死臭の村
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月07日〜09月14日
リプレイ公開日:2004年09月14日
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●オープニング
事件というものは、いつも何気ないほころびから発覚するものだ。
その事件もまた、取るに足らないような出来事から、発覚した。
「3日前の事だ。村に郵便を届けていたシフールが、その村で消息を絶った」
ギルドの担当官は、声を落としてそう状況を話し出す。なんでも、次の村に届くはずの手紙が届かない。シフールなので、どこかで道草を食っている可能性もあったが、そこはそれ、郵便業務に携わる者がそこまで気まぐれだとも思えず、やはり消息を絶ったのだろうという結論に至る。
「そして昨日、キャメロット外輪部の酒場に、男が一人やってきた‥‥」
その男は、隣村が出した使いの者だった。だが彼は、酒場に着くなり倒れ、ほどなくして息絶えた。
「巨大なこうもりが‥‥。村が死臭に‥‥と言い残してな」
その遺体は、まるで疫病に冒されたかのような臭いが漂っており、一目で普通に死んだのではない事が見て取れた。
「事態を重く見た酒場の主が、ギルドに届け出てくれたのだが‥‥。そこへ、この方達が依頼を持ってきたのだ」
担当官の示した先には、身なりの良い貴族風の男女が、沈痛な面持ちで座っている。ことに女性の方は、顔を覆ってうつむいたまま、いまだに嗚咽を漏らしている。
「どうやら、その村にはこの方々の息子さんが、遊びに行ったまま行方不明だというのだ。近所の冒険者から色々と話を聞くのが好きで、今回も冒険譚を語るバードが来たと言われて、いそいそと出かけて行ったらしい」
泣き濡れる両親に代わって、そう話す担当官。彼はこう続けた。
「これらの事件は、全て一つの村で起こっている。また、隣近所の村からは、異臭が漂ってきたという報告も得た」
状況から、何かが起きているのはもはや明白である。そう口添えて、担当官はさらに言う。
「そこで、依頼者の協力を得て、冒険者を送り込む事にした。君達には、息子さんの救出を行ってもらう」
彼は、そこで両親から預かったという行方不明者の肖像画を渡した。まだ少年である。
「他に、何か情報はありませんか?」
「村は、人口100人くらいの、小さな村だ。特に変わった村ではない。巨大なこうもりとは、ラージバットの事だろう。厄介な敵ではあるので、そう心得ておいてくれ」
それだけが原因ではないのかもしれないが。と、担当官は注釈を入れた。そして、こう言葉をしめくくる。
「すでに最初の事件から3日がたっているが、ご両親いわく、聞いた冒険譚をうまく活用して生き残っているかもしれないとの事だ。また、他にも生存者が居る可能性がある。諸君らには、急ぎ、かの村に向かい、少年生存確認と救出し、村に何が起こったのか確かめ‥‥解決してきて欲しい」
と、その言葉を受けて、今まで泣きじゃくってた婦人が顔を上げ、こう言った。
「どうか、うちの坊やを助けてください。金銭的助力は惜しみませんから」
子を思う切なる親心が、そう言った形で現れてしまうのは、貴族の立場上、致し方ないことだろう。
●リプレイ本文
事件のあった村は、キャメロットからそう遠い場所ではない。そこで冒険者達は、必要物資を全てそろえさせた上、馬車まで借りて、件の村へと向かっていた。
すでに、相談と聞き込みの結果、数日前に訪れたバードが怪しいと言う話になり、分担して、生存者救出と原因究明に当たる事が決定している。
その生存者を探す方の面々、まずは酒場の扉をくぐったのだが。
「うわっ」
中の様子を見たアルメリア・バルディア(ea1757)が思わず悲鳴を上げた。
「ちょっと。客がズゥンビ化しちゃってますよー」
後ずさりしながら、そう言う彼女。見れば、緩慢な動きで、こちらへと向かってくるズゥンビ達がいる。
「ラルフくんが言ってたわね。ここの澱んだ空気は、ラージバッドばっかりのものじゃないって」
「死んだ村の人が、納得できずにズゥンビ化したって所ね」
フローラ・タナー(ea1060)が思い出したようにそう言うと、その影にかくれていたティアラ・サリバン(ea6118)が、その死因を告げる。その間に、ズゥンビ達は、彼女たちへと攻撃を仕掛けてきていた。
「向こうにとっちゃ、あたし達なんて、美味しい餌でしかないみたい」
アルメリアが文句を垂れている間に、シーナ・アズフォート(ea6591)が、目の前に居たズゥンビの手足を切り落とす。生きた死体と化した村人を救う術などない。そう言い切って、情け容赦のない彼女。
「そりゃそうですけど。もうちょっとやり方ってもんがあるんじゃないでしょーかー」
「そう言うなよ。探すより、倒す方が早いんだから。だいたい、正直言うと、後ろからごそごそってのは、性にあわねぇ。ラージバッドにゃ、力不足かもしれねぇが、こいつら位なら充分だ」
アルメリアに九条剣(ea3004)が、そう言って刀を抜く。そのまま、目の前のズゥンビに、スマッシュEXを叩きこむ彼を見て、ミカエル・クライム(ea4675)が、スタッフを振り上げ、片手でくるくると回しながら、まるで華国に伝わる紋様を刻むかのように、こう叫んだ。
「火・緋、操・装、我が導きに従え! ファイヤーコントロール!」
たいまつの炎が膨れ上がり、ズゥンビへと襲いかかる。
数分後。
「本当に生きている人、居ないのかしら」
戦闘の後、フローラが、店の中を見回てそう言った。と、奥でがたがたと音がする。アルメリアが思い切って、壁の板に手をかけると、それはあっさりと外れ、村人が出てくる。慌てて、持ってきた水を飲ませる彼女。
「効くと良いんだけど」
そんな彼に、フローラがアンチドートを施した。と、顔色が良くなったようだ。念の為、馬車へと連れ込むティアラ。横になった彼に、ミカエルがこう問うた。
「一体、何があったのかな?」
「詳しい事はわかりませんが、ある日ラージバッドが現れて、それから次々と人が倒れて。気がついたら、近所の人達が次々とズゥンビ化してて慌てて逃げ込んだんです」
以後、ずっとあの場所に隠れていたらしい。
「やはり、そのラージバッドが原因か。他には、誰か生き残っていますか?」
「おそらく、何人かは隠れているとは思いますが」
だが、他の人の事にまで、気を回す余力はなかったのだろう。言葉を濁す村人。
「一つ一つ調べて行くしかなさそうね。村の人が隠れていそうな場所、他にわかる?」
フローラの問いに、彼は、教会とかと答えてくれた。その時である。彼女の背中で、ティアラが警告を発した。
「空、危ない」
直後、一同を掠めるように低空飛行を仕掛けてくるラージバット。
「生き物の匂いをかぎつけてきたようね。餌だと思ってるわ」
高速詠唱込みのテレパシーで、ラージバットと意思疎通を図っていたティアラ。その思考回路を垣間見て、そう告げる。
「しまった! 馬車に!」
先に狙いやすそうな者をターゲットに選んだのか、空中で急旋回した蝙蝠は、後ろのほうに居た馬車へと滑空する。
「させないっ!」
串刺しにするように振り上げられたシーナの剣は、ラージバットの翼をかすめるが、致命傷には至らない。
「どうやら、巣のある方に向かうみたいですね」
逃げて行く蝙蝠を、ティアラがそう解説した。ただ、それが向かった先は。
「ねぇ、あの方向って教会!?」
「急ぐわよ! このままだと、他の連中がやばい!」
どうやら、ラージバットの行動に、何か思い当たる節があったらしい。慌てて追いかける冒険者だった。
「確かにラージバットは、ここに逃げ込んだんだな?」
「ええ。ブレスセンサーで確かめたから、間違いありません」
ヴァレスの問いにそう答えるラルフ・クイーンズベリー(ea3140)。彼の目には、呼吸する大きな生き物が二つ、はっきりと映っている。
その頃、原因究明班は、村長の家や、近くの洞窟など、いくつかの候補地を巡った結果、戻ってきたラージバットを追って、村の教会へとたどり着いていた。
「思ったんだが。その蝙蝠が病を撒き散らしたんじゃないのか?」
「それだけで、被害はここまで拡大しないと思うがな」
ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)のもっともな意見に首を横に振る王零幻(ea6154)。
「それにもっと大事でなければ、わざわざ病を押してまで、知らせになど来ないだろうしな」
ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)の表情は、固いままだ。
「生存者に事情を聞くのが、一番手っ取り早いと思うが、まだ時間はかかりそうだな」
ディアッカ・ディアボロス(ea5597)が、通りの方で生存者を探している他の冒険者達をみてそう言った。リシーブメモリーで、その辺りの記憶を探ろうと考えていたようだが、使う機会は、まだ先のようだ。
「行くわよ」
本多桂(ea5840)がそう言いながら、教会の扉をゆっくりと押し開く。
「あれは!」
閑散とした教会の大広間。祈りの場所であるはずのそこには、犠牲者なのだろうか。棺が六個、横たわっている。その中央に例の少年の姿。
「大丈夫? しっかりして」
ラルフが、助け起こそうとして、駆け寄った刹那。
「待て!」
異変に気付いたジラルティーデが、警告を放つ。
「どけっ!」
触れようとした瞬間、ラルフを突き飛ばす彼。そして、そのまま勢いを殺さずに、チャージングの要領で少年をたたっ切る。
「何をするんですか!」
「見ろ」
非難しようとしたラルフに、ジラルはたった今切ったばかりのそれを示した。
「これは‥‥」
しかし、ある筈の遺体は姿を消し、変わりにシフールのズゥンビが、ナイフを抱えたまま、こと切れている。
「例のシフールだな」
ヴァレスがしげしげと見下ろして、そう言った。
「やけに死臭がすると思っていましたが。どうやら、この子の幻で油断させてと画策していたようですね」
「じゃ、じゃあ本物は!?」
王の説明に、顔色を青くするラルフ。しかし、そんな彼に、同じ月魔法を習得しているディアッカが、こう告げた。
「魔法は、そんなに距離を稼げません。術師はすぐ近くにいる筈です!」
自分はまだ使えないが、バードの必修項目として、知識だけはある。
「だろうな。そこの奴出て来い。いるのは分かっているんだ」
そんな彼の説明を受けて、ジラルはじろりと闇の向こうへと視線を向けた。
「ご名答」
教会を彩る装飾品。その影から現れたのはリュートを持った吟遊詩人。その足元には、例の少年が、半裸で横たわっている。
「お前が噂のバードか。やはりな。死体を調べてみたが、ラージバッドに殺された割には、傷が少なすぎる。大方、あの男が操って‥‥と言った所だろう」
王が、推測を叩きつける。答えはないが、そのバードの口の端が、釣りあがった所を見ると、外れではないのだろう。
「1つ、確かめさせてもらおう」
と、そんな彼に、ジラルが淡々とそう言いながら、前へ進み出た。
「丸腰の相手にしかけるような奴でもあるまい。事実を確かめるだけだ」
「気を付けて」
心配そうにそう言うラルフ。そんな彼に、安心しろと頷いて見せながら、彼はこう続けた。
「その少年をそこまでの目に合わせたのは、貴様だな?」
「ああ、その通りだ。村の連中を酷い目にあわせて遣ると吹き込んだら、自分から脱いでくれたよ」
くくくと、意味ありげに笑うバード。しかし、ジラルは深くは聞かず、ただ事実を確認するかのように言った。
「何故、そこまでの事件を起こした。目的もなく、こんな大掛かりな真似をするとは思えんが」
「昔、この村には、さんざん『世話』になったからな」
その意味が、一宿一飯の恩義などと言う類のものではない事は、口調からわかる。
「その為に村を」
「ああ、そうさ。悪いかい?」
桂がそのバードを睨みつけている。
「最低だな」
問うた方のジラルもまた、秘めた怒りを宿しているようだ。だが、そのバードはこんな事を言いながら、リュートを合図の様にかき鳴らす。
「そう言う君こそ、やる気あるようには見えないがね。まぁ、望みどおりの目にあわせてやるのも一興か」
その音に惹かれてか、屋根にいた筈のラージバットが、舞い降りてきた。
「ちょうど良い! まとめて始末してあげるわよ!」
桂が刀の切っ先を、蝙蝠達へと向ける。と、そのバードは、さらにリュートをかきならした。
「ふん! 敵がバッドだけだと思うなよ!」
それを合図にしてか、棺桶の扉が跳ね除けられる。中から現れたのは、スケルトンが6体。
「せめて、あの少年だけでも!!」
ラルフがそう言いながら、ストームの魔法を詠唱した刹那。
「火炎を纏いて、我は飛翔せん! ファイヤーバードッ!」
そう詠唱の声がして、炎を纏ったミカエルが、ステンドグラスを叩き割る。驚いたのはバードの方だ。
「白騎士フローラ・タナー、救援に参りました!!」
継いでフローラが、派手に名乗り上げながら、乱入してくる。歯噛みするバードの目の前で、シーナとティアラが、横合いから少年を掻っ攫っていく。
「みんな! こっちは大丈夫! 少年は確保したわ!」
衝撃で気がついたらしい。パニックをおこしかける彼に、2人は安心させるつもりなのか、交互にこう言ってみせた。
「大丈夫かな? そなたの父母から頼まれて、助けに来たぞ」
「よくがんばったね、例えどんなことになろうとも生き抜くことを考えなくてはいけない。これからも良く覚えておいて♪」
よほど酷い目にあったのだろう。うわーんと泣き出す少年。彼の方は、2人に任せておけば大丈夫そうだ。
「さて、12対8だ。これでもまだ、抗うおつもりですか」
フローラがそう問いかける。だが、バードは僅かに後ずさりながら、首を横に振った。
「今更止められはせんさ! 皆、滅んでしまうが良い!」
あくまでも従う気などないらしい。そんな彼を見て、王がこう告げる。
「フローラ殿。ああ言う輩には、滅びと言う名の慈悲を与えてやるのが上策だ。あるだけの力を叩きこんでやれ」
「そうね。それもまた、慈悲かもしれないわね」
哀しげに答えるフローラの前で、激しくリュートを鳴らし、バット達を鼓舞するバード。
「くっ、リュートが邪魔ですね‥‥」
バードの様子に、ディアッカがそう言った。バードの奏でるメロディラインが、蝙蝠達やスケルトンをかきたてているのは、火を見るより明らかだからだ。
「あれがなければ、剣ねじ込めるんだけど」
シーナが忌々しそうに言う。剣も、それが邪魔をして、スマッシュEXを叩きこめないでいた。王のホーリーや、アルメリアのウィンドスラッシュは、抵抗されてしまっているのか、あまり効果を発していないようだ。
「出来るかどうかわかりませんが、動き止めてみます」
ヴァレスの握り締めたナイフに気付いたディアッカ、シャドウバインディングを使った。その力は、かき鳴らしていたバードの動きを、その影ごと封じ込めてしまう。
音の鳴り止んだそこへ、ヴァレスが持っていたダガーを投げつけた。それは、狙いたがわずリュートをその手から叩き落とす。
その一瞬の隙を狙って、ラルフがストームの魔法で、蝙蝠達を牽制する。その間に、桂が自分の使える技を叩き込み、スケルトンは剣とシーナが、容赦なくバラバラにしていた。
「残念だったな。これで止めだ!」
味方が表だって戦っている間に、影になっているあたりから近付いたジラルが、マントの影から、オーラソードを叩きこむ。
ところが、追い詰められた人間と言うものは、何をやらかすか分からないもので。
「やられるなら、お前達も道連れよ!」
その刹那、バードは持っていたナイフを、広間の端へと投げた。それは、貯蔵してあった油壷に当たり、粉々に砕いてしまう。
「これですべて終わる! 私の勝ちだ! 私へしでかした事を、村の滅亡と共に思い知るが良いさ!」
「狂ってるわね」
戦いの余波で引火した炎。その向こう側で、逃げる事もせず、高い笑い声を響かせるそのバードに、フローラがぽつりと呟いた。
「脱出するぞ」
このまま放っといて良いの? と言った表情を浮かべているアルメリアに、ヴァレスがこう言った。
「今は、奴を追うより、生き残った者達を守る方が先だ。どのみち、この炎では生き残れないだろうしな」
見れば、バットの死体も、徐々に焦げていく。
「そうね。止めをさせなかったのは、残念だけど、命あっての物種って言うしね」
いつまでも留まっていたら、今度はこっちの身が危険に晒されてしまう。そう判断した冒険者達は、その炎にまかれて、バードが倒されたと信じ、教会を後にするのだった。
なお、消火活動出来る者がいなかった為、村は焼失してしまったが、ディアッカの主張と尽力により、不問とされた。