狙われた雛人形
|
■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:7人
冒険期間:03月01日〜03月06日
リプレイ公開日:2006年03月06日
|
●オープニング
ひな祭り、桃の節句。それは、ジャパンに置いては女の子のお祭である。そして、それに興味があるのは、今現在『女の子』ではなく既に『女性』になった存在も、変わりはなかった。
「御免下さい。私は、今度こちらの地域で興行する事になりました、踊り子一座の座長でございますが‥‥」
今回、ギルドへとやってきたのは、地方を点々としているとある旅役者一座の座長さんだった。なんでも、今度近くの村で興業する事になったのだが、それにちょっとした問題が発生したそうである。
「実は、ひなまつりと言う事で、女性の団体様が、当一座に見えられる事になったんですが、少々変わった興業が見たいと言うご要望でして‥‥」
普段なら、女性受けするような心中ものなり、再会ものなりと言った、恋愛色の強い興業をするのが通例なのだが、今度の団体客は、そう言ったものでは、あまり満足しないらしく、筋書きの変更を要求されたと言うのだ。
「そこで‥‥、女性の多いお雛様に対抗して、男雛‥‥と言うものをやってみようかと思い立ちまして。しかし、当方の役者には、使えそうな男役者がおりませんでねぇ。それでこちらに、何人か回して頂こうと言うわけです」
座長曰く、最初のつかみと言う事で、男雛を出し、3〜4台詞くらいのやりとりの後、別の役者が舞台袖へ1人づつ連れて行く‥‥と言う場面をやらせたいそうだ。その後、本職の役者さんが、団体客に芝居を見せると言う筋立てのようである。
「必要なのは、『そなたが気に入ったから、連れ出していく』と言った内容に、『嫌ですが、あの方のためなら、仕方ない』と言った感じの台詞回しが出来る方です。それと、やはり女性客相手なので、ある程度の色気も必要かと‥‥」
まぁ、いわゆる端役の補充のようだ。聞けば、小人数で興業を行う芝居一座のようで、大道具等々を含めれば、余分な人員は回せないのだろう。
「ふむ。実際にそう言う事に及ぶわけではなく、観客の気分を高める為の、演出要員と言うわけですな」
「はい、さようで」
ギルドの職員さんから念を押され、頷く座長。これがもし、売春めいた話なら、丁重にお断りする方向性だが、どうやらそうではなさそうだ。
「なるほど。それほどヤバい事にはなりそうにないですし、募集をかけておきますね。あ、もしかしたら女性がくるかもしれませんが‥‥」
「その時は、男装をしてもらうと思いますが、男性的な仕草の出来る方であれば、性別は問いません。無論、年齢も」
端役なので、実際に男性である必要はなく、観客から『それらしく』見えれば、それで良いようだ。年齢を問わないのも、その辺りが理由だろう。もちろん、元から男性であるに越した事はないのだが。
「ああ、そうそう。もし終わった後、お暇でしたら、私どものお芝居を見て行ってくださいな。と、お伝え下さい」
謝礼とは別に、タダで見物させてくれるらしい。まぁ、団体客用に筋書きを普段と変えてある為、男性のお好みに合わない場合が多々あるそうだが、そこは仕方がないと言うもの。それを聞いたギルド職員、「わかりました」と頷き、募集を出して置いてくれる。
だが、一座の芝居小屋へと戻った座長は、普段休んでいる居間代わりの楽屋に上がるなり、ため息をついた。
「座長、ギルドはちゃんと受け付けてくれたんです?」
「そこは問題なかったです。しかし、本当にこれでよかったんでしょうか‥‥」
座員が尋ねるものの、彼のため息はとまらない。なにやら仔細があるようだ。と、座員の方も、慰めるようにこう口にする。
「仕方ないじゃないですか。座員を危険にさらすわけにいかないですし」
「そうですね。大切な預かりものですしね‥‥」
彼の手元には、一通の文があった。それには、まるで詩の様に、こう記されている。
『雛人形は我の物。たとえ役者が相手とて、邪魔するならば、御魂を頂く』
「いったい、誰がこんな事を‥‥。兄上、どうか座員達を守ってください‥‥」
最近、一座を継いだばかりと言う座長は、そう呟くと、形見の舞扇に、そっと祈りを込めるのだった。
●リプレイ本文
「そう言えば、こちらの座長殿は、座を継いだばかりとかで‥‥。以前は色々とあったそうだな」
芝居小屋の楽屋で、湯田直躬(eb1807)が聞きこんだ話を、さらりと座長へ言った。とたんに表情を曇らせる彼。と、アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が、通訳のルーク・マクレイ(eb3527)を介して、こう諭す。
「座長殿、隠さずともよろしい。何なりと相談して欲しい」
僧籍にある彼の説得に、座長は自分の文机から、届けられた文を出してくる。その文が本物だと認識した座長は、座員達を守る為、仕方なく冒険者達を、囮に使う事にしたのだろう。だがアルフもルークも、その辺りに詰め寄るなどと言う無粋な真似はせず、対策だけを練っていた。
「卦によれば、災いは一幕か二幕あたりに、何かが起こると言った所か」
占いの得意な湯田、座長から事情を聞き、この公演の行く末を占っている。それによれば、災厄は早めにやってくるそうだ。
「心配は要らない。壇上からは、私が見張りに立とう。何、これでも笛は得手としている。興を添えるのも、悪くあるまい?」
ギーヴ・リュース(eb0985)が竪琴を手に、そう申し出る。西洋風の作りではあったが、聞けば鉄笛を所持しているとの事。万が一を考えて、それで演奏したいとの事だ。頼もしい冒険者達の姿に、座長は深々と頭を垂れるのだった。
「どうか、舞台に何事もございませんように‥‥」
舞台に上がる前に、アルの発案で、お祓いをする事になった。冒険者達だけではなく、一座の役者も、祈りを捧げている。周囲には、紅谷浅葱(eb3878)が持ち込んだ一抱えもある桃の花束が飾られ、八分咲きの一枝を、座長が抱えていた。
「雛人形自体には、何も曰くはないんだろ?」
「単に座長が知らんだけの可能性があるそうだ。それに、舞台を清めるのは、悪い事じゃないって言うしさ」
アルが聞き出した話を伝えるルーク。彼は、雛人形そのものに、曰くや由来があるものと思っていたようだが、その辺りは概ね白のようだ。もっとも、座長も最近継いだばかりなので、それ以前の知らされていない話もあるかもしれないとは言っていたのだが。
「よし。女の子のお節句だし、お客さんには楽しんで欲しいからさ。頑張っていこうな?」
それが終わると、いよいよ幕が上がる。羽鳥助(ea8078)が、にぱっと笑顔で、そう言った。
「き、緊張する〜」
言われた浅葱の方は、がちがちに緊張して、震えている。彼の装束は、3人官女。白衣に緋袴で、髪には桃の花をあしらっており、中々清雅な雰囲気だった。
「こ、こーなったら どーんと来いっ! 若さだけが取り得だ 悪いかっ。ひ、開き直りの女装で、お客が喜ぶかどうかは知らないけどっ」
顔に白粉を塗られ、十二単を着付けられ、一座の役者に手を引かれている羽鳥くん。人の事は言えない。
「顔、真っ赤だよ?」
「だって、やっぱり恥ずかしいし。まぁ、色気は無いけど、開き直りの中の恥じらいがウリと言う事で〜」
白粉の上からでも分かる頬の赤みを指摘され、羽鳥はえーんと、涙を流す素振りを見せた。実際に流せないのは、化粧が落ちるからだと言う話だが、おそらく心の中では、滂沱の涙を流している事だろう。
「2人とも、演技だと言う事は意識しない方がよろしいかと。いつも通りで良いと思いますよ」
そんな彼に、最年長の湯田が、そう助言する。それなりに重ねた経験は、こう言った時、役に立つ。その言葉に、勇気付けられた少年二人は、素直に礼を述べた。
「ふふふ。男を抱くは数あれど、女を抱くは1度きり。はてさて、今宵のお声は何処やら」
左大臣役の湯田が、そう言って所定の位置につく。齢50に手が届こうかと言う御仁だが、まだまだ現役らしい。
「やもめ暮らしも、久しいが。若うして古桜なんぞ手折らんと欲する物好きは、お相手いたしかねますな」
役目上、もっと若い役者の方が、人気があるだろうなーと思っていた湯田だったが、観客の中にも、やっぱり物好きがいるらしく、渋い魅力に歓声を上げる姿もちらほら。
「やれやれ。あの御方の為に是非と申すなら、この重い腰もあげねばなりますまいて。ひとり息子や、この父を許しておくれ」
それを聞いた湯田、自分を贔屓にしてくれる客への奉仕は怠らないようで、そんな台詞を口にしていた。
「おお貴方こそ我が姫よ、水の乙女のごとき、貴方様こそ、捜し求めた我が姫よ、如何か共に国へ参りましょう」
前半の掛け合いは、アルと浅葱からである。なお、ジャパン語の話せない彼の代わりに、浅葱の琵琶で舞い終わった上杉藤政(eb3701)が、台詞を喋っていた。
「本意ではありませぬが、我が主の命とあらば‥‥」
役どころは、はるばる異国から尋ねて来た冒険者と、社で巫女の姿をした桃の精霊と言った所か。緊張して顔が強張っているので、調度良い具合である。
「幾つの土地を渡りても、貴方の他には居りません、どうか共においで下さい」
「我が身の全ては主のものです。その主の命とあらば、一時この身を預けるだけの事に何の否やがありましょうか」
アルの手招きに、微笑みながら答える浅葱。観客への前振りによると、何でも社の主に、身代わりはいないものだろうか‥‥と嘆かれた為、その役を担うべく出てきた精霊‥‥との事である。
「ああ、この良き日に女雛が居らぬとは、なんと嘆かわしい。私の隣に居てくれる、麗の女雛、愛しき人は、どこぞに居らぬものか」
一方ルーク、やっぱり異国からやってきた漁師で、桃の節句だと言うのに、一人身で放っておかれた為、こうして花街へやってきたと言う設定だ。
「兄上だけが そんな思いをするなんて耐えられないっ。俺も行くっ。俺だって‥‥兄上の為なら‥‥」
唇をかみ締める羽鳥。彼の役どころは、主役の双子の弟と言う大役。希望は『一番年少なので、無垢で兄や年長者に憧れ慕う少年』だったので、適役だろう。まぁ、本来ヒロインとなる女侍と、その若旦那との出会いが、こう言う花街だそうなので、筋書き上の都合も、多少は入っているらしいが。
「おお貴方こそ、我が女雛、どうか此方にいらして下され」
ルークがそう言うと、首を横に振る羽鳥。ぎこちないその動きは、観客には、『怖がって震えている』と認識されたらしい。
「貴方程、私の心を捉えた女雛はおりませぬ。貴方が居なければ、私は生きてはおれません。ささ、如何か此方へ参られよ」
自分で考えた台詞なので、澱む事無く、すらすらと出てくるルークに対し、一言しか考えてなかった羽鳥、思わずひな壇裏の上杉くんに、助力を頼む。
「こ、ここはとりあえず、頷いておけばよろしかろう」
とは言え、彼とて、吟遊詩人ではない為、すぐには思いつかない。それでも、当たり障りのない事を言われ、その通りにする羽鳥。
「や、やっと終わった‥‥」
出番の終わった浅葱は、緊張が解けて、楽屋に力なく座り込んでしまう。震える手で衣装を脱ぎ、いつもの服へと着替えたところで、ようやく安堵のため息が漏れた。
「お疲れ様。中々見ごたえがありましたよ」
「あ、ありがとうございます‥‥」
座長に褒められても、頬を朱に染め、ぎこちなくお礼を言うのがやっとと言った表情の彼。おかげで、満員御礼札止めと相成っていた。
「では、私も舞台を楽しませていただきましょう。ここだけの話、こういった芝居物が好きでしてな」
出番の終わった湯田は、そう言って、その観客席へと混じる。最後のオチが多少違うくらいで、話自体はそれほど奇抜と言うわけでもない為、すんなりと楽しむことが出来そうだ。
「そのような申し出、このギーヴめには勿体無きお言葉」
その舞台で、五人囃子の笛であるギーヴは、言われた通りの台詞回しで、出てきた『若旦那』役の座長に、話を合わせていた。
「どうしてもと仰るのであれば、致し方ありませぬ。其方の為にこの身、投げ出しましょうぞ」
もっとも、本来『若旦那』なのは、座長ではなく、ギーヴの方だったりするのだが。
「俺がよもや女性相手だけではなく、男にまでこのような目で見られるようになるとは‥‥俺の艶美さも極めれり、といったところか‥‥」
おかしくて吹き出しそうになるのを堪え、彼は座長にこう申し出て見る。
「このギーヴ、身を投げ出すからにはそれなりの高値がつきまする。後日、是非とも美女に絡んだ褒章を申し出たい。それがこの俺、いや私の切なる願いで御座います」
かなり芝居がかった笑みを浮かべ、そう申し出る彼。つまり、相手にしてやるから、後で綺麗なお姉さんを紹介しろと言うわけだ。役者が相手だし、それなりに美女の知り合いも多かろうと言う、ギーヴの策略である。困った表情の座長。仕方なく、別の舞子へと、相手を変える。
「私では、不足ではないか? だが、かの人が所望となれば是非もなし。ただ身をもって従うのみ」
選んだのは、五人囃子役の上杉。寺の稚児と言う事で、京風の雅な衣装を身に付けた彼、衆道方面の実戦経験はないが、それなりに伝え聞いた話では、菩薩の身代わりと言う事なので、それらしく振舞ってみる。
「あら‥‥☆」
観客席がどよめいたのも当然で、上杉は、軽く接吻なんぞやって見せたのだから。
「おや? 驚きましたかな?」
戸惑っているのは、観客ばかりではない。座長の方もである。
「少し‥‥。そこまで演技していただけるとは、思いませんでしたから」
小声でひそひそと話す2人。唇を押さえて固まっている姿は、何やら怪しい秘め事をしているようにも見えた。
「今のは‥‥!」
その直後、舞台裏にいた羽鳥が、見慣れない御仁が、入ってきた事に気付く。あわてて、皆へと走る彼。
「やはり現れたか‥‥」
呟くギーヴ。大方、役者を取られるのが嫌で、動き始めたと言った所だろう。その不審人物が現れたのは、ちょうど花道の向こう側。それを、面で覆った人物は、たたんっと走りこみ、上杉へと太刀を振り下ろす。
「させるか!」
かぁんっ! と、金属の触れ合う音がして、それを十手で受け止めるルーク。右手にもったホーリーメイスが、一閃し、相手の胴へと力強く叩き込まれた。俗に言うカウンターアタックである。
「雛人形は皆の物、麗の女雛は、我の物、無粋物は立ち去られよ」
後ろに雛を庇うようにして立ち、そう宣言する彼。まるで、舞台の一幕めいた立ち振る舞いに、侵入者の伸ばされた指先が狙うのは、うつむいた姫雛だ。
「しまった!?」
回避術はあまり得意ではない彼、動けない間に、彼は姫雛をはがい締めにしようとする。
「ん〜。にーさん、本番はどっか他でやってくんないかなぁ?」
聞こえた声は、座長や一座の役者ではない。羽鳥のものである。刹那、彼は着てい物を脱ぎ捨て、黒一色の忍び装束となり、その腕から抜け出していた。
「おっと。座長さん所には行かせないよっ」
くるっと見回した先に、事態を不安そうに見守っていた座長の姿。狙われたのが彼だと悟った羽鳥、そう言って手裏剣を投げつける。柱に突き刺さったそれを抜いた湯田、上着に手をかけながら、妖しげな笑みを浮かべた。
「ふふ‥‥。まぁ、そう焦るな。まずは姫雛を手折る前に、我が舞を堪能してからでも、遅くはあるまい」
ひと動作で脱ぎ捨てたその下には、踊り子の装束。
「今の内に、役者さん達は楽屋の方へ‥‥」
彼が目を引いている間に、浅葱は他の役者を、舞台袖へと避難させる。
「神聖なる舞台を荒すとは、言語道断。神の裁きを受けるがいい!」
そこへ、アルが、ホーリーの魔法を叩き込んだ。その刹那、面の御仁は崩れ落ち、変わりに青白く輝く半透明の化け物が、姿を見せる。
「やはり怨霊か‥‥」
アンデッドだと分かれば、容赦はいらない。それは、ルークも同じだ。
「って事は、放っておくわけにいかねぇな!」
触れれば、怪我を負うといわれる怨霊。しかし、彼は躊躇わずに、ホーリーメイスでスマッシュを叩き込む。「悪しき御魂よ。滅却!!」
そこへ、アルがピュアリファイを唱え、雛を奪おうとした怨霊は、その存在を浄化されてしまうのだった。