紫の衝撃

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:03月20日〜03月25日

リプレイ公開日:2006年03月25日

●オープニング

●到着直後の巻き込まれ事
 その事件は、月道開通日に起きた。
「議長、なんだって?」
 話は、加護乃姉弟の元に、イギリスでの雇い主から手紙が届いた事より始まる。そう尋ねる鶴之介に、姉の小鳥はこう答えた。
「知り合いの女性が、ジャパンへ旅行に来るそうなので、面倒を見て欲しいって書いてあるわ。今度の月道で、こちらへ来るそうよ」
 ジャパンでは見慣れない羊皮紙に書かれたそれには、不慣れな異国での生活ゆえ、協力してやってほしいと書いてある。
「なら、迎えに行かないとね」
 同封された肖像画で、その顔立ちを確かめた鶴之介と小鳥は、そう言って江戸の月道へと赴く。荷物の受け渡しや、務めているらしき吟遊詩人。それに、異国からの客人等々で賑わう中、その女性は興味深そうに周囲を見回していた。
「ここがジャパンか‥‥。確かにイギリスとは、雰囲気が違うわね‥‥」
 髪の色は黒。紫の衣装を身に付けている所を見ると、確かに手紙にあった女性‥‥ミス・パープルだろう。ところが、加護乃姉弟が声をかけようとした刹那、それは起きた。
「お待ちいたしておりました。白諏訪様」
「は? あんた達何言って‥‥」
 現れたのは、立派な身なりの御仁。どこかの家中の者だと思われる数人は、戸惑ったように眉を潜ませるパープル女史の前で、うやうやしく膝をつく。
「またご冗談を。その菫色の瞳、此度の月道開通でのご帰国。間違いなく、白諏訪御前様に相違ありますまい」
「いやだから。私はパープルって言って‥‥」
 言い切る彼ら。パープル女史が『違うって』と首を横に振るが、聞く耳を持たない。
「ぱーぷる? ああ、確かイギリス語では、菫の色をそう評すのでしたな。いや、まこと雅なもので」
「どう言う耳してんのよぉ!」
 話を聞くに、どうやらパープル女史を、どこかの側室と勘違いしているようだ。
「お話は、八王子の宿にて、ゆるりと伺いましょう。籠を持て!」
「って、きゃああ! 話聞きなさいよ〜!」
 そうこうしているうちに、パープル女史ってば、問答無用でかごの中。
「ど、どうしよう‥‥」
「と、とりあえず皆を集めましょう!」
 その様子に、顔を見合わせる加護乃姉弟。急いでギルドで冒険者達を募るのだった。

『勘違いで連れてかれちゃったパープルさんを、別人だと証明して、家中の方を説得して来て下さい』

●その頃の女史
 さて、その頃、連れて行かれちゃったパープル女史はと言うと。
「白諏訪御前様には、ご機嫌麗しく‥‥」
「えーと。まぁ、何時でも脱走は出来そうだけど‥‥。ここは様子を見たほうが良さそうね‥‥。面白そうだし」
 ずらっと並んだ家臣一同に、まんざらでもない表情を浮かべていたり。身に付けたジャパン装束は、白を基調とした豪奢なものだ。根付が紫なのは、本人の趣味だろう。
「白諏訪御前様。今宵はお屋形様がおいでになりますゆえ、お仕度を‥‥」
「仕度‥‥? これは‥‥」
 そんな彼女に差し出されたのは、どこをどうみても、ジャパンのいわゆる寝巻き。
「はい。今宵の寝屋の準備にございます」
「‥‥‥‥‥‥体調不良で寝てるって事にしといて」
 顔を引きつらせながら、逃げるパープル女史。顔を引きつらせながら、即答している。
「うーみゅ。無理やり出るわけにいかなそーだし‥‥。迎えが来るまで、逃げ回るしかなさそうね‥‥」
 いくら奔放さ加減は折り紙付きでも、いきなり領主に御献上と言うわけにはいかないらしく、一応お断りはする事にしたらしい。
 だが。
「でも、領主ってのがイイ男なら、考えなくもないかなー♪」
 ちょっぴりわくわくした表情のパープル女史。様子見も、長く持つかどうか、怪しいようだった!

●今回の参加者

 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

大宗院 透(ea0050)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ クライフ・デニーロ(ea2606)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ ミカエル・クライム(ea4675)/ 来生 十四郎(ea5386)/ レオーネ・オレアリス(eb4668

●リプレイ本文

 一行は、小鳥からパープル女史の人相書きと、連れて行った連中の風体を聞く事にした。
「むむむ〜人助けの侍、暮空銅鑼衛門参上でござる〜」
 説明せねばなるまいっ! 暮空銅鑼衛門(ea1467)は怪人である。彼を改造したのは、結社ぐらんどくろすである。彼は信仰による世界制服の為、日夜戦っているのだ!!
「お久しぶりでございます。なにやら、楽しそうな事になっていますね♪」
 そこへ、ころころと笑いながら、常葉一花(ea1123)が顔を見せる。桜模様の着物に、黒の馬乗り袴と、ジャパン人らしい格好になった彼女、そう言ってご挨拶。
「なるほど。これが女史か‥‥」
 肖像画を見て、そう言うアレーナ・オレアリス(eb3532)。参加者のうち、何人かは見覚えがありすぎるくらいある。しかし、念のためと言う事で、一花は彼女からその肖像画を拝借していた。
「それで、小鳥。白諏訪御前や、甲斐の領主について、何か知らないか?」
「俺にもレクチャーしてもらおう。人違い、という事は、本物がいる訳だから、まずはそちらの確認が重要だし」
 山下剣清(ea6764)とエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が、交互にそう言った。菫色の目と言う事は、純粋なジャパン出の人間ではないかもしれない‥‥と言うのは、エルンストの弁。
「私は、渋谷屋さんから聞いた話しかわかりませんけれど‥‥」
 長くなりそうだからと、お茶を出してきた小鳥さん、納入先であり三条夫人腰元のお琴ちゃんから聞いた話を語る。それによると、甲斐のお殿様、奥向きはかなりご盛況な御様子で、中には異国出身の方もおられるとの事。
「あの‥‥。では、その三条の方様に、おとりなしって願えますか?」
「でも、お方様は既に、江戸別邸の方へ入られているそうですから、すぐには難しいと思いますよ」
 一花がそう申し出るが、小鳥は首を横に振る。いくら幼馴染でも、渋谷屋の取引先でしかない彼女、そう簡単に事は運ばないと告げた。
「待ってたら、レディの奴なにしでかすか分からないぞ。せめて、白諏訪御前とやらの詳細情報が分かれば良いんだが‥‥」
 東雲辰巳(ea8110)がそう言った。まぁ、聞いている限りの正確を考えると、その前に揉め事を起こしかねないと言うのは、確かなようだ。
「もしかしたら、本物の白諏訪御前とやらが来ていて、困っているかもしれん。本人を探して見るとするか‥‥」
 残る可能性を。アレーナが示唆する。他の冒険者達も、その可能性を訴えていた‥‥と。
「もし、忍びこむようなら、間取りはすぐに調べられるが‥‥」
「あたしがやるって言うかぁ、任せてってカンジ。それに、領主の家だって、他に出入りする人もいると思うって言うかぁ、お茶の子さいさい? その間に、その領主と白諏訪御前様の親戚関係とか調べて、パープル先生と関わりがあるかどうか、確かめればいいってカンジぃ」
 アレーナの台詞に、大宗院亞莉子(ea8484)が独特の口調で告げる。まぁ、語り口はともかくとして、その身のこなしから、自分が調べるより、任せてしまった方が効率的だろう。そう判断するアレーナ。そう言うわけで、ライル・フォレスト(ea9027)他残りの面々は、それぞれの手段で、本物の白諏訪御前を探す事にしたのだった。

「しかし‥‥冒険者でもない、それなりのご身分のか弱い女性が、1人で洋行とはのぅ‥‥」
 事情を聞く為、月道の管理室へと向かいながら、銅鑼がそんな疑問を口にしていた。
「案外、か弱くないかもしれねーじゃん? とりあえず、受付の姉ちゃんに聞いてみればいいじゃんか」
 身分の高い女性にも関わらず、あちこちに出かける行動派は、冒険者にとっては珍しくない。そう言ってライルは、受付へと向かう
「菫色の目に、黒髪の‥‥一人旅らしい女性で、迷っていた風な人、いなかったか?」
 応対に出た受付嬢に尋ねると、月道利用客には、黒髪は珍しくないそうだ。
「その中で、顔が隠れるような服装か、ハーフっぽい顔立ちの人、居なかった?」
 しかも、主に利用しているのは商人や冒険者。西洋の血を引く東洋人も、少なくはないらしい。都合二桁は確実な人数に、ライルはげんなりとした表情を見せる。
「探すのめっさ苦労するじゃねぇか‥‥」
 どっちへ向かえば良いか、そこで聞けば良いと考えていた彼、当てが外れてしまったようだ。
「仕方なかろう。最近は、月道を利用しない冒険者もいるわけだし」
 やはり、月道へ確かめに来たエルンストがそう言った。ジャパンに来る際、利用はしたが、もしそこにパープル女史に似た女性がいれば、間違いなく覚えているだろう。だが、彼の記憶にそれはなかった。
「そもそも、屋敷に戻る気ならば、連絡を取りそうなものだが」
「なぁ、迷子とかって、どこへ案内されるか、教えてくんねー?」
 銅鑼の台詞に、ライルはそう尋ねた。受付嬢によると、そう言う困り事の一切は、事の大小に関わらず、冒険者ギルドへと回してしまっているらしい。
「この人もか?」
 アレーナが人相書きの写しを見せると、受付嬢はどこかの家中の者と共に、街へ向かった事を教えてくれる。
「ふむ。行動力のある側室なら、考えられなくもないのぅ」
 どうやら、本物の白諏訪御前とやらは、既に誰かと合流してしまったらしい。
「ここは、後を追うのが上策じゃねーか?」
「なら、頼む。俺は他にやる事がある」
 やっと自分の出番が来た。と喜ぶライルに、彼女の追跡を任せ、エルンストは1人時間稼ぎへと赴くのだった。

「私が、お側御用取次ぎをしております山田勘平にございます」
 先に八王子へ乗り込んだエルンストは、議長から届いた手紙と肖像画を手に、まず屋敷の者を呼び出していた。それなりに人品卑しからぬ学者の申し出とあって、応対に出た50代後半の男性も、客人に対する態度を示している。
「こちらに、同僚が世話になっていると聞いたのでな。これは、イギリスで領主を務めている者からの紹介状だ」
 イギリス語で記された手紙に、外国の社会的立場のある人物からの要請。と、勘平さんは眉根にしわを寄せて、こう言った。
「うぅむ‥‥。しかし、出所は確かではあるし‥‥」
「今すぐに信用してくれとは言わない。ただ、事の真偽くらいは確かめて欲しい」
 まぁ、外国人の申し出を、最初から信じてもらえるなんぞとは、彼自身も思ってはいない。ただ、間違いを疑い、最悪、本物探しの時間稼ぎになればいい。それだけである。
「わかりました。が、はっきりするまでは、当方に滞在していただく事になります」
「構わん」
 勘平の申し出に、即答するエルンストだった。

 その頃のパープル女史、和装と言うのは思いがけず身体を締め付けるもので、部屋でだらけきっていた。そこへ、専用の道具を持った出入りの髪結いさんがやってくる。
「上着を脱ぎます故、殿方に見物される御免被りたい。どうか、お人払いを」
 彼女の申し出に、家来達は、次々と部屋から退出して行く。髪結いと2人だけになったパープル女史、多少警戒したのか、こう言って来た。
「えーと。髪結いって、2人っきりでやるものかしら?」
「だって、そうしないと、術が解けないってカンジィ」
 そう言って、髪結い‥‥に化けた亞莉子は、自分の口調に戻る。どうやら、その話を聞いた彼女、人遁の術を使ったらしい。聞きなれた声に、パープル先生も気付いたようなので、彼女は術を解いた。
「先生、久しぶりってカンジィ」
「やっぱり! あんた、いつの間にこっちに‥‥って、本職確か忍者たっだっけ‥‥」
 亞莉子の本職を思い出した女史、そういう事か、と納得した表情になる。
「そういう事。先生が大人しく捕まってるなんておかしいから、様子見てくれってさ」
「そりゃあ、無理やり出る事は出来るわよ。でも、そうしたら、怪我する奴が続出の上、お尋ね者化しちゃうし。それだったら、東雲達が何とか丸め込んでくれる方を信じた方が良いかなってね」
 彼女の問いに、パープル女史はあさっての方向を見ながらそう答えた。まぁ、生徒達を信じているのだろう。だからこそ、あえて行動を起こさなかったと見える。
「そっか。んじゃそれ、落ち込んでる彼氏に伝えとくって言うか、今、その東雲達が、本物探してるから、もうちょっと我慢しててってカンジぃ。エルンスト先生が、客間に拘留中だから、何かあったらよろしくってさ」
「あいつ、アルヴィンどうしたのよ‥‥。けど、本物見付からないわよ」
 だが、そう告げた亞莉子に、パープル女史は、勘平から聞き出したらしい、自分が連れてこられた理由を教えていた。
「何でも、本来側室になっているのは、妹の黒諏訪御前ってコで、領主曰く、片方だけだと不公平だから‥‥って言う理由で、本物も側室にしようって言い出したらしいのよ。おまけに、それ‥‥本人が確かにいるかどうかも分からない状態でよ?」
 数日前、黒諏訪御前の元に、白諏訪御前が月道にいると言う情報がもたらされ、勘平達はそれを確かめに行ったのだと言う。そこへ、容姿そっくりの自分が現れたため、信じ込んでしまったらしいのだ。
「実は謀略ってカンジ?」
「そういう事。気を付けなさいね」
 パープル女史、うっかり踏み入れると、文字通り首が飛ぶ事を、注意してくれる。
「言われなくっても分かってるって言うかぁ、せっかくだから、ちゃんと綺麗にしてって上げるってカンジ♪」
 だが、亞莉子とて稼業が稼業だ。身を持って知っている彼女は、自信たっぷりにそう言って、潜り込んだ役目どおり、パープル女史を動きやすく上品に、仕立て直してくれるのだった。

 さて、本物らしき御仁を追った捜索組は、大きな屋敷の立ち並ぶ一角へとやってきていた。
「その御仁が向かったのはこの辺りか‥‥。豪勢な家ばっかじゃん」
「御前とやらはどこにいるかだな‥‥」
 ライルがそう言うと、アレーナも周囲を見回してそう言う。人通りの少ないそこで、目に付いたのは見知った顔。
「なんだ。お前らもここにたどり着いたか」
「あら。皆様おそろいで」
 それは、やっぱりこの辺にそれらしき御仁が来たと言う話を聞いた東雲だった。ついでに言うと、一花まで鉢合わせている。
「って、一花ちゃんは、三条の方様に交渉するんじゃなかったっけ?」
「ええ。そのつもりでお屋敷にきましたけど‥‥」
 ライルの言葉に、頷く彼女。一花は、別に白諏訪御前がどうの‥‥と言うわけではなく、単に三条夫人からの書状を手に入れようとしていただけのようだ。
「つー事はここ、江戸屋敷‥‥?」
 怪訝そうにそう言うライル。正門に回ってみれば、そこには渋谷屋で見たのと同じ模様が描かれていた。
「ともかく、渋谷屋さんからの紹介状は持ってますから、行ってみましょう」
 三条夫人へ直接と言うのは無理だったが、実家からお琴への紹介状なら手に入ったので、一行はそれを手に、彼女に面会する事にした。
「白諏訪様? えぇと、黒諏訪様ではなくて‥‥?」
 加護乃家よりかなり広い客間で、事情を聞いたお琴嬢、怪訝そうに首をかしげている。
「黒諏訪ってのもいるのか」
「はい。お屋形様のご側室に、黒諏訪の方様と言う方がおられます。確か、小さな折にご姉妹が行方不明になられたそうで、不憫に思ったお屋形様が、ご側室に迎えられたとの事ですわ」
 ライルがそう尋ねると、お琴嬢は三条夫人が居ないのを良い事に、べらべらと喋ってくれる。それによると、黒諏訪御前と言う側室に居て、その筋から、パープル女史=白諏訪説が流れたそうだ。ちなみに、黒諏訪御前本人は、国元にいるので、説得は難しいとの事。それでも彼女は、三条夫人から直接は難しいが、代役として書状をしたためてくれた。なお、目撃された家中の者は、おそらく黒諏訪御前の手の者だとの事。
「繋がったのう。ならば、参るとしようか」
 話がまとまったのを見て、銅鑼は八王子へ向かうよう、皆へ告げるのだった。

 数日後。
「これを。三条の方様付き奥女中、お琴様の書状ですわ」
 一花が、そう言って書状を渡す。これで駄目なら、例の台詞で、本人を怒らせれば良いと、彼女は考えていた。もっともそれは、最後の手段な訳なのだが、
「そう言うわけだ。貰って行くぞ」
 勘平が止める間もなく、東雲はずかずかとパープル女史がいるはずの部屋へ。
「入るぞー」
「遅ーい。何やってたのよ」
 がらっと襖を開けた瞬間、いつものとおりの返答が浴びせられる。
「色々と証拠固めをしてたんだよ。それとも何か? お前まさか、本気で側室に‥‥」
「なんないわよっ。そんな泣きそうな顔しないでよね」
 一瞬、まさか居座られるかと思っていた東雲、悲しそうな顔をしてしまい、レディにツッコまれている。
「いい子だ。お前を幸せにするのは俺の役目だ、誰にも譲ら‥‥痛っ」
「だから、人前で口説き文句出すんじゃないっ」
 いや、正確に言うと、どこに隠し持っていたのか、漆染めハリセンで、すぱこーんと一撃食らっていた。
「おや? 終わったみたいですよ。小鳥さん」
 ぞろぞろと屋敷から出てきた冒険者達を見て、剣清がそう言った。万が一を考えて、屋敷の外で、不測の事態に備えていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
「皆さん無事に出てきたところを見ますと、お話し合いで解決したみたいですね」
 ほっとした表情の彼に、誘われてついてきた小鳥さんが、お茶を片手にそう言った。
「ええ、剣を抜く事が無くて、安心しました」
 自信はあったが、修羅場を演じるよりは、ここで小鳥嬢と楽しく歓談していた方が、何倍もましだと思っていたらしい。
「まぁ、パープル先生がお姫様なんて、天地がひっくり帰っても、ぶっちゃけありえないってカンジィ」
「いや、結構似合って‥‥」
 亞莉子が明るく笑い飛ばす傍ら、一瞬だけ見た和装に、東雲がそう呟いている。ちなみにその後、お約束通りパープル女史に殴られてはいたが。
「お姉様は恥ずかしいんですわ。その辺わかって上げてくださいまし」
「よ、余計な事言わなくて良いのよっ」
 分かったような口調で解説する一花。勢い、追いかけっことなってしまう。
「荒事なら、わしに任せるのじゃ。むむぅん! お見せするでござる! 秘滅道愚・武鼓舞打!」
 乱入した銅鑼が、装備していたラッキーブローを、頭上で旋回させ、ソードボンバーを放った。幸い、周囲には、冒険者達以外に人は居なかった為、休耕中の田んぼが耕されただけで終わるのだが。
「やれやれ。また賑やかになりそうだ」
 その様子に、エルンストは、多少呆れながらも、どこか楽しそうにそう言うのだった。