【赤の呪縛】薬草を求めて
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2005年12月15日
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●オープニング
それは、キャメロットで起きた聖杯騒動が、一段落付いた頃に起きた。
「おかしい‥‥」
部屋で上着を脱いだまま、そう呟くパープル女史。むき出しになった上半身。その背中には大きな傷跡。そして、力なくぶら下がった左腕。彼女はそこに、薬草を湯に浸したものを、布で押し当てている。その湯気を見れば、かなり熱い事は明白だったが、彼女は顔色1つ変えずに、それを扱っていた。
「酷くなってるわね‥‥。薬草の効果、なくなってきたのかしら‥‥」
そう呟くパープル女史。彼女は、一通りの手当てを済ませると、上着を羽織り、そのままケンブリギルドへ向かう。
「薬草‥‥ですか?」
「ええ。南の‥‥ほら、妖精の森よ。あそこには、珍しい薬草も生えてるみたいだし。ちょっと採って来てくれないかしら」
ギルドで、受付嬢に依頼を出しているパープル女史の姿があった。
「大丈夫でしょうか」
「ちゃんとお断りを入れれば、大丈夫だと思うわ。友達の頼みだし。無理難題を強いているわけじゃないから」
ちょっと庭先に生えている、珍しい花を貰ってくるだけよ。と、受付嬢に告げる彼女。確かに、それでテリトリーを荒すわけではない。話せば、分かってくれるだろうと、彼女は言う。
「それもそうですね。それで、どういった薬草を?」
「麻痺に効く薬。確か、図書館かコレック卿の店で、逆療法の元になる薬草を見た覚えがあるの。それを採って来て貰おうと思って」
それほど、難しい依頼ではなさそうだ。そう思った受付嬢は、羊皮紙を出してきて、その薬草の形と色を、記録しようとする。
ところが。
「どんな形しているか、教えてくれます?」
「確か‥‥あっ」
受付嬢に言われて、ペンを取ったパープル女史だったが、何か書く前に、それを取り落としてしまう。
「だ。大丈夫ですか?」
「え、ええ。こんなんだから、ついて行くに行けなくて」
寂しそうな彼女。と、それを聞いた受付嬢は、納得したようにこう申し出てくれる。
「わかりました。確かなものは、店か図書館にあるのですね?」
「ええ。もしかしたら、妖精の住人に聞けば良いかもしれないけど、中々捕まらないしね」
パープル女史の応えに、受付嬢は『確かめてみます』と、共に図書館へ向かったのだが。
「あれ? ここ、破り採られてる‥‥?」
そこにあった薬草図鑑は、肝心のページだけが、そっくり切り取られている。
「あーっ! 先生! 何やってるかと思えば、やっぱり!」
「え?」
そこへ、図書館の係りの者が、パープル女史を見つけ、詰め寄ってきた。
「とぼけないでくださいよ! さっき、図書に入って来たじゃないですか!」
「き、聞いてないわよぉ!」
否定するものの、彼女は聞いちゃいねぇ。そのまま連行されるパープル女史だった。
そんなわけで数日後、スパイ教室の学生達に向けて、次の課題が発表された。
『学園の南の森に生えている薬草を見つけて、パープル女史のもとに届けてください』
だが、その頃。
「ふぅん。これが、麻痺に効く‥‥ねぇ。確かに刺激が強そうだわ」
図書館蔵書紛失の事情聴取を受けているはずのパープル女史が、件の森近くで、とある羊皮紙を手にしている所を、目撃されたと言う‥‥。
●リプレイ本文
依頼を受けた一行は、とりあえず事情聴取を受けていると言うパープル女史を、治療棟に連行していた。
「胸の感触は本物か‥‥っと」
ぼそっと余計な一言を口にする東雲辰巳(ea8110)を、右手でぽかりと殴りつけるミス・パープル(ez1011)。そんな彼女の存在を確かめるように、東雲は彼女を降ろし、胸元に煌くシルバーのペンダントを絡め取ってみせた。そのトップの裏側には、確かに名前が刻まれている。
「病状が悪化したと聞きましたが、大丈夫です?」
そこへ、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)がそう言った。と、彼女は少々呆れた表情ながら、こう答えてくれる。
「まぁ‥‥感覚ない以外は、どこも悪くないしね」
熱があるわけでもなければ、歩けないわけでもない。ただ、誰かが触っても、分からなくなっただけ。と、彼女は告げた。
「その薬草の事なんですけど、特徴とかってあります?」
それは結構大事なんじゃなかろうかと思いつつ、デメトリオスはそう尋ねる。
「確か、葉の縁がぎざぎざになっていたと思うわ。それと、少し臭いがあるのよね。ただそれは、薬草の扱いや、森の様子に慣れている子じゃないと、わからないと思うけど」
その返答に、頷くデメトリオス。と、マカール・レオーノフ(ea8870)が、パープル女史にこう言った。
「我々が戻るまで、治療に専念して、養生していただければ、心配が1つ減るのですが‥‥」
偽物が現れたと言う話もある。もしかしたら、彼女の立場を狙っているのかもしれない‥‥と、そう思ったから。
「嫌。職員寮で療養するなら構わないけど、閉じ込められるのは絶対に嫌」
「仕方がないな。だったら、その代わりに」
真顔のパープル女史に、これをひっくり返すのは難しいなと思った東雲、彼女の手に、子猫のミトンをはめてしまう。左手の薬指には、何故か誓いの指輪が装着されていた。
「偽物が始末できるまで外さないって、約束してくれ」
自由を奪われるくらいなら、まだミトンの方がマシだと思ったのか、頷くパープル嬢。その上で、エイミー・ストリームに監視を頼む東雲。
その様子に、ちょっとうらやましげなアルヴィンくん。その横顔に、この間、酷い事を言ってしまったかもしれないと、後悔していたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は、こう言った。
「この間の事なら、気にするな。そう言うつもりで言ったわけじゃないんだ」
いくら乙女化しているからと言っても、それを理由に嫌いになったわけじゃない。と、アルヴィンは首を横に振り、こう告げてくる。
「気にしてないです。でも、僕‥‥先生に出会ってから、その‥‥先生みたいな冒険者でも良いかなぁって思って‥‥。ケンブリッジだけじゃなくて、もっと、色々な国を見てみたい。出来れば‥‥一緒に」
どうやら彼は、あの事件をきっかけに、レディになる事よりも、もっと目指したいものが見付かってしまったらしい。沈んでいるのは、それが原因のようだった。
さて、そのエルンストは、マカール、そして東雲と共に、ローズガーデンのコレック卿のもとへ向かっていた。他の面々は、既に森へと向かっている。
「ちょうど2組に分かれたな。これだけ人数がいれば、向こうも魔法的な変身は使えないだろう‥‥」
ある程度人数でまとまって動いている為、エルンストはそう判断している。だが、それにはマカールが異を唱えた。
「そうとも限りませんが、対策にはなりますね。あの、決して単独では動かないようお願いします」
頷く東雲。パープル女史が気にはなっているようだが、人数の関係もあり、ずっと張り付いているわけにも行かないと思ったのだろう。陸が、彼がパープル女史の側にいる間、同行すると申し出てはくれたが、それでは森にいるパープル女史が、本物か偽物かの判断が出来なくなる。
「パープル女史以外の偽物が、接触してくる可能性もあるからな‥‥。荷物は管理を徹底しておいた方がいいだろう」
合言葉を決めるのは、すでに行っている。だが、それでは不十分だと、エルンストは言った。本人の証拠に成りうる品は、盗まれたりしないように、厳重に管理しておかなければと、彼は主張する。
「陸さんがやっていたみたいに、バックパックに詰めておけば良いですかね?」
偽パープルと同じ様に、自分の偽物が紛れ込んでいるのは、正直嫌な気分だ。そう思ったマカールは、厳重にバックパックの口を閉じている。それを持ったまま、3人はコレック卿を尋ねたのだが。
「おや、皆様おそろいで‥‥。今日はいかがしましたか? 本を読みに来たと言うわけでもなさそうですが‥‥」
あまり、娯楽性の高い本に興味がある面々とも思えない。そんな表情を浮かべるコレック卿。
「はい。実は‥‥」
そこへ、マカールが依頼で言われた事情を説明する。ただし‥‥パープル女史の偽物が現れている‥‥と言う点は伏せて。
「なるほど‥‥。それで、その破られた本の題名と内容は、わかります?」
「確か‥‥こんな感じだった」
エルンストが、ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が持っていたリシーブメモリーのスクロールを使って、パープル女史から特徴を受け取っていたらしく、すらすらと答えている。それを聞いたコレック卿は、すぐにお目当ての本を出してきてくれた。
「間違いないです?」
マカールが確かめると、エルンストは頷いて、該当ページを開いて見せた。そこには、植物の絵と、一般的な効能と特徴と処置方等が書いてある。
「これ、借りて行ってもよろしいですか?」
「それが、これちょっと貴重品だから、写しで勘弁して欲しいのよ」
マカールが所定の料金は払いますよ、と交渉するものの、彼は首を横に振る。気を抜くとオネエ言葉が出てくる辺り、このコレック卿は本物で間違いないようだ。まぁ、植物の形等々さえわかれば良いので、マカールもそれ以上は言わず、それを写し取っている。
「それから、後でパープル先生が見えられるかもしれませんが、その時には、まだこれを出さないで頂きたいんですよ」
それが終わったマカールは、コレック卿にそう申し出た。彼が「どう言う事です?」と首を傾げると、マカールは羊皮紙に仔細を書き記す。
「詳細は、これに‥‥」
「そう言う事ですか。しかし、私がその偽物だったらどうします‥‥?」
偽物の事情を知ったコレック卿、さらりと怖い事を言う。思わず、剣の柄に手のかかるマカール。と、彼はいつもと同じオネエ口調で『冗談よ』と笑った。
「あからさまに疑ってかかるのもどうかと思うしな。それに、件のページは、あれで間違いないのだし」
そんな彼を制したのは、他でもない、エルンスト。何も言わないが、警戒しすぎて、偽物に疑われる事を危惧しているのだろう。店に、パープル女史らしき姿はない。ならば、下手に警戒しても仕方がない事。そう判断したマカールは、一礼してローズガーデンを後にする。
そんな彼らに、コレック卿はいつもと同じ調子で、見送ってくれるのだった。
一方、南の森では、先行した生徒達が、直接南の森で、目当ての薬草を探していた。
「よし、これで大丈夫‥‥の筈っと」
そう言うと、パラーリア・ゲラー(eb2257)は蜂蜜の入った小さな素焼きの器を、まるでケーキセットの様にセッティングしてみせた。
「じゃあ後は、こうして目印を残しながら、進まないとね」
妖精への捧げものが終わったのを見て、ガブリエルは近くの幹に小枝を結びつけた。これで、少しは分かりやすくなる筈、と言うわけである。
「それで、どの辺りから探すんだ? 森と行っても広いし」
「偽物パープル先生に見付からない方が良いと思うのなの‥‥」
陸琢磨(eb3117)がそう問うと、彼女はなんとかして、偽パープル女史を避けるよう進言する。
「えぇと、紫の服が好きで、パープリンって言われると怒るんだっけ。でも、あたしが思うに、今治療棟にいる先生の方が、偽物って事もありだよね☆」
「見分ける方法があれば良いんだが‥‥、そう言う事に対しては、まだまだ勉強不足だからな‥‥」
だが、彼女が今どこにいて、どこを探しているのか、確かめる術はない。パラも猟師仲間に聞いてみたが、あまり返事は芳しくなかった。
「薬草を引き渡す時に、本物かどうかを確かめれば良いと思うよ。その頃には、ローズガーデンに寄った組の方も、追い付いてくるだろうしね」
デメトリオスがそう言って、先に薬草を探す事を提案した。確かに、目的物が同じなら、薬草に釣られて出てくる可能性は高い。確かめるのは、それからでも遅くないと言うわけだ。
「成る程な。いや、色々と参考になる。今後、そう言った事も増えるだろうしな‥‥」
「見破る方法はケースバイケースだから‥‥。注意深く観察するか、その状況に応じて行うのが上策だね」
ふむ‥‥と、納得した表情を見せる陸。時には、こうして他の意見を聞く事も、かなり参考になる。魔法に関しては、あまり自信のない彼、そう思っていた。
「あ、閑なら、今の内にこれ組み立てて置いてくれる?」
そんな彼に、パラが持ち込んだ大凧を渡した。いざと言うための準備その1だそうである。
「お安い御用だ。力仕事があったら言ってくれ。これくらいはファイターの役目なんでな」
「ごめんね。じゃあ次、あの上の奴調べてくれないかな」
ついで、と言わんばかりにデメトリオスが、背丈ほどの段差の上にある、茂みを示した。確かに、パラの身長では、届かない距離だ。陸は快くその上へと、彼を持ち上げてやる。
ところが、鼻先に現れる大きな獣。
「わわわっ」
慌てて、今上がったばかりの段差から飛び降りるデメトリオス。見上げれば、そこにいたのは灰色の毛皮を持つ熊だった。現れた敵に、ロングソードを抜き放つ陸。相手は、気が立っているのか、その鈍い煌きを見ても、怯む様子はない。
「どうやら、お昼ご飯代わりに目をつけられちゃったみたいだね」
「でも、ただの熊さんなの。やたら殺すのは可哀相なの。追い返しちゃえなの」
パラとガブリエルは、いくら凶暴そうなグレイベアとは言え、普通の動物である限りは、あまり手を出したくはないようだ。
「ただの熊さんだから、縄張りから出てけばOKだと思うなの。こんな風にね!」
そこへ、ガブリエルがミストフィールドを使った。立ち上る濃い霧は、グレイベアの視界をあっという間に覆い隠してしまう。
「先にデメトリオスを頼む!」
いかに大きな凧とは言え、運べる重量には限りがある。先に、非戦士系のデメトリオスを優先させる陸。しかし、運命と言うのは皮肉なもので、彼を乗せた瞬間、大凧は風に煽られ、空の彼方へと流されてしまう。
「しまった、離される!」
「わぁぁぁぁん! 待ってよぉぉぉ!!」
慌てて追いかける陸とガブリエルだった。
数時間後。
「ふう。びっくりした〜。ずいぶん流されちゃったねぇ。皆、いる?」
ようやく落ち着いたパラが、周囲を見回してそう言った。
「ああ。一時はどうなるかと思ったが、追いついてよかったな」
陸が、ほっとした表情でそう言った。注意深く風を追った為か、程なくして合流する事が出来た。森での土地感が、役に立ったらしい。
「どこだろう。ここ」
「様子から見ると、入り口の辺りだと思うなの」
合言葉での本人確認が済んだ後、そう言うデメトリオスに、答えるガブリエル。見れば、入る時にセッティングした妖精への贈り物がある。どうやら、戻されてしまったようだ。
「ああ、ここにいたの。迎えに来ちゃった」
そこへ、姿を見せるパープル女史。
「‥‥本物なのかな? 怪しいのなの」
1人で登場した彼に、ガブリエルは、疑いの表情を見せる。彼女はこっそりとリヴィールエネミーのスクロールを広げた。そこへ、マカール達が姿を見せる。
「パープ‥‥」
「何か言ったかしら? 誰がパープリンですってぇ!?」
言いかけたマカールを、じろりと睨みつける彼女。
「まったく、治療棟にいないと思ったら、こんな所に出かけてたのか。エイミーが心配してるぞ」
パープル女史の左腕を掴んだのは、そう言った東雲だった。彼は、戸惑う彼女の左腕を掴み、こう言う。
「ほら、さっさと薬付けて帰るぞ」
彼が、パープル女史の左腕に、面倒くさそうに押し付けたのは、パラがこっそりと渡した例の薬草。先の尖ったそれを触れさせた瞬間、女史は手を引っ込める。そう動かぬ筈の左腕を。
「試す様な事をして悪かった。どうやら偽物じゃないみたいだな‥‥」
それを確かめた東雲は、強引に左腕を押さえつけた。そして、彼女の左手薬指に、「ハロウィンの時に渡したかったんだが」等と言いながら、目印代わりに、金の指輪と、香り袋をつけてしまう。
「どけ! 東雲! そいつは偽物だ!」
「こうしてみれば分かる事ですよ。ねぇ、パープリンさん☆」
ガブリエルがにこやかにそう言った。しかし、目の前の女史は、いつもの様にハルバードを飛ばしてこない。
「だがそれでも、むやみに傷つけさせるわけになどいかん」
もしかしたら、双子の姉妹かもしれない。パープル自身に記憶がない以上、完全に偽物だとは言い切れない、と。東雲は言う。
「ならば‥‥貴様が死ね」
「‥‥それも断るな」
背中から、偽パープルが付きたてようとしたナイフに、彼は振り返って手元を見せた。そこには、ちょうど相手の胸元に添えられるようにして、シルバーダガーが当てられている。緊迫した雰囲気となる中、それを打開したのは、パラだった。
「パープル2号さんも、東雲さんも、ちょっと落ち着いて。あたしはパラ。よろしくね」
まるで、仲間にでも話しかけるような挨拶に、戸惑う偽パープル嬢。
「薬草は、2人とも必要なんでしょ? だったら、両方で分ければ良いと思うんだ。乱暴はだめだよう」
「でも、そいつは‥‥」
警戒した表情のデメトリオスに、彼女は乱暴はダメっと言った表情で、こう提案してきた。
「デビルって保障もどこにもないじゃない。双方意見があるなら、会ってもらって、きちんと話し合いするべきだと思うんだ」
薬草は1つではない。ならば、必要な者同士で分け合おうと、パラは説く。
「‥‥どうするんだい? ここでおいら達とやりあうか、それとも‥‥半分置いて去ってくれるかな?」
一応、ライトニングサンダーボルトはいつでも使えるんですよ? と、そう言いたげなデメトリオス。
「良いでしょう。ですが‥‥後悔する事になりますよ」
「その時はその時だ」
薬草を持ったまま、姿を消す偽パープルに、東雲は何かを考えた表情で、そう告げる。
こうして、薬草は手袋をはめたパラ、レジストプラントをかけたエルンストの手により採取され、ガブリエルのアイスコフィンで封印され、慎重に女史の所へと運ばれるのだった。