【妖精王国】ゴグマゴクの丘へ!〜奇襲編〜
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:7〜13lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2005年09月30日
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●オープニング
グランタの墓所で、ギャリー・ジャックの死体が消えてしばらくした夜の事である。
「寒くなってきたか‥‥。少し窓閉めましょ」
イギリスも9月中盤になると、だいぶ気温が下がってくる。ことに、夜ともなれば、なおさらだ。職員寮で、吹き込んだ風に、両肩を抱え込んだミス・パープル女史は、そう言うと、木戸を降ろしに行った。
「空が明るいわね‥‥。何か、嫌な事が起きなきゃ良いけれど‥‥」
その外に広がる光景に、そう呟く彼女。窓の外に広がる夜空は、まるで何か儀式を行っている時の様に明るく、どこからともかく流れる音が、不吉な予感をさらに煽りたてていた。
「誰?」
彼女が、その思いを抱えながら、生徒達が上げてきた、『暗躍するギャリー・ジャック関係者についての報告』と言う名のレポートを読んでいると、閉めた木戸に小石の当たる音。あけて見ると、一人のディナ・シーが、緊張した面持ちで膝をついていた。
「し、失礼いたしますっ。あ、あのっ、ミス・パープル様と仰る方の寝所は、こちらでございましょうか‥‥?」
見れば、衣装こそ違うものの、いつだったか、ローズガーデンに現れた少年である。口調が違うのは、何か、用事を言い使ってきた為だろう。
「あら、ポピィくんだっけ? ディナ・シーの」
「よかったぁ。あってたぁ。あのっ。女王様から、重要な言伝を預かってきたんだ」
その証拠に、パープル女史が名前を言い当てると、ほっとした様子で、口調を普段のそれに戻し、ぺたんと尻餅をついてしまう。
「女王って、妖精王国の?」
「うん。実はね‥‥」
彼女が確かめる様にそう言うと、ポピィくんは、女王の所で起きた事件を話し始めた。それによると、こうである。
「隣人の方々は、ギャリー・ジャックを止められたのでしょうか‥‥」
仮住まいの館で、遥か遠い場所にある墓を思い起こしながら、女王が不安げにそう言った。
「女王様、少しお休みになったほうが‥‥」
「いいえ。方々が戦っておられるのに、私一人、休んでいるわけには参りません」
既に、月は中空を回っている。事件が起こったのは、かなり遅い時間に、ポピィがそう促した直後の事。
「あれ? 何か、聞こえる‥‥?」
遠くから響くベルの音。何らかの呪詛を繰り返す様な声。そして‥‥まだ夜明けには早いと言うのに明るくなる空。
「女王様っ!?」
その瞬間、女王が倒れてしまっていた。慌てて助け起こすと、ただでさえ白い顔面が蒼ざめていて、小刻みに震えている。
「あれは‥‥ベルの音‥‥と、呪文の声‥‥。ゴグマゴクの丘‥‥」
「そんなっ! じゃあ!」
墓に言った人達はどうなったんだろう‥‥。途中までは無事だったけど‥‥と、不安の伝染するポピィくん。と、女王は身を起こし、こう頼んだ。
「ポピィ、急ぎ学園に使者に立って下さい。人の子らに、この事を知らせねば‥‥。大変な事に‥‥!!」
そして、ベルの音、呪詛の声、空の明るさの意味を、彼に伝える。
それは、ジャックがゴグマゴクの丘で行っている儀式。ジャックが儀式を終えれば、それらが動き出してしまうかもしれない。その前に、ジャックを祭壇から引き剥がさなければならないそうだ。偵察に行ったディナ・シー騎士の話では、すでに、岩から震えたりうめき声をあげたりするものが現れているとの事。もし、蘇れば、彼らが妖精王国ばかりではなく、ケンブリッジまで襲うは、充分に考えられる事だ。
「わかりました! 行って来ます!」
それが、一大事だと認識したポピィくんは、急いでパープル女史の下にはせ参じるのだった。
「‥‥と言うわけなんだ」
事情を聞いた彼女、上着を羽織り、報告書を手に、頷いてみせる。
「そう。わかったわ。女王陛下に伝えなさい。依頼、確かに承りました‥‥とね」
「はいっ!」
嬉しそうに答えるポピィくん。女史が、生徒会長がいる女子寮へ向かったのは、それから程なくしての事である。
「ちょっと。起きてるんでしょ! さっさと出てきなさい」
「先生〜、夜中ですよぉ〜」
パープル女史にたたき起こされた生徒会長ユリア・ブライトリーフ、制服を着ている時には想像もつかない、かーいらしい寝間着で、眠そうにお出迎え。
「ケンブリのピンチに、夜中もへったくれもないでしょ。騎士団なんか、年中無休の24時間営業なんだから。重大事件よ。さっさと来なさい」
「は、はい〜」
やや強引に引きずり出されながらも、彼女は上着を羽織って、人けのない職員寮へと赴いてくれる。そこへ、パープル女史は、調べてきた報告書と、ポピィから聞き出したジャックのしているであろう行動を、こう話す。
「妖精女王、曰く」
王国の巨木には、ゴグマゴクの丘に繋がる、秘密の抜け道があるらしい。そこは、長い事誰も入った事がなく、迷宮化しているが、半面、結界の効果も及んでいない。無論、地図などないのだが。
「どこからそんな‥‥」
「迷路の話は、女王陛下から。どうも、悪用されるのを恐れて、王族にしか伝わってなかったらしいわね。それと、もう1つ気がかりな事があるの」
報告書を指先でつつくパープル女史。確かにそれには、倒した筈のジャックが、女の声と同時に消えてしまった事が記されている。
「と言う事は、やはりギャリー・ジャックは生きて‥‥」
「ええ。そして、手に入れたベルを使って、いよいよゴグマゴク達を蘇らせようとしている‥‥」
ベルの音は、その音。そして、呪詛の声は、蘇らせる為の呪文。伝承によれば、ゴグマゴクの丘に立つ岩は、ジャックの同族達が封印された姿だと言う。もし、彼が儀式を完成させれば、その矛先が、妖精王国に向かうは必定だ。
「なるほど。それは早急に手を打たなければなりませんね」
「おまけに、良く分からないけど、奴は不死身らしいし。そうそう。祭壇の破壊の方は、別ルートで魔法学園の生徒に頼んであるわ」
パープル女史のセリフに、「わかりました」と頷くユリア嬢。祭壇自体の事は、考えなくても良さそうだ。もっとも、連絡はしておくべきかもしれないが。
「話を聞いたところ、妖精王国には、隠された使われない抜け道と、ジャックが結界維持を怠ったらしい事に単を発する、結界の綻びがあるらしいの。そこを利用すれば、ジャックの元にたどり着ける可能性は高くなるわね」
高飛車気味にそう言うパープル女史だったが、その直後、真摯な表情になって、こう告げる。
「それに、これはもはや、王国だけの問題や、うちのクラスがテスト出来ないだけじゃない。妖精王国の事件が解決しないと、今年のハロウィン祭が中止になる可能性がある。心してかかりなさい」
「わかりました。そういう事なら、早速人を集めてきます」
頷くユリア嬢。
『ギャリージャック討伐部隊急募! 巨木の洞門を抜ける決死隊募集!!』
こうして、ギルドの壁には、ギャリー・ジャックを倒す為の依頼が、張り出されるのだった。
●リプレイ本文
●女王の隣人として
ゴグマゴクの丘へ向かうのは、何も陽動組ばかりではない。巨木の洞門を抜け、奇襲をかけようと言う面々もまた、準備に余念が無かった。
「なんじゃ、面倒なものをつけるんじゃのう」
耳栓を受け取りながら、そう言うアルフェール・オルレイド(ea7522)。なんでも、敵の総大将は、怪しげな笛の音を響かせると言う事で、惑わされないようにと、渡された模様。
「まぁ、こんなもんなんぞなくっても、俺様が蹴散らしてくれるんだが、そこのお姉ちゃんが、どうしてもと言い張るもんでな」
「前衛の方が、うっかり居眠りでもこいてようものなら、私達中衛後衛では、建て直しが利きませんから。それに、周りの文句も聞こえなくなりますから、都合が良いんじゃないですか?」
馬を預けていたヴァラス・ロフキシモ(ea2538)に、常葉一花(ea1123)がそう言った。どうやら、彼の根拠の無い自信過剰っぷりに、むしろ戦場のど真ん中に放り込んだ方が良いと考えたらしい。
「まぁ、指示が聞こえなかったら、こう言う輩には、こーやって後頭部にぐりぐりと強制終了装置でも、叩きこんでやりゃあいいのよ」
「いだいいだいいだいいいいっ! あにしがやんだこの‥‥ぶっ」
そんな彼に、パープル女史が首根っこを引っつかむと、ひざと右ひじで頭を押さえ込みながら、片手でウメボシなんぞ食らわしている。おまけに「口の聞き方が悪い」と、ハルバードの柄で小突く辺り、かなり器用だ。
「おやおや、キャメロットから帰ってみれば、ずいぶんと面白そうになってるね」
同じ様に馬を預けてきたアルヴィス・スヴィバル(ea2804)、追いかけっこしているように見えるヴァラスとパープル女史を見て、くすりと笑う。
「楽しいのは多分、そこの2人だけです」
「あら、そんな事ないわよ。ねぇ?」
一花の呆れたようなセリフに、そう答えるパープル女史。ぱっと手を離すと、ヴァラスは不敵にこう言った。
「ムククク、任せときなパープルのおねえちゃんよ。そのギャリー・ジャックとかいう野郎はこのヴァラス・ロフキシモ様がブチ殺してやるからよォ〜」
やたら自信たっぷりの彼。楽しげと言うより、不穏当な発言のようにも思える。一花が「ま、まぁ良いですけど‥‥」と答える中、ヴァラスはパープル女史にこう尋ねた。
「んで? そのギャリー・ジャックとか言う野郎は、いったいどこにいるんだ?」
「あんた、依頼読んでないでしょ。巨木の洞門の向こう側よ」
洞門を抜けた先にあるゴグマゴクの丘。その祭壇で、彼は儀式を行っているはずだと。
「まずは、そこが関門だよね。いったいどんな所なの?」
「先生、何か知りません? 例えば、地形図とか‥‥」
ミカエル・クライム(ea4675)のセリフに、一花がそう尋ねた。と、パープル女史は、今まで浮かべていたオチャラケた表情を消し、厳しい顔つきになって、こう答えてくれる。
「難しいわね。洞門は数百年単位で閉鎖されてるみたいだから」
中には崩れている可能性のある場所もあるらしく、行って見ないと分からないようだ。
「敵の情報が分からんと、ブチ殺せねぇじゃねぇかよ。そのあたり、妖精どもから、聞けないのかよ? あだっ」
「口の聞き方に気をつけい。女王陛下、じゃ」
敬語を使わないヴァラスに、今度はマルト・ミシェ(ea7511)が、思いっきり足を踏んづけている。おまけに思いっきり睨みつけられて、「ご、ごめんなさい‥‥」とすくみ上がる彼。
「さても、女王陛下の誇れる隣人のままである為にも、もうひと頑張りせねばならんのぅ」
「グランタのベルは、詰めの甘さで奪われてしまいましたしね。今度こそ、きちんとその始末をしなければ、頼みに来たディナ・シーのご老人や、女王様にも申し訳ないですから」
そのマルト老が、やる気を見せると、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)がそう答えた。せっかくわざわざ妖精達が自分達を信頼して、伝えてくれたのに、それに応えきれていないのは、心苦しいと。
「まずは情報収集じゃな。女王陛下に、道筋について、聞いてみるとするかの」
その想いは、マルト老も同じだ。と、彼女は王族ならば、洞門の詳しい様子を知っているだろうと提案する。
「可能ですか?」
「まぁ、緊急事態だし。お友達が尋ねてきたのを、無下に断るわけないとは思うわよ」
一花がパープル女史に尋ねると、彼女はそう言って頷く。そして、一行はパープル女史の中立ちで、女王に面会する事が出来たのだが。
「洞門‥‥? もしや、巨木の下にある抜け道の事でしょうか‥‥?」
「そうなのです。何か伝え聞いておりませなんだか?」
マルト老が、普段より多少丁寧な口調で尋ねる。しかし、女王陛下はあまり自信がなさそうだ。と、その様子見たディアッカが、こう申し出た。
「言葉に出来なくても構いません。もし可能でしたら、私が記憶を探り申し上げますので‥‥」
「そんなん使わなくても、俺様ががつんと一発‥‥あだっ!」
その一方で、ヴァラスが力任せなセリフを口にして、またマルト老にさりげなく足を踏みつけられている。
「何でもございませぬじゃ。のう?」
「は、はひぃ〜」
怪訝そうな表情の女王に、ぶんぶんと首を横に降る2人。と、彼女はしばらく首をかしげていたが、こう言ってくれる。
「分かりました。あまり自信はありませんが、思い出して見ますわ」
「ありがとうございます。では、抵抗はしないで下さいね」
程なくして、ディアッカがリシーブメモリーを使って、女王から抜け道の記憶を、自分の意識へと刻み込むのだった。
●巨木の洞門
女王から手に入れたイメージ図を元に、冒険者一行は、巨木の根元にある閉ざされた洞門へとやって来ていた。
「ここが入り口か‥‥。なるほど、確かに何年も封鎖されていた場所じゃのぅ」
アルフェールが周囲を見回しながら、そう言う通り、洞門の奥は、まるで迷宮の入り口であるかのように、黒々とした顎を見せている。
「うわ、埃っぽい〜」
何年も入れ替えられていない空気の臭いに、鼻を押さえながらミカエルがそう言った。未知なる洞門に、知識欲を刺激されているらしい彼女に、ランタンを持ったアルフェールはまるで孫にでも諭すかのように、こう言う。
「魔法使いは後ろに居た方が良いぞ。中になにがおるかわからんでの」
「はぁい」
年長者の意見には、素直に従うミカエル嬢。代わりに、学校で貰ってきたらしいカラフルな糸を取り出していた。そんな中、一行はアルフェールを先頭に、洞門の中へと足を踏み入れたのだが。
「‥‥こう言うとこは大嫌いなんだけどな」
2番手のグラディ・アトール(ea0640)がそう言った。方向音痴の彼、あまり自分がどこにいるのかわからない状況は、好きではないようだ。
「何の為の前衛じゃ。女子供と魔法使いを守るのが、仕事じゃろ」
「わかってるっすよ。だから、こうしてランタン持ってるんじゃないスか」
年上には敬語を使うらしい彼、アルフェールのセリフに、手に持ったそれを掲げてみせる。好戦的ではないが、自分の役目くらいは、心得ていると。
「風は、向こう側に流れているみたい。やっぱり、出口まで続いているみたいだね」
「でなければ、抜け道とは呼べんじゃろ。そうじゃな、今の内にこれを渡しておくぞい」
一方、魔法使い組はと言うと、マルト老が、風の流れを感じ取りながら、向かう道を選別しようとするミカエルに、油壷を渡していた。
「これは‥‥?」
「ただの油じゃ。緊急時に渡すのは難しいじゃろと思っての」
今の内に、必要なものを用意しておこうと言う心積もりのようだ。行き道で、優先的に使えと、そう続ける彼女。
「それはいざと言う時まで取っておいて下さい。さて、壁はグラに任せておくとして、迷って遅刻は話にならないし、確かめながら攻略するとしますか」
「後ろでマッピングしてますわ。何かあったら、声かけてくださいまし」
反響を調べる為の小石を手に、そう言うアル。後ろで、彼が選んだ道を、一花がランタンの明かりを頼りに、木片へ書き込んでいる。
そんなわけで、冒険者達はそれぞれの役割を担いつつ、風の流れの有無と、小石を投げた時の反響の大きさ、そして、くくりつけた糸の目印で、洞門の攻略を目指した。反響が大きい方向は行き止まりと仮定し、その逆をつきながら、と言った調子で。
「それにしても、今回の敵‥‥。不死って言う噂は、本当なのかしら‥‥」
ひんやりとした空気が流れる中、ミカエルは敵‥‥つまり、ギャリー・ジャックとその配下について、色々と考察していた。
「実際に見てみんと分からんが、アンデッドの可能性は高い。今回の面々に、クレリックも神聖騎士もおらなんだから、どっちみち苦戦するのは分かりきった話じゃ」
何度でも蘇ると警告されたゴグマゴク。だが、死体を浄化しない限り、何度でも蘇ると言うモンスターは、決して珍しいものではない。今のパーティメンバーには、神聖魔法の使い手は居ない為、それらの再生能力めいた者を持ったモンスターと戦うのは、骨が折れる事なぞ、充分に考えられると、彼女は言う。
と、2人がそこまで話した時だった。
「くっ。やはりタダでは通してくれない‥‥か!」
殺気を感じ取り、足の止まるグラディ。
「妖精が待ち伏せしてるの?」
「いや、ただのジェルのようじゃな」
ミカエルが尋ねると、アルフェールは首を横に振った。そして、彼が指し示した場所をよーく見てみると、地面に何やら張り付いているのが、ミカエルにも見える。どうやら、先ほどから感じていた違和感は、それが原因のようだ。
「ただのって、それ結構強敵じゃない?」
確か、報告書を呼んだ限りでは、中々倒せないと書かれていたような気がする。しかし、そんな彼女に、マルト老はこう言った。
「大丈夫だ。多少体力は高いが、魔力も素早さもそれほど高くはない。おぬしの炎なら、遠慮なく燃やせる筈じゃ」
「でも、ファイヤーバードじゃ効率悪いし、かと言って、ファイヤートラップに引っかかりそうでもないし‥‥」
洞門を抜けた先で、何が起こるかわからない。あまり魔力は浪費したくないミカエルに、アルフェールが短気を起こして、ラージクレイモアを抜いた。
「えぇい、面倒じゃ、わしの剣でぶった切ってくれる!」
「悩むより、切った方が早そうだしな!」
ヴァラスも、短刀『月露』と、レイピア『ヴァーチカル・ウィンド』を両手に、待ち構えるジェルへと特攻する。
そして。
「ま、ざっとこんなもんじゃわい」
「見たか! 我が斬殺剣を!」
ダブルアタックを心得た彼と、格闘においては神の領域に近いアルフェールにとって、いくら体力が高くても、それほど怖い相手ではなかったらしく、数分後には、ジェルは切り身にされてしまっていた。
「ここにジェルがいるとすると、この抜け道は、ジャック達には知られていないのかもしれんの」
死体を見下ろしながら、そう言うマルト老。確かに彼女の言う通り、もし、この抜け道が知られているのなら、ジェルではなく、レッドキャップ辺りがお出迎えしてくれる筈だと。
「そこまで思考回路が回らなかったのかもしれませんわね」
「だとすると、タイミングを合わせるのが、重要になるね‥‥」
いずれにしろ、知られていないのは確かだ。それを考えると、陽動組の方に、早期に連絡を取るのが重要のようだ。
「見えてきたぞ。出口じゃ」
アルフェールがランタンを掲げたその先に、不気味なベルの音を響かせる、鉛色の空。
「洞門を抜けたら奇襲か。それじゃ、ダイスを振ってみようかな」
顔に氷のような微笑を浮かべながら、アルは妙に余裕めいた表情で、そう言うのだった。
●ゴグマゴクの丘へ
現場についた一行は、まだ洞門出口から外には行かず、見付からないように、離れた所から、陽動班に自身の状況を伝えていた。
「陽動班の人達は、既に配置についたようです。タイミングを合わせて、攻撃して欲しいようです」
テレパシーで、連絡をとっていたディアッカが、配置と人数、そして作戦の内容を、皆へ伝える。
「それを背後から叩けば良い訳だね」
アルヴィスが、毛布代わりにしていたローブを脱ぎ捨てながら、そう言った。多少防御力は落ちるが、これでだいぶ身軽になった筈である。魔法使いの自分にとって、むしろ動きやすい体である方が重要だった。
「わしらが狙うはギャリー・ジャック1人じゃ。わかっておるじゃろの」
マルトの確認に、頷く一行。元より、彼1人に絞るのが、己が役目。
「陽動班、動き始めました。もう少しひきつけてから、攻撃して欲しいそうです」
ディアッカがそう言った。見れば、祭壇の回りに張り付いていたジャックが、陽動班を追い掛け回している。後は、あれを叩きのめせば良いだけだ。
「ふ、はははは! 効かぬ! その程度など、効かぬぞぉ!」
陽動組の攻撃に、血を流すことさえせず、高く笑うギャリー・ジャック。その身体は、ぼんやりと光っている。
「ムクククク、かかったなアホが!!」
「何っ!? 奇襲だと!」
二刀流のヴァラスが、独特の声で笑いながら、ジャックに剣を突きたてた。
「ムハハハハ! ぶった切れろォォォォ!!!!」
背中からダブルアタックを食らわせる彼。まさに狂戦士と呼ぶに相応しい彼の戦い方に、ジャックはゆっくりと振り返る。
「うっとおしい、奴だ」
「へへっ。当たるかよ!」
注意が、ヴァラスの方へそれた。やや緩慢な動作で、方向を変える。
「私が相手になりましょう」
そこへ、立ちふさがるルーウィン・ルクレール(ea1364)。手には既に鎮魂剣「フューナラル」が、オーラパワーで強化してある。
「行きますよ!」
ちょっとした魔法並の威力を持つ剣は、切りかかったそれだけで、ジャックの胸板に、赤い鮮血の花を咲かせていた。だが、流石にボスだけあって、そんな一撃では、動きは鈍らない。
「タフですね‥‥。こうなったら、アレをつかうしかなさそうです」
剣を握りなおすルーウィン。幸い、相手はそれほど早くない。自分の足でも、どうにかなりそうだ。
「あーあ、出遅れちまったな」
開始された戦いに、そう言うグラディ。
「主役は最後に現れるものっての、知らない?」
そう言ってニヤリと笑うアルヴィス。
「‥‥行くぞ、アル。ミスるんじゃねーぞ!」
「それはこっちのセリフだよ」
合図なぞいらない。合わせた背中が、タイミングを教えてくれる。グラは、口の聞き方こそ悪いが、彼の事を心から信頼していた。そう‥‥親なる友として。
「ルーウィンが、削ってるはず‥‥。俺のパワーでも、どうにかなる‥‥!」
岩陰に隠れながら、様子を伺うグラ。その手に、オーラの力が宿る。
「いけ! 俺の闘気よ!」
祭壇を背にした形で、放たれるオーラショット。それはジャックの背中に命中し、ルーウィンを追いかけようとしたジャックを振り向かせる事に成功する。
「おのれ‥‥こしゃくな‥‥」
ジャックはそう言うと、空に向かって何やら合図をした。
「く‥‥ウィル・オ・ザ・ウィスプか!」
現れたのは、光る玉。
「ふむ‥‥。ジャックめ、単体では不利と見て、増援を呼び出したようじゃの」
幾つも現れた雷を纏いし精霊を見て、マルトはそう言った。ウィスプ達は、以前より盛大な光を発しながら、冒険者へと襲いかかる。
「感電する心配がない武器持ってるんでね。相手に不足はないってもんだ!」
オーラソードを唱え、剣を手にしたグラ、ウィスプへと向かう。感電する心配がない分、遠慮はいらない。
「調子に乗らないで下さい! オーラソードだって、無限に使えるわけじゃないんですから!」
「そんな事わかってる!」
相棒の言葉に、グラは腰の辺りを顎で示した。そこには既に、聖剣「アルマス」が収まっている。
こうして、一行は徐々に移動をしながら、祭壇から離れつつあった。だが、離れただけで、ジャックが弱体化したわけではない。それに、グランタのベルは、まだその手の中だ。
「グラディさん、ウィスプ達、押さえて置いて下さいよ!」
そこへ、ルーウィンが助走をつけて、鎮魂の剣を突き刺しに行く。
「うぐぅっ!」
流石に、ダメージの強い技に、膝を折るジャック。蓄積されたダメージと、加速と勢いで与えられた衝撃に、体が耐え切れなかったらしい。
「その程度で、我らが倒せると思うか‥‥」
と、その時だった。一度倒れたと思ったジャックが、まるで蘇るか如きに、再び起き上がったのは。
「先祖の霊がいる限り、我は無敵‥‥ぞ!」
にやりと笑うジャック。彼の身体を包む光が、一段と輝きを増したように、ルーウィンには見えた。
「貴様ら三流冒険者に、我は倒せん‥‥!!」
そう叫ぶと、ジャックの筋肉がむきょりと膨らんだ。
「確かに、魔術師としては三流だけど、氷蝕の術には、自信があってね‥‥」
だが、そんな状況でも、アルヴィスはニヤリと笑っていた。
『吹き荒ぶ氷片は 研ぎ澄まされし刃 幾重にも重なりて敵を断て』
高まる魔力が、彼の掌に集まる。そして。
「アイスブリザードッ!」
魔法の吹雪が、彼から扇状に広がった。範囲にいた者達にふりそそいだ極寒の風は、ジャックを含め、ウィスプ達にもダメージを与えている。
「ひょー、相変わらず派手だな。んじゃ、こっちも頑張るとすっか」
そのまま、高速詠唱を併用して、合計10発近いアイスブリザードを叩きこもうとする彼を見て、感嘆の声を上げるグラ。
「水魔法使いがいるなら、遠慮する事は無いわね」
その思い切った魔法の使い方に、同じ魔法使いであるミカエルも、意志を決めたようだ。ランタンの炎を媒介に、ファイヤーコントロールの魔法で、撹乱しているだけでは、ジャックは倒せないと踏んだのだろう。
「責任はきっちり取ってもらうわよ!」
そう言うと、彼女はファイヤーバードの魔法を唱えた。赤く包み込んだ光は、彼女を文字通り炎の鳥へと変じさせる。
「ミカエルが攻撃する前に、時間を稼いでおかなくてはの!」
彼女が、一度高く空中へ舞い上がっている間、マルト老はそう言うと、グラビティーキャノンを放つ。本当は、高速詠唱は使いたくなかったが、この際、タイミングを合わせるほうが先だ。
「ぐぉぉっ!」
それでも、ジャックは中々倒れない。マルト老も、そんな事は100も承知だ。
「いっけぇぇぇぇ!」
彼女が作り出した隙に、ミカエルは情熱度2割増しの熱いヒールキックをお見舞いする。
「我は負けん! 負けんぞぉぉぉ!」
「悪者は決して勝てないって、知らないの?」
足掻くジャック。そんな彼に、ミカエルは自身の勝利を信じて疑わない。
「若いモンは早いのぅ。わしの出番が削られてしまうではないか」
熱いバトルを繰り広げる若者達に、すっかり出遅れてしまったアルフェールがそう言った。と、そんな彼に、一花がこう告げる。
「いいえ、アルフェール様には、もっと重要なお役目をお願いいたしますわ」
「うむ?」
聞きかえす彼に、彼女が言ったのは。
「笛とベルを奪うのを、手伝っていただきますわ♪」
「あの2つを取り上げねば、話にならんからの」
指し示したマルト老の指先には、ジャックの持つ、グランタのベルがあった‥‥。
●深く静かに回りこめ!
「な、中々倒れませんね‥‥」
「祭壇の破壊はどうなってるんだよ!」
一方では、疲弊するアルとグラ。話では、ジャックに力を与えている祭壇を、他の面々が砕いている筈だが、一向にそうは見えない。
「陽動のほうは、おおむね上手く行っているようです。おそらく、祭壇の破壊が上手く進んでいないのでしょう」
そんな彼らに、ディアッカがテレパシーでそう言った。祭壇から護衛の面々を引き剥がす事は、成功しているのだが、その間に破壊する筈の作戦が、難航しているようだと。
「えぇい、他力本願はやめておけ。我らだけでも、何とかするのじゃ!」
マルト老が、そう言ってアグラベイションの魔法を唱える。続いて、高速詠唱のサイコキネシスを。
「これで、奴の動きは遅くなったはずじゃ。若いんじゃから、もう少し何とか踏ん張れ」
「結構、余裕は無いんですけどねっ」
そして、失われた魔力を、ソルフの実で補給すると、その口に呪を唱える。
「ベルを奪い取れぇ! キラーホーク!」
気付いたヴァラスが、ペットの鷹に命じるが、彼と鷹は、そこまでの調教は進んでいない。
「ベルを奪わせるよりも、こっちの方が効率がいいんですよ!」
「なにぃ?」
キラーホークの代わりになったのは、バックパックに笛を突っ込んでいたディアッカだった。
「残念ですが、演奏が得意なのは、貴方だけではないのです」
既に、グランタの墓で聞いたメロディは覚えている。後は、吟遊詩人として鍛えた楽器演奏能力で、同じメロディを奏でればいいだけのこと。そう‥‥呪歌と言う名の魔力を込めて。
「おのれ‥‥シフールの分際で‥‥!」
悔しがるジャック。
「ムヒヒヒ、おいジジイ、こんなブサイクな石ころどもを復活させてなんかおもしれえのかァ〜?」
「黙れ‥‥」
ディアッカを援護するように、ジャックを狙って挑発や攻撃をするヴァラス。独特な喋り方は、彼の神経を逆なでするには、充分だ。
「ベルを鳴らす暇なんぞ与えるかッ、このマヌケ! ホレホレホレホレホレホレホレホレェエエエエッ!」
「黙れと言っているのが分からんのかぁ!」
ダブルアタックとポイントアタックを兼ねたそれに、ジャックは彼に持っていた棍棒を振り下ろす。スマッシュEXは、彼を弾き飛ばすには、充分だった。
「むう。だが、こっちにはまだこれが‥‥」
彼は棍棒からグランタのベルへ持ち替える。どうやら、さっさと同朋達を解放する方に、切り替えようといったところだ。
「今です!」
だが、それこそが一花の狙っていた瞬間。彼女の合図で、マルトが専門レベルのサイコキネシスを、ジャックへとかける。
「ベルが!!」
奪われまいと、追いかけてくる彼。
「そっち行きました! お願いします、アルフェールさん!」
ディアッカがそう言うと、ラージクレイモアを構えたアルフェールが、ジャックの前へと立ちはだかる。
「任せろ。こう言う時こそ、わしの出番じゃ!」
一対一なら、負けはしない。この為に、毎日闘技場で鍛えに鍛え上げたのだから。
「おのれぇおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇ!!!」
「我が必殺の一撃、食らうが良い!!!」
ぶぅんっと重く風を切る音がして、クレイモアが力の限り振り下ろされる。
「うぐぁぁぁぁ!!!」
ルーウィンのオーラパワーで強化されたその一撃は、ジャックに致命傷を与えるに至っていた。
「死体は墓場で寝てなさい」
とどめとばかりに、一花がクリスタルソードを突き立てる。
「バカな、この私が‥‥」
それは、ちょうど他の面々が、祭壇の破壊を済ませた瞬間。信じられないと言った表情で、ジャックは持っていたベルを落とし、どうと倒れる。
「死んだ、の?」
「たぶん‥‥。今度こそ、ね」
ミカエルの問いに、頷く一花。あの時の様に煙には包まれない。
「どうやら、約束は守れたようじゃな」
ベルをバックパックにしまいながら、そう言うマルト老。望み通り、女王の誇れる隣人のまま、帰る事が出来そうだった。
●油断大敵
だが、話はそれだけでは終わらなかった。
「さぁて、出来たぞ」
森の恵みと保存食を使い、アルフェールが、今回の労いを兼ねて、ごちそうを作ってくれた。
「わぁ、美味しそう〜☆」
「今回はパーティじゃからな。腕によりをかけさせてもらったぞい」
がさつで口も悪く、考える前に突撃してしまう猪突猛進タイプの彼だが、意外とこう言った家庭的な事も得意らしい。そう言えば、顎下のひげはいつも丁寧に揃えられていた。
「あら、やってるわね」
と、そこへ匂いを嗅ぎ付けたのか、姿を見せるパープル女史。その姿に、一花は目をぱちくり。
「あれ、パープル先生、帰ったんじゃなかったの?」
「え?」
彼女の代わりに、ミカエルがそう問うた。怪訝そうな表情のパープル女史。と、ようやく落ち着いた一花、こうきり出す。
「さっき、先生から、女王陛下に渡すからって、ベルを持って行ってくれたじゃないですか。ご飯に誘ったら、用事があるからって‥‥」
グランタのベルを、女王に返す為、綺麗に洗っていた所、パープル女史が現れ、持って行ってしまったのだと。
だが、彼女は。
「あたし‥‥今来たのが初めてよ?」
困惑したような顔で、そう一言。
「何ぃぃぃぃぃ!!!」
直後、偽物にベルを奪われた事を知り、驚く一行。
人、それを油断大敵と言う‥‥。