後妻討

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月14日〜02月19日

リプレイ公開日:2006年02月22日

●オープニング

●バレンタインはないけれど
 ジャパンの文化には、基本的にバレンタインと言うのはない。
 まぁ、大量に流入している各国の冒険者が、それなりに愛の告白やら何やらをやらかしているので、一部にはそれなりに有名なイベントだが、まだまだ一般人にはなじみの薄い日だ。
 ところが、そのなじみの薄い筈のジャパンは江戸で、縁のありそうな依頼が、ギルドへと持ち込まれていた。
「後妻を討つのを手伝って欲しいってぇ? 夫婦喧嘩は犬もくわねぇってのに、何やらかす気だよ」
「いやぁ、あたしも亭主に未練はないんだけどねぇ。面白くなくて。んで、和尚さんに知恵を拝借したら、そうやって後釜の姐さんを懲らしめられるって言うじゃないのさ。だから、こうして人を集めにきたわけよ」
 ケタケタと笑う女性。なんでも、仔細があって詳しい事は離せないのだが、どうしても後妻の女性を、周囲に嫁として認識させる必要があるらしい。その儀式として、後妻討を行いたいそうだ。
「手順は和尚様から預かったこれに書いてある。人数もそれに従って欲しいってさ。あ、これ場所ね」
 差し出された書状には、後妻討の手順と、募集人員が記されている。それには、こうあった。

1:まず、討ち入りに行く先妻側の人間、迎え討つ後妻側の人間、そして持ち込む武器等々を決める。儀式的なものなので、刀や剣など、人を殺傷せしめるものは、持ち込んではいけない。

2:その上で、代表者が、討ち入りに行く日時、人数、得物などを書いた指し紙を、後妻の元に届けに行く。これは、準備を兼ねて、3日前までに行うべし。

3:決められた刻限に、決められた人数へ赴き、口上を述べる。先妻が『受けて立つのじゃ』と答えたら、開始の合図と心得よ。

4:後妻は先妻と、その他は助っ人同士で、打ち会うべし。この際、家財道具なども壊して構わない。ただし、怪我をした者は、速やかに申し出、戦線を離脱する事。

5:頃合を見計らって、仲裁人が中を分け、後妻が先妻に謝りの口上を述べる。先妻はこれを許し、引き上げる事とする。これで儀式は終了である。

 今回、配役が決まっているのは、先妻の女性と後妻の女性、それに仲裁人の拙僧だけである。なお、双方怪我のないように、充分注意して欲しい。

                                                          和尚

「わかりました。では後日、雇った面々を向かわせます。場所は、庄屋さん所で良いですか?」
 添えられた金子は、確かに正式な依頼として、十分な量だ。なので、細かい事は聞かない方が得策のようでる。
「うんにゃ、和尚様ン所にして欲しいんだ。仲裁の人が、和尚様だから。じゃ、よろしく頼むよ」
 彼女はそう言い置いて、ギルドを後にする。それを見送った係の人は、言われた通り、人員を募集するのだった。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb1649 ジャン・ビュート(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3024 鳳来 涼香(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4481 東郷 多紀(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4542 クロウ・ディメルタス(48歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イスパニア王国)

●サポート参加者

無双 空(ea4968)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ 羅刹王 修羅(eb2755

●リプレイ本文

「うわなりうちなりなりなり対決☆ すっきりきっぱりけじめつければ、ご近所さんからも新しい夫婦として認められるもんね♪」
 家族に見送られている慧神やゆよ(eb2295)。教習を受けたらしく、頼もしいセリフを言ってくれる。他にも、仕事探しに来た東郷多紀(eb4481)や、婦人の気持ちの整理がつくならと言った真幌葉京士郎(ea3190)、それになんだか楽しそうだから‥‥と行ったリアナ・レジーネス(eb1421)のような御仁もいた。
「挨拶にしては、少々派手だな‥‥」
 あまり依頼を受けたことのないジャン・ビュート(eb1649)が、イギリス語でそう呟く。と、和尚さんから後妻討のやりかたを聞いていたリアナが、こう言った。
「あら、でも依頼主のお話では、きちんと参加面々でご挨拶に行くのは、問題ないって仰ってましたわよ」
 無口で表情のあまり変わらない彼、抱いた疑問に、頷いている。一行が元旦那宅へついたのは、その直後だ。
「むむむむむ〜、家内安全、暮空 銅鑼衛門参上でござる〜」
 何故か、文机の下から現れる暮空銅鑼衛門(ea1467)。奥さんびっくりである。そんな彼女に、京士郎は、優雅に一礼しながら、仔細の書かれた文を差し出した。
「初めまして、奥方。俺は武士の真幌葉京士郎という。突然の申し出で申し訳ないが、この指し紙を受け取っていただきたく参上した。此度は討ち入り側となったが、以後お見知りおきを」
 微笑んでみせる彼。やじうまに混ざっていた娘さんが、何人か悲鳴を上げた。
「ミーが来たからには大丈夫でござるよ〜。大船に乗った気でいるでござる!」
 それを、自分への声援と勘違いした銅鑼衛門、大笑いしながら、どんっと胸を叩いて見せるのであった。

「眠い。まだなのか‥‥」
 そんなわけで、準備が終わるまでの間、一通り舞台となる家を見終わったジャンは、日のあたる縁側で、そう言いながら、茶をすすっている。
「得物はこれで良いんだな?」
 依頼人に竹刀を借りて来たらしい榊原康貴(eb3917)がそう言った。
「あたしはこれ」
 同じ先妻側に回る鳳来涼香(eb3024)は、ここにくる道中で拾ってきた長さ2尺弱ほどの、細い枝を見せる。良く見れば、竈の灰がたっぷりと塗りつけられていた。
「そんなもので大丈夫なのか?」
「裏の小修羅に、霞刀を持たせてあるよ。いざとなれば、これで凌げばいいし」
 彼女が榊原に見せたのは、腰に下げた木刀だ。言われた通り、裏の縁側から外を見ると、駿馬が1匹、心配そうに主を見ている。
「まぁ、殺し合うわけではないからな。何か粋な得物が良かろうと思って、こんな物を見つけてきた」
 京士郎が自信たっぷりに取り出すのは、簗染めのハリセン。紀州の絹織物と和紙を張り合わせた、とても良い音がすると評判の一品だ。
 そして、それぞれの得物をもった先妻組が、後妻組の軒先へと姿を見せる。一通り口上を述べた後妻さんが、開始を宣言すると、立会人の和尚が、太鼓を鳴らした。
 その瞬間、ジャンは「心得た」と呟いて、上着を脱ぎ捨てる。出来るだけ防具を着けずに、一撃必殺を行う、コナン流の戦い方と言うもの。動きやすい体となるのも、道理だ。
「こう言うのは、嫌いじゃない‥‥略奪愛ってむしろ好きだよ」
 多少露出度の高くなったジャンに、浮かべた笑顔を色っぽく輝かせる瀬戸喪(ea0443)。たまにはこう言う慣わしに参加するのも、悪くないかなと思う。
「初手は少々派手に打たせて貰おう。景気づけにもなるだろうしな‥‥。真幌葉京士郎、参る!」
 それをぶちのめす側となった京士郎、マントをばさりとはためかせながら、ソードボンバーを放った。ぱしべしすぱーんっと、部屋のあちこちに、小気味良いハリセンの音が響く。
「って、こらぁぁぁ! ソードボンバーなんて使うなぁぁぁっ」
 うっかり当たっちゃったやゆよちゃんがそう言った。確かに、衝撃で落ちた茶碗が欠けたりしているが、直撃を受けてもかすり傷程度。体躯に優れたクロウ・ディメルタス(eb4542)なんぞは、傷さえ負ってはいない。
「そんな困ったさんには、お仕置きだ! 魔女っ娘流竹箒みらくるアタックだよっ!」
 竹箒を、まるで槍のように突き出すやゆよ。しかし、突くと言うよりは、踊っているようでもある。
「ふむ。向こうは手加減なしのようだな」
 その様子を眺めていた榊原がそう言った。
「やはりか‥‥」
 様子見に徹していた彼の視界では、後妻側に回ったジャンが、無言で周囲の茶碗や箪笥等に、バーストアタックをかけている。
「覚悟は良いな? 行くぞ‥‥っ!」
 一応、先妻側の人間である以上、これを迎撃するのが筋と言うものだ。って言うか、良く考えると壊す者と壊される者の立ち位置が逆なんだが、結果的に同じなので、榊原は彼の相手に勤める事にする。
「ふん‥‥」
 オーラパワーを付与した榊原を見て、ジャンは今まで景気良く障子を引っぺがしていた木刀を、無言で向けた。
「成る程、そうくるか」
 その木刀を叩き負ってやろうと、榊原はバーストアタックを仕掛ける。だが、技量で上回っていたジャンは、突っ込んできた彼を、軽く受け流し、返す刀で相手の胴に木刀の一撃を叩きこんでいた。闘技場で鍛えた腕前は、伊達ではないのだ。
「心配するな、峰打ちだ」
 カウンターアタックを食らって、床に倒れた榊原がそう言って、身を起こすのに手を貸したジャンは、イギリス語で「‥‥強がり」と苦笑する。
「突き突き突きー‥‥、う〜ん、好き好き好きーって言ってるように聞かれちゃうかも、ドキドキだね♪」
「聞こえないって」
 一方、やゆよちゃんの方は、ホウキを振り回していたところ、瀬戸にそう言われながら、ホウキを叩き落されていた。どうやら瀬戸さん、相手が後衛形でも、冒険者である以上、手加減はして貰えないようだ。仕方なく、やよいちゃんは、本来の武器である魔法少女の枝へと持ち変える。
「ほらほら、そんな隅っこにいないで、こちらへおいでなさい」
 もう1人の後衛であるリアナは、隅っこの方で、事の成り行きを見守るかのように、潜んでいた涼香を、仕掛けさせた罠へ誘導しようしていた。
「誰がそんな見え見えのトラップにひっかかりますかっての」
 もっとも、遠物見である涼香さん、吊るされた灰の袋に、気付かないわけはない。
「ふふーんだ。そうは行かないわよ」
 中々近付こうとしない彼女に、リアナさんは業を煮やしたかのように、マジカルワンドを、足元の紐へと引っ掛けた。
「え? わわっ」
 敷かれていたむしろが、つるっと滑って、彼女を転ばせる。尻餅を付いた先から舞い上がる、大量の灰。落ちた土間には、周りの人々に告知するかのように、『良い1日を』と書かれたむしろが転がった。
「だって仕掛けたの、私じゃなくて、ジャンさんですもの」
「卑怯だー! 自分で仕掛けなよー」
 ころころと笑い転げるリアナに、涼香さんは、頬を膨らませたまま、灰付きの枝を、カウンターの要領で打ち込む。ぺしっと頭を灰塗れにされちゃった彼女、「えーん。怒られたー」と、涙をちょちょ切れさせる。
「当たり前だよ。まったくもー」
「やられちゃった〜。それじゃ、邪魔にならない様に、怪我の手当てに専念するわね」
 目的を達成したリアナさん、そう言って、以後は壊れた家財道具を直したり、膏薬を塗ったりする係へと、役割を変更する。
「しかし‥‥ジャンさんは容赦ないわねー」
 その彼女が気になったのは、むしろ積極的に遠慮の二文字なんぞ辞書にない様子で、片っ端から建具等々をぶっ壊して回っているジャンだ。
「止めようか?」
「修繕しやすいよう、全壊にはしないで下さいって、伝えてください。形式的ですから、やりすぎは良くないと思いますし」
 通訳係のやよいちゃんが、首を傾げると、瀬戸は直せる範囲に留めてくれと申し出るのだった。

「しかし‥‥狭い。頭上が気になる‥‥」
 ジャイアントで、身の丈5尺を越える大柄なクロさんは、ジャパンの平均的家屋の天井に、眉をしかめっぱなしだ。
「お! やたらでかいのがいると思ったら、クロさんじゃないか!」
 そこへ、先妻の側に張り付いていた東郷が、助かったと言わんばかりに駆け寄ってくる。
「いやー、周り女の子ばかりでな。俺、母上に厳しく言われてるから、どう対処していいかわからないし」
 軽く言う東郷だったが、こめかみのあたりが引きつっている所を見ると、後妻に捕まって、かなり難儀をしているようだ。特に、あまり触られたくない左眉上から、頬にかけた刀傷を、偉く心配されてしまったようで。
「だから、妻君に護衛は要らぬと、和尚殿から言われただろうに」
「面目ない。まぁ、友達と敵味方に分かれてやり合うってのも、なかなかにどらまちっくだし、お手合わせ願えるかな?」
 和尚からそう言うものは必要ないと言われていたが、それでも護衛と露払いを申し出て、酷い目に合ったらしい。そのうっぷんを晴らす為か、クロさんにそう言いながら、木刀を向ける。
「やる気か?」
「おう。クロさんが相手してくれたほうが、気が楽だ。まぁ、敵味方ってのが、ちっとばかし寂しいけどな」
 ニヤリと笑う東郷。簡単な怪我なら、自分で手当て出来る。だから、遠慮せず殴りかかってこいと。
「そういう事なら、受けて立とう。なぁに、試合だと思えば、寂しい事もないさ」
 クロさんは、巨体を生かして素手で迎え撃つつもりのようで、独特の構えを見せている。
「そろそろ頃合か‥‥」
 一方、初手でソードボンバーをブチかました京士郎は、遠くから響く寺の鐘の音に、儀式の収束が近い事を悟る。しかし、皆そこかしこで、思い思いに相手を見つけて、練習に打ち込んでいるが、そこにあるべき人物が、見当たらなかった。
「そこだ‥‥!」
「呼ばれて飛び出て、暮空銅鑼衛門でござる〜」
 意識を集中し、気配を探った‥‥振りをして、京士郎は、押しいれのふすまをがらっと開ける。と、転がり出てきたのは、空色の丸ごと猫かぶりを着て、首から赤い勾玉を下げ、気配を殺していた銅鑼衛門だ。
「現れたな化け狸! と、すまん、暮空殿だったか」
「これは狸では無くて、猫でござる。そう言う京士郎殿には、ちゃららっちゃらー‥‥秘滅道愚空氣鵬〜!」
 色が色なので、つい妖怪扱いしてしまう京士郎に、銅鑼衛門はそう言いながら、ソードボンバーを乱発し始める。
「武器である以上、使えと言う事でござるよ〜!」
 逃げ回る先妻組。銅鑼衛門が剣の代わりに振り回しているのは、長さ6尺、幅3寸の立派な卒塔婆だ。経文が書き込まれているそれを見て、和尚は『浄明の卒塔婆がー』と青くなっている。
「えぇい。黙れ猫もどき」
 暴れる銅鑼衛門を、クロさんが首根っこを掴んで、投げ飛ばしてしまう。
「こらぁ、ミーは味方でござる〜!」
「すまん。狭くて良く分からなかった」
 文机に頭から突っ込みながら、文句を言う銅鑼衛門に、クロさんはケラケラと笑って、そう答えている。
「長い人生、出会いも別れも星の数。それもまた、味なものだ」
 やゆよちゃんが音頭を取って、夜遅くまで練習したと言う『史上最高の土下座』を御披露する中、イギリスで出会った女性を思い出しているのか、妙に感慨深げな京士郎。
 こうして、一連の儀式が終わった後、皆には御馳走が振舞われたのだった。