僕の髪飾りを返して

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜12月02日

リプレイ公開日:2005年12月04日

●オープニング

 それは、ハロウィンが過ぎたある日、とある邸宅で起きた。
「あんた、目障りなのよ」
「男のクセに、行儀見習いなんて」
「下働きがお似合いってカンジぃ」
 見下す視線でもって、そう言う少女が3人。その目の前には、びしょ濡れの姿をした、ランスくんがいる。
「え、貧乏人」
 声を揃える彼女達。何が面白いのか、指差して笑う。
「あら、良い物つけてんじゃない。あんたには不似合いよ」
「そ、それはっ!」
 と、リーダー格の少女が、ランスの髪に手を伸ばした。彼女が、彼から強引に奪い取ったのは、彼がその綺麗な金髪を留めるのに使っていた、銀の髪飾りである。
「か、返して下さい」
 普段は大人しい彼だが、よほど大切なものなのだろう。必死で取り返そうとする。
「いや、よ。なーんであんたの言う事聞かなくちゃ行けないの。これは、あたしが有効に活用して上げるわ」
 が、少女はそう言うと、ケタケタと笑って自分の懐に入れてしまう。
「‥‥どうしよう‥‥。大事な物なのに‥‥」
 その彼女達が、姿を消した後、ランスくんは、困った表情で、悲しそうに呟くのだった。

 翌日。
「なにぃ? 勤め先のお嬢に、あの髪飾りを取られたー!? なんでそのまま帰ってくるのよ、あんたは」
 パープル女史に、相談しているランスくんがいた。
「こっちは雇われてる身ですから、それほど強気に出るわけに行かないんですよぉ‥‥」
 彼としては、女史が言うような事をしたいわけではないのだが、とりあえず事情を説明する。それによると、アルバイトに行った先のお嬢様方が、とんでもなく我侭で、自分が全て正しいと思っているようなタイプらしい。世の中は金さえあれば自由がきくと思っており、ごくごく庶民のランスくんの事を、事ある毎にいびっている模様。挙句の果てに、大切な髪飾りを、そのお嬢達に奪われてしまったのだ。
「ふむ‥‥。人の事を見下すお嬢様キャラねぇ」
「はい。私自身は、彼女達から見れば『貧乏人』だから、そう言われても、気にならないんですけど‥‥。でも、あの髪飾りだけは、どうしても取り返してほしくて‥‥」
 パープル女史の言葉に、ランスくんは気丈にそう言った。様々な仕事をこなしている彼、雇い先には様々な人間がいる事を理解している。ただ、奪われた髪飾りは、とても大切なものだから、それだけは渡したくないと告げる。
「そう言う事なら、協力は惜しまないわ。てか、むしろそれはギャフンと言わせるべきね」
「いえ‥‥。ですからその‥‥」
 そこまで酷い事はしなくていいです‥‥と言いたいランスくん。心配げな彼に、パープル女史はその頭をなでなでしながら、こう言ってウィンク。
「安心しなさい。あたしも、それなりにわかるつもりよ。あなたの大切な髪飾りは、必ず取り戻してあげるわ」
「はぁ‥‥」
 本当にわかっているのだろうか。少々首をひねるランスくんだった。

 そして、翌日。
「と言うわけで。ランスくんの髪飾りを奪還して、そのブルジョワなお嬢さん達に、庶民の怖さを教え込む為のメンツを募集中よ」
「ブルジョワって‥‥」
 フリーウィルで、こっそりと生徒達を集めて、通達をだすパープル女史の姿があった。
「相手を呼び出すのは重要だけど、向こうは、必要な物は全て与えられている連中だから、物理的な引きは興味をそそられないと思って良いわ」
 そう言って、事情を当たり障りない程度で話す彼女。ざわざわと『どう言うことだろう』と言った表情を浮かべている生徒達に、こう続ける。
「相手が誰であろうと、駆け引きを駆使して、任務をこなすのも、工作員の重要な仕事よ。どっかの御姫様を呼び出して、脅しこむ練習だと思いなさいね」
 確かにそれは、授業としてはやっても遜色のない内容だ。倫理的にあっているかどうかはともかく。
「髪飾りはともかく、このままだと、彼女達もだめになってしまうと思うんです。それで、だと思うんです‥‥今の内にそう言う『お金の有無で人をバカにしない』事を覚えさせる事が必要だと思うんです‥‥」
 ともすれば、そのまま暴走しかねないパープル女史を引き止めるように、そう続けるランスくん。
「あと、本人には、この作戦が知られない様に注意すること! いいわね!」
「「「はーい」」」
 こうして、パープル女史のコネで、極秘裏に依頼が出回るのだった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「フフフ‥‥。随分と面白いコトをしてくれたみたいねぇ〜。ランスちゃんは許したとしても‥‥お礼はたっぷりしてあげるわ‥‥」
 手塩にかけたランスくんを苛められて、妙なスイッチの入っちゃったミカエル・クライム(ea4675)。妖艶な笑いを浮かべ、何やら企んでいる。背後に、灼熱の炎がたぁぁっぷりと盛り上がっていた。
「お義姉さま、なんとおいたわしい‥‥」
 同じ様に、嘆きつつも企んだ顔をしているのは、『ランスくんは兄の若奥様!』と、硬く信じているセラフィマ・レオーノフ(eb2554)。
「”髪飾り”が”神隠し”にあいました‥‥」
「そうそう。髪飾りも無事に見つけて取り戻さないとね」
 それこそ、普段は大宗院亞莉子(ea8484)しか笑わない、大宗院透(ea0050)の駄洒落が、受け入れられてしまうほどに、ミカエル暴走中。
「全くぅ、お洒落ってものが全然わかってないってカンジィ。お洒落ってぇ、その人の美しさを引き出すためにするものなのにぃ。ねぇ?」
 その亞莉子の言葉に、頷くミカエルとセラ。と、エルマ・リジア(ea9311)が残念そうにこう言った。
「可哀相な人達ですね。お家はお金持ちでも、心が貧しいなんて。本当のお嬢様って、心も豊かな人の事だって、気づいてもいない」
 それに気付いたら、こんな騒ぎを起こしていないだろう。そんな表情のパープル女史に、彼女は任せてくださいと言わんばかりに、こう続けた。
「でも、ああいう人たちって引っ掛けるの楽なんですよね」
「ええ、お待ち下さい。必ずあの連中の鼻をあかしてごらんにいれますわ!」
 やる気満々のセラ。無駄に気合が入っている。そんな女の子達に混ざって、見かけこそ女性だが、仕事上の変装な透が、不思議そうに感想めいた疑問を口にする。
「しかし‥‥。パープル先生は本当に色々なことに首を突っ込みますね‥‥。何処から資金がわいてくるのですか‥‥」
「授業の一環にしちゃうから、基本は学校が出してくれるわ。そう言う変換をするの、得意なのよ」
 その質問に、あっさりと、自分のポケットマネーではない事を告白する女史。寂しそうに、「何故かわからないけどね‥‥」と呟くオマケつきで。
「とーにかくっ! 二度と人を侮辱出来ないよう、パープル先生の代わりに教育してあげるわっ!」
 ミカエルが高らかに宣言をし、こうして‥‥お嬢さまへの復讐‥‥もとい、教育作戦が開始されるのだった。

 情報収集は、亞莉子と透の得意分野である。その技能‥‥人遁の術と、話術である‥‥を駆使したところ、彼女達のだいたいの行動を、把握する事が出来た。それによると、出かける時、それぞれの家を馬車で回り、そろって出かけるそうだ。
 んで。
「どうしてこうなるんだ‥‥」
 エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が頭を抱える中、亞莉子は、自身の理美容技能で、持ち込んだ理美容用品一式と、必要備品として、パープル女史あたりから借りて来た、マジカルシード女子制服をアレンジして、ランスくんを、お嬢様に負けず劣らずの美人に仕立て上げていた。無論、自前で女装している透も一緒にアレンジである。
「えーと、まずこれを着て‥‥」
「次は、これだっけ?」
 なんだか、色々なパーツが増えている。それをとっかえひっかえしながら、飾り立てている相手は、ランス少年ばかりではなかった。
「どうして僕まで駆り出されるんですかぁ‥‥」
 ドレスを押し付けられているのは、アルヴィンくんも同じである。まぁ、花嫁育成計画卒業生なので、Hなエルフの若奥様状態なのだが。
「我慢我慢。それに、愛しいエルンスト先生に、綺麗な姿を見せたいでしょ」
「あ、あのっ。僕はそう言うんじゃなくて‥‥っ」
 彼の名前を出され、うろたえるアルヴィンくん。動きが止まった彼に、ミカエルはこう言った。
「亞莉子ちゃーん、このリボン、どこにつけたら良いと思う?」
「頭につけると、せっかくの金髪が台無しになっちゃうってカンジだからぁ、上着の飾りにしても良いかもってカンジぃ」
 レインボーリボンは、胸元に飾りつける事にしたらしい。そんな中、自分で女装の手直しをしていた透が手を上げる。
「終わったらこっちもお願いします‥‥」
「はぁーい。任せてってカンジぃ」
 愛する透からのご指名に、カリスマ美容師気分で、腕を振るう亞莉子。
「だから、何故女装なのだ‥‥」
「気にしない気にしない。それに、衣装一式貸し出してくれたのは、エルンスト先生でしょ」
 ミカエルに突っ込まれて、声を詰まらせるエルンスト。確かに、アルヴィンが身に付けている新緑の髪飾り、魔法少女のローブ、レインボーリボンは、彼の持ち物だ。
「先生‥‥、そう言うの‥‥好みなんですか?」
「いや、違う。勘違いするな。これは福袋の景品で当たっただけで、他意はない!」
 飾り付けられたままのアルヴィンに尋ねられ、慌てて否定するエルンスト。と、そこへ女装の先輩として、透がこうアドバイスする。
「これは、あなたの髪飾りを取り戻す為の変装です。そう思えば、腹も立ちませんよ‥‥」
 確かに、工作員が、目的の為に異性へと変装すると言うのは、良くあるパターンだ。もっとも、ミカエルと亞莉子を見ると、そうは思えなかったが。
「‥‥わかりました。僕、頑張ります」
 それでもランスくんは、大事な髪飾りの為に、覚悟を決めたようだった。

 さて、その後、学生食堂では。
「ねぇ、知ってる? すっごく綺麗な人が、今度転入してきたらしいの。考古学のエルンスト先生のお弟子さんで、花嫁修業も済ませてきたらしくて、立ち振る舞いも花の様なんですって〜」
 お嬢様がお茶を飲んでらっしゃるのを見計らい、そう切り出すセラ。彼女と、ミカエルと、亞莉子の3人は、そのお嬢様の前で、これ見よがしにこう話していた。
「フリーウィルの生徒が、マジカルシードまで聞こえてくるなんて、よっぽどのお嬢様なんでしょうね〜」
「しってる〜。私も見たんだけどぉ。アレこそ真のお嬢様って感じぃ。趣味も良いシィ」
「あたしの聞いた話じゃ、花のように可憐な方なんだって。あれこそ、本当のお嬢様と言んだろうねー」
 ちなみに、セラ、亞莉子、ミカエルの順番である。隣テーブルまで聞こえる声に、お嬢様3人は、ぴくりと表情を引きつらせている。
「反応してる?」
「顔はあわせないけど、雰囲気でわかるってカンジぃ」
 その姿に、額をあわせる庶民なお嬢さん達。ミカエルの問いに、亞莉子がうんうんと頷いていた。
「では、作戦の第二段階へ移行します」
「「了解!」」
 セラがそう明言すると、2人は声を揃えて答え、何ごとも無かったような顔をして、それぞれの役どころへと戻って行く。彼女達とすれ違ったエルマは、小さく頷いて合図をすると、打ち合わせしていた通り、お嬢様へこう声をかけた。
「あの、お嬢様。少々お時間をよろしいでしょうか?」
「何かしら」
 リーダー格と思しき、ロールヘアがつっけんどんな表情で答える。その彼女に、出来るだけ下手に話しかけるエルマ。
「考古学のエルンスト先生から、頼まれまして‥‥。小テストだそうなのですが‥‥」
 申し訳なさそうにそう言う彼女。ここは『出来れば言いたくないのですが、先生に頼まれて仕方なく』と、控えめな態度をキープしている。
「なんであたくし達がそんな事を‥‥」
「出ないと単位が貰えないそうなのですわ。同級生全員らしくて‥‥私も受けてきたのですけれど‥‥」
 彼女達が学校に来ていないのは、既に確認済みだ。同級生‥‥と言うか、同じ学校に所属している筈の、彼女の顔を覚えていないのも、その証拠である。
「だったら、貴方もう1回受けてきなさいな」
「顔を覚えられておりますわ。それに‥‥、最近食堂の方で、噂になっていお嬢様も、お受けになって、簡単なテストだったと仰っていたそうな‥‥」
 ぼそりとそう言うエルマ。その、『噂のお嬢様』の一言に、お嬢様方の態度が一変する。
「‥‥わかりましたわ。いきますわよ、皆さん」
「「はーい」」
 どうやら、他の2人は、そのリーダーに追随している形のようだ。そして、そのエルマが、テストは1人づつと言ってくれたおかげで、教室で待っていたエルンストの前には、リーダー格のお嬢様1人を呼び出す事が出来た。ちなみに、残り2人は、パープル女史が請け負っているらしい。
「ああ、良く来たな。今回のテストは、内容を覚えているかの確認だ。普段、真面目に授業を聞いていれば、答えられる内容だから、心配しなくても構わない」
 エルンストが、厳しい口調でそう言いきっている。うろたえるお嬢様。普段遊んでいるので、彼の授業内容に即した詰問に、答えられないでいるようだ。
「なんだ。こんな事もわからないのか? この間、授業で教えたばかりだろうが」
「うるさいですわよ、庶民のくせに」
 手を緩めるつもりのないエルンストの姿に、とうとうお嬢様、逆切れ。しかし、そこはいつも雷を飛ばしまくっているエルンストの事、それくらいでは動じない。
「学ぶ気がないなら、何故その庶民ばかりの学校にいる。家で家庭教師でも付けてもらえば良いだろうが。答えられるまで、合格させるつもりはないから、覚えておけ」
 逆にお嬢様、3倍量のテストを受けさせられ、予定外の特別補習授業になってしまったようだ。
「よし、しばらくはこれで大丈夫ですね。奈落へ突き落とすには、タイミングが肝心っと‥‥♪」
 相当ダメージが来ているだろうお嬢様の姿に、呼び出したエルマは、しめしめと女装組を呼びに行くのだった。

「まったく‥‥。あとで覚えてなさいよ‥‥」
 そうとは知らないお嬢様、ようやく解放されて、ふらふらしている。と、そこへにーーーっこりと、不必要なほどの笑顔を浮かべて、セラが近づいて来た。
「ああ、終わりましたんですのね。あの、ところで‥‥綺麗なお姉様のうわさ、聞きまして?」
 ロシア出身の彼女、母国ではお嬢様である。これくらいの口調は、朝飯前だ。
「そう言えば、受けてるって言ってましたわね。あら? 2人は‥‥」
「別々のところで、テストを受けているようですわ。だって、たくさんいますもの。それよりも、そのお姉様の居場所を聞いてきたんですの。一緒に見学にまいりませんか?」
 その言葉を聞いて、「ふむ‥‥」と考え込むお嬢様。かなり、興味は引かれているようだ。
「今行けば、もしかしたら、お嬢様の方が優れていると実証できるかもしれませんよ?」
 畳み掛ける様にそう言うセラ。そこへ、示し合わせたミカエルと亞莉子が、聞こえよがしにこう言いながら、通り過ぎて行く。
「すごい綺麗な人だったねぇ」
「うん、大人ってカンジぃ。お洒落のセンスもいいしねぇ」
 お嬢様の耳がぴくっと動いた。悪巧みモードに入った2人は、そこでさらに声を上げる。
「アレに比べたら、この間のお嬢様なんて、ミニチュアもいいとこよねー」
「ジャパンで言う、月とすっぽんってカンジぃ」
「あのペンダントとか、可愛かったよねー」
 ミカエル曰く、お嬢様達は、お洒落に自信がある。そこをつつけば、あっさりと釣れると。
「わかったわ。案内なさい」
 予想通りの反応を示す彼女に、セラは丁重に一礼し、くるりと踵を返す。
「ターゲット確保。作戦を第三段階へ」
「「了解」」
 すれ違いざま、ミカエルと亞莉子に合図を送りながら。

 女性陣+エルンストが、お嬢様達を呼び出している間、問題の髪飾りを探すべく、透は、お嬢様達の屋敷へと潜入していた。
「髪飾りは、3人の性格からして、ペットのアクセサリーに使っていたりというようなことは、考えられないだろうか」
「なるほど。では、そこを重点的に調べてきます‥‥」
 そう言うエルンストの助言により、彼がいるのは彼女達の愛馬がいる、専用の馬小屋である。
「そう考えると、しまってあるのは、この辺りだな‥‥っと、ありましたね」
 施設の中で、馬のアイテムがしまっている場所に、当たりをつける透。と、ほどなくして、見覚えのある銀の髪飾りが、転がり出てくる。
「‥‥さて、バレないうちに、撤収しましょうか」
 それを拾い上げ、大切そうに懐へと収めた透は、使用人達が気付かない間に、さっさと皆のところへ合流する。すると、お嬢様の様子は一変していた。
「だいたい、お洒落にお金が掛かっているいるかなんてぇ、あんまり関係ないってカンジィ。なんかぁ、あなたたちってぇ、アクセサリーに振り回されてるぅ」
 亞莉子のお説教に、お嬢様リーダーってば、すっかり怯えた目をしている。
「って、どんな怒り方したんだ。お前ら‥‥」
 エルンストが、頭を抱えて、呻いていた。
「こちらは上手く行ったようですね。では、これは返してもらいますよ。ランスさん、いるんでしょう?」
「は、はい‥‥」
 その様子に、透がそう言うと、木の影に隠れていたランスくんが、そーっと、姿を見せる。
「あなたたちが見下していたランスだってぇ、こんなに綺麗になんだよぉ」
「これに比べたら、貴方達なんて、へなちょこも良い所ですわ。うふふふふ」
 亞莉子とミカエルが、自慢げにそう言うと、お嬢様、「申し訳ありません、御主人様ぁ〜」と、下僕根性が染み付いちゃったセリフを口にしている。
「だから‥‥なんで女装なんだ‥‥」
 依頼そのものは上手く行った様だが、なーんか納得行かないエルンスト。と、そんな中、セラが女装ランスくんに、こうきり出した。
「ねぇお義姉さま、今度はぜひあんなエセお嬢に取られにくい物に致しましょう。指につけるもの‥‥兄は中でもとても良いものを手に入れたそうですわ! 自慢してましたの。直接お渡ししたいんだそうですよ☆」
「あ、ありがとうございます。それじゃ‥‥、次に何か頼まれる事があったら、パープル先生にお願いしてみますね」
 心なしか嬉しそうな彼。と、同じ様に女装させられちゃったアルヴィンくん、何を思ったか、エルンストに貰った指輪を握り締めている。
「‥‥お前、微妙に乙女入ってないか?」
 その姿に、不安げに尋ねるエルンスト。
「え? そ、そんな事ありませんっ。僕はただ、その‥‥先生と一緒に居られると嬉しくて‥‥っ」
 言い繕うアルヴィン。姿が女の子だけあって、まるで説得力がない。
「ま、お前が好きでやっている事なら、文句を言う筋合いじゃないがな」
 少々呆れた風情のエルンストに、アルヴィンくんは悲しそうな表情を浮かべていた。
「お金なんてなくてもぉ、愛があれば幸せってカンジィ。ねっ、透☆」
 そんな彼らを尻目に、いつも通り、透へ抱きつく亞莉子だった。