【聖人探索】闇のかくれんぼ
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月12日〜09月17日
リプレイ公開日:2005年09月20日
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●オープニング
冒険者達が、上からの依頼を受けた議長の命により、カンタベリー聖教会を調べているころ、レオンは再び夢の精霊のお告げに、悩まされていた。
(「ここは‥‥」)
その町の光景に、レオンは見覚えがあった。かなり昔、まだ議長の家に来たばかりの頃、訪れた事がある。町の名は‥‥アシュフォード。
だが、その街の雰囲気は、彼が訪れた時より、かなり違っていた。家々の扉は固く閉じられ、通りにも活気がない。いや、それどころか、陽の光さえ拒んでいるようにも見える。
彼の視界は、やがて吸い寄せられるように、領主の館へと入って行った。荘厳な装飾の施された二階建ての屋敷には、全て鎧戸が閉まり、大きな窓には重苦しいカーテンが垂れ下がっている。
その中を、レオンの意識は導かれる様に進んで行った。
「若様、今宵の夕餉はいかがなさいますか?」
「そうだな‥‥」
リビングと思しき場所で、バスローブを纏った青年が、怪しく杯を傾けている。流れるような金糸の髪、そして白すぎる肌。赤い瞳。彼の持つ杯の中身は、血の様に赤いワイン。置かれた瓶には、ノルマン産である事が記されていた。
(「人間‥‥? いや、エルフもいる‥‥」)
彼の前には、うつろな表情をした少年達。姿形は様々だが、主にエルフや人間、そしてハーフエルフである。共通するのは、まだ10代前半から、20代前半な事、そして‥‥線の細い、いわゆる『美形』である事。
「その子にしようか」
彼が指定したのは、右から三番目の少年だった。長い銀髪を、頭の後ろでまとめた、18歳くらいの人間である。
「かしこまりました。では、食堂へ」
自ら進み出た彼は、執事らしき痩せた男に促されると、リビングに続いた部屋へと、青年について行く。
そこは、食堂と言うにはあまりにも異質な空間だった。
「まずは、綺麗に剥かないとね‥‥」
そう、まるで寝室のようである。その片隅で、青年は少年を、まるで果物を剥くかのように、一枚一枚衣装を剥ぎ取って行く。
「そして、風味付け‥‥」
彼はそう言うと、サイドテーブルに置いてあった香油を、丁寧に塗りこんで行く‥‥。そして、肌の滑らかになった少年の顎を食いと持ち上げて、満足げにこう言った。
「やはり、食事は美しくあらねばな‥‥」
にまりと笑うその口元には、牙。微かに震える少年を抱き寄せ、こう囁く。
「心配せずとも、ひと思いに殺しはしない‥‥」
そして、やおらその首筋に歯を立てる。精気のない少年の顔が、僅かに歪んだ。
「くくく‥‥。やはり夕餉は美しい少年に限るな‥‥。女の味も良いが、な‥‥」
貧血を起こして倒れこんだ少年を抱えながら、彼は口元を軽く拭う。はだけたその背中には、大きな刺青が刻まれていた。
(「あの刺青は‥‥!!」)
その特徴ある刺青。それは、これまでに何度も出てきたパーツの1つ。まるで、地図のように文字が記されたそれは、カンタベリー教会に残された日記に書かれていた紋章と同じものだ。
「議長にお知らせしなければ‥‥」
目が覚めたレオンは、上着を羽織ると、急ぎ議長に報告するのだった。
そして。
「ふむ‥‥アシュフォードの町にか‥‥」
考え込む議長。かの街は、周囲を森に囲まれ、いわば陸の孤島のような状況。かつては、街道も通っていたのだが、現在はカンタベリーを訪れる者もなく、ひっそりと息を潜めている町だ。
「その領主が、バンパイアだとは‥‥」
「はい。しかも、見た限りではかなり高位の者のようでした‥‥」
夢のお告げだけなので、はっきりとした事は言えないが、領主然としている事、いかにもバンパイアの町といった風情が、町全体にいきわたっている事を考えると、かなり力を持っているようである。
「そのバンパイアの背中に、聖痕か‥‥。聖壁と聖人に関わるとすると、かなり大掛かりな話になるな‥‥」
重要な情報を握っているのはわかるが、さりとて討伐に赴くには準備期間が足りなすぎる。それに、かの町から救援要請が出たわけでもないのだから。
「だが、捕らわれた者達がいる事は確かだ。自らの意思で首を差し出したのか、そう強制されているのはともかくとして‥‥な」
何人か、おつきの者がいる事は、領主には良くある事だ。議長の家に、レオンや鶴之介、小鳥が滞在しているように。
「いかが、取り計りましょうか」
困った様にそう言うレオン。アシュフォードの町に、聖人探索に関わる情報が埋もれている事は確かだが、手を出しあぐねていると言うところだろう。
「そうだな‥‥。冒険者を集め、偵察に行って貰おう。目的は、あの領主の背中の紋章を確かめ、アシュフォードの町の様子を探ってくる事。手段と面々は問わない、とな」
たとえわずかばかりでも、疑わしき事は追う。それが、議長達に下された王からの命。
それで、何が変わるのかはわからなくても、こなさなければならないようだった。
その頃、アシュフォードの町では。
「失礼いたします。黒の御前からの使いの者が参りましてございます」
「叔父上の? すぐ通せ」
青年のセリフに、執事は頭を垂れる。
「よぅ。相変わらず良いもん揃えてんな」
「メギド殿、人の食事をつままないで下さい」
そこにいたのは、炎を操っていたあの青年。名前は、メギドと言うらしい。おつきの一人が気に行ったらしく、抱き寄せてなで回している。
「まぁそう固い事言うなって。沢山そろえてるんだしよ」
「で、叔父上からのご用件は?」
少々呆れ顔で、そう尋ねてくる領主に、メギドはこう答えた。
「ああ、カンタベリーの教会で、冒険者が聖人の遺物とやらをかぎつけてよ。その内、こっちに来るから、対処しておけってさ」
「なるほど‥‥。いよいよ、私の出番と言うわけですか‥‥。では、叔父上には、確かに承ったとお伝え下さい」
黒の御前は、彼らより上位なのだろう。そう答える領主。
「ほいよ、あ、土産に1匹貰ってっていいか? ほら、こう言うの大好きなねーちゃんがいるだろ? 御前の所に」
「御随意に」
土産代わりに少年を一人確保したメギド、空の彼方へ飛んで行く。
「冒険者か‥‥。人間どもには変わりあるまい‥‥。久方ぶりに、狩りを行うとするか‥‥」
残された彼は、楽しげにそう笑うのだった。
●リプレイ本文
ある者は議長から借り、ある者は裏ルートで、ある者はレオンから聞き取るなどして、街の地図を手に入れ、町へと入った彼らは、常葉一花(ea1123)の提案で、まず単独〜小人数のグループに分け、街の警戒に赴く事になった。
「ディア、戻ってくるまで、街の外で大人しくしているんだぞ」
警戒班の一人、ウインディア・ジグヴァント(ea4621)が、街の外に愛驢馬ディアヌチカを待機させ、大事そうに撫でながら、そう言った。
「ユーリは、男らしく、ディアを守るようにな」
ひとしきり手入れが終わると、今度は愛犬に、そう指示している。尻尾を振って、驢馬の娘さんを守る指令に答えるユーリくん。
そんなわけで、一行は手分けして、市街へと入ったわけだが、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「しかし、この街。本当に静か過ぎだ。まるでゴーストタウンじゃねぇか‥‥。人、いるんだよな? ここは‥‥」
がらんとした通りを見渡して、そう言うリュイス・クラウディオス(ea8765)。風の吹き抜ける音が、妙に空しく響く。
「ちょっと覗いてみましょうか」
一花がそう言って、塀に手をかけようとする。と、それをリゼル・シーハート(ea0787)が止めた。
「待て、俺がやる。こうでもしないと、本当にオマケになっちまうからな」
幸い、吟遊詩人を生業にしている関係で、目も耳も良い方だ。そう言って彼は、よっこいせと塀の外から、中の光景を覗き見る。
そこには、整然と並べられた棺があった。まるで、伝承歌に囁かれるバンパイアの光景そのままに。
「もしや、この街は‥‥すでにバンパイアの手に落ちたと言うのかしら‥‥」
リゼルから、テレパシーでその光景を受け取った一花が、不安げにそう言った。確かにそれなら、リュイスの言う通りなのだが、彼女にはどうしてもそうは思えなかった。全てがバンパイア化しているのならば、何故その前に、動きが無かったのだろう。
『教会の方に、人がいるようだ』
と、分かれて様子を見ていたリゼルから、テレパシーが入る。バンパイアと言えばアンデッド。ジーザス教とは、水と油みたいなものだ。まともな神経を宿している住人が、レジスタンスのベースにするのも頷ける。
「ちょっと話を聞いてみましょう。リゼルさん、そのまま監視して下さい」
と、一花はリゼルにそう言った。そして、リュイスと共に、その教会へ向かおうとしたのだが。
表通りに出ようとした瞬間、隊列を組んで歩いてくる一団がいた。それは、一様に領主の館と同じ紋章を付けており、まるで穴に潜る狐を追い立てるかのように、辺りの人の潜めそうな場所を警戒している。
「なるほど、あれが人々に恐怖を強いている一因か‥‥」
納得するリュイス。レオンが、『狩りがあるかもしれません』と警告していたのも、頷ける。警備兵めいた彼らの動きは、見る限りかなりのレベルだ。つまり、あれがかくれんぼの鬼。要は、その警備兵に見付からないよう、教会へ繋ぎを取れば良いだけの事。
『わかった。皆に伝えてくる』
一花の指示を受けて、リゼルは15mしか効かないテレパシーを有効に活用する為、その場を離れるのだった。
街中を巡回する警備兵は、フアナ・ゴドイ(eb1298)とリアナ・レジーネス(eb1421)の元にも現れていた。
「あっちにもこっちにも‥‥。これじゃ、身動きが取れませんわね」
フアナが、窓の外を見ながら、そう言う。2人とも、隠密行動を心得ている訳ではない。営業していない酒場に転がり込んで、何とか難を逃れたものの、そこから脱出することが出来ないでいた。普通なら、店の人間が出てくるものだが、そんな気配は欠片も無い。
「リゼルの話じゃ、バンパイアの町みたいって言ってたけど、全てがそうだとは思えない。そうなると、まずは起きている人間を探すのが先決ですね」
そう話すリアナ。何とかして、領主の館に行く前に、まともな話を聞きたいのは、彼らも同じのようだ。幸い、まだ少し時間がある。と、何やら追い掛け回すような馬車の音が聞こえ、2人は顔を見合わせる。
「調べてみましょう」
フアナがサウンドワードで調べて見ると、馬車に乗った御仁が発した声だとのこと。しかも、2人がいる場所から近い。どうやらまともな人間がいると言う事で、2人はそちらへ向かおうとすたのだが。
「しまったっ。護衛がっ」
ばったりと出くわしてしまう警備兵。慌てるフアナ。だが、その直後リアナが、持っていたマジカルワンドで、後ろからぶん殴っていた。相手が一人だった事と、嗜んでいた忍び歩きが役に立ったようだ。
「ふう。助かりました‥‥」
ほっと胸をなでおろすフアナ。そう言うと、テレパシーで他の面々へと伝えるのだった。
そんなわけで、2組の警戒班は、警備兵を避けつつ、教会へと向かったのだが。
「議長の使者としてまいりました。どなたか、いらっしゃいませんか?」
見張りが多い正面入り口を避け、窓から入った一花、そう挨拶する。ぼそぼそと顔を見合わせる村人に、リュイスがこう続けた。
「この街は、他所から見ると、かなり異常なんでな。話を聞きたい。誰かいないのか?」
「もし、息子さんを人質に取られているようなら、我々が人を集め、救出してきます。どうか、事情を話して頂けませんか?」
フアナもそれに同意するように、そう申し出る。と、代表らしき男が、重い口を開いた。
それによると、この町は今の領主が現れてから、次第に夜型の生活に変えられて行った模様。その上、街の警備兵が、いつのまにか領主のシンパとなり、目を光らせるようになったらしい。
「闇の街と言うに相応しい状況か‥‥」
そう呟くリュイス。その支配の目を恐れ、せいぜいこうして教会で会うくらいしか出来なかったとの事だ。
「気を付けて下さい。連中がかぎつけたようです」
そこへ、外の様子を伺っていたリアナがそう言った。見れば、警備兵が嗅ぎ付けたのだろう。遠くから、足音が聞こえてくる。話を聞くと、警備兵の前身は、村の自警団。いつのまにか、闇の騎士団めいた姿形になってしまったとの事。率いているのは、馬にまたがった立派な身なりの少年。やはり、領主の紋章がついている。村の者の話では、領主の所に、世話係として勤めている者の1人だそうだ。おそらく、領主に命じられて、ここへやってきたのだろう。
「‥‥本当にやっかいな仕事選んじゃったよ‥‥」
持っていた儀礼用の銀の短剣を抜きながら、リゼルが複雑な顔をする。もっとも、自分の力では、致命傷など与えられないのは、分かりきっているのだが。
「やれ」
少年がそう命じると、自警団達は火矢を放つ。それは、庭先の草に燃え移り、あっという間に炎を上げた。
「狩りってこう言う事か‥‥っ」
急いで退路を確保するリュイス。おそらく、囲まれてはいるだろうが、このまま焼き殺されるよりはマシだ。案の定、裏の扉を開けると、そこにも警備兵の姿があった。
「手加減してたら、こっちがやられそうだな」
フアナがムーンアローで足元を狙っているが、自警団の動きは緩まない。決定打を浴びせられないリュイスに、馬上の少年騎士が近付く。振り下ろされる剣。峰の部分で叩かれて、倒れこむ彼。
「俺に構うな!」
助けようとするリアナ。だが、彼はその手を押しのけ、先に村人を、と告げる。
「皆様、こっちへ!」
そこへ、一花がそう言いながら、表へと導く。後ろ髪を引かれる思いで、脱出する他の面々。
「逃げたか‥‥。まぁいい。ご報告にはこいつ1人で充分だ」
少年騎士が、リュイスを領主の館へと運ぶよう命じたのは、その直後である。
リュイスが捕らえられた報告は、フアナとリゼルのテレパシーによって、すぐさま法条靜志郎(eb1802)に伝えられた。
「ええ。ですが、物は考えようです。領主が食事する前にどうにかすれば、聖痕も見れて、一石二鳥ですわ」
そう指示をする一花。確かに、中に工作員が入り込んだと考えれば、仕事は多少やりやすくなるかもしれない。
「なおさら動かないとね。レオンの夢見を信用するなら、奴は食事前にリュイスを綺麗に洗うんだっけ?」
「あんま、考えたくないけどな」
パラーリア・ゲラー(eb2257)の声に、そう答える法条。まぁ、人の子が果物を食べるのに、洗ったり味付けたりするのと同じだろう。深く考えないほうが身の為だ。
「確認作業は、専門要員に任そう。あたし達は、自分の任務を果たさないとね」
パラーは、気を取りなおさせるようにそう言った。自分達の役目は、隠密行動が出来ない吟遊詩人達や、潜入する者を助ける事だと。
「わかってるって。あ、ちょっと待て。これ、持ってきな」
そう言って、法条は、ケヴィン・グレイヴ(ea8773)と緲殺(ea6033)に、スクロールを2枚、投げて渡す。中身は、エックスレイビジョンとテレスコープ。2つとも、領主の食事を覗き見るには、うってつけの魔法だ。
受け取ったそれを丁重にしまい、四人はバラけながら、領主の館へとむかったのだが、入り口には、警備兵と言う名の見張り。素直に通してくれはしなそうだ。
「あたしに任せて。こう言うのは、本当は領主にやろうと思ったんだけど、どうせ同じ穴の狢って奴だと思うし」
街の酒場から失敬したらしいシードルをちらつかせるパラー。変装は得意ではない為、そのままの顔で、口調だけを変えながら、彼女は酒を差し出す。受け取る受け取らないの問答が始まり、その間だけ、注意がよそにそれる。
「今の内に」
法条に促され、ケヴィンと緲は、その隙に敷地内へと入り込むのだった。
だが、潜入したケヴィンと緲には、さらなる難問が振りかかっていた。
「‥‥流石にバンパイアの城だね。窓は全て塗りつぶされてるよ」
難しい顔をする緲。屋敷の窓と思しき場所には、全て板が打ち付けられるか、壁材で埋め込まれ、光が入らない様になっている。こっそりと忍び込める場所はないかと探したが、見る限りはなさそうだ。仕方なく、裏口へ回る2人。
「こっちには鍵がかかっていないようだ」
「らっきー。見張りはっと‥‥、2人か」
裏口は、流石に表に比べて、警備が手薄なようだ。もっとも、こっそり侵入と言う可能性は、限りなく薄いわけなのだが。
「どうする? 無理やり押し通る手段もなくはないが」
「危険すぎるよ。中にリュイスがいるんだし」
強行を主張するケヴィンに、緲は首を横に振る。出来れば、こっそりと近付いて、聖痕を確かめたいらしい。
「だが、他に手段はあるまい。俺達の仕事は、あくまで情報を得る事だ。それ以上でもそれ以下でもない」
しかし、時間はあまりない。領主がリュイスを食べてしまう前に、どうにかしなければ。そう考えたらしいケヴィンは、気配を断ち、見張りへ近付くと、その頭を思いっきり殴る。
「あーあ。知らないっと」
なんだかんだ言いながらも、緲もそう言って、叫びそうになる見張りへ、一撃を食らわしていた。声もなく倒れた見張りを、塀の影に隠しつつ、2人は、足音をしのばせながら、領主の部屋を目指したのだが。
「‥‥どこかで見覚えがあると思ったら‥‥。そうか、あの時のな‥‥」
天井裏から、部屋を覗き見ると、とっ捕まったリュイスに、領主が意味ありげな笑みを浮かべていた。
「貴様、どうしてそれを」
心当たりがあるらしいリュイスがそう言うと、一歩進み出る執事らしき男。そこにいたのは、以前、バンパイアに関わった依頼で、屋敷に仕えていた男だった。
「話は聞いた。それほど頭の回る者なら、さぞかし美味かろう。存分に楽しませてもらうぞ」
にやりと笑う彼。そして、まるで女にでも触れるような仕草で、彼を引き寄せようとする。
「触るな‥‥っ」
「聞けん頼みだ」
伸ばされた手を払いのけようとするリュイス。しかし、彼の膂力は、それを許さない。
「やばいよ。もう剥いてる」
「もう少し待て。奴が服を脱ぐまで、リュイスには我慢していてもらおう」
小声で顔を見合わせる2人。こっそりと、オーラパワーを唱えてはあるものの、戦闘になってしまったらおしまいだ。
「間に合えよ‥‥」
ケヴィンも、乱入する可能性は考えている。その為、手には既に、手裏剣「八握剣」が握られていた。アンデッドスレイヤー能力を持つそれは、例え相手がバンパイアだとしても、役に立つ筈だと。
「さて、準備完了だ。お膳立ても済んだしな」
香油を持ち込み、湯の準備も済んだらしい領主が、リュイスの上着に手をかける。ただし、自分は脱がない。
「ちっ。仕方が無いなっ」
これ以上待つわけには行かない。ならば、強制的にも脱がせるまで。そう考えたケヴィンは、持っていた手裏剣を投げた。シューティングPAを心得た彼の一撃は、領主の指先をかすめ、その足元へと炸裂する。
「リュイス、今のうちに逃げろ!」
そして、その後、自らも飛び降り、武器を拾いざま、リュイスを突き飛ばす。
「こっちだよ!」
まだ、肝心の背中の聖痕は見ていない。しかし、このままではリュイスどころか、ケヴィンまで捕まってしまう。そう思った緲は、依頼の失敗を覚悟で、天井裏から転がりでる。
「追え、逃がすな!」
その隙に、逃げ出した2人を追う様に、執事がそう命じた。どこに潜んでいたのか、現れる少年騎士達。しかし、そこは冒険者達も、保険をかけていた。
「今です!」
緲に応えて、パラーが木の上から、矢を撃ちこんだ。街中から『調達』してきたそれには、教会で貰った聖水が、固定されている。ばしゃんっとかけられたそれは、バンパイアの白い上着を、びしょびしょにぬらしていた。その効果で、上着が透けてしまっている。その下からは、特徴ある聖痕が、しっかりと見えていた。
「何のつもりか知らんが、その程度で、我が肌が焼けると思うなよ」
濡れた姿のまま、不敵に笑う領主。おまじないやお守り程度の効果の聖水だったが、用は済んだ。リュイスも無事だ。
「急速離脱。撤収しましょう」
長居は無用と言う奴である。駆けつけた一花が、そう指示を飛ばす。執事が追撃を命じるが、人数のそろった冒険者達は、それを許さない。
「お前の相手はこっちだよ!」
ムーンシャドゥで移動を繰り返しながら、妨害に動く法条。あちこち顔を出しては、まるでゲームの様に、警備兵の動きを邪魔している。
「邪魔は法条さんだけじゃないですよ!」
彼に呼び集められたリアナが、リトルフライで屋根に上がり、その上からライトニングサンダーボルトを落としている。壁に隠れられれば、効果を失うが、充分な威力だ。その隙に、リュイスを含めた隠密行動組は、速やかに撤退する。
そして後日、議長の元には、一花の手によって、アシュフォードの街の現状と、手に入れた聖痕が、動物らしき紋章である事、それには、まるで封印がされたように、鎖で囲まれている事、そして、明らかに半分にちぎられた状態で、『クエスティング』と言う意味の、古い文字が記されている事が、詳細に書かれていたのだった‥‥。