器らしきものを作成している模様。
「えっとぉ、ジャックなんだけどぉ、どうも先に進んじゃってるってカンジィ」
そこへ、食堂で他の生徒から聞き出したらしい話を、皆に教える大宗院亞莉子(ea8484)。
「以前の依頼で、何やらデビルに関わりがありそうな親子が、こっちに向かっている素振りを見せていたのじゃ。気をつけた方が良いと思うがの」
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)も、かなり前にはなるが、ケンブリッジから来たと言う怪しげな親子の依頼に関わった事がある。もしかしたら、何かあるのかもしれない。
「向こうで待ち受けている可能性はあるわね‥‥」
2人からの報告を受けたミス・パープル(ez1011)、何か思案する表情を見せている。と、そんな彼女に、イェーガー・ラタイン(ea6382)が目をうるうるさせながら、こう申し出てきた。
「パープルセンセ〜。それ調べたら、補習を勘弁してくれませんか〜?」
「なんで私に言うのよ」
いや、確かに冒険者学校の教師ではあるのだが。と、彼は切実な声で、こう言ってくる。
「ほ、他に頼める人がいなくて〜。依頼ばっかり受けてて、授業に出てないものですから〜」
「そうねぇ。じゃ、今回の報告書を提出するので、勘弁してあげましょ。その代わり、まだ何かあるようだったら、手伝ってね」
とりあえず、なんとかレポートで勘弁してもらえそうだ。後日の依頼は、その時に考えようと、イェーガーは心に誓う。
「先生‥‥か‥‥」
その様子を、少々うらやましそうに眺めているハーフエルフの少年。おそらく、彼が知り合いの言っていた生徒だろう。そう思ったディアッカ・ディアボロス(ea5597)は、少年に声をかける。
「あの、あなたがアルヴィンさんですか?」
「は、はい。そうですけど‥‥」
人見知りの激しいたちなのだろう。少し緊張した風情のアルヴィンに、ディアッカは、と預かった手紙を差し出した。、
「言伝を承ってきました。ゴグマゴクの丘の調査に出てしまって、こちらの調査には参加出来ないとの事なので‥‥。これ、どうぞ」
それには、確かに『親愛なるアルヴィンへ』と描かれ、知り合いの差出人の名前が記されている。
「あいつ、なんて?」
「手伝えなくてすまない‥‥って。あと、こっちの依頼をよろしくって‥‥」
パープル先生の問いに、ちょっと嬉しそうに答えるアルヴィンくん。
「ふむ。こんな事なら、女王様に、墓周辺の様子、伺っておけば良かったですね」
「仕方がありませんよ。彼女はずっと封印されていたんですから」
一方でディアッカは、情報が足りないとぼやくイェーガーに、そう答えている。と、マカール・レオーノフ(ea8870)がこう言って、ある御仁をつれてきた。
「そう思って、精霊碑文学に詳しい先生を呼んできました。期日まで時間がありませんから、皆さんしっかり覚えて下さいね」
どうやら、精霊碑文学を付け焼刃でお勉強させようと言う魂胆のようである。
そんなわけで、補講を受け終わった面々は、教わった文字やルーンの意味などを書いたメモを持って、森の奥‥‥グランタの墓を目指して、移動を開始したのだが。
「うぅーむ。やはり、先に誰かが森を移動しているようじゃ‥‥」
テレスコープで、森の奥を覗いていたユラヴィカが、そう様子を伝えてくる。
「植物達、倒されているのでしょうか」
「いや、殆ど無傷じゃ。どうやら先に、とんでもなく高レベルの連中が待ち受けているようじゃのう」
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の問いに、彼はそう答えた。どちらかと言うと、押しのけて通っている印象があるそうだ。
「そこを潜り抜けないと、これ、使えませんしね‥‥」
「せっかく死ぬ思いでメモったのに‥‥」
まるで蔦の壁の様相を示す森に、手にした羊皮紙を見つめるソフィアとイェーガー。そこには、姫や王子、地水火風月陽等、必要そうな精霊碑文字が刻まれている。
「ジャックさんに出来て、私達に出来ない事はありませんわ。危険なモンスターとは言え、所詮は植物なんですから」
それらを無駄にするわけにはいかない。そう思ったソフィア、羊皮紙を大切そうにしまうと、そう続ける。
「墓はあれじゃな。中にいるかどうかは、近付いて見ないと分からんが、マリモがゴロゴロしておる」
森の向こうには、コケに包まれた古い建物が見えた。緑色の丸いものが見えている所を見ると、そこにもモンスターがいる風情だ。
「マリモって‥‥」
「ビリジアンモールドの事でしょう。ケンブリッジの地下にもいましたし」
じめじめした遺跡には付き物のモンスターだ。そんな報告書があったと、ソフィアは持っていた知識から、その特徴を告げる。その周囲に生える木は、いずれも樹齢100年を越えそうな立派なものばかりだった。
ところが。
「やっぱり襲ってきました!」
バーゼリオ・バレルスキー(eb0753)がそう叫ぶ。近付くと、その木が突然動き始めた。まるで、枝を手の様にして、彼らを昼ご飯にしようとするかのように、牙をむいている。
「お願い! 言う事を聞いて!」
ソフィアがプラントコントロールを唱えた。一瞬、動きが止まるものの、それも束の間。すぐに彼女を捕らえようとする。
「危ないっ」
「きゃあっ」
その枝を、ロングロッドで叩き落とすマカール。ロッドの重量は、充分攻撃になる。
「さすがにモンスターに対しては、無理があるようじゃのぅ」
悲しそうな表情のソフィアに、ユラヴィカがそう言った。
「こんな所でもたもたしてはいられないのに‥‥」
「植物も動物も、足止めの基本は地面についている所を狙う事じゃ。幸い、まだ陽は高い!」
沈んだ表情の彼女の前で、彼はサンレーザーを放つ。樹の根元を狙って撃たれたそれは、周囲に焦げ臭さを漂わせる。
「魔法を撃っている方々に、危害を加えないようにして下さい‥‥」
「心得ました」
ダメージを食らい動きの鈍った樹に、大宗院透(ea0050)が手裏剣と車菱を叩きこむ。威力の少ないそれとは対照的に、ルーウィンの鎮魂剣は、確実に相手を砕いていた。
「魔法に頼るとは、非効率的ですね。こう言うときは、効率が大事なのです。ああ、そこ危ないですよ」
「え。わわっ!」
前衛を勤めているルーウィン・ルクレール(ea1364)に、エリスが警告を発した。直後、火のついた油瓶が、宙へと舞う。錬金術の調合で手を加えて燃え易くしたそれは、あっという間に樹を包んでしまう。
「我が錬金術を用いれば、この程度の事は朝飯前なのですよ」
「燃えてますよ!!」
いや、良く見れば、樹ばかりではなく、他の木々にも燃え広がっている。
「こ、こうすれば消えますよ」
ルーウィンの指摘に、エリスは慌てて、その上に石を落として消し止めていた。
「キリがありませんね‥‥」
しかし、頭は良くないが、木々は丈夫である。燃やしても、重量を叩きつけても、中々倒れないそれに、冷や汗を浮かべているマカール。
「ふふーん。たかがマリモにでっかい木ってカンジィ。あたしにお任せってカンジぃ」
そんな中、亞莉子がそう言った。そして、疾走の術を唱える。加速された彼女の足は、今までよりも、倍は素早い。
「今のうちに突破を‥‥。彼女なら大丈夫。きっと上手く切り抜けてくれます‥‥」
その間に、墓へ入るよう促す透。愛はないが、その実力は信頼しているらしい。
「わかりました。では、こうしておきます。御武運を!」
ソフィアが、木々へアグラベイションをかける。
「ついてこれるならついといでってカンジィ! きゃははは!」
こうして、亞莉子が撹乱している間に、一行はグランタの墓へと入り込むのだった。
数分後。
「まぁ、ざっとこんなもんってカンジィ」
無傷で戻ってきた亞莉子嬢、えっへんと色っぽい胸をそらしている。彼女の自慢のおみ足は、動く木々から上手く逃げ延びられたようだ。
「壁の向こうはどうなってます?」
透がそう尋ねると、ユラヴィカがエックスレイヴィジョンを使って、扉の向こう側を確認する。
「誇りだらけじゃのぅ‥‥。足跡がついておる‥‥。先客がいるようじゃ」
「この墓の埃を全て掃かないと、靴を履かないで入る事は出来ません‥‥」
積もった埃に、毎度おなじみの駄洒落が炸裂する。何がおかしいのか、ケタケタと笑い転げている亞莉子嬢。彼女以外の生徒達は、全員後ろ頭に冷や汗を浮かべてたりするが。
「あー、おほん。その足跡なんですが、どんな感じですか?」
透が咳払いを1つして、確認してきた。と、ユラヴィカはその様子を、こう報告してくれた。
「大きな足跡が1つと、小さな足跡がいくつかと言う所じゃ。ほかに、壁を引っ掻いたような痕もある」
「敵はいないんですね。では、入ってみましょう‥‥」
人影はない事を確かめた透は、周囲を警戒しながら、ゆっくりとその扉を開く。
「へぇ、西洋のお墓ってぇ、観光地みたいってカンジィ」
「見えないので、くっつかないで下さい」
デート気分で、腕を絡ませてくる亞莉子を、冷静にそう言って押しのける彼。
「ちぇ。相変わらず冷たいってカンジィ」
ぷーっと頬を膨らます彼女を尻目に、透は埃の蓄積具合から、先客の状況を判断する透。
「通過したのは、ごく最近ですね‥‥。誇りの積もり具合は、かなり長い間、ここに人が入っていない事を示唆しています‥‥」
「ちょっと荷物持ってて下さい。魔法で確かめてみます」
隠密が本職な彼のセリフに、ディアッカがそう申し出て、エリスに荷物を渡す。
「間違いありませんね。ジャック達です」
パーストを唱えれば、誰が通ったかはすぐわかる。ディアッカの目には、大きな体のギャリー・ジャックと、それに従う妖精達の姿が見えていた。
「先行しているのでしょうか‥‥」
「あまり、頭の良くない面々が入り込んでいるようですから、その可能性は低いかもしれません。ただ、油断は出来ないでしょう」
何かを仕掛けたかまでは、確認出来ない。ただ、面子の中に、パープル女史が巻き込まれた時のレッドキャップがいた事を考えると、その確率は半々と言った所か。
「私思うに、四つの罠は、グランタさんが、私達を試しているようにも思えるのですよね‥‥。でも、それがジャック達がやってしまったら‥‥」
そう言って、ソフィアが自らの両肩を抱える。罠なら、解かれた後を安全に進んでいけばいいだけだが、もしそれが『試練』だとしたら、ベルを持つ資格を、ギャリー・ジャックが得てしまうかもしれない。彼女はそれを危惧しているのだろう。
「彼らがやった行いを参考にする事も、罠の試練に答えることだと思いますよ」
「だと良いのですが‥‥」
ディアッカが励ますも、ソフィアはその不安を打ち消せずにいるのだった。
異変が起こったのは、それから数分後の事だった。
「あの‥‥。何か聞こえませんか‥‥?」
明かりと荷物を持って、先頭を歩いていたイェーガーが、そう言って歩みを止める。
「いえ、私には何も‥‥」
「私にも聞こえませんが‥‥」
耳が良いわけではないエリスとマカールが、首を横に振る。しかし、隠密技能に長けた面々や、耳の良い面々の耳には、確かに異音が届いていた。
「まさか、誰かに尾行られてる‥‥? ユラヴィカさんの言っていた、怪しい親子でしょうか‥‥」
透が、立ち込める気配を探ろうと、感覚を研ぎ澄まさせるが、彼にも、そして他の面々にも、殺気は感じられない。
「本当は使いたくないですが、この場合は仕方ありませんね」
エリスが、そう言ってバイブレーションセンサーを唱えた。
「やっぱり何か作動してる‥‥」
彼女の魔法は、音の原因が、墓のどこかで、何かが作動した事を告げてくれた。
「気を付けて進まないと行けませんね」
マカールがそう言って、手にしたロングロッドで、床を軽く叩く。と、軽い音を立てていた床が、突然沈んだ。瞬間、今まで微かだった音が、はっきりと聞こえるようになる。
「ま、まずいです! 何かせまってきます!」
しんがりを守っていたルーウィンが、大きくなる音に振り返る。と、その目には、巨大な岩がごろごろと転がってくる最中だ。
「うぉわぁぁぁ!!!」
軽く坂道になっている通路。岩が転がるには、充分な角度を持っている。スピードを上げる岩に、一行が悲鳴を上げたのは、言うまでもない。
「誰だ落としたのーーー!」
「た、たぶんその通路の向こうにいる御仁かと〜!」
イェーガーのセリフに、俺のせいじゃありませんよー。と主張するマカール。
「あ、慌てないで下さいっ。こ、こう言うときは落ち着いて〜」
「ソフィアが落ち着くのじゃあ〜」
一緒になって逃げ回りながら、そう言うソフィアの頭にしがみつきながら、ユラヴィカがぽふぽふと頭を叩く。
「はははははいっ。ちょっとスピードを緩めて下さい〜!」
「やってみます〜」
通路の壁にへばりついたソフィアに、マカールがそう言って、ロングロッドを床につきさした。
「危ないっ」
鈍い音を立てて、ロングロッドに引っかかった大岩は、宙へと舞い上がる。しかし、着地した床には、通路の床石の変わりに、大きな穴が開いていた。
「ホールイン♪」
ウォールホールでその穴を開けたソフィア、上手い事収まった大岩に寄りかかり、ポーズを決める。
「あははは、なんかスケールの大きなゲームってカンジィ」
亞莉子が乾いた笑いを浮かべて、そう呟くのだった。
大岩をやりすごした一行が出たのは、少し広い空間だった。そこには、大きな扉があり、精霊碑文字に似た紋章が刻まれている。
「玄関口と言う所でしょう。この辺りに、落とし穴は設置されていないようです」
床をロングロッドで叩きながら、そう確かめるマカール。
「ジャックはどこにいるのかしら‥‥」
「足跡はありませんから、私達が先なのかもしれません‥‥」
同じく、扉を調べていた透が、ソフィアにそう言った。
「そうすると、さっさとパズル解いてしまった方が良いですね。パーツ、全部あります?」
「‥‥はい。大丈夫のようです」
もう1人、講習を受けていたイェーガーが、単語をメモった羊皮紙を片手に、失われたパーツがないかどうか、確かめている。
「待って。触る前に、答えを解いておかないと」
それを見たエリス、彼がパーツを動かそうとする前に、止める。手を引っ込めるイェーガー。
「私には難しそうです‥‥」
「ええ、私にもさっぱり‥‥」
前衛組のルーウィンとマカールには、ちんぷんかんぷんのようだったが。
「こう言うのは、魔術師や錬金術師の方に任せておいた方が無難かと‥‥」
透が、さっさと白旗を上げている。自分の仕事は別だと思っているようだ。
「そう思って、私も色々考えてきたんです」
彼女はそう言うと、あらかじめ集めておいた小石を、同じ様に並べ、一度でパズルを解けるようにする。
「文字はあってますよね」
「たぶん‥‥」
小石にはそれぞれ、ソフィアの手によって、パズルと同じ文字が記されていた。
「えーと、こっちがこうで‥‥。いやでもこれだと、こっちが邪魔になるし‥‥」
それを、エリスは他の面々と共に、上手い事お姫様が脱出できる様に組み替え始めた。
「出来た。これをこうして‥‥」
1時間後、そのかいあってか、何とか姫を脱出させる事に成功したエリス、同じ方法で、扉のパズルを解いてみせる。がこんっと音がして、封印を解かれた扉は、ぎぎぎぃっと重々しく冒険者達を出迎えた。
「次は、精霊に祈りを捧げないと、通れないようですね」
そこには、荘厳な大門が、次の試練とばかりに、そびえているのだった。
右に火と風。左に水と土が刻まれている。
「妖精王国を守り、そして救う為に、精霊さん。力を貸して下さい‥‥」
扉のない大門。その前で、ソフィアは両の手をあわせ、真摯に祈りを捧げる。そんな彼女に習い、イェーガーも、「お願いします」と、祈りを捧げていた。
「反応がないのぅ」
「これで良いのかしら‥‥」
門から答えはない。首を傾げるユラヴィカ。ソフィアも同じだ。
「いえ、良くありませんね。ここ、通ったら横からアレが私達を切ってしまうようです」
その答えを見つけたのは、罠装置がないかどうか調べていた透だった。彼の指摘に、門を良く見れば、その門に隠されるようにして、鋭い刃を植えつけられた車輪のようなものが、設置されていた。
「あの鋭さだと、さすがに、さっきのようなわけにはいかないですね」
細く研ぎ澄まされたそれを見て、マカールがそう言う。大岩と同じ様にロングロッドをつっこんだら、そのまま破壊されてしまいそうだ。
「見えていれば、微塵隠れでどうにかなるのですが‥‥」
残念そうにそう言う透。と、エリスが門の様子を見ながら、こう言い放った。
「視界が開けていればいいんですね」
小首を傾げる女装姿の透。と、彼女は、すかさずサイコキネシスを唱える。がこんと音がして、門に隠された罠が、動き出した。
「触らなければ良いんですよ。そうすれば、切られませんし」
回転しながら、通行者のいない門の間を削る歯車。その隙間からは、確かに向こう側が垣間見える。
「透ぅ‥‥」
「心配しなくても、生き残る術は心得ています‥‥」
不安そうにすり寄ってくる亞莉子に、透は無表情に言った。
「うん、わかった。愛してるってカンジぃ‥‥」
彼女の、当然とも言える愛の告白にも答えず、微塵隠れを唱える。
「行きます!」
ぼしゅっと周囲に発動の煙が立ち昇る。一瞬にして、門の裏側へと転移した透は、即座に仕組みを見抜き、亞莉子へと合図してくれる。
「そこに石をはさめば、止まるようです!」
「えぇい!」
手裏剣を投げる要領で、葉車に石を投げ込む亞莉子。もう片方は、エリスがサイコキネシスで飛ばした石に引っかかり、作動を停止している。
動かなくなった試練の門を、冒険者達は緊張の面持ちで、潜り抜けて行くのだった。
さて、門をくぐりぬけ、第二の試練たる通路に向かったその時である。
「あっ! 見てあそこ!」
「ギャリー・ジャック!!」
文字の書かれた踏み石が並ぶ通路に、大きな体の御仁が、今にもその向こうへ進もうとしていた。
「何をしておるのじゃ!」
「知れた事。グランタのベルは、わしのものじゃ!」
ユラヴィカが叫ぶように問いかけると、彼は答えるように大声を張り上げる。
「何故、それを手に入れようとするのです!」
「我が仲間、我が王国‥‥。貴様らに封じられた王国‥‥。今一度、覇権を握るは、我ら一族ぞ‥‥!」
イェーガーが続きを問うた瞬間、ギャリー・ジャックは、持っていた笛をかき鳴らす。
「光る玉!?」
「ウィル・オ・ザ・ウィスプですね」
あやつらた精霊なのだろう。ふよふよと、冒険者達を邪魔するべく、近寄ってくる。
「忌々しい、冒険者どもめ‥‥。邪魔はさせぬ‥‥。ゴグマゴクが、蘇る為にはな‥‥!」
恫喝するような声で、ジャックがそう言っている所を見ると、ゴグマゴクと言うのは、種族名で、彼はその復活の為に、動いていると言った所か。
「邪魔なのは、そっちですよ」
伝承には、悪さを働き、妖精王国を苦しめたとある。そうはさせないと、バーゼリオが、シャドゥフィールドの魔法で、足元の踏み石を隠してしまう。
「むうっ! 前が見えん!!」
「今の内に‥‥」
正しい踏み石が見えない間に、透が踏み石に細工を施そうとした。
「何を小細工しておるか!」
「やらせないってカンジィ!」
疾走の術で、懐に飛び込んだ亞莉子、透の仕事を邪魔させまいと、その足元を撹乱する。シャドゥフィールドで、視界は閉ざされている為、あてずっぽうでしかないのだが。
「眠気が‥‥」
そんな中、どこからともなく聞こえてくる笛の音。
「ふん。魔法を使えるのは、そっちだけではないわ」
ギャリー・ジャックが吹いている笛なのだろう。鈍った足元は、謝った踏み石を踏んでしまう。混乱している間に、ジャックはさっさと通路の向こうへと姿を消してしまった。
「しまった!」
急いで追いかける冒険者達。通路を抜けた先にあったのは、幾つかの笛と、それに繋がるように設置された扉。おそらく、石版に記された『笛の演奏により開く扉』だろう。
「笛ならば、こちらとて得意じゃい!」
ジャックはそう言うと、ぱぺぽぺぽーと笛を吹いた。とたん、冒険者達がいる辺りの岩が崩れ落ちる。
「わぁぁっ! こっちまで!」
「わぁん。落ちてしまいますわー」
悲鳴を上げるソフィアとエリス。
「あなたにその扉は開けさせませんよ!」
その笛の音を、バーゼリオが自身の演奏で邪魔をする。楽士の彼が奏でる音色は、ギャリー・ジャックのいい加減な演奏を打ち消していた。
「捕まるのじゃ!」
「ロープは俺が支えますから!」
落ちかけたソフィアとエリスは、ユラヴィカが飛んで渡したロープを、イェーガーが支える形で、引き上げる。
「ディアッカ、正しい演奏を頼むのじゃー!」
「わかりました」
その間に、ディアッカが素早く飛んで行って、正しいメロディを吹き鳴らした。
「開いた!」
途端、扉は誘いかけるかのように、閉ざされた道を開く。
「ふははは! 礼を言うぞい! グランタのベルはわしのものじゃ!」
「待てぇぇぇ!」
真っ先に駆け込むギャリー・ジャックを追って、一行は雪崩るように、グランタのベルが納められているだろう次の間へと、押しかけるのだった。
「いました!」
冒険者達が、ギャリー・ジャックを見つけたのは、ちょうど彼が、棺に飾り付けられた細長い鈴を、無理やりはぎ取った瞬間だった。
「年代はもう少し近くで見ないと分かりませんが、かなり古い品のはずですが、造られて間もない品のように見えます‥‥」
エリスが、その品を錬金術の知識に照らし合わせて、そう鑑定してみせる。
「鑑定は学校に戻ってからです。シャドウバインディング!」
ディアッカがすかさずギャリー・ジャックの動きを止めようとする。しかし、それは抵抗されてしまったようだ。流石にボスクラスと言った所か。
「ふふん。これを手に入れてしまえば、貴様達に用はない。やってしまえ!」
そのギャリー・ジャックは、そう言うと、ベルを懐にしまい、周囲にいた取り巻きらしきファー・ダリッグに、そう命じた。
「離れて下さい。私がなんとかします」
「私達、でしょ。透☆」
透のセリフに、亞莉子が軽くウィンクを返す。その瞬間、透が微塵が暮れを唱え、一気にジャックへと近付いていた。
「そうはさせんわい!」
「こっちのセリフってカンジィ!」
愛する旦那に危害を与えさせまいと、透を囮にするようにして、疾走の術をかける亞莉子嬢。そのスピードにのって、彼女は、ジャックからベルをスリとっていた。
「やっぱりぃ。夫婦だからぁ。息ぴったりってカンジィ」
指先で細長いベルを回す亞莉子、自慢げに胸をそらす。透が迷惑そうな顔をしているが、お構いなしだ。
「そうは行くか。貴様を倒して、奪えば良いだけの事じゃ」
しかし、そこへジャックが再びベルを奪い取った。
「渡すくらいなら!」
突き飛ばされた彼女を見て、エリスがサイコキネシスで、そのベルを、宙に放り上げる。
「距離は充分‥‥! だったら拾ってくるまで!」
わざと叫ぶディアッカ。そう言いながら、ファンタズムでベルの幻影を作りだし、持って逃げるふり。その間に、エリスはベルを持ち去ろうとする。
ところが。
「あれは‥‥」
ベルを持った彼女の行く手に、ゆらりと現れる巨大な影。視認するより先に、その巨大な影が、持っていた杖を振り下ろす。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げて転がる彼女。パワーでもって振り下ろされたそれは、エリスに一撃で怪我を負わせていた。転がったそれを、拾い上げる巨大な影。
「よくやった。こっちへよこせ」
耳栓をしている彼らに影響はなかったが、笛は相変わらず流れている。それは、彼らだけではなく、この遺跡にいた妖精にも、影響を及ぼしてしまったようだ。
「大丈夫ですか? エリスさん!」
「いたたた‥‥。アイツ、すごいパワーよ‥‥」
駆けつけるマカール。庇うようにロングロッドを構える彼に、バーゼリオがこう教えてくれた。
「あれは‥‥。スプリガン‥‥!」
英国にのみ出没すると言う妖精である。古い遺跡で、宝物を守っていると言い伝えられていると、彼は語る。
「エリスさん! 私が押さえている間に、先に!」
「わ、わかったわ」
そのスプリガンを、マカールが押さえているうちに、エリスは痛めた右腕を庇いながら、後ろに下がる。
「ふん。どうやら貴様達は、ベルの番人を目覚めさせてしまったようじゃのぅ‥‥。ベルがこちらにある限り、貴様達に勝ち目はない! そこのお前! コレもってさっさと外に出ろ!」
一方、ジャックはと言うと、傍らにいたレッドキャップに、ベルを持たせ、さっさと逃がしてしまう。先に、重要アイテムを確保しておこうと言う腹なのだろう。
「ちょっと、やばそうですね‥‥」
マカールと同じく、前衛に立っていたルーウィン、その姿に、緊張した面持ちとなる。
「やれ! スプリガンよ!」
ジャックが命じた所を見ると、その二つをどうにかしないと、ここから出る事さえ不可能なようだった‥‥。
「どうして、グランタさんのお墓の番人さんが‥‥」
無言の威圧を加えてくるスプリガンとギャリー・ジャック。その姿に、ソフィアが悲しげにそう言った。
「本来、彼らは墓を荒す者達だけに危害を加える者のはずですが‥‥。笛の音で操られているのでしょう‥‥」
「ベルの取り合いをするより前に、ジャックの笛も、これ以上使わせないようにした方が良いのではないかの」
バーゼリオの解説に、ユラヴィカがもっともな意見を言う。が、かと言って、言われたバーゼリオも、せいぜい笛の内側に布を詰め込むくらいしか思いつかないのだが。
「我々が引っかかるよりはマシです。これ以後、連絡はテレパシーでお願いします」
『わかりました』
ディアッカからの提案に、無言で頷くイェーガー。そして、持っていたリュートベイルを、強くかき鳴らす。
「ぬぅっ!?」
でたらめな弾き方に、一瞬笛の動きが止まった。その笛の音にあわせて、スプリガンの動きが止まる。
「やはり、笛の音で操られているようです。私が相手になりますから、ルーウィンさん、ジャックの笛を!」
マカールが、スプリガンを相手にする間、ジャックの相手は、ルーウィンが勤めるらしい。鎮魂の剣を振り下ろす彼から、転がるようにして避けたジャックは、舌打ちをしながら、逃亡しようとする。
「ここにはもはや用はない。貴様らはあいつと遊んでいろ!」
「逃がしませんよ!」
最後の命令は、『あいつらを殺せ』だったらしい。再び動き始めるスプリガン。しかし、踵を返したジャックに、ソフィアが、アグラベイションをかけた。
「戦えるのは、彼らだけではないのです!」
そこへ、サイコキネシスを使ったエリスが、催涙用の粉を、上から撒き散らす。
「しまった、目が!」
視界を奪われるジャック。目を覆う彼に、ソフィアがグラビティーキャノンを撃った。
「落ちて下さい!」
その間に、魔法の詠唱を終えたエリス、続けざまにローリンググラビティーを放つ。天井の高い遺跡で、上部に舞い上がり、そのまま落ちてくるジャック。
「ルーウィンさん! とどめを!」
「心得ました!」
かなりダメージの入った彼に、オーラパワーで威力を増した、ルーウィンの剣が炸裂する。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
断末魔の悲鳴を上げるジャック。確かな手ごたえを、彼が感じたと同時に、その身体が、白き煙に包まれた。
「やったか!?」
崩れるジャックの影。撃破を確信するイェーガー。と、その時だった。
「口ほどにもないな。ギャリー・ジャック! 一度だけ手を貸そう!」
墓に響く、女の声。とたん、ジャックの姿が、持っていた笛とともにかき消されてしまう。煙がなくなった時、後に残ったのは、べっとりと大量に残る血だけ。
「死体が、消えた‥‥」
こうして、グランタの墓の捜索は、ジャックを倒せたものの、謎を残す結末となった‥‥。
そして。
「やっぱり、番人さんは、操られていただけみたいです。ジャックがいなくなったら、こんな可愛らしくなってしまいましたよ」
マカールが示す通り、支配から逃れた番人は、その姿をパラに似た姿に変えていた。
「死体が消えたと言う事は、まだ裏に何かがあると言うことでしょうか‥‥」
「私思いますに、ゴグマゴクは不死身ゆえに、石に変えざるを得なかったのではないでしょうか」
石版に記された一文を引き合いに出し、イェーガーの疑問に答えるソフィア。
「だから、石版に書いてあったのか‥‥。しかし、それをジャックが知っていたと言う事は‥‥」
「どうやら、ジャックの背後には、奴だけではないようじゃのぅ」
裏に何かあると考えているのは、イェーガーばかりではなく、ユラヴィカも同じ。
「グランタさんは、こうなる事を予期していたのかもしれません‥‥。グランタさん、同じ地魔法の使い手として、その意志、継がせてもらいますね」
そんな中、ソフィアは黙したまま語らない古の魔法使いの棺に、決意を込めて、そう語りかけるのだった‥‥。