●リプレイ本文
●とんぼ帰り
一度、キャメロットに戻った冒険者達だが、レオンからの連絡に、再びイブスウィッチの遺跡へ向かう事になった。
「こーんにーちわっ♪ 神聖騎士のピアだよ。よろしくね〜☆」
馬車に乗り込みながら、明るくそう挨拶するピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)。ともすれば暗くなりがちな車内で、その明るさが、雰囲気を上向きにしてくれる。
「今度は遺跡に封印されてた、『何か』を鎮めなくちゃいけないんだよね?」
「おそらく、クエスティングビーストだとは思うのですが‥‥」
確かめるようにそう問うて来た彼女に、頷くフローラ・タナー(ea1060)。と、琥龍蒼羅(ea1442)がこう続ける。
「ともかく、目覚めたものが、遺跡に関わる重大な存在だというのなら、正体を確かめる必要があるだろうな。操られているのなら、説得することは出来ないだろうが、そうでないのなら、戦う意思が無いと言う事を分からせれば、戦わないで済むかも知れんし」
レオンの見た夢では、黒の御前と、その謎の女性を一度に相手にするのは、難しいらしい。と、ルシフェル・クライム(ea0673)がその意見に頷く。
「なるほど。『目覚めたもの』を鎮めること‥‥か。ならば、まず全員で整合を取り、作戦見解の相違を無くした方が良かろう。決行してから相違があれば命取りになりかねないであろうし」
攻撃を始めてから、ああでもないこうでもない‥‥とやりはじめると、黒の御前につけこまれてしまう。
「じゃあ、こんな感じでやれば良いかなっ」
それを聞いてピアは、持っていた小石を使い、馬車の床に、だいたいの作戦案を並べ始める。
「悪くない策だが、御前がそう簡単に撤退するかどうかだな」
「うーん、それは確かに‥‥。足止めするにしても、こないだの事もあるし‥‥。けど、『何か』の側には、御前君っていうのが居る可能性が高くって‥‥どうしようか」
ルシフェルに言われて、頭を抱える彼女。下手につつくと、またフローラが操られてしまう可能性はある。と、その本人が、こう言い出した。
「それなのですが‥‥、以後、私の事は『ジャンヌ』と呼んでくれませんでしょうか? このままの状態では、また‥‥操られかねませんし‥‥」
彼女は既にその緋色の目立つ髪を隠し、フードを目深に被っている。トレードマークの純白の衣装はなりを潜め、いつも肌身離さない意匠の十字架も見当たらなかった。
「ほほー、全然印象違うな」
「あの人、見かけで判断していたみたいだしね」
ここまで違えば、口調を変えてしまえば、彼女だとわからないだろう。だが、それでも安心は出来ない。そう主張するフローラは、ルシフェルにこう頼み込んだ。
「もし、この状態でも操られたら‥‥その時は、遠慮なく仕掛けてください。気絶させてもらって構いませんので」
「‥‥わかった」
頷く彼。と、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)が彼女の頭に乗り、こう言ってくれる。
「傷物にしたら、議長に怒られそうですけど、仕方ないですしね。レジストメンタルがかけられれば良いんですけど、私のレベルでは、他の人にかけられませんし‥‥」
「ありがとう、ディアッカ。その心遣いだけで充分ですよ」
まだ、遺跡につくまでは時間がある。今の内に、元の口調のまま礼を言うフローラ。
「詳しいことは殆ど分からないけれど、それでも何かが起こってることがわかっただけ充分。戻ってきたばかりだけれど、遺跡に急ぎましょうか」
ステラ・デュナミス(eb2099)が馬車を急がせた。こうして、冒険者達は、遺跡へととんぼ返りするのだった。
●遺跡突入の前に
数日後。
「さて。ウォームアップはこの程度かな‥‥」
魔剣トデス・スクリーを鞘に収めたアラン・ハリファックス(ea4295)がそう呟く。
「さて、戦うと叫び声を上げるそうだが、言う事を聞いてくれるかな‥‥」
今回使用するのが初めてな魔法剣の為、ある程度クセを掴んでおきたいようだ。
「イメージはこんなものです。ユラヴィカ」
「難しいのぅ‥‥」
一方では、レオンからリシーブメモリーで星読みの詳細を受け取ったディアッカが、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)にも伝えている。彼のしかめっ面を見たステラは、こう呟いていた。
「デビルに、正体不明の『何か』‥‥。人数を考えると頭の痛い相手ね。まあ後者は倒すのではなく、鎮めるのが目的だけれど‥‥」
難問と言っていいだろう。と、既にジャンヌとなったフローラが、こう警告してきた。
「相手はデビルだ。武器耐性や変身、特有の魔法に気を付けておくと良い」
「特に御前は強力だからねぇ。レジストデビル‥‥っと」
その言葉に、ピアは自分へ魔法をかけている。勢い、野営地となったそこでは、アランが自分の愛驢馬『ヴェネト』を、安全な場所に待機させていた。ステラのミーティスも、同じである。
「うみゅう‥‥。レオン殿の夢見を判断するに、イメージは、探索の獣が御前の手に渡ったことを示しているようなー。でも、探索の獣は月のエレメントらしいから、微妙にイメージずれるのじゃが。わしら、前の依頼失敗しちゃったようじゃ。あううぅ」
頭を抱えているユラヴィカ。しかし、記録係からの報告では、依頼が失敗したわけではなく、何か別の要因で、復活してしまったようだ。と、ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)が遺跡の方を示しながら、こう言って来る。
「それは、本人に聞けば分かるじゃねぇの? さっきから、気配がここまで漂ってきやがるし」
彼の鋭敏な感覚には、殺気とも思える気配が、ぴりぴりとうなじ辺りを刺激してきている。と、それを聞いたユラヴィカは、「ちょっと見てみるのじゃ」と言って、テレスコープとエックスレイヴィジョンを唱えた。
「こ、ここで引くわけには‥‥」
その魔法の目に飛び込んできたのは、鎧を砕かれ、やっとの思いで立っている‥‥と思しき、少年の姿だった。
「大変じゃ。カルディス殿が、こてんぱんにされておる!」
慌ててそれを報告するユラヴィカ。
「ち‥‥。もう始まっていたようだな‥‥」
すでに、復活の儀式は終了してしまっているようだ。そう思ったJJは、急ぎ、彼が指し示したカルディスの元へと向かう。他の冒険者達と共に。
「カルディスくん、大丈夫?」
「お前ら‥‥どうして‥‥」
助け起こすピア。怪訝そうな表情を浮かべる彼に、ユラヴィカが事情を説明する。
「知り合いの占い師に教えてもらっての。慌てて取って返したのじゃ」
「さて、何に会わせて貰えるのかな? どうせなら、美人であるある事を願いたいモンだけどね」
顔を上げるJJ。その正面には、まだ煙に包まれた人影。
「ならば、よく見ておくが良い‥‥。クエスティングビーストが、どんなものなのかを」
「元よりそのつもりさ。最善の状況判断が出来るように‥‥な」
カルディスの口ぶりからすると、その土煙の向こう側にいるのが、クエスティングビーストなのだろう。そう思ったJJは、一挙一動逃さぬように、目を凝らす。
「あれは‥‥!」
土煙が収まった時、現れたのは褐色の肌を持つ、上品な印象の女性だった。ただし、まるで踊り子の様に露出度の高い衣装と、古い時代のアクセサリーを身に付けていたが。
「おやおや。お仲間でも召喚しましたか」
その側には、にこやかな笑みを浮かべる白い服の青年。そう。この事件の黒幕たる存在、黒の御前がいた。
「おのれが1匹いれば30匹の親玉かーー!」
「そんな人聞きの悪い。せめて1万匹って言ってくださいよ。もっとも、少なく見積もって、ですけど」
ユラヴィカが問い詰める様にそう言うが、彼は笑みを崩さぬまま、さらに煽るような事を言う。それでも、立ち上る気配は変わらない。
「なんて奴じゃ‥‥」
ユラヴィカがその面に戦慄の表情をのぞかせる中、彼は既に復活したクエスティングビーストを、こうそそのかす。
「ふふ。さぁ‥‥私に見せて下さい。その力を、存分に!」
「久しぶりだしな‥‥。良いだろう。どれほどか、試してやる‥‥!」
見た目とは裏腹に、かなりぞんざいな口調のクエスティングビースト。
「こりゃあ、一筋縄ではいかなそーだなー‥‥」
ある程度の距離を取りながら、その魔力に、厳しさを隠しきれず、JJはそう呟くのだった。
●何かの正体
数分後、遺跡の影に隠れながら、冒険者達は、様子を見る事しか出来ないでいた。
「ともかく、あの娘さんを鎮めないと、近づけないよ〜」
ピアがそうぼやいている。と、ルシフェルもこう呟く。
「上手い事接触できれば良いんだが、張り付いている御前達が邪魔だな‥‥。此処で、御前にだけ接触出来たならば、そのまま撃退させれば良いんだが‥‥」
もし、ここにいるのが、どちらか片方なら、全員の力でどうにかできそうなものだが、張り付いている御前は、おそらくそれを許さないだろう。
「そうは言うけど、あの娘さんの力も借りないと難しくない?」
「でも、その黒の御前さんとやらが、素直に自分の手駒にした娘さんを手放すとは思えませんよ」
ピアのセリフにステラも頷く。その証拠に、周囲にはインプやクルード、グレムリンと言った下級デビル達が数匹、跳梁跋扈している。しかも、雰囲気からして、普通のデビル達ではあるまい。
「そこに隠れている冒険者さん達。出てこないと、潰されちゃいますよ☆」
彼らに囲まれながら、ともすれば、ハートマークでも浮かんでいそうな口調で、そう言う御前。
「厄介な力量ですね」
「とりあえず両者を引き離さないと‥‥。言うは易く行なうは難し、だけど」
セレス・ブリッジ(ea4471)が苦笑しながらそう言うと、ステラは、やはり分断するのが上策だと告げる。
「あいつを相手にする班と、目覚めたものを誘い込む班にわかれれば、どうにかなるだろう」
ルシフェルが、そう言って打ち合わせ通り、冒険者達を二つに分けている。と、その最中、ピアは手当てを受けていたカルディスに、こう尋ねた。
「カルディスくん。クエスティングビーストが、どう言う存在だか知ってる?」
「精霊の獣だと言う話は聞いたが‥‥」
俺も兄上から聞いただけで、詳しい事は知らない‥‥と首を横に振る。しかし、先ほどから月魔法を使いこなしている所をみると、どうやら間違いはなさそうだ。
「だったら、アレが使えるね。私も、エレメント系じゃないかって予測はしてたんだ」
確信に満ちた表情で、そう続けるピア。そして、引き寄せ班のメンバーに向けて、こう告げる。
「あっちにダークを仕掛けておいたよ! そこまでもたせれば、どうにかなる筈!」
結界を作る短剣は、精霊に属する存在に、僅かだが制限をかけるものだ。気休め程度だが、囮役としては充分だろう。
「道を作る。誘導しろ!」
ジャンヌが同じ短剣を取り出して、そう言う。発動時間に差はあるが、積極的に仕掛けてこない御前の動きが幸いし、周囲に結界が広がって行く。
「ん‥‥。なんだこれは‥‥」
僅かに重くなった身体に、そう呟くクエスティングビースト。と、側に居た御前が、いらぬ事を言う。
「どうやら、あなたを拘束しようという事のようですねぇ」
「人間どもめ。再び我を封印しようとは、な!」
その言葉に、彼女が力を放つ様な仕草をすると、地面に突きたてられた短剣の影が弾ける。
「すごいパワー‥‥。後は頑張ってね、誘い込み役の人☆」
おかげで、抜けてしまった短剣を拾い上げながら、明るくそう言うピア。
「しゃあねぇ。とりあえず、御前に一緒にいられちゃあマズいしな。悪いけど少しだけ挑発してみるか」
彼女が言うほど、状況は明るくはない。それでも、セレスが「魔法で援護します」と言って、ストーンウォールで壁を作ってくれた。
「やはり、俺にたてつこうと言う腹のようだな!」
その他、プラントコントロールで、足を止めようとする彼女を見て、そう叫ぶクエスティングビースト。と、そんな中、JJは作り出した壁の上で、こう投げかける。
「そこの綺麗なお姉様、俺に付き合ってみちゃくれませんかね!?」
「これでも歌い手でね。熊といっしょにしちゃ、不機嫌になりますか?」
付き合うように、魔剣を構えるアラン。ただし、一撃を与える構えではない。あくまでも、彼女を挑発する為のもの。
「俺をバカにする気か! 良いだろう。己の愚かしさ、存分に味わえ!」
クエスティングビーストは、そう言うと、影から影へと移動するように、彼らの中へと乱入してくる。
「仕掛けてきました。後退を開始して下さい」
「‥‥わかった」
ステラの合図に、頷くジャンヌ。
「出来れば、女性とは戦いたくないんですが‥‥。仕方がないですね!」
そう言って、セレスがグラビティーキャノンを放つ。女性を傷つけないよう、そして味方を巻き込まぬよう、わざと初級で、転倒だけを狙って。
「ほざくな! 雑魚が!」
しかしそれは、かえって彼女の怒りを煽ってしまったようだ。そんな彼女へ肉薄するクエスティングビースト。
「あぶねっ!」
「すみません‥‥」
JJが、セレスの手を引き、地面へと転がる。すぐさま立ち上がった彼は、彼女にこう言った。
「お前らは下がってな。アイツの相手は、俺達がやる」
「逃げるんじゃねぇっ!」
そこへ、折りしもクエスティングビーストが、ムーンアローの魔法を唱える。離れていても届くそれは、精度が高いせいか、威力も充分だった。
「アイスブリザード!」
そこへ、ステラが魔法を放つ。本来、ダメージを与える筈の魔法だが、彼女の抵抗値は高いのだろう。大したダメージは与えていない。
「くそ‥‥っ! 吹雪が‥‥!」
その代わり、その向こうから、クエスティングビーストの悔しげな声が漏れていた。魔法は一瞬だけ、彼女の視界を奪ったらしい。
「今の内に、分散しろ。他の連中は、時間稼ぎだ」
アランのセリフに、一行は御前と探求の獣、2班に分かれるのだった。
●黒の力
アラン達は、クエスティングビーストの相手を、JJに任せ、黒の御前と対峙していた。
「また会うとはな‥‥。前回は、その胸糞悪い笑顔を斬り潰せず、残念だったよ」
意味ありげな表情で、そう言うアラン。と、御前の方も、にこやかに応対する。
「おやおや。そこの方々は、どうしても私と遊びたいようですねぇ」
ふふふ‥‥と含み笑いの漏れるそこだけを切り取れば、どちらが悪役なのか、まるでわからない。
「当たり前だ。貴様が居ては、後々の害になる」
「そりゃあそうでしょうねぇ。そーゆーの、お仕事ですから」
アランの文句に、平然と答える黒の御前。完全に冒険者達を格下に見ているようだ。
「余裕だな‥‥」
「見くびられたものねー」
実際、その通りなので、反論出来ないアランとピア。そんな中、ステラがこう言い出した。
「さて‥‥引き付け役の人たちに無理もさせられないし、早く御前さんを撤退させないと!」
頷くピア。ホーリーパニッシャーを御前めがけて振り下ろす。
「全力で行くよ! でなきゃ、撤退させられないもの!」
「えぇいっ。初撃が大事っ!」
それにあわせるように、ステラがアイスブリザードを放つ。雪嵐が吹き付けられる中、ユラヴィカもまた、サンレーザーを打ち込んでいた。
だが。
「甘いですよ」
手ごたえはあった。だが、生贄となったのは、周囲にいた下級デビルだ。
「効いておらんのかのぅ?」
「いや、抵抗されているだけだろう」
ユラヴィカが、ダメージを与えていない事に気付き、そう言った。だが、蒼羅の言葉を借りれば、魔法抵抗の出来ないものを撃てば、勝機はある。
「食らえ! 風の息吹を!!」
それを証明するかのように、彼はリュートベイルをかき鳴らした。それを合図に、ピア達が効果範囲から、身を引く。刹那、高速詠唱で組み上げられた魔力が、竜巻となって襲いかかった。
「やれやれ。この程度の風で、舞い上げようとはね。いやぁ、面の皮には、自信がありまして。その程度では、私に傷は付かないんですよ」
一瞬、浮き上がる御前。しかし、地面に降り立っても、その笑みは変わらなかった。
「さすがに強いな‥‥」
「細かい傷は、増えてる様に見えるんだがな。それに、仕掛けてもこないし‥‥」
デビルのボスクラスだけあって、それなりに強敵だ。レジストデビルをかけたのが幸いし、自分達にもダメージは少ない。だが、戦いは膠着状態に陥っていた。
「ちょっと御前くん! 戦う気、あんの!?」
「ありませんねぇ。残念ながら」
ピアが挑発を兼ねてそう叫ぶが、気乗りはしませんねぇ‥‥と、彼は首を横に振る。挑発には乗らない御前に、ピアは「この‥‥」と、悔しそうな表情を浮かべた。
「どうしても、相手をしてもらわなければならないんだがな!」
ルシフェルがルーンソードを打ち込むものの、やはり御前はのらりくらりと、雑魚を壁代わりにしている。
「邪魔は、どいててよねっ!」
「なるほど。この程度では、役に立ちませんか。では、同じクラスのお品を用意いたしましょう」
ピアが、その雑魚達を、スマッシュで打ち据える。と、それを見た御前は、『同士討ち』と呟く。
「く‥‥。またか!」
びくんっと、嫌な感覚が走りぬけるジャンヌ‥‥否、フローラ。カタカタと、自分の身体が意に沿わなくなる。その兆しを、ルシフェルが見逃さなかった。
「躊躇いなぞ、しないっ!」
スタンアタックが振り下ろされる。意識を失う刹那、彼女は持っていたバックから、ルーンソードを手渡す。
「アラン、これを‥‥!!」
「すまないな。だが、それが希望だっ!」
魔剣よりも、ほんの少し威力の上がる剣。それに持ち替えた彼は、一気に近付き、御前へ振り下ろす。
「ほう‥‥」
彼の表情が、僅かに変わった。手ごたえと共に、血が一筋、流れ落ちる。
「‥‥―――想定内だ。狙い過ぎたな」
「そうでしょうかね?」
勝利を確信したアランに、御前はそう言った。どうやらやはり、手を出してくる気はなさそうだ。それを見たルシフェルが、アランにこう言った。
「引くぞ」
「しかし‥‥」
まだ、戦える。そう言いたげなアランに、彼はこう言う。
「今の目的は、クエスティングビーストを鎮める事だ。あいつを倒す事じゃない」
「‥‥わかった。覚えてろよ」
我ながら、悪役めいたセリフだと思いつつ、彼は踵を返す。追っ手をかけられる気配はない。
「話はまとまったようですね。では、またお会いしましょう」
御前の揶揄の声が、アランには妙に癪に障るのだった。
●鎮魂舞
その頃、クエスティングビーストに当たったJJ達は、黒の御前からだいぶ離れたエリアへとやってきていた。
「ここまでくれば大丈夫かな‥‥」
歩みを止めたJJが振り返る。と、すぐ後ろにぴたりとつけていたクエスティングビーストは、冒険者達が半数に減っている事に気付く。
「どこまで逃げるつもりだよ。ん‥‥。数が少なくなっているな‥‥」
「彼らには、ちょっと野暮用があってね。あんたのお相手は、俺達が」
そんな彼女に、優雅に一礼するJJ。
「見くびりやがって。たった5人で、何が出来る?」
「さぁな」
クェスティングビーストの問いに、JJは持っていたシルバーナイフを収めた。
「剣を降ろしただと?」
「無理につき合わせてすまない。でも、危害を加えるつもりは無いんだ」
それを見て驚く彼女に、彼はそう告げる。と、背後からユラヴィカとディアッカがぴょこんっと飛び出してきて、交互にこう言った。
「わしらは、そなたに敵意はないのじゃー」
「ですから、鎮まってくださいませんか?」
ディアッカの、鎮魂を祈る曲に合わせ、祈るように踊るユラヴィカ。テレパシーで、直接頭に語りかけるディアッカに、クエスティングビーストは怪訝そうな表情を浮かべる。
「鎮まるだと‥‥?」
「大人しくなって欲しいわけだ。ところで、あんたは自分の意思で動いてるのかな?」
JJの解説に、彼女の動きが止まった。
「自らの意思‥‥。意思だと‥‥?」
悩んでいるようだ。まぁ、元々は獣。人間の言葉を認識するのに、多少時間がかかるのかもしれない。
「こっちは大丈夫だ。フローラも回収してある」
そこへ、ルシフェルが、他の面々を引き連れて顔を出した。その背中には、気を失ったフローラがいる。
「ん‥‥」
「目が覚めたようだな」
程なくして、目を覚ます彼女に、ルシフェルはほっとした表情を見せた。これで、議長には怒られずに済みそうだ。
「お前達‥‥あの男はどうしたんだ?」
「追いやったさ。これで、君を縛るものは何もない」
そんな中、JJが説得する様にそう告げる。
「俺は縛られてなどいない」
「ならどうして、俺達に敵対しようってんだ?」
男性口調で言い切るクエスティングビーストに、そう問いを投げかける彼。戸惑う探求の獣に、ルシフェルの背中から降りたジャンヌが、こう続ける。
「我らは君に敵対する者ではない。話し合いに来た。さっきの男とは話ができ、我らとは話ができぬわけではあるまい」
その間も、浪々と響くディアッカのメロディー。それは、獣の心を落ち着けようとする曲。
「俺はお前を傷つける者か否か‥‥。俺には分からない。お前が知ろうともしていないのだから」
そんな彼女に、アランがそう言った。と、クエスティングビーストは、驚いた様にこう言う。
「知る? 我が知る必要などない。我は与える者。知るとはなんだ?」
「知るとは、歩み寄る事。あなたはの名は?」
彼女がもはや、魔法を使う気がない事を見て取り、ジャンヌは元の口調へと戻り、歩み寄る。
「我が名はクエスティングビースト。探求の獣、唸る獣。人は、そう呼ぶ」
「私の名は白騎士フローラ・タナー。先の男との因縁でこのような姿をし、偽名まで使いました。それについては申し訳ありません」
フードを取り、膝を付く彼女。そして、クエスティングビーストを見上げ、こう語りかける。
「あなたは何を望んでいるのですか?」
「俺の望みだと‥‥? そなたらは、私を狙う者ではないのか?」
おそらく、人として扱われるのは初めてなのだろう。クエスティングビーストは重ねて問うた。
頷く冒険者達。それを代弁するかのように、フローラは問いかける。
「まずはあなたの名前を教えていただけませんか? 探求の獣やクエスティングビーストではなく、あなたの名前を。互いを知るのは、そこからだと思うのです」
「俺自身の名? そんな物はない」
クエスティングビースト、探求の獣、唸る獣、それこそが自身の名だと、彼女は言う。
「ならば、ウィッシュとお呼びしましょう」
「‥‥好きに呼べ」
名前を付けられ、照れたようにそっぽを向く探求の獣‥‥いや、ここではウィッシュと呼ぼう。どうやら、気に入ってはくれたようだ。
「あれ? ウィッシュちゃん、どこへ行くんだ?」
遺跡の外へ歩き出す彼女に、JJがそう問うた。と、ウィッシュは目を瞬かせる。
「どこへ? 異な事を聞く奴だな。お前達、聖杯城へ向かう為に、私をたたき起こしたのではないのか?」
「聖杯城? なんだそれ」
何だか重要そうな名前ではある。本能的にお宝が眠っていそうな名前だな‥‥と嗅ぎ取ったJJに、ウィッシュはこう告げた。
「文字通り、聖杯が収められた城だ」
「えぇぇぇぇっ!?」
驚く冒険者達。まぁ、当たり前の反応ではある。
「確か‥‥マビノギオンと言う名だったと記憶している。ずいぶんと長い時がたっているようだが、崩れていないと良いな」
「じゅ、重大事項を聞いてしまったようですね‥‥」
そう呟くフローラ。半ば予想はしていた事とは言え、大変な存在に関わってしまったと思う冒険者達だった。