●リプレイ本文
そんなわけで一行は、それぞれの礼服に身を包み、指定された王城内にある庭園へと向かっていた。
「陛下にはご機嫌麗しく‥‥。私は、キャメロットにて騎士の端くれを務めております、ハートランド家のソフィアと申します」
そう言って、恭しくアーサー王へ膝をつくソフィア・ハートランド(eb2288)。心に抱くは野望でも、ここは相手の印象を良くしておくのが得策と、普段から鍛えた礼儀作法で、貴婦人らしい挨拶をしてみせる。
「これは、ご丁寧な挨拶痛みいる。が、ここは非公式な茶会の場。そう堅苦しくないでくれ」
深々と頭を下げる彼女に、陛下はそう言って顔を上げさせる。そこへ、立場的には一番下っ端の議長が、茶を入れてくれた。
「それで、どなたにお話を伺えばいいんですか?」
「ふむ、そうだな‥‥。ここはやはり、位の高い方々から聞くのが筋だろう」
ワケギ・ハルハラ(ea9957)の問いに、彼はそう言った。ヒメニョの説明では、誰から取材をして良いのかわからなかったが、まぁ目上の人から話を聞くのが、無難だろうと答える。
「では、早速私から‥‥」
えー、おほん。と咳払い1つしたソフィア、遠回しどころか単刀直入に、アーサー王にこう尋ねる。
「円卓の騎士の妻になるにはどうすればいいんです? 既成事実をつくればいいのですか?」
「って、い、いきなり何を‥‥」
質問が質問な為、思いっきりうろたえてしまう陛下。
「だって私‥‥円卓の騎士様の奥さんになりたいんですものっ!」
そんな彼に、ソフィアは夢見る乙女そのものの瞳を輝かせて、そう宣言。彼女の脳裏には、今頃ラーンス卿辺りを相手に、ウェディングドレスに身を包んでいる姿が浮かんでいる事だろう。まぁ、円卓の騎士に嫁ぐ夢を見ているのは、彼女のような貴族の令嬢ばかりではない為、王も側近も、咎めたりはしなかった。そんなソフィアに、王はこう答えてくれる。
「そうだな。まあ、妥当に、社交の場か戦場で気に入られることだな‥‥。結構奥手が多いから、無理強いはいかんと私は思う」
「あなたがしかるべき身分の淑女であれば、円卓の騎士は仕えるべき定めを負う。そのあと、それを越えた愛を手に入れられるかは‥‥あなた次第と言えよう‥‥」
ラーンス卿もそう言った。
「つまり、チャンスを逃さないようにすればOK‥‥と。あら、どうかなさったんですか?」
ふむふむ‥‥と、納得した表情を浮かべるソフィア。だが、気付けば国王以下3人、何だか都合の悪そうな表情を浮かべている。まぁ、3人とも不義の子と言われていたり、密通の噂があったり、すねに傷持つ身だったりと、色々あったせいだろう。
記録係のヒメニョ曰く、気を取りなおして。
ルシフェル・クライム(ea0673)が真面目にこれからのイギリスの展望について、アーサー王と議長に尋ねていた。
「聖杯による導きはすでに成された。その道に至る試練が、道を指し示してくれたはずだ。その導きやこの国の影や闇と向き合い、真に光ある国を作ることが、私の務めであり、願いだ。なぁ? ギルバード殿」
個々の問題にまで言及すると、それこそ記録係が悲鳴を上げそうなので、陛下、かいつまんでそう答えている。
「そうですね。カンタベリーと言う小さなエリアではありますが、住む者の笑顔が見たいのは、同じです」
それは、議長も同じだったらしい。もっとも、その『住む者』の中に、多少毛色の違う者がいるかもしれなかったが。
「なるほど。では、もう少し砕けた質問を‥‥。陛下、王妃様との出会いや思い出など、語っていただけると嬉しいのですが」
「あれは、私がまだ王と言うにも小さかったころだ。彼女を一目見た時から、運命というもの、恋の女神の導きはあると、心に刻んだ。甘く、それでいてなにか苦しみにも似た‥‥いやまてなんというかだな‥‥少し、歯がゆいな。はっはっは」
顔色が引きつっているのは、気のせいではないだろう。意外と照れ屋さんらしい。
「だいたい、自分の恋愛遍歴なぞ、そうぺらぺらと自慢する事でもあるまい」
「そんなトリスタン卿は女難に遭われる事が多いようですが、今までの恋に関して、何か?」
助け舟を出したトリスタンに、爽やかに問うルシフェル。
「‥‥‥‥‥‥‥‥語る程のものはない。なぁ? ギルバード」
「‥‥お答えいたしかねます」
返り討ちにあった彼に話を振られ、素直に経験ゼロと言え、と言わんばかりに茶をすする議長。
「ほほぅ。では、議長にも聞こうかな。過去のロマンスについてを」
んで、墓穴を掘る。ルシフェルにツッコまれ、思わず茶を噴出す彼。
「そ、そう言った事は、酒場で聞いたほうが早いと思うが‥‥」
何とかやり過ごそうと、背を向ける議長。追い討ちをかけるように、ルシフェルが一言こう言った。
「昔は色々とやらかしたと言う話を聞いたのですが」
「い、いやその‥‥。それはだな‥‥」
ゴルロイス公に師事していた頃には‥‥と、言いかけた彼を慌てて黙らせる議長。ここへ来る前、ギルドマスターのグリフィスから、色々と情報を仕入れてきたようだ。
「そう怒るな。男としては見習いたい限りだよ」
顔面蒼白になっている議長を、ティーカップ片手に、『まぁまぁ』となだめるトリスタン卿。
「で、実際どうなんですか?」
「わ、若い頃の過ちと言うのは、誰でもあるものだよ‥‥。昔の話だしっ」
認めたくなさそうにそう言う議長。まぁ、今好きな人がいるらしいので、記録に残したくないのだろう。しかし、そんな事はつゆほども知らないラーンス卿に怪訝そうな顔をされ、都合の悪そうな表情を浮かべている。
「そう言えば、ラーンス殿には、浮いた話を聞かれませんね。気になる御方は居ないんですか?」
そんなラーンス卿に、爽やかにそう言うルシフェル。固まってしまった彼も、たいがいの円卓の騎士のご多分に漏れず、晩熟だそうなので、当然の反応と言えば当然の反応だ。
「ルシフェル、それは聞かない方が身のためだぞ」
「ギルバードの言う通りだ。世の中には、知らないほうが良いと言う事もある」
同じ事を言う議長とトリスタン。その頃、こっそり王妃が取材の風景を覗いていたとかいないとか。
「お二人とも、陛下が困っておられますよ。ここは、答え易い質問を‥‥」
イェーガー・ラタイン(ea6382)が苦笑した表情でそう言う。その手前で「お手柔らかに頼むよ」と言っているアーサー王。
「これは他の方々にも聞きたいのですが、王とは、騎士とは、上に立つものとは、どうあるべきでしょうか?」
「また重い話を‥‥」
真剣な表情で、そう尋ねてくるイェーガーに、アーサー陛下、多少げんなりした表情になってしまう。
「軽い話のほうがよろしいですか? ならば‥‥、愛する者に対して、どう接するべきでしょうか!?」
「いやそのー‥‥」
詰め寄る彼に、よろりらと言った感じの陛下。
「そんなに難しい問いでしょうか‥‥。自分はどうあるべきかを尋ねたかったのですが‥‥」
その様子に、困惑した表情のイェーガー。
「あー、そうだなー。王とはその剣と信念で、国の顔となるべきものだ。王が滅ぶならば、その誤った王を有した国もまた滅ぼう。我がイギリス王国は滅ぶことはないだろうがな」
咳払い1つして、アーサー王がそう答えた。自信に溢れたセリフは、自らが間違っていないとの信念からだろう。
「答えになっていないような気がしますが‥‥」
「そうは言われても、人が人を統治すると言うのは、中々に難しい。人を愛するのもまた然りだ」
議長が、その心を代弁するかのようにそう言った。
「やはり、難しい事なのでしょうか‥‥」
「人の心が、中々思い通りの反応を示さないのと同じ様に、答えはひとつとは限らないんだよ」
イェーガーの問いに、彼はそう答える。含みがある様な言い方なのは、何か思う所がある故だろう。
「そうでしょうか‥‥。俺自身今でもそう思っていますが、国や領民の大事には、自ら危険に身を晒す。それが貴族と云う者だ‥‥と云う初恋の方の言葉が、印象に残っていましたし‥‥」
「確かにそれはすばらしい事だ。だが、世の中には、そうしたくても出来ない者もいるのでね」
陛下がそう答える。いや、大切な事だとはわかっているのだが、もし今の彼がそれを実行しようとしたら、側近が心労で倒れてしまうだろう。立場ある者と言うのは、中々に動きづらいものだ。
「自らを危険に、か‥‥」
剣を取り、戦う事は重要だけれど。
「俺‥‥、今の想い人がエルフなので‥‥。例え結ばれる事がなくても、彼女自身と彼女を取り巻く方々を大切に思い、その幸せの為に努める事が大事だと思っています‥‥」
「好きな相手が異種族なのは‥‥、中々に勇気のいる事だしな。そうか、その幸せの為に‥‥か‥‥」
イェーガーは、普通禁忌とそしられる事に、前向きに取り組んでいるようだ。その態度に、「私も見習うべきかな」と呟く議長。
「人の子は、勇気を示されれば、それだけ心を奮い立たされる。その初恋の君の言葉、大切にすると良い」
「と言っても、30も歳の違う方だったのですが」
アーサー王の言葉に、恋心を抱いたのは、自分がまだ10歳の頃です‥‥と話すイェーガー。
「それでも、好きだったのだろう? それもまた、『大切に思う心』だよ」
憧れもまた、思慕の情。人が誰かを愛する事に、理由など要らない。
「‥‥はいっ」
それを聞いたイェーガーは、笑顔でそう答えるのだった。
さて、最後は緊張した状態のままの、ワケギくんである。
「やっぱり、難しい質問はダメなんでしょうか‥‥」
残念そうなワケギくん。非公式とは言え、記録係もいる状態だ。うかつな事は言えないのだろう。ちらりとルシフェルが覗いた所、何やら人物らしき素描が見えたし。
「そうだな‥‥。では、もう少し当たり障りのない事なら、構わないんじゃないのかな」
「わかりました。じゃあ、イェーガーさんとは別の質問を‥‥」
考え込んだワケギくん、議長の提案を受けて、こうきり出す。
「真実とは‥‥ホンモノとは、どう云うものを云うのでしょうか?」
これまた難しい質問である。
「答えてくれないんですか?」
「いや、そんな事はないが‥‥」
困惑したワケギに、議長がそう答えていると、アーサー王とラーンス卿が、交互にこう言った。
「その魂と信念をかけるに足るべきもの、またはかけている者‥‥だと思うぞ」
「自らの意志を貫き通すことができる者だと考えていますが‥‥」
それを受けて、議長がまとめるようにこう尋ねる。
「そうだな‥‥。君が考えるホンモノとは、どう言う意味で、かな?」
「ボクは、ホンモノの魔法使いになる事を目指しているんですが‥‥。ホンモノの魔法使いとは、いざと云う時のみ、魔法を使い、人々を幸せにする魔法を使える人‥‥と、思っていますので‥‥」
どうしたら、そうなれるのか。その具体的な方法を、彼は求めているのだろうか。そう思った議長は、諭すようにこう言った。
「それは、自分でなろうと思ってなれるものではないと思うよ。例えば、人が『あの人こそホンモノの職人だ』と言っても、本人はまだ道半ばだと思っていると言うケースも多い。それと同じ様に、剣の道も、終わるべきゴールや、これがホンモノだと言う回答はない。魔法の道もまた然りだ」
「そうですか‥‥」
道程は険しそうだ。と、肩を落とすワケギ。そんな彼に、議長は最後にこう言った。
「本物の魔法使いと言うのは、己がそう願ってなれるものではない。もし、周囲が君を真に本物だと思うなら、吟遊詩人達がこぞって、君をサーガにしてくれる筈だよ」
夢は、果てしないけれど。だからこそ、自らの生を賭けられるのかもしれない。
「はいっ。そうなれるように頑張りますっ」
笑顔で頷くワケギだった。
取材の終わった面々は、グローリーハンドで、懇親会を行っていた。
「はは、それは陛下や議長殿もさぞやお困りだっただろう。見てみたかったものだ」
木製のエールカップ片手に、そう笑顔を見せるギルドマスター、グリフィス。
「笑い事じゃありませんよぉ」
困った表情のイェーガーくん。
「ほいっ。レインボーフリッタとエールにミルク、お待ちっ!」
そこへ、エリーゼが注文した品を運んで来てくれる。
「エリーゼ殿は忙しそうだな。聞きたい事もあったんだが」
盛況な様子に、ルシフェルがそう言った。彼女は本日も、勤労に余念が無い。当たり前の話だが。
「ところで、グリフィス殿には、ロマンスはなかったのですか?」
「忘れたよ」
エールを飲みながら、ルシフェルに答えるグリフィス。そこへ、報告書を提出したヒメニョが帰って来る。
「陛下とラーンス卿達の話をまとめると、冒険のチャンスを逃さなければ、騎士様の妻にもなれるって事か‥‥」
彼女から奪い取った以前の報告書の束を片手に、そう呟いているソフィアも一緒だ。
「ああ、そうだ。ヒメニョ殿にも聞きたい事が」
ルシフェルに言われて、こくびを傾げるヒメニョ。
「その羊皮紙の中身‥‥何が書いてあるんだ?」
直後、持っていた羊皮紙を、ルシフェルに取り上げられてしまった。取り返そうとするヒメニョだったが、背の高い彼からは、中々取り戻せない。その間に彼はその羊皮紙を開いてしまう。
「ふふ、これは‥‥議長への良い交渉材料が出来たかもしれんな」
ニヤリと笑うルシフェル。東洋ではそれを、知らぬが仏と言うそうである‥‥。