【聖人探索】水面の底に潜むもの

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2005年09月25日

●オープニング

●死者の挑戦
 さて、皆が情報収集に赴いている頃、とある遺跡では。
「はいはーい。おっじゃましまーす。ゴルちゃーん、いるー?」
 ふよふよとシフール飛脚よろしく、ぶっ飛んで来るリリィベル。相変わらず、口調が軽い。
「騒々しいな。何の用だ」
「リリィベルの、情報屋さんごっこー♪ 良い事聞いてきちゃった☆」
 まとわりつくように、ゴルロイスの玉座へ座ると、彼女は彼にこう報告する。曰く、アーサー王の命令で、聖杯の手がかりとなる聖人と、そして聖壁のありかを調べるよう命が下り、議長の手の者が、各方面で動いていると。
「聖人の探索か。よもやそんな者が残っていようとはな‥‥」
「アシュフォードの街とぉ、ライの街にぃ、そう言う噂がある事は、調べがついてるみたいぃ。カンタベリーの地下に何かがあるのもバレたって話だし、急がないとやばいんじゃない?」
 話を聞いたゴルロイスはそう呟いた。かなり古い伝承らしいよんと、黒の御前経由で出回ってきた情報を吐露するリリィベル。それによると、カンタベリーに聖人らしき御仁が。そして、ライの街に、聖壁があるらしき事がわかったと。
「お前に言われずとも分かっている。だが、あれだけでは、奴は発見できん。ロイヤルども、いるな?」
『は‥‥』
 それを聞いたゴルロイス、彼女の警告に、少々機嫌を悪くした風情で、そう言った。すると、程なくして音も鳴く、現れた亡霊達が方膝をつく。
「捨て置くわけにもいかないだろう。冒険者達に先んじて、確保しておけ。相手はアンデッド、少しいじってやれば、強敵になるだろうしな」
『かしこまりました』
 レイス特有のくぐもった声で、そう従う彼ら。と、それを聞いてリリィベルも、玉座から浮き上がる。
「あたしも行ってくるねー♪ たぶん、すぐ場所なんて、ばれちゃうと思うから☆」
「好きにしろ」
 その場所がどこをさすのか、彼女の口ぶりから分からないが、何やら暗躍するつもりなのだろう。しかし、彼は気にも止めるそぶりがなかったが。
「さて‥‥ギルバード。黒の御前と、我が娘どもの暗躍にどう動くつもりかな‥‥?」
 ゴルロイスにとって、興味があるのは、ちまちまと小うるさいシフール達よりも、それに立ち向かう者達の動向のようだった‥‥。

●海賊の街に潜むもの
 その頃、マグダレーナ夫人のもとには、話を聞いた議長が、見舞いに訪れていた。
「わざわざ、カンタベリーの議長にお越しいただくとは‥‥」
「いえ。納品のついでですから、お気遣いなく。それに、少々確かめたい事がありまして。ライの街が、夢見に出てこられたとの事ですが‥‥誠ですか?」
 いや、彼がそこに現れたのは、見舞いと言うだけではない。彼女が見た夢の事らしい。
「はい。水に沈んだ古い町並みがありまして‥‥。数多くのマーメイド達がいました‥‥。けれど、その半分は既に死者と化しており‥‥。どこか妄執のように、街を守っておいででした‥‥」
 頷いて、マグダレーナは、繰り返し見せ付けられた夢の中身を語る。古い城壁を持つ町並み。その全ては水面の底に。ゆらめく町並みに出入りするマーメイド達がいた姿は、まるで1つの都市だったと。
「何か、変わった事はありませんでしたか?」
「‥‥見慣れない、城壁のような物が‥‥。もしかしたら、古い街の城壁かもしれません‥‥」
 ラテン語らしき古い文字で書かれたらしい城壁と聞き、議長の瞳に確信めいた色が宿る。
「そうですか‥‥。妙な事をお伺いして申し訳ありませんね。お体、大切になさってください」
「ありがとうございます」
 社交辞令的にそう言って、彼はマグダレーナの屋敷を後にした。
「‥‥議長?」
「‥‥間違いないな。ライの街に眠っているのは、おそらく聖壁だ」
 厳しい顔になる議長に、表で待っていたレオンが問いかけると、彼はそう答える。
「しかし、あそこは‥‥」
「海賊達の根城だと言う事は、よくわかっている。何とか交渉のテーブルについてくれれば、やりようもあるのだが、今まで散々剣を交えてきたからな‥‥」
 マグダレーナが見た夢に出てきた、ライの街。それは、海賊達のアジトと言う噂があり、議長も、そして教会さえも手を出しあぐねていた街だ。そして、聖壁を手に入れるに不可欠なマーメイド達が多く住むと言う話も。
「難しいですね‥‥」
「沈む聖壁の周囲にはアンデッド‥‥。おそらく、閣下もかぎつけておいでだろう。頭の痛い問題ばかりだ‥‥」
 不死者が多いと言う事は、その分、ゴルロイスの影響を受ける者も多いと言う事。
「心中、お察しいたします。では、私はギルドの方へ」
「頼む」
 頭を垂れるレオン。

『ライの街に赴き、海賊達と交渉し、遺跡の調査に赴いてくれるメンバーを募集します』

 そんなわけで、どうやら今回も、冒険者達に頼まざるを得ない問題のようだった。

●待ち受ける水面の底で
 さて、そんなライの街では。
「ふぅん、ゴルロイス殿‥‥ねぇ。ボスが自らって事は、ここにはよっぽどのお宝があるってこったね」
 リリィベルの登場に、顔の半分に火傷の痕を残した美貌のマーメイドは、そう言った。
「そう言う事ー。ま、黒の御前も、協力してヤレって言ってるし、アンタの大っ嫌いな冒険者さんも、てんこ盛りで来るしねぇ」
「‥‥協力するかしないかはさておき、お宝と聞いちゃ、黙ってないさ。高値で売れそうなこいつ、押さえておかない手はないからねぇ」
 くすくすと楽しげに笑う彼女に、海賊の首領たるマーメイドは、アジトの地図を指先でつつきながら、何やら思案顔だ。その地図には、赤いインクで線が引かれている。
「頼んだよーん。さーて、お仕事の続きっと☆」
 答えも聞かず、再び姿を消すリリィベル。
「何が目的だい、黒の御前様‥‥」
 見えない黒幕の姿に、思わずそう呟く女海賊。水に沈んだ廃墟で待ち受けるもの。それは、当のマーメイド達にも、予測がつかなかった‥‥。

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea7050 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

シャルグ・ザーン(ea0827)/ 大隈 えれーな(ea2929

●リプレイ本文

●海賊の町へ
 ライの街は、閉鎖された街である。そう聞いた冒険者達は、暗礁地帯の事もあり、ドーバーから途中までは海路、その後は陸路に切り替え、山の方からこっそりと向かっていた。
「議長くんが動くなら、ゴルロイスくんもきっと動くね。再戦の時が楽しみだよ」
 険しい山道を進みながら、楽しそうにそう言うピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)。山登りも、日々是修業と言うわけである。
「私も、今後はオーラの鍛錬もしなければなりませんわね」
 借りたシルバーナイフを眺めつつ、そう呟くセレナ・ザーン(ea9951)。これを授けてくれた御仁が、『これに頼るな』と言うような意味の事を言っていたのを、思い出したのだろう。
「あの公が暗躍している可能性があるのなら、それもまた然り。それに、海賊と交渉と言うのも、ある意味面白い」
 意味有げに微笑みながら、そう言う真幌葉京士郎(ea3190)。それ以前に、レオンの星読みには、ゴルロイス公が手勢を送り込んだと出ている。と言う事は、アンデッドも出てくると言う事。その野望を防ぐ為に、今まで敵だった者と手を組むと言うのも、彼にとっては、興味深い事柄なのだろう。
「確かに、私たちの力だけで、暗礁地帯の底に潜る事は出来ませんから、海賊の方々の協力は必須ですわね」
 セレナは、シルバーナイフを収めながら、頷いた。ルーティ・フィルファニア(ea0340)が、スクロールはあると言っていたが、初級なので、自分しか潜れない上、6分しか保たない。やはり、もっと高位の水魔法に長けた者が必要だった。
「見えてきましたよ。アレがライの街ですね」
 そのルーティが、急に開けた崖の向こうを指し示す。そこには、馬も通れない断崖絶壁の下に、半分水中に没した街があった。
「ここは‥‥確かに、攻め込むには難しい場所だな。せっかく、交渉用の金子を用立ててもらったんだが‥‥。あまり荷物は持ち込めないな」
 周囲の状況を確認しながら、そう言う京士郎。その手には、議長から預かったと思しき袋がある。少数ならまだいかようにも出来るが、ここに大量の人員をとなると、かなり難しい。その辺りが、ここに手が出されていない理由だろう。
「んじゃあ、驢馬さん達はここでお留守番かな。良い子で待ってるんだよ☆」
 チカ・ニシムラ(ea1128)が、そう言って、連れてきた驢馬の背中を撫でている。
 こうして、冒険者達は、海賊達の潜むその街へと、降りていくのだった。

●あぶりだせ
 上から見ると、半水没したように見えた街の中は、水路の張り巡らされた、まるで水上都市のような光景だった。
「さて、マーメイドのお姉ちゃんはいるのかな」
 チカが、興味深そうに町並みを覗いている。住民の何割かはそうだと言うが、人の手を恐れ、人に変じている場合も多い。張り巡らされた水路は、いわば非常用通路なのだろう。
「海賊って言えば、酒場だね」
 ピアが、周囲を見回しながらそう言った。一番大きな通りを選んで歩いているのだが、中々見付からない。いや、むしろ数が多く、どれが本命だかわからない。
「何とか接触を取れれば良いのですが‥‥。この状況では、どれがマーメイドか、分からないですわね」
 セレナが困ったようにそう言った。しかも、街のあちこちから、こちらを伺い見ている者達は、いずれも足がある。
「チカに任せて☆ こう言う時にいい魔法があるよ」
 と、そんな彼らの前で、チカは持っていた魔法少女の枝を取り出した。
「何をなさるつもりですか? チカ様」
「マーメイドは、確か水に濡れると、元のお魚さんに戻るって言う話だし。海賊=お魚なんでしょ? だったら、天の恵みで濡らしちゃえって事」
 セレナの問いに、彼女はそう答える。その手には、スクロールがあった。
「それは名案ですわね。チカ様」
「えへへへ。セレナお姉ちゃんに褒められちゃった」
 自分より背の高いセレナに言われ、嬉しそうなチカ。
「あら。私の方が年下ですのよ。チカお姉様」
「そーなの? 見えないや‥‥」
 微笑みながら、嗜めるようにそう言われ、目を瞬かせる彼女。「まぁ、種族の壁と言うのは、案外高いものなのかもしれんな」と言うのは、その様子を見守っていた京士郎の弁。
「よぉし、それじゃあまじかる♪チカのいっつしょーたーいむ☆」
 そう言うと、彼女は、魔法少女の枝を片手に、高々と掲げる。そして、片手でスクロールを広げながら、彼女は歌うように魔力を込める。
「レイーン、コントローーールっ☆」
 本来、スクロールは詠唱や印を結ぶ必要はないが、そこら辺は気分の問題だ。
 程なくして、曇天の空から、大粒の雨が降り注ぐ。周囲の人々が、慌てて家の中へと避難して行く。中には、必要以上に水を避けているような者も、セレナには見受けられた。
「わ。もしかしてマーメイドさんって、いっぱいいるの?」
「そのようですわね。でも、人数は限られると思いますわ。敵対視している方を探せば良いのですから」
 その様子に、ちょっと驚いた様子のチカ。と、ルーティはそう言って、荷物の中を、ごそごそと漁る。中から取り出されたスクロール。それには、リヴィールエネミーと記されていた。初級ではあるが、自分達を毛嫌いしている者達を探すには、充分な魔法だ。
「やはり、酒場に向かったようです」
 それによると、彼らは大通りにある酒場ではなく、裏通りにある隠れ家的な酒場へと向かったらしい。
「なるほど。治安が悪い街ならば、海賊がたむろっているのは、裏酒場と言うわけだな」
 納得した表情の京士郎。大通りから裏通りへと、方向を変える。
「よぉし。じゃあ、早速交渉だね。ほほぃとラムが飛び込んだ♪ 見つけて色々お願いしてみよう!」
 その先にある、少々朽ちかけた酒場に、ピアは突撃する攻撃船よろしく、ドアに手をかける。しかし、それを京士郎が押し留めた。
「待て、先に俺が行く。危険な交渉を、お嬢さん方に任せるわけにもいかぬだろ」
 何しろ、今回の面々の中で、男性は自分だけなのだ。出来るだけ、盾にならなければならないと思ったのだろう。ピアは、少し残念そうだったが、ひとまず彼に任せる事にしたのだろう。素直に道を譲ってくれるのだった。

●交渉
 場違いとは言え、客は客である。カウンターに並んだ一行は、後ろで腕自慢話に花を咲かせる客達の様子を、こっそりと伺っていた。
「な、なんか雰囲気悪いね‥‥」
「そりゃあ、海賊の溜まり場ですから‥‥。我々冒険者の集う酒場とは、違うのでしょう」
 セレス・ブリッジ(ea4471)がこそこそと囁く中、ルーティはわざと聞こえるような声で言った。
「ルーティ様、めったな事言うと睨まれますわよ」
「大丈夫。わざとですから」
 セレナが嗜めると、彼女はくすっと笑って、後方のあまり雰囲気のよろしくない女性達に、視線を送る。
「お前さん達、ウチの酒場に何ぞ用かい」
 その一人が、即座に反応した。別に、彼らの店と言うわけではないのだが、縄張りを荒されたと思い込んだらしい。
「うん、ちょっと現地ガイドを頼みたいんだ‥‥。水の底のね」
 そんな彼女達に、ピアが思わせぶりなセリフを口にする。「なんだと」といきり立つ荒くれ者達に、京士郎が前に進み出て、一言。
「話がある。頭に会わせてもらおうか」
「偉そうな奴だな。頭がそう簡単に会ってくれるもんか」
 そうだそうだー。と、口々に文句を付けてくる海賊達。と、京士郎は「果たしてそうかな‥‥」と言って、持っていた長巻を抜く。
「おぉ〜」
 海賊達から歓声が上がった。見れば、テーブルの上の花瓶が、真っ二つに割れている。
「だぁ! お前ら、拍手なんざすんじゃねぇ!」
 姉御と思しき海賊が、怒鳴りつけている所を見ると、あまり頭の良い集団ではなさそうだ。そう確信した京士郎は、さらに続けた。
「実力さえあれば、過去の経歴など問わんのが、海賊の流儀と言う奴だろう」
「てめぇ、ちょっと良い格好だからって、舐めんなよ」
 一人がそう言うと、他の面々も同意する。相手が男性と言う事で、対抗心を燃やしているのかもしれない。
「試して見るか?」
「良いだろう。陸上は専門外だが、たたんじまいな!」
 そのセリフに、気の早い海賊の一人が、後ろから遅いかかる。だが、そんな彼女に、無言のまま裏拳をお見舞いすると、京士郎は外を指して、こう言った。
「やるなら、店の迷惑にならない様にした方がいいんじゃないか? お嬢さん方が怖がってるぞ」
 彼が指し示したのは、交渉の最中、相手を怒らせないよう、大人しくしていたセレス達だ。
「こんの‥‥」
 手ごわい相手と言う認識はあるのだろう。手を出しあぐねている海賊達。その時だった。
「やめねぇか、お前達!」
 彼らを書き分けるようにして出てきた、一人の女性。
「けど若頭ぁ‥‥」
 萎縮してしまう海賊達の姿を見ると、どうやらこの面々をまとめているリーダーと言う所だろう。
「ようやくボスのお出ましか」
「この辺りをまとめてるモンだ。若いモンは手が早くてな。残念だが、頭領は人前に出たがらねぇ。話は俺っちが聞いてやる」
 京士郎がそう尋ねると、彼女はそう答えた。ようやく話の通じそうな奴が出てきたと思った京士郎は、こう話を切り出す。
「単刀直入に言おう。水中の都市を探索したい。協力を頼めないだろうか?」
 彼が、周囲を射すくめるように出したのは、議長から預かってきた袋。中には、ゴールド貨がてんこ盛りに詰め込まれている。
「ひょぉ‥‥。豪勢だねぇ」
「これに、見付かった海底の財宝も山分けだ」
 ずいぶんと条件が良いように見えるが、京士郎の懐自体は、1Gも痛まない。この辺りは、交渉によって値段を決めようと言う所なのだろう。
「若頭ぁ、どうしやす?」
「あの辺りは、あらかた探したんだが‥‥。この金額だと、手勢を出しても、お釣りが来るな‥‥」
 若い連中と違い、若頭はそれなりに損得勘定の出来る人物のようだ。G貨の数を確かめながら、何やら計算している彼女。その姿を見て、京士郎はこんな事を言い出した。
「だが、奥には怪物が多く、深入りは出来ないと聞いた事がある。それに、他の海賊が勢力を伸ばすために、狙っているとも聞いたな‥‥」
「何!? どこからそんな‥‥」
 彼は答えない。と、いぶかしむ彼女達に、ルーティがこうフォローを入れた。
「もちろん、見張りを付けていただいても構いません。京士郎さんの仰る海賊達の他に、御先祖様が襲ってくる可能性がありますのでね。無論、私達が攻撃しても良いなら、話は別ですが」
 お金関係の事は、京士郎が代弁してしまったので、海賊達の仲間意識をくすぐる事にしたらしい。
「どうする‥‥」
「お頭がなんて言うか‥‥」
 言われた海賊はと言うと、顔を見合わせながら、ぼそぼそと相談中。やはり、海賊とは言え、根は女の子。お喋りは長そうだ。そんな姿に、ピアが痺れを切らせたように一喝する。
「んもー! 男のクセにだらしがないぞ! キミ達の御先祖様を、ゴルロイスくん達の道具に成り下がらせるの? それが海賊の誇りなの!?」
「それは‥‥」
 黙りこむ海賊達。と、それまで、ゴルロイスやデビルの邪魔が入らないよう、辺りを警戒していたチカが、こう言った。
「とりあえず、今のあたし達の目的は、聖人に関係する重要な手がかりを得ることだし、それと関係ないお宝なんかは渡しても問題ないんじゃないかな? それで、一時休戦と案内をしてくれるのなら」
 だから、今は不問にしようよ。そう、彼女は言いたいらしい。
「魔法使いのお二方だけを潜らせるのは危険ですので、できれば私達も潜れるような手段をマーメイドの方々にお願いしたいですわ」
「道案内も欲しいですしね。目的さえ達成させていただければ、議長との仲を取り持っても構いませんし」
 セレナとルーティが、耳を傾け始めた海賊に、要望と交換条件その2を突きつける。
「おいおい。俺らは何もそこまで言ってねぇぜ?」
「これはビジネス。そうですね‥‥このあたりでいかがですか?」
 呆れる海賊に、ピアは報酬の細かい条件を提示した。そこには、京士郎が提示した条件に加え、ウォーターダイブをメンバー全員にかけてくれるなら、+25%、アンデッドの襲撃から護衛をかけてくれるなら、もう25%増やすとある。
「わかった。お頭には俺から話しておく。今回はあくまでも雇われた身分。それで良いな?」
「良かろう。まぁあれだけの遺跡だ、互いを利用するつもりで、一時力を合わせる事も悪くはあるまい?」
 海賊が確認する様に了承すると、京士郎はそう言いながら頷いて、にやりと笑う。
 こうして、海賊との交渉は無事、契約成立するのだった。

●水中へ
 祈りと魔力を捧げた道返しの石が、ピアの懐へと収まる。大切そうに抱えたそれと共に、彼女は海の中へと飛び込んだ。
「遺跡は、あの辺りだな‥‥」
 水の魔法をかけられた彼らは、暗く深い水の底に眠る、古き街の後へと向かった。
「わ、割と大量にいますね」
 表情を引きつらせるセレス。おそらく門と思しき朽ちたその周囲には、シャチとサメが、見張りの様に回遊していた。いわばゲートキーパーと言う所だろう。
「普段はここまで集っていないそうだ。おそらく、何者かに操られているか‥‥」
 海賊達から、上手い事言って、いつもの海を聞き出した京士郎が、そう言いかけた時である。
「襲ってきましたわよ!」
 警戒していたセレナがそう叫ぶ。臭いに気づいた魚達が、門の前からスピードを上げてきた。
「こっちにはサメが!」
「くそ‥‥、どこからこんな‥‥」
 それを皮切りに、次々と集まってくる魚達。海賊達さえ餌‥‥いや、敵としか認識していないのだろう。隅っこの方で、「きゃあっ。どこかじってんだてめぇ!」と、女の子らしさと荒くれっぷりが入り混じった悲鳴が上がる。
「えぇい、手間のかかる‥‥」
 慌てて、そちらへ向かう京士郎。ああは言ったものの、やはり見殺しには出来ないのだろう。噛み付こうとしたサメに、長巻が力いっぱい振り下ろされる。オーラパワーとエリベイションで強化されたその一撃は、貫こうとしたソードフィッシュを、切り身にしていた。
「大丈夫か? お嬢さん」
「お、おめぇ‥‥」
 驚いた様子の海賊さん。まさか、助けてくれるとは思わなかったのだろう。そんな彼女に、京士郎はこう告げる。
「過去や未来に何があろうと、今のこの瞬間は、同じ旗の元に集う仲間だからな」
 それに、相手が女性となれば、なおさらの事。
「くぅ、良い事言ってくれるじゃねぇか。泣けるねぇ」
 だが、海賊さんは、彼の行為を甘さと詰るよりも、人情話に弱かったようだ。水中にも関わらず、涙をふき取る仕草をする彼女達。
「なんて丈夫なの。まるでダメージが入りませんわ‥‥」
「ここを突破しないと、壁の所までいけないのに‥‥」
 しかし、事態はそれほど甘くは無かった。次々と現れる海洋生物達に、中々門の向こうへ行けなくなっていたのだ。
「おかしいですわ‥‥。レオンの話では、間違いなくゴルロイス公が関わっていると言うのに‥‥」
 それに、セレナにはもう1つ気がかりな事があった。今まで現れたのは、どれも生きている者。当然いるはずの、アンデッドが、姿を見せない。
「まさか‥‥」
 聞き耳と感覚を研ぎ澄ます彼女。父親が行う程の自信はなかったが、気配を察する訓練はしている。
「これは‥‥囮。そう‥‥本命は‥‥」
 貴族としての必要最低限の知識、騎士学校で習った事等を総動員し、相手の動きを考えるセレナ。
「後ろ!!」
 彼女が選んだのは、真後ろへの一撃。振り返ると、そこにいたのは。
「へぇ。やっぱり、見抜いてたんだ。ゴルちゃんの言った通りだねぇ」
「お前は‥‥」
 シャチの上で、くすくすと楽しそうに笑う、道化師姿のシフール‥‥リリィベル。
「あははは、バレちゃったぁ? 悪いけど、キミ達には、あの中に行かせないよ」
 やる気があるのかないのかわからない口調で、彼女はそう言った。そして、なにやら合図する。その刹那、泳いでいたサメやソードフィッシュが、倍に増えた。
「どこからこんなに‥‥」
「良く見て下さい。何匹かは、腹に穴が開いてます‥‥」
 あんぐりと口を開けるルーティに、そう答えるセレナ。その言葉どおり、彼らの動きは緩慢で、おまけにどう見ても致命傷と思しき穴が開いている。中には、肋骨や内蔵を露出させたまま、何食わぬ顔をしている魚さえいた。
「アンデッドですね‥‥」
「ご名答〜。死体は使い減りしなくて、便利だしねぇ」
 ルーティが指摘すると、彼女はケタケタと笑う。その言葉が示す通り、道返しの石を持つピアの周囲では、全ての行動が鈍かった。
「死んだからとて、魚は魚! こうすれば良いだけの事ですわ!」
 そう言うと、ピアはその間に日本刀から持ち替えたヘビーボウを構えた。つがえた矢には、魚が好むと言うゴールドフレークがくくりつけられている。それを、壁とは反対側の‥‥海面へ向かって放つピア。
「甘いよ! 死者は魚の餌より、生者の血肉を求めるんだからね!」
 半分の魚達は、その餌を追って、海面へと上って行った。だが、残り半分‥‥ゾンビ魚達は、変わらずこちらへ牙を向けている。
「シャチ達は私達で引き受けます。今のうちに!」
「わかってるんですが、中々進まないんですよ!」
 発見次第、グラビティーキャノンをぶち込んでは、ピアの持つ道返しの石の範囲に戻っていたルーティがそう叫ぶ。転びようのない水中では、いかな魔法の重力波でも、威力は半減だ。
「ここまでと言うの‥‥」
「諦めないで、セレスお姉ちゃん」
 プラントコントロールで、海藻を操って妨害し、間を縫うようにしてグラビティーキャノンを放っていた彼女に、ピアはそう言った。そして、魔法少女の枝を掲げ、こう叫ぶ。
「妹同盟No.1、魔法少女まじかる♪ チカを舐めないでよ♪」
 可愛らしい装飾がされたカラフルな魔法少女のローブが、水中で揺らめく。彼女の魔力に従い、緑系統の淡い光が、その身を包む。
「雷よ!!」
 その手のひらから、雷光が一直線に伸びた。聖壁を壊す心配のないそれは、範囲内にいた魚達に、グラビティーキャノンの2割増しのダメージを、与えている。何匹かが動かなくなった。
 と、その時だった。特殊な氷でできた円盤が、水中を幾つも飛んで来る。見れば、そこには大きな亀に乗った、見覚えのある女性が、同じ様に亀に乗った女性達を引き連れて現れていた。確か、海賊の頭領だと言う‥‥マーメイドの女性だ。
「若いのが世話になったようだなぁ」
「お頭‥‥!」
 手を貸していた海賊が、泳いで行くのを見ても、それは確実だろう。その半面は、まるで肌を隠すような仮面に覆われている。
「よぅ、ゴルロイスんトコの。人の漁場荒らすたぁ、良い度胸だな」
「ちょうど良い所に来たね。そいつら、やっちゃってくれない?」
 リリィベルは、増援が来たと思ったのだろう。大仰に首を切る真似をしてみせる。しかし、彼女が言ったのは。
「断る。もう使いッぱはごめんなんでな」
「キミは‥‥」
 何度か顔をあわせた事のある京士郎が、少し驚いたような表情を見せた。
「俺らは義理は固い。仲間が受けた礼は、何でも3倍返しが原則だ」
 彼女はどうやら、先ほど彼が助けた部下の借りを返したいらしい。
「今のうちに壁を!」
 セレスが魔法で援護をしながら、そう言った。それを受けて、ピアが道返しの石を持ったまま、一目散に壁へと泳いで行く。
「ふぅん。まぁ良いや。沈められた船より、そっちを選ぶんだぁ。御前様に言いつけちゃおうっと」
 彼女の見事な泳ぎっぷりに、リリィベルは面白くなさそうな顔でそう言った。「勝手にしろ」と、呟く海賊の首領。
「そうだねぇ。ゴルロイスくんに伝えといて。必ず、もっと強くなって見せるよって」
 聖壁の情報を手に入れたピアは、誰も居なくなった海面で、決意を新たに、そう答えるのだった。

●帰還、そして。
 陸に戻ってきた海賊達の前に、どんっと置かれる料理。
「皆ーー、おつかれーー」
 さっきまで、シリアスな表情を浮かべていたピアが、そう言って、一人一人にお酒を注いで回っている。
「ど、どうしたんだ? この御馳走は」
「えへへへ。あたしのポケットマネー☆ 皆、無事に街に帰れたからね。宴会、奢るよ」
 驚く海賊さんに、彼女はそう言った。あの後、聖壁の近くで見付かった財宝らしき欠片を好事家に見せた所、当初予定していた30Gより、10Gほど安く上がったそうだ。要は、お祝いと言う奴である。
「気前良いじゃねぇか! 気に行ったぜ、姉ちゃん!」
「あははは。くすぐったいよー」
 単純な思考回路の海賊下っ端ーズは、そう言って、ピアの首根っこを捕まえると、ぐりぐりと撫でまわす。こうして皆は、すっかり海賊さん達と打ち解けてしまったのだが。
「ちょっと、良ろしいかしら?」
 そんな中、宴の輪から、一人離れていた頭領‥‥リーナ・アレイと言う名前だそうだ‥‥に、セレナがこう声をかけた。ぎろっと睨みつけてくる彼女に臆する事もなく、彼女はこうきり出す。
「少し、提案なのですが‥‥。海賊を続けるよりも、国と契約を交わして私掠船をなさってはいかがですか? 多少不自由になるでしょうが‥‥」
「悪ぃがあたい達は、人間様は信用しねぇ事にしてる」
 そう言うと、リーナはぐびっとかなり度数の強い酒を飲んだ。まずい事を言ったかしら‥‥と思ったセレナは、申し訳なさそうな表情で、さらに続ける。
「プライドを傷つけるような提案をしているのなら、謝ります。でも、国の許可があれば、国内で追われる事はなくなりますし、どこの港にも大手を振って入れるようになりますわよ」
「今まで、奪った財宝を返せとか揉めるだろ。バンブーデンのトコの船からも、上がりを頂いてるわけだし」
 いや、機嫌を損ねたわけではなく、彼女なりに考えての返答のようだ。と、それを聞いた京士郎、セレナにこう言った。
「無茶を言うな、セレナ嬢。海に囲まれたこの地で、公認の私掠船なんぞが出れば、迷惑を被るのは議長の方だ」
「そうですか‥‥。良い案だと思ったんですが‥‥。残念ですわ」
 肩を落とす彼女。と、リーナは仮面を少し開けて、その中身を見せてくれる。そこには、まだ真新しい火傷の跡。
「それに、今はこうしちゃいるが、あたいはまだ、あの時の事を忘れちゃいない。金で方がつくほど、単純な問題でもねぇさ」
「わかりました。忘れて下さい」
 その傷跡が癒されない限り、彼女は大手を振って、こちらの味方にはついてくれないだろう。そう思った彼女は、おとなしく引き下がる。
「ま、明日の朝日が沈むまでは、同じ旗の奴さね。気にしないこった」
 その姿に、リーナ嬢は、自嘲気味にそう言った。自分でも、気持ちの整理を付けていると言った所か。
「ああ。未来に何があろう‥‥とな」
 その結果、敵対する事があっても、それはまた別の話だと、京士郎はそう呟くのだった。

●聖壁に記されていた事
 そして、一行は翌日になって、中継地であるドーバーへと向かったのだが。
「これが揃った紋章か‥‥。どうやらこれは聖杯への導き書と言った所だな‥‥」
 バンブーデンの屋敷に来ていた議長。冒険者からそれを受け取り、そう話す。手に入れた聖壁と聖人には、こう書かれていた。
 聖杯に関わると言う謎の存在『クエスティングビースト』。これを復活させる事が、聖杯に手に入れる事に繋がり、クエスティングビーストはその四肢を分断されて封印されている‥‥そうである。
 だが、話はそれだけでは終わらなかった。
「何か、心当たりでも?」
「いや。過去の事例を考えると、それだけではないと思ったんでな‥‥」
 含んだ様な議長の言葉に、京士郎がそう尋ねる。と、彼はこう続けた。
「クエスティング。つまり、クエストの進行形。古来より、強大な力を得る為には、試練が必要だ。分かっている事だが、聖杯は強大な力を持つゆえ、狙われる。だとすれば、このクエスティングビーストは、聖杯を得る為に、何らかの試練を与えてくる存在ではないのだろうか‥‥」
 確かに、何の代価もなく強力な力を得られると言うのは、考え難い。それを等価交換と評したのは、どこの誰だったか。
「まぁ、どんな試練かはわからないし、あくまでも推測でしかないのだが‥‥な」
 と、議長は最後にそう、口にするのだった。