●リプレイ本文
●紙羊の捕獲
相談の結果、一行はルシフェル・クライム(ea0673)の案により、4つの組に分かれ、それぞれの品を入手しに、それぞれの場所へと赴く事になった。紙羊ことレザーシープには、風霧健武(ea0403)とジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)、フローラ・タナー(ea1060)が担当だ。
牧場管理の村人から話を聞くと、紙羊はメスだけを集めた時に、そこを目指して突進してくるとの事。故に、放牧に際し、雌雄半々に混ぜておけば、滅多には現れない事、大きい方がメスだと思い込んでいる為、雄でも並に太った羊を群れに混ぜておくと、突進してくる事があるとの事を教えてくれた。
現地としても、そろそろ処理が面倒になってきたので、議長にお願いして、冒険者を雇おうとしていたらしい。その為、羊2頭と荷車一台で済むなら、安上がりと話し、風霧の申し出に、快くOKを出してくれた。
そんなわけで、彼は離れた場所に、二箇所ほど罠を設置していたわけなのだが。
「くれぐれも、うっかり自分がはまらないようにな‥‥」
落とし穴と、猟師セット四つで、捕獲用の罠を作り、色つきの布で目印を付けた風霧、追い込み役の2人に場所を教え、注意を促していた。
「俺を誰だと思ってるんだよ。そんなのにハマってたら、商売にならないって」
ニヤリと不敵に笑うJJ。落とし穴ごときに引っかかっていたら、今頃はここにはいない。
「私は離れた場所におりますので、現れたら合図して下さいね」
一方のフローラは、戦闘馬にまたがって、その罠近辺から離れて追い込む事を告げている。2人の行動に、「わかった」と頷く風霧。と、そこへ、上空に飛ばしておいた彼の愛鷹『閃空丸』が、警戒するような鳴き声を上げた。
「来たようだな」
肉食の閃空丸が、ただの獣程度でそれほどの警戒音を上げるとは思えない。そう考えた風霧の耳には、ドドドドド‥‥と言う、激しい足音が響いていた。
「ほ、ほんじゃ。うちらは家で待ってますんでっ」
「めぇぇぇぇっ!!」
それが姿を見せたのは、村人達が退避した直後だ。見た目も鳴き声も、確かに羊だ。
「で、でかっ」
だが、その血走った目と、濁った泣き声は、モンスターそのもの。おまけに、普通の羊よりかなり大きい。遠くイスパニアで挙行されているとか言う闘牛用の牛くらいはある。
「確かにあれは、普通の羊じゃありませんね」
フローラの後ろ頭に浮かんだ汗は、おそらくそんなものが生息している珍しさに対してだろう。
「えぇい、でかいだけの羊に、遅れを取る俺様じゃねぇぜ! きやがれ!」
と、JJは何を思ったか、羊の正面でもって、指を立てる。挑発する彼の姿に、でか羊は闘志をかきたてられたのか、「ぶめぇぇぇぇ!!」とスピードを上げた。
「捕まるかよ!」
「飛んだ!?」
その刹那、ジャンプするJJ。風霧が運搬用に借りた荷車を足がかりに、稼業で鍛えた身軽さをご披露して見せる。
「えぇいっ」
「おぉーーー! 旦那、上手いっすよー!」
遠くから見物していた村人が歓声を上げる中、JJは振り落とされないように、でか羊へとしがみつきながら、こう叫ぶ。
「首根っこは押さえてる。今の内に、何とか誘導してくれー!」
騎乗が得意な訳ではない為、方向を定める事は出来ないが、走り回らせて体力を奪わせる事は出来そうだ。
「分かりました。落とされないように、しっかり捕まってて下さいね!」
「わうわう!」
JJの思惑に気づいたフローラ、愛馬のわき腹を蹴り、羊へと向かわせる。愛犬のボーダーコリーくん、ご主人様においていかれてなるものかと、追いかけてきた。
「ぶもぉぉぉ!!!!」
「えぇい、逃げるなっ!」
しがみつきながら、必死で羊を落とし穴に誘導しようとするJJ。しかし、彼は言う事を聞かず、目印のおかれた罠とは反対方向へ走りだしてしまう。
「方向を変えた? 落とし穴に気付いたか!」
「いえ! どうやら、羊の方に目が行ってるようです!」
風霧の危惧に、フローラはそう叫び返した。見れば、でか羊は単純に、囮として用意していた、丸々太った羊さんの方へ、突進している。
「作戦変更だ。どっちでもいいから、落とし穴に叩きこめ!」
「やってますよ! さっきから!」
彼の指示に、フローラは愛馬のスピードを上げ、羊の進行方向へと回りこむ。即ち、正面へと。
「人の恋路をどうこう言いますが、勘弁して下さいねっ」
「ぶもぉぉぉぉ!!?」
そう言いながら、愛馬の蹄で蹴りを一発。バランスを崩した羊、そのまま落とし穴へまっしぐらだ。そう、JJごと。
「ああっ、JJさん!!」
「俺は平気だ! これくらいじゃ、死にやしねぇ!」
走り寄るフローラ。だが、身軽なJJは羊が落とされる寸前に、飛び降りたらしい。穴からひょっこり顔を出しながら、無事を告げる。
「よし! 今だ!」
「めぇぇぇぇぇ!!!」
そこへ、風霧がそう言って、手裏剣を投げつける。フローラが戦闘馬を降りて、剣を突き立てた。
「グッバイ、シープ。せめて生まれ変わって、新たな恋を探してくれよ!」
「んめぉぉぉ!!」
最後は、JJが羊に敬意を表すかのようにそう言って、持っていたシルバーナイフでトドメを刺す。動けない紙羊、哀れ剣の露と消えた。
「大丈夫ですか? JJさん」
「ああ。逃げ回ってりゃ、怪我はしないさ」
リカバーをかけようとするフローラに、そう答える彼。ちょっとした怪我はあるが、まぁこの程度ならかすり傷だと。
「さーて、仕事も終わったし。他の組はうまくやってるか、見に行くとすっか」
こうして、紙羊を無事ゲットしたJJは、後の処理を2人と村人に任せて、他の面々を手伝いに向かうのだった。
●鱗一枚下さいな☆
ゴールデンガープの所に向かったのは、シフールコンビの、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)と、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)だ。
「ふむ。鯉達は河口付近にいるのじゃな?」
「はい。お魚を買いに行くときに、たまに遠くで見ますの」
地元の事は、地元の人に聞け! と言うユラヴィカの発案で、2人は地元民代表トゥイン嬢から、ガープ達の居場所を聞き出していた。
それによると、ガープ達は河口付近の、比較的穏やかな流れの付近に、時々たむろしているらしい。トゥイン嬢にお歌と鱗一枚で、貸し船屋さんを世話してもらった2人は、とりあえず教えられた場所まで向かったわけなのだが。
「お、やってるな」
2人が色々と聞きまわっている間に、追いついたらしいJJが、貸し船屋に顔を見せる。
「あなたは‥‥」
今まで何度も偽ものにしてやられているディアッカ、名を名乗れとばかりに、警戒した表情を見せた。
「おいおい、警戒するなよ。俺は本物のJJ様だぜ。何か手伝う事あるかい?」
肩をすくめて、おどけた調子でそう申し出るJJ。どうやら本物のようだ。
「じゃあ、小船を漕いで下さい。観光用の船ですから、誰でも漕げます」
「あんまり上手くないけど、気にすんなよ」
ディアッカの要請に、そう答えるJJ。彼にこぎ手をやってもらい、2人はガープがいると言う水域へと向かったわけなのだが。
「さて、鯉達はおるかのぅ」
テレスコープの魔法で、水面を覗き見るユラヴィカ。と、綺麗な金色の背びれが、水面に煌いて見えた。
「どうです?」
「うむ。群れておる」
焦点をあわせなおすと、10匹弱程の群れが、ゆったりと泳いでいる。色とりどりの姿を見ると、間違いないようだ。
「そーっと進んで下さいね。驚かせると困りますから」
「んな事言われたって、元々上手くすすまねーよ」
ディアッカの要請に、そう答えるJJ。船なんぞ動かした事のない彼、いくら観光用の小船とは言え、進みも遅く、結果、望み通りに慎重に進む事が出来た。
「ここらへんで良いですかね。一曲歌うのは」
「うむ。任せたのじゃ」
ユラヴィカがそう言うと、ディアッカがメロディーの魔法を奏でる。歌うのは、お茶会で使うような、友好的な気分になるような曲だ。
「のんびりした曲だなー。仕事じゃなけりゃ、そのまま昼寝したい気分だ」
曲を聞いて、ごろんっと横になるJJ。と、その頭をこんこんと突付きながら、ユラヴィカが文句を言う。
「昼寝したら、わしの踊りが見れんではないかー」
「ぐぅ」
慣れん事して疲れたらしいJJ、そのまま堂々とたぬき寝入り。ぷーっとふくれっ面になるユラヴィカだったが、踊りを見せるのは、JJではなく鯉達である。気を取りなおして彼は、ディアッカの笛に合わせて、水面すれすれで舞ってみせる。と、メロディーと舞の効果で、『僕達を捕って食おうってんじゃなさそうだ』と思ったらしい鯉さん、好奇心からか近付いてくる。
『すみません。鯉さん、ちょっとお願いがあるのですが‥‥』
そこへ、ディアッカがテレパシーを使って声をかけた。『私達の事ですか?』と、返答してくる鯉に、今度は彼を通じてユラヴィカが、こう申し出る。
「うむ。実は、鱗を少々分けてもらいたいのじゃ」
「丘で待ってる兄弟が、なんだか困り事らしくてねー」
メロディー効果でほわーんとした気分になったJJも、そうフォローを入れる。
「タダとは言わん。ご飯やダンス、力仕事なんぞと引き換えにどうじゃ?」
『必要だったら、お酒もありますし』
人間で言うと、爪を少し切り取るようなものだから、何もなしと言うのは、虫が良すぎるだろう。そう思ったユラヴィカとディアッカ、持っていた品々や、楽器をかきならして、交渉している。その様子に、鯉達はなにやらぼそぼそと顔を見合していたが、こう答えてくれた。
『じゃあ、お酒貰おうかな。ご飯は手に入るけど、お酒って、嵐の後にしか手に入らないから』
鯉もお酒は飲むらしい。普段は嵐で荷崩れしたものしか飲めないらしく、御希望は新鮮なお酒のようだ。
「わかりました。では、御存分にどうぞ」
きゅぽっと、ハーブワインの栓を、JJに開けさせて、鯉にかわるがわる中身を注ぎ込むディアッカ。
『あんまり痛くないようにしてね。あと、ぎざぎざになっている方が、僕らも都合が良いから』
どうやら、時々生えているぎざぎざな鱗は、あまり綺麗じゃないので、鯉としても早く生え変わらせてしまいたいらしい。
「なら、リラックスする曲をかけながら、抜かせてもらうとするかの」
それを聞いたユラヴィカ、あまりご迷惑をおかけするわけにいかない為、ディアッカに『気持ちの良くなる曲』をかけさせながら、鱗を抜くのだった。
しかし、謎は残る。確かに鱗はキラキラして綺麗だが、宝石としての価値があるかどうかは、激しく疑問である。
「根っこは何やら薬になるようなのじゃが‥‥、詳しい者にでも聞いて見るかの」
そう提案するユラヴィカ。トゥイン嬢の元に戻り、鱗の由来を問いただす。それによると、鱗もまた、薬になるそうだ。
「リーナちゃん、もしかしたら大怪我したって事か」
「そうとは限りません。もしかしたら、依頼自体が偽物かもしれませんし」
心配そうなJJに、ディアッカはまだ警戒を崩さない。その薬になると言う知識は、専門の者でないと分からないと言うのが、引っかかっているのだろう。
「どっちみち、海賊が狙うような、価値ある品ではないと言う事じゃな」
「残りの品を献上する時に、確かめりゃ良いだろ。兄弟の危機となりゃ、ますます放ってはおけねーな。さて、他の所にも回って見るか」
「紙羊は、私が行かなくても大丈夫だったみたいですし。そうするとしますか」
こうして、品と使用目的を手に入れた3人は、やっぱり他の面々を手伝いに向かうのだった。
●マンドラゴラを引っこ抜け!
その頃、マンドラゴラ抜きに行ったルシフェルと、イフェリア・アイランズ(ea2890)は、ルシフェルの策に従い、管理している村の住人達を、遠ざけていた。
「危険だから、なるだけ村人を近づけるな。死んでも知らんぞ」
耳栓と、マンドラゴラを覆う為の布を用意しながら、そう言うルシフェル。そんなわけで、準備を整えた2人だったが。
「コアギュレイト!」
魔法でもって、マンドラゴラを動けないように呪縛する彼。とりあえず成功はしているようだ。
「よし、これで動けなくなったな。叫び声もこれで出せないと良いのだが‥‥」
その様子に、そう呟くルシフェル。しかし、その保証はどこにもない。賭けて見るには、リスクが大きすぎる為、どうしたものか思案する彼。
「とりあえず、あそこの小さいので試してみるのはどうや」
イフェリアが指し示した先には、その巨大マンドラゴラの周囲に、普通サイズのマンドラゴラが生えているのが見える。彼女が『抜いてみよう』と言っているのは、その中でも比較的小さな株だ。
「そうだな」
そう言って、ルシフェルは同じ様にコアギュレイトをかけた。そして、念の為、長いロープにくくりつけ、耳栓をねじ込み、よいせっと引っ張る。
『ぎゃーーーー』
叫び声が上がった。
「な、何か止めても無駄やな。これ」
「う、うむ‥‥」
じんじんと痺れる大声に、頭を抱える2人。どうやら、コアギュレイトで動きを止めても、叫ぶ事は出来るようだ。
「叫び声を上げる条件が分かれば、なんとかなるかもしれんが‥‥」
とりあえず、動かなくなった事を確かめて、そう言いながらルシファーが転がったマンドラゴラを拾い上げる。
「ひげ、切れとるなー。あちこちかすり傷がついとる」
イフェリアが、自分より少し小さいくらいのそれを、あちこち観察しながら、そう言った。見れば、生えている細かい根がブチブチと切れており、小石や土の破片で、細かい傷がついていた。
「ふむ。どうやらカスり傷でもつくと、叫び声を上げると言った所だな。抜いても、傷をつけなければ、叫び声を上げないかもしれんな」
シフールそっくりの姿形を見て、そう判断するルシフェル。抜くと言う行為でも、空気に触れたからでもなく、『怪我をしたら痛いと叫ぶ』らしい。
「傷つけないように、土を洗い流せばええんやな。ほな、ちょっくら桶借りてくるでー」
それを聞いて、イフェリアは何やら考え付いたらしい。村へと必要物資を取りに向かう。
「おー、やってるなー」
「ちょうどええとこに来た! うちら2人じゃ、手が足りんねん。手伝ってやー」
そこへ、JJが姿を見せた。シフールの腕力では、あの大きなマンドラゴラを流せる量の水が入る桶を運べないと思ったイフェリア、彼を雑用係に捕まえる。
「おう? ああ。穴掘ってりゃいいのか?」
「そうやー。人が入れるくらいのを掘っといてやー」
元々、力仕事を手伝うつもりで来たJJ、借りたスコップで、彼女の指示通り、穴を掘ってくれる。
「まず、マンドラゴラの周囲を掘らないとな。大きいから、その分範囲も広くなるが、仕方があるまい」
一方では、ルシフェルも、村人に手伝わせて、周囲の『安全な範囲』に溝を掘らせていた。
「準備出来たでー」
「よし、関係ない奴は下がってろ」
程なくして、全ての用意が整ったと見たルシフェルは、そう言って作業に当たっていた村人達を、効果範囲外へと避難させる。
「ほいほーい。んでは、運搬開始っと」
そう言って、イフェリアがプラントコントロールのスクロールを広げた。反応してうねうねと動いた枝は、まるで、港の積み下ろし用滑車の様に、マンドラゴラへと向かうのだが。
「あかんなぁ〜。長さ、足らへんわ」
枝が途中までしか届かない。出来るだけ遠くまで延びるものを選んだつもりだったが、ちょっとばかし遠すぎたようだ。
「別のもの使わんとあかんようやなー。えーと、ロープロープ‥‥」
距離を稼ぐ為、材料を探すイフェリア。と、ルシフェルはそんな彼女に、こう提案した。
「いや、無理に引き抜くよりは、叫び声を上げない方法を試した方が良いと思う」
「そやな。ほな、アレ試してみよかー」
彼女が思いついたのは、ウォーターコントロールで水を操り、根っこを傷つけないようにする方法である。
「そーっと持ち上げるんやで。ほな、上から水流そかー」
溝を使い、マンドラゴラを土ごと持ち上げる。それをある程度の高さに固定した後、上からウォーターコントロールで土を洗い落とすイフェリア。
「ひげが切れたら一巻の終わりだからな。慎重に流せよ」
「わかっとるがな」
時間はかかるが、安全に中身を取り出せそうだ。
「大掛かりだなー。さて、次は熊、か」
「うむ。いかに海賊の為とは言え、いっぺんメノウ熊の宝石も見てみたいしの」
ここは任せて平気だなと思ったJJ、宝石に目を輝かせるユラヴィカと共に、メノウ熊退治に向かった面々の下へと向かうのだった。
●宝石が欲しいクマ!
さて、そのメノウ熊担当のアラン・ハリファックス(ea4295)と、セレナ・ザーン(ea9951)は、出没が目撃された村へと向かっていた。
「うっそうとした森ですわねー」
「山ん中だしなぁ。玉のお肌が傷付くぜ」
メノウ熊の行方を追いながら、そう言うセレナに、アランはむき出しの肌をさすりながら、そう言っている。なんだか本当に踊り子風な言動になってしまった彼に、セレナは少々不安気味。普通の熊より大きいといわれるそれに、たった2人で挑もうと言うのだ。流石に緊張は隠せない様子である。
「そうだな‥‥。だがやりがいはある。もう俺様の事を、イロモノ担当だなんて言わせねぇぜっ!」
静かな森の中で、固く心に誓うアラン。熊狩りと言う行為自体が、すでに『ビューティフルな歌い手』とはかけ離れている事に、欠片も気付いていない。
「あんぎゃああ!」
そんな中、森の中に響き渡る、盛大な熊の鳴き声。
「あっちですわ!」
音を頼りにそちらへ向かってみれば、逃げて行く兎に向かって、『待ちやがれ!』とばかりに吠えているメノウ熊の姿があった。
「こうして見ると大きいですわね〜」
特徴のある縞模様。額には赤い宝玉。凶暴な目付きを見ると、雄のようだ。
「ガルルル‥‥」
お腹を減らしたメノウ熊、虫の居所がすこぶる悪いらしく、目の前に現れた人間様を見て、牙を剥く。どうやら彼にとっては、ウサギも人間も同じ食事にしか見えないらしい。
「殺気は分かるって所か」
「私、あの爪を食らって、生き延びる自信ありませんわよ」
じりじりと間合いを取りながら、そう言うアランに、牙よりもなお鋭そうな爪をみて、セレナはそう答える。
「任せろ。盾にはなってやる。んじゃ、手筈通りにな」
「わかりましたわ」
既に、打ち合わせは済ませてある。頷くセレナを庇うようにして、アランは不敵な頬笑みを浮かべ斬馬刀を抜いて、熊の正面へと進み出た。
「グルォォォォ‥‥」
「ククク‥‥。その宝玉、さすがに見事だな」
挑みかかるように、まっすぐ熊の目を睨みつける。両手で持った得物は、示現流で言う所の蜻蛉の構え。もっとも、我流なので、かなり崩れてはいるが。
「貴様に怨みはないが、その宝玉、奪わせてもらうぞ!!」
「グルォォォォォンッ!!!」
たっと地面を蹴るアランに、メノウ熊が吠えた。お前の攻撃なんぞ、とるにたらんと言いたげに、重たい斬馬刀を受け止めてみせる。
「く‥‥。さすがに皮は厚いか‥‥」
「ガォォォォッ!!」
返す刀と言うわけではないだろうが、攻撃を仕掛けてきたアランに、熊が強烈なパンチをお見舞いする。それは、ベアハッグの形でアランを吊り上げていた。
「しまった!」
「グルルルル‥‥」
黄色く濁った牙が、まるで『仲良くしようぜ、兄弟』と、威嚇している。このまま、熊に抱き絞め殺されたとか言ったら、妻にゆっくり眠らせても貰えないかもしれない。
「こ、この程度で俺様が負けるとでも思ってんのかぁぁぁぁ!!!」
そう思ったアランは、渾身の力でもって、その熊の腕を引き剥がしにかかる。
「グォ!?」
まさか、脱出されるとは思わなかったのだろう。ぎりぎりと引き剥がされる腕に、驚くメノウ熊。
「クールビューティを舐めるなぁっ!!!」
「ぐぉぉぉっ!!」
気合一閃。盛り上がった筋肉が、ついに熊の両腕を体ごと弾き飛ばした。
「来い! 相手になってやる!」
刀を持ち直し、正面で構えるアラン。
「グルォォォォォ!!!!!」
熊も、まだまだ闘志は漲っている。吠え声をあげて、その爪でアランを肉塊にしようと迫って来る。大降りの一撃に、アランは意を決してCOの構えを取った。そうとは知らないメノウ熊は、構わずその腕を振り下ろす。
「負けるかぁぁぁぁっ!!」
傭兵として鍛えた膂力で振り回された斬馬刀が、見事に熊の胴体へ決まった。カウンターアタックを食らわされたメノウ熊、ふらつく足でたたらを踏む。
「今だ!!」
合図を送るアラン。と、彼が戦っている間に、背後へと回りこんだセレナが、ラージクレイモアの一撃を食らわせる。
「グルォォォォォッ!」
「早いっ!?」
それでもまだ、熊は倒れない。手負いの姿ながら、今攻撃を食らった相手へ、仕返しをしようと方向を変えてくる。
「セレナッ!?」
「まだまだですわ!」
急所を避けながら、熊の攻撃を受け止める彼女。とらえたと思ったらしい熊、今度こそと言わんばかりに、牙を剥いて、体当たりを敢行してくる。
「グォォォォッ!!」
それこそが、彼女の待っていた瞬間、わざわざ、重いラージクレイモアを選んだのは、わけがある。
「肉を切らせて‥‥骨を絶つ!!」
構えもなく向かってきた熊に、セレナの力を込めた剣が振り下ろされた。ざぐりと重々しい手ごたえと共に、熊の体から、盛大な血飛沫が飛ぶ。
「さ、流石に熊だけあってタフだな‥‥」
それでも、まだ倒れない熊に、アランは呆れたようにそう言った。
「もう一息ですわ。足元がおぼつかなくなっておりますもの」
かなり、傷は与えている。倒すまでもう少しだと思ったセレナ、重いクレイモアを外し、軽い日本刀へと持ち替えている。
「ぐるぉぉぁぁぁぁっ!」
その間に、間合いを整えた熊、もはや倒すのはどちらでも良いとばかりに、雄たけびを上げる。
「最後の勝負に出たか!」
「向かってきましたわ!」
回避術には長けていないセレナ、手負いの攻撃を避けきれない。アランが彼女を突き飛ばそうとしたその時である。
「サンレーザーー!」
天空より降り注ぐ、太陽の魔法。
「大丈夫かい? セレナちゃん☆」
現れたのは、JJとユラヴィカだ。
「ナイスタイミングだ。そのままセレナを頼むぜ!」
彼らにセレナを任せるアラン。これで、心置きなく戦えそうだ。
「OK。ほい、ポーション☆」
「すみません‥‥」
見れば、JJが彼女に手持ちのポーションを飲ませている。
「グルォォォォ‥‥」
その間に、アランはメノウ熊の正面へと立ちふさがる。
「この野郎。よくもやりやがったな。全力でぶん殴ってやるから、覚悟しやがれ!!
薙ぎ払う豪腕の二つ名は、伊達ではない事を思い知らせてやる‥‥とばかりに、剣を掲げるアラン。
「グルォォッ!!!」
メノウ熊が吠えた。突進してくるそれを、オフシフトを使ってかわすアラン。肝心の瑪瑙が傷付くのはまずい。だとしたら、狙うは文字通りその首ひとつ―――。
「その首、貰ったぁぁぁっ!!!」
「グァァァァッ!!!!」
払われたそれに、熊は傷を負った胴を薙がれ、メノウ熊は絶叫を上げながら、どうっと倒れる。
「―――Be gone.」
腰を落とし、荒れた息を整えたアランは、務めて無表情を装いながら、そう呟くのだった。
●前途多難
と言うわけで、無事品物を調達してきた冒険者達は、海賊に指定された店へと向かっていた。
「この際、付近にいるメノウ熊狩り尽くして、余った分を妻にプレゼントしたいところだが‥‥まぁ、しょうがあるまい。紙羊はどうだった?」
「‥‥数頭は捕獲したかったが、無理だった。肉は少し固くて臭みがあるが、加工すれば大丈夫だそうなので、謝礼代わりに村へ渡してきた」
待ち合わせの海へ向かう船上で、そう報告しあうアランと風霧。
「しかし、あのドーバーの海賊と同盟ですか‥‥」
そんな中、フローラはあまり気乗りがしない様子である。
「気が進まないのか?」
「いえ。ただ、一度戦った事があるので、微妙な空気が流れそう。と思っただけですわ」
何しろ、カンタベリーではすでに『議長の右腕』扱いされている彼女。実際は単に色々と頼まれる事が多いだけなのだが、世間の噂ってのは、海上でも千里を走るわけで。
「よう。兄弟。ご指定の品、持ってきたぜ」
船の縁に立ち、海賊相手にニヤリと笑うJJ。と、一行の姿を見た海賊が「お前は‥‥! 潮干狩りン時の!」と、驚いた表情を見せる。
「ほら、ね」
微妙な空気が流れる中、JJはここはアウトロー同士、俺の出番とばかりに、まず相手の船に飛び乗って見せた。
「なるほどな。まぁ、そのなんだ。こいつらは、俺達の敵じゃねぇから、仲良くしようじゃねぇか」
馴れ馴れしいやっちゃなーとは、イフェリアの弁。しかし、彼は全く気にせず、海賊姐さんの肩に手をかけ、引き寄せるようにして、こう囁く。
「リーナ姐さん、なんかあったんだって? 俺でよけりゃ、手伝うぜ。ご同業のよしみって奴で」
「同業だと‥‥? まさか、貴様がここを狙っていると言う‥‥」
以前の依頼で、何か吹き込まれたらしい海賊さん、警戒した表情を見せた。と、JJは軽く肩をすくめて首を振り、ある事をやってみせる。
「違う違う。そーだな、ちょっと失礼」
「って、何をする!」
彼女が気が付くと、ポケットに入れていた筈の護符が、いつの間にかJJの手にスリとられていた。
「なんてね、冗談だよ。ほら」
ケタケタと楽しそうに笑って、それを返すJJ。多少複雑な心境ながらも、『同類』だと知った海賊は、護符を懐に押し込めながら、こう言った。
「ふん。まぁいい。それで、ブツは持ってきたのかい?」
「触らないで下さい。まず、本人かどうか確かめないと」
手を伸ばされる前に、そう言うディアッカ。そしてリシーブメモリーの魔法を唱え、本当に取引相手なのかを、確かめようとする。
「疑り深い奴だねぇ。まぁ、それくらい慎重じゃねぇと、務まらないか」
抵抗する気はなかったらしく、ディアッカは、その海賊の記憶を読み取った。どうやら、本物らしい。
「で、薬ばっか集めて、どうするつもりなのじゃ?」
「おう。実はお頭の火傷が悪化してなぁ‥‥って、何言わせる」
ユラヴィカの問いに、彼女はそう答えた。うっかり素直に答えてしまい、じろりと彼を睨む。
「やっぱり。他にも困ってる事があったら、相談に乗るのじゃ」
「バレちゃあ仕方ねぇなぁ、ついてきな」
占い師の話術で、その『困りごと』を見抜かれた海賊、一行を自分の船に上げ、奥の船長室へと案内してくれる。
「これは‥‥」
そこでは、桶に半分浸かる様にして眠る、首領・リーナの姿があった。水には、薬草と思しき植物が多数浮いており、その肌は、ところどころ焼け焦げて、酷い有様になっている。
「お頭、こないだのドンパチで火傷負ったンだけどよ、どうにも治りが遅くて困ってたんだわ。そこに、こないだの騒ぎだろ。黒の御前陣営から降りたし、どうすっかって相談して、そこのお嬢さんの言ってた事、思い出してよ」
そう説明してくれる女海賊さん。ディアッカが「言ってる事に嘘はないようです。さっき、魔法で確かめました」と、内容を保障してくれた。
「それで、思うような所があるそぶりを見せとったのかー」
「だから、カンタベリーとの関係修復について考えてくださったんですね」
納得するユラヴィカに、セレナが嬉しそうに答えている。
「こいつは、街の医者に調合してもらって、特効薬にするんでな。って、ずいぶんでけぇな‥‥」
マンドラゴラを見て、そう言う彼女。相談の結果、これではなく、お試しで抜いたほうを調合する事になった。切ったらまた叫び声を上げるかもしれないし、病人にそれに対抗できる気力があるとも思えないと言うわけだ。
「ま、議長に付いたら付いたで、色々あるかもしれないけど‥‥頑張れよ、兄弟」
イメチェンを敢行したアランが、議長と『人気があるらしいアランの路線を取り入れて、舞台衣装を制作しようか』だとか、『ほろ酔いベルモットの次回公演内容を決めかねている』だのと言う話をしていた事を思い出したJJは、そう言って彼女達を励ます。
こうして、海賊達との取引は、無事片付くのだった。
‥‥‥‥‥‥たぶん。