【聖人探索】カンタベリー聖教会を探れ!
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 29 C
参加人数:9人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月05日〜09月10日
リプレイ公開日:2005年09月13日
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●オープニング
事件と言うものは、何でもない日々の光景から端を発するものだ。
――それはオクスフォード候の乱の開戦前まで遡る。
「王、ご報告が」
メレアガンス候との戦端が開かれる直前のアーサー王を、宮廷図書館長エリファス・ウッドマンが呼び止めた。
軍議などで多忙のただ中にあるアーサー王への報告。火急を要し、且つ重要な内容だと踏んだアーサーは、人払いをして彼を自室へと招いた。
「聖杯に関する文献調査の結果が盗まれただと!?」
「王妃様の誘拐未遂と同時期に‥‥確認したところ、盗まれたのは解読の終わった『聖人』と『聖壁』の所在の部分で、全てではありません」
エリファスはメイドンカースルで円卓の騎士と冒険者達が手に入れた石版の欠片やスクロール片の解読を進めており、もうすぐ全ての解読が終わるというところだった。
「二度に渡るグィネヴィアの誘拐未遂は、私達の目を引き付ける囮だったという事か‥‥」
「一概にそうとは言い切れませんが、王妃様の誘拐を知っており、それに乗じたのは事実です。他のものに一切手を付けていないところを見ると、メレアガンス候の手の者ではなく専門家の仕業でしょう」
「メレアガンス候の裏に控えるモルゴースの手の者の仕業という事か‥‥」
しかし、メレアガンス候との開戦が間近に迫った今、アーサーは円卓の騎士を調査に割く事ができず、エリファスには引き続き文献の解読を進め、キャメロット城の警備を強化する手段しか講じられなかった。
――そして、メレアガンス候をその手で処刑し、オクスフォードの街を取り戻した今、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。
「聖人と聖壁の探索か‥‥。閣下なら何か御存知かもしれんが、聞くわけにはいかんな‥‥」
王室からの手紙を受け取った議長は、それを片手に、そう呟いていた。
「聖人‥‥ですか?」
「ああ。聖杯の伝承を受け継ぐ者達の事だ。各地に1人くらいはいるだろうとの仰せでな‥‥。まぁ、ラーンス卿からの名指しの御指名だ。おろそかにするわけにも行くまい。ドーバーのバンブーデンにも使いを出し、全域の調査を目論見たい所だが‥‥」
レオンにセリフに、そう答える議長。しかし、カンタベリー地域と言っても広い。中には、議長の力が及ばぬ場所もある。彼とて、それほど影響力の強い者でもないのだ。
「関わりがあるかどうか分かりませんが、先ほど、付近の教会から、このような申し出がありました」
その議長に、レオンは届いたばかりの陳情書を提出する。そこには、新しく赴任した司祭に、マダムどころか、亡霊の追っかけがついてしまい、仕事にならない。そこで、議長に何とかして欲しいと頼み込んでくる内容が書かれていた。
「教会か‥‥。確かに、聖人がいるには、問題のない所だが‥‥。カンタベリー聖教会が文句を付けてくるな‥‥」
頭を抱える議長。彼がその表情を見せるのには、理由がある。カンタベリーの教会は、その職業上、装飾関連に力を入れざるを得ない議長達織物評議会には、反発しているのだ。他の場所ならいざしらず、お膝元でとなると、すんなりと進行するとは思えなかった。
「上に頼めば良い物を。何故、支配違いの私の元に、手紙を寄越したのだか‥‥」
レオンに、議長の問いに答える技量はない。首を横に振る彼に『まぁ仕方がないな』と言う顔をしながら、議長はこう問うた。
「いずれ、教会の連中とは、白黒つけなければならないとは思っていたから、これはちょうどいい機会かもしれん。その教会はどこにある?」
「はい。ちょうどこの辺りかと‥‥」
地図を文章で示すとこうである。カンタベリーには、かつて、時の領主の諍いによって、ジーザス教に殉じたという聖人の伝説があり、建築途中で放置された大聖堂が存在している。現在、聖教会はその大聖堂跡地を中心に、カンタベリー東部に、一大勢力を築いている。問題の教会は、その東側地区でも、大通りと城壁に近い場所。教会に出入りする者達を押さえる拠点としては、うってつけの場所に建っていた。
「‥‥仕掛けるおつもりですか?」
「いや。ただの監視用さ。さすがに、表だってというわけにはいかないからな。それに、まだ彼が聖杯の伝説を受け継ぐ者と決まったわけでもあるまい」
高貴な出自の司祭というのは、カンタベリーにも多い。特に、先に出てきた『殉教の聖者』伝説にまつわる者達は、聖教会に連なる司祭達ほぼ全てに言えるとしても、過言ではないほど。
「これを、キャメロットのギルドへ」
そんな事を話しながら、議長は羊皮紙に何やら書き記した。それには、こうある。『調査依頼:カンタベリーの新任司祭護衛、及びその周辺について』と。
「表向きは、司祭殿の護衛だ。だが、何故そこまで追われるのか、そして、教会に頼まず、私に手紙を出したのは何故か。その思惑と、聖人であるかどうかを含め、周辺の調査に赴いて欲しいと伝えて欲しい」
とうとう、謎のベールに包まれた、カンタベリー聖教会へ、議長は『ラーンス卿から名指しの聖人探索』の名の下に、手の者を差し向けようというのだった。
●リプレイ本文
議長宅で、聖人の定義‥‥聖杯の伝説を受け継ぐ者‥‥を聞き、ラーンス卿の名前を出すくらいなら、矢面に立っても構わない、とのお墨付きと紹介状を受け取った一行は、件の教会へと赴いていた。
「失礼します。着任の祝いとして、議長の名代でまかりこしました。司祭様はいらっしゃいますか?」
白の礼服でまとめたフローラ・タナー(ea1060)は、そう言って、ジーザス教の礼儀作法に則り、教会の扉を開けたのだが。
「‥‥って、一花さん!?」
出迎えたのは、いつの間にか教会の一員になっていたらしい常葉一花(ea1123)である。驚くフローラに、彼女は笑いながら、身につけた教会の制服を『似合います?』と、ご披露してくれる。そんな彼女の案内で、一行は司祭の元へと通されたのだが。
「着任した早々で、前任者が何をやっていたのか、それから調べているそうです。礼拝堂に、日記や記録が残されていたそうですわ。まるで‥‥何かから隠すようにね」
道すがら、通称、微笑みの司祭。と呼ばれていると、彼女は教えてくれた。案内されたのは、礼拝堂。大通りに面しているだけあって、結構立派な建物である。
「これだけ立派な教会だと、優秀な神聖騎士や、クレリック達もいるでしょうに‥‥何故、あたい達に?」
「いえ。今の聖教会は、あまり‥‥勧められたものではないので‥‥」
フィラ・ボロゴース(ea9535)の問いに、彼はそう言って口ごもる。話したくない内容のようだ。
「聖教会の目が、恐ろしいのではないですか? かなり、闇に包まれた組織のようですし」
同僚から話を聞き出したらしい一花がそう言った。と、司祭は頷いて、こう答えてくれる。
「一花さんの仰る通りです。流石に、そんな所へ依頼をするのは、躊躇われますしね‥‥」
昔からこの町にいた者ならともかく、他所の町から来た彼は、冷静に判断したのだろう。そんな彼の言動を見て、エリック・シアラー(eb1715)がこう言った。
「しかし、司祭殿。そう思うと言う事は、前任地は、どこか別の場所で?」
「はい。ケンブリッジ近くです。小さな教会でしたが、そこではこのような事はなかったものですから‥‥」
妙な事に巻き込まれたと感じた彼、亡霊達の様子が、信徒の知り合いや親戚らしい事も手伝い、聖教会に申し出て、力づくで排除するよりは、多少危険でも、まともな対処をしてくれる議長に、事態の処理を依頼したとの事だ。わざわざ龍の巣に首を突っ込むよりは、矢面を別の人にしようと考えたのだろうか。「おかげで頼りがいのある神聖騎士様にお出ましいただいて、感謝しております」と、彼は答えている。
「何か、あやしくないですか?」
「まだ隠しているような気がするんだけどなー」
一連のやりとりを観察していたロレッタ・カーヴィンス(ea2155)がそう言うと、同じく興味本位を装ったフィラも、首を傾げる。その微笑みの裏に、なにやら糸がある様に思えているらしい。と、同じ東洋出身の双海一刃(ea3947)が、こう申し出てくれた。
「ふむ。東洋系なのは、確かなようだ。俺に考えがある」
「だったら、こんな感じで聞いて見て下さいな。きっと、何か話してくれるはずです」
ロレッタ、その彼に、ぼそぼそと耳打ち。本当は自分が聞こうとした事を、変わりに聞いてもらおうと言う心積もりのようだ。
「亡霊が付きまとわれた頃に、心当たりはあるのか? ここには、信頼の置ける面々しかいない。いくら聖教会でも、ジャパン語や華国語を理解できる奴は少ないだろ? 母国語で話してくれ」
一刃が、ロレッタの念を代弁する形で、ジャパン語と華国語で、交互に問うた。と、司祭はちょっと驚いた様子だったが、素直に華国語で答えてくれる。
「聖教会が怪しいと言う証拠でもあるのか?」
「そう言えば、礼拝堂の屋根裏で、日記を発見したのですが‥‥。達筆すぎて、専門書並に読みにくいものなので‥‥」
前任者は、何か裏があるらしく、わざと字を崩して、専門用語を多用した日記を残していたらしい。如何にクレリックとは言え、専門書は中々読みづらいのだろう。
「‥‥確か、仲間の2人が、得意だと聞いている。解読を頼んでみては?」
「内容を、秘密にしてくれるのなら‥‥」
渋々と言った調子で、その提案を受け入れる司祭。話のわからない御仁ではないなと感じた一刃は、そう約束すると、今しがた話した内容を、皆に伝えるのだった。
「ここが、大聖堂か‥‥。まるで廃墟だな」
その頃、途中まで建築されたまま、放置してある聖堂を見て、エリックはそう感想を述べていた。
「こんな所に、聖杯の伝説を受け継ぐ聖人か? んなもん、本当にいるのかよ?」
同じ様に、聖堂を調べに来ていたリュイス・クラウディオス(ea8765)が、疑わしげに呟く。そんな彼に、エリックは事前情報を告げた。
「さっき、その辺の司祭や、信者達に話を聞いてきたんだが、聖教会の息がかかっていて、容易には修復出来ないそうだ」
「おかしな話だな‥‥。きれいな方が良いと思うんだが‥‥」
首を傾げるリュイス。そんな彼らが足を踏み入れたのは、地元の面々が集まる酒場だ。もっとも、場所柄のせいか、酒は殆ど置いておらず、食事所と言った風情だったが。
「五年くらい前にも礼拝に来た事があるが、大通りに近い教会に、以前はいなかった新しい司祭がいたんだが‥‥。あの司祭の事、どう思う?」
楽士を生業とするリュイスが、吟遊詩人スキルを使って、演奏交渉をしている間、彼は客の一人を捕まえて、そう尋ねる。だが、聖教会派の人間なのだろう。相手はあまり良い評価を下していない。茶を飲みながら、彼はさらに尋ねた。
「何か聞いてないのか? 面白い噂話とかな」
それによると、20年ほど前までは、司祭がいて、西へ旅立ったまま、突然行方不明になったらしい。話を聞いた御仁は、教会にあった記録に感化されたせいだろうと言っていた。
「記録‥‥か‥‥。なぁ、尋ねたいんだが、いいか‥‥?」
と、そこへ、交渉を終えたリュイスが、話に入ってきた。怪訝そうに首を傾げる御仁に、彼はこう続ける。
「この町で、死んだとされる殉教の聖者の話を聞きたい。今、キャメロットで聖人の話を上演する為の話を探していてな」
あまり期待はしていなかった。教会のほうが、文献に残っていると考えていたからだ。だが、先祖の事を聞かれて、有頂天になったらしいその御仁は、もしかしたら先代の司祭殿も、その伝承を追っていたのかもしれない事、聖堂は、何十年もかけてしか建築出来ない立派なもの。その建築を提案したのが、その殉教者だったらしいのだが、今と同じ様に、権力闘争に巻き込まれ、反対派から暗殺されたらしい。時の領主は、それを殉教と認め、カンタベリーへと埋葬されたのだが、墓をあらされる事を恐れた弟子達により、その墓のありかは秘密とされたそうだ。と教えてくれる。
「聖教会か‥‥」
それを阻もうとする見えない組織に、エリックは聖堂へ潜りこむ事を決意するのだった。
「なるほど。殉教の墓所ですか‥‥」
「あたいもそれとなく聞いてきたんだが、教会の前任の司祭がいた頃は、聖堂もここまで荒れてはいなかったようなんだよ」
一方では、ケイ・メイト(ea4206)の資料調べを手伝っていたフィラが、教会の連中から聞いてきたと言う話を、フローラに伝えていた。新任の司祭様は、その辺りの事は、よくわかっていないらしい。そう思ったフローラは、外の調査を彼女に任せ、日記の解読に取りかかる。
「実は、その日記は、私が赴任する前、それだけが届けられたらしいのです」
そう告白する司祭。
「まぁ、いろいろ調べることは、無駄じゃないと思うにゃ。それに私だって、クレリックのはしくれにゃ。先人の遺産には興味があるにゃ!」
日記ばかりではなく、ケイはその他の文献も調べるつもりのようだ。司祭から閲覧許可を貰った過去の文献が、その目の前に山と積み上げられている。
「えーと‥‥、これが最近のかな」
日記を順番通りに並べ替えた後、一番日付の新しい日記を開くフローラ。
「何か書いてあったにゃ?」
覗きこむケイに、彼女は読み解いた結果を報告する。
「前任の司祭様は、お医者だったようです。あちこちの家庭を見て回りながら、伝承を集めていると‥‥」
と、めくっていたその指先が、ぴたりと固まった。
「フローラちゃん?」
怪訝そうに聞きかえすケイに、彼女はこう続けた。
「私が代々受け継いでいる聖杯の伝説と照らし合わせて見ても‥‥と言う表記が、あちこちに見られます。どうやら、前任の司祭様が、議長が仰っていた聖人だったようですね」
「ちょ、ちょっと待つにゃ! こっちにも、聖杯の伝説がどうのって書いてあったにゃ!」
そのセリフに、彼女は慌てて今しがた読んでいた記録を差し出す。それには、前任の司祭が、王宮のごたごたを背景に、自身の受け継ぐ聖杯の伝説が、いつか必要になるかもしれないと思い、各地に残そうと志したと書いてあった。
「日記には、ライの街に向かい、その後、さらに西へ足を延ばすと書いてあります。その過程で、バンパネーラの子供を拾ったとあります。おや、日記はここで途切れてますね‥‥」
その一方で、司祭の日記には、各地の教会を訪ねて歩いていた時、密かにバンパネーラの少年を保護したと書いてある。さらに、謎の襲撃者が現れていた事も、日記には記されていた。
バンパネーラとは、他の生物に噛み付く事で生命力を奪う能力を持ったデミヒューマンだ。バンパイアと混同され、迫害を受けている為、殆どは正体を隠して暮らしているとの事。
フィラの話では、日記は封印されていたそうだ。なんでも、その頃から聖教会の力が強くなり、バンパネーラの話を持ち出される事を恐れた教会の面々が、天井裏の奥にしまいこんでいたらしい。
「もしや、幽霊たちが現れたのも、これと前後して‥‥?」
「そこまでは‥‥」
首を横に振る司祭。
「どうやら、ライの街には、重要な手がかりが眠っているようですね‥‥」
行方不明の司祭、保護したバンパネーラの子供。受け継いだ伝承。それらの遠因は全て、西の街にありそうだった。
ところが、その夜の事である。
「すみません。ご迷惑をかけて‥‥」
謝る一花。実は、あの後、エリックが一刃と共に、夜の大聖堂へ忍んで行った所、何者かに操られたらしい彼女と遭遇し、大事な手がかりを燃やされてしまったと言うのだ。彼女自身は、聖堂に情報収集に行ったまでは覚えているのだが、何者かに頭を殴られ、気がついたらここにいたと話していた。
「一花さんに悪気があったわけではないのですから。一応、ピュアリファイをかけておきますね」
「ありがとうございます‥‥」
彼女から話を聞いたフローラ、念の為、浄化の魔法をかけていた。亡霊の類が出てこない所を見ると、とりつかれてはいない様子。
「本当に何も覚えてないのか?」
「操られている間の事は‥‥。ただ、その前に、他の人に聞いた話によると、前任の司祭様が、良く訪れていたそうです。敬虔な信徒だと思って、気にも止められなかったようですが‥‥」
殉教者の話自体は、昼間、リュイスが聞き出したものと同じだ。だが、もう1つ、前任の司祭も尋ねていた事を、彼女は聞き出したらしい。その直後、殴られてしまったそうだ。
「この紋章に、見覚えはありませんか?」
「あ、そう言えば、何か見覚えがある様な‥‥。いたた‥‥。ダメ、思い出せない‥‥」
そんな彼女に、フローラは日記に記された紋章を見せた。おそらく聖壁や聖人の手がかりだと思しきその紋章は、どこか動物の手足のようにも見えた。が、彼女は辛そうに首を横に振る。
「それで、あの方々もこちらへ向かっているのかしら。あれ、聖教会の方々ですわよね?」
彼女が指し示したのは、通りの向かいから、こちらを見ている影三つ。衣装に記された焼印が、敵である事を示唆していた。
「なぁ、その亡霊さんって、どう言う風に出てきて、どう悪さするんだ?」
一刃が尋ねると、司祭は「見ていればわかると思います」と、心なしか疲れたように答えている。
「来たようですわね」
ロレッタのセリフに、一刃はシルバーナイフに手を置いた。出来るだけ使わないでいた方が良いとは思うが、念のためと言うわけだ。みれば、フィラも同じ様に警戒をしている。
その瞬間、窓が一斉に開き、半透明の亡霊達が乱入した。その数、二桁を越えている。そして、あっという間に部屋を埋め尽くしてしまった。
「ってか、なんだよ、この数は〜!」
どんな幽霊なのかをチェックしようとしていたフィラ、その数の多さに悲鳴を上げる。身なりも職業もバラバラだが、ふた昔前といった雰囲気の者ばかりだ。敵意はなさそうだったが、やはり亡霊なので、何だか馬車酔いしたような気分になってしまう。
「でぇいっ。うっとぉしいっ! なんとかならないのかー!?」
「力づくなんてだめにゃー。落ち着くにゃー!」
短気を起こしたフィラが、暴れそうになるのを、ケイが抱きつくようにして止めている。そんな、混乱する現場で、良く通る声が響いた。
「話を聞いてくれ。あんた達!」
リュイスである。テレパシーを使い、物言わぬまま集う亡霊達に、そう言った。
「なんで、人に憑いているんだ? 言いたい事でもあるのか? 心残りと目的を果たしたら、成仏してくれ‥‥。手荒な事したくないからさ‥‥」
ざわざわと亡霊達は、リュイスの申し出に顔を見合わせる。そして、その中の一人が、意を決したように、こうきり出した。
『あの、ここにいらっしゃるのは、聖人とお聞きして、救済を求めに来たのですが‥‥違うのですか? 私達は、それを信じて、ここに集まっているのですけど‥‥』
何か、話がかみ合わない。詳しく話を聞くと、彼らは皆、20年〜30年前の亡霊で、先代の司祭が戻ってきたと思い込み、聖堂建築のせいで、祈る者もいなくなってしまった墓に、祈りを捧げて欲しいそうだ。
「そう言えば、どうしてアンデッドが聖域には入れるんだ? 普通は入れないはずだろ」
リュイスの問いに首を傾げる亡霊達。その姿を見る限り、空間はアンデッドOKの場所らしい。彼らは、聖堂の地下に、空洞があって、いつもそこでお茶会している事も教えてくれた。
「わかった。幾らでもこき使って良い。その代わり、用がすんだらとっとと開放しろよ?」
話を聞いて、即答するリュイス。フィラの後ろに隠れていた司祭が、少々渋い顔をしているのを見て、その理由を、こう述べる。
「これも仕事ってもんさ。それに、聖教会だって、使者に祈りを捧げるくらいじゃ、文句は言わないと思うぜ」
俺も、葬送曲くらいは捧げるからさ。と、自前の竪琴を鳴らす彼。それを聞いたフローラ、協力を申し出る。
こうして、教会の亡霊騒ぎは、数日の家に終息するのだった。