●リプレイ本文
そんなわけで一行は、依頼された村へと向かっていた。
「すでに落とし穴を準備中だ。ただ、もうちょっと手間がかかるんだがな」
先行したローガン・カーティス(eb3087)とクライドル・アシュレーン(ea8209)が、穴は掘ってあるもの、このままでは落ちた観音像が割れてしまうかも知れないし、もう2〜3個は掘っておきたいと、そう説明する。本当は、敷き藁やロープも持ってきたかったんだが、ブーツの効果は本人限定な為、馬や驢馬に乗せた物資は、後から到着する事になったようだ。
「そういう事なら手伝おう。えぇと、進行方向で良いのかな?」
「あと、足を引っ掛けたいんで、ロープを張ってください」
東雲辰巳(ea8110)の台詞に、モサド・モキャエリーヌ(eb3700)がそう言う。そんなわけで、観音像が止まったり動いたりしている間、皆は総出で穴を掘る事にした。
「すみません。どなたか助けてくださーい」
出られないように、5尺ほど掘ったは良いが、モサドさんったら、うっかり掘りすぎて、出られなくなっちゃったり。
「ああもうしょうがないなー。ほら」
縄をかけて、よっこいせと救出する東雲。今回は雑用係に徹するつもりのようだ。そんなわけで、穴は三つほど掘られる事になった。
「皆さん、観音像が現れましたよー」
「とりあえず、あれを止めると言う事でよろしいのですね?」
知らせに来たクライドルが、ユナ・クランティ(eb2898)に頷いている。と、観音像は、埴輪しか見えていないらいしく、あっさりとロープを踏みつけていた。
「今です、ユナさん!」
「本当は、こんな像ではなく、生のを縛りたいのですけれど‥‥」
なんぞと、妖しい一言を、ぼそりと呟きながら、彼女は観音像を、どう見てもアヤシイ縛り方で、縛り上げようとする。
「上手くいきませんわねぇ」
だが観音像は、そうされまいと暴れて、落とし穴とは反対側へと、方向転換してしまう。
「あら、逃げられてしまいますわー」
「仕方ないですねぇ」
と、満がそう言って、ウォールホールのスクロールを広げた。皆が掘った落とし穴よりは、かなり浅い‥‥3尺3寸程度の穴だが、妨害には充分だ。その目論見通り、もさもさと穴から抜け出た観音像は、本来の落とし穴がある方向へと向かう。
「今です! ユナさん!」
「はいはーい♪ お任せくださいな☆」
その落とし穴に落ちた観音像が、わたわたと動けなくなっている隙に、ユナがアイスコフィンの魔法を唱えた。割と実力はある彼女の魔力に、観音像はぴしぴしと凍り付いてしまうのだった。
「とりあえず事情を聞きましょうか」
観音像は、ユナの手により、亀の甲羅めいた縛られ方をして、穴の中に収められていた。その観音像から話を聞こうと、モサドはジャパン語で、こう語りかける。
「あのー‥‥。何をしようとしてるんですか?」
反応なし。
「言葉が分からないのかもしれませんね。心に語りかけてみましょう」
北天満(eb2004)はそう言うと、テレパシーの魔法を唱えた。これで、言葉が通じなくても、会話は出来るはずである。
『何故動くのです? 其方に用があるのですか? 小さき者と闘わないで欲しいですわ』
ローガンの話では、観音像は、人々が祈りを込めた瞬間に、動き出したとの事。ならば、観音像は、人の言葉が分かるのではないかと思ったようだ。
「造った人は心を込めて作成したはずだ。壊された理由を聞きたい」
満にそう尋ねさせる彼。上杉藤政(eb3701)と、ローガンや満の知り合いが、事前に聞いてきた話では、この観音様と言うのは、時に男女の仲にやきもちを焼く事があるそうなので、もしかしたらそのもつれかもしれないと、そう考えたようである。
「確かに、できる限り壊したくはないですしね」
古いものを大切に考える満は、そう言うと、観音像に語りかけた。お手伝いのお友達は、埴輪達がいたく気に入っていたようで、できればそちらに手を貸したいとは思うが、乱暴は良くないと言う事だ。
『おのれー。あの浮気者めー! わらわをこのような目にあわせおってー!』
観音像は、そう言っている。やっぱり、男女のもつれらしい。相当怒っているようだ。
「ちょっと調べさせてもらいますねー」
ユナが、そう言ってリヴィールマジックのスクロールを広げた。像の力に、何か魔法的な部分がないかと思ったのだ。しかし、観音像は、厳密なマジックアイテムとは、少し違うようで、特に強い力が働いていると言うわけではなさそうだった。
「これは‥‥、観音像より、村の言い伝えから、事件を紐解いた方が良いであろうな」
状況を見守っていた上杉がそう提案した。確かに、観音像は怒りに震えていて、まともに話を聞いてくれそうにない。
「まずは村人に聞くのが相場ですかね」
クライドルもその意見には賛成のようだ。そこで、観音像を掘り出したと言う村人達を訪ね、手分けして話を聞く事にした。
「この観音像は、どういった状況で発見されたんですか?」
「へぇ。新しく掘り進めた坑道で見付かったんでございます」
そう答える村人さん。なんでも、水晶の鉱脈を探していた所、バラバラの観音様が出て来たそうだ。
「それだけじゃわかりませんね。村長さんにも、話を聞いてみましょう」
「一軒一軒回ると、効率が悪そうだ。皆を集めた方が良いだろうな」
そう言う東雲。そんなわけで一行は、水晶掘りの職人達を、長老宅に呼び出していた。
「ふむ‥‥。なるほどな‥‥」
話を聞いて、それをまとめる満。見つけた場所は、坑道の中だったそうだが、どうやら以前、がけ崩れがあったような感じだったらしい。そこを掘り進めた所、観音像が出てきたそうだ。最初は頭の部分が見付かり、周辺から体の部分がバラバラになって出てきたそうである。水晶も、その時発見されたそうだ。
「で、その観音像に、何を祈ってたんだ?」
「商売繁盛と安産祈願と、恋愛成就‥‥家内安全だったかな」
東雲がそう聞くと、指折り数えてそう教えてくれる村人さん。ごくごく一般的な祈りばかりのようだ。だとすれば、関わりがあるのは、観音像ばかりではないのだろうか。
「その水晶が古墳と関連しているかもしれぬ‥‥。長老は、古墳について、聞き及んでいないか?」
「あれは、昔から村にあったものですが‥‥。我らのご先祖だそうでございます。聞くところによると、たいそう子沢山のご先祖だったそうです」
何しろ、うちの家系は、おねーちゃん大好きですからなーと語る長老。そのご先祖様と言う事は、やっぱり女好きに違いない‥‥と、彼は語る。
「何か、文献が残っていれば良いのだが‥‥難しそうだな」
ローガンがそう言うと、長老は参考になれば‥‥と、家系図を出してきてくれる。
「葬られているのは、このあたりのご先祖か‥‥。何か言い伝えが残っていないかな?」
村人の1人が、古い歌の中に、恋多き王様の話があるらしいと教えてくれた。上杉が詳しい事を聞くと、それは恋にあけくれた王様が、奥方の恨みを買い、逃げたり追いかけたりする話だそうである。このあたりでは、その歌にならぞえて、追いかけっこをするそうだ。
「結局、その古代の王と妻子は、どうなったんだ?」
確信的に頷くクライドルの横で、ローガンが王のその後を尋ねる。それによると、王は妻に諭されて、そっくりな観音像を作り、丁寧に祭ったそうだ。そして、恋人達の変わりに、埴輪を作って埋葬させたそうである。つまり、あの観音像は、浮気を怒る奥さん役で、埴輪達は、愛人役と言ったところなんだろう‥‥と、そうまとめるローガン。浮名が多かったと言う事は、その中に西洋人が居たとしても、不思議ではない。
「だとすると、古墳に何らかの手がかりがありそうではあるな。少し見てみたいのだが、構わぬか?」
「関わりがありそうな品が、埋葬されているかもしれませんしね」
上杉の提案に、頷くクライドル。長老の許可を貰った一行は、埴輪達の守る古墳へと潜りこむ事にするのだった。
入り口には、たくさんの埴輪達がいた。行ったり来たりしている姿は、とても微笑ましいのだが、中身が空洞な分、話を聞いてくれそうな風情には見えなかった。
「ハニハニハニハニハニ‥‥ジャパンハフシギナトコロデスネ」
はにはに喋っている実際の埴輪達を見て、思わず鼻血を吹き出しているモサド。一方の埴輪達はと言えば、混乱しているようで、右往左往している。その間に「おーい、戻ってこーい」と東雲に言われ、慌てて我に返る。
「う、動き出すことがなければ絵の題材にしようものなのですが‥‥」
「事件が解決したら、頼めばよかろう。それよりも、あそこで固められていると、中に入れないな‥‥」
上杉がそう言った。彼が見ている限り、物事を認識する能力はありそうだが、見た目は素焼きの人形そのものなので、それが果たして視覚に頼ってなのか、魔法感知なのか、さーっぱりわからなかった。
「あまり頭が良さそうには見えないですから、なんとかなりそうな感じですね」
様子を見ていたクライドルがそう言った。
「サンレーザーで牽制するくらいしか出来ぬが‥‥。その隙に入り込めないか試してみようか」
その判断に、サンレーザーの魔法を唱えようとする上杉。試しに、近くの岩場にぶつけて見た所、ハニハニさん達は、前にも増して混乱しているようだ。その様子を見て、ユナが困った表情を浮かべる。
「あのぅ、このまま戦闘すると、ハニハニが壊れてしまうのですけど」
何しろ、威力の低い初級のサンレーザーさえ、ちょっと欠けてしまっているのだ。ここでアイスブリザードなんか打ち込んじゃったら、深く考えなくても、一網打尽になってしまう。
「あ、前衛やる人は巻き込まれないよう気をつけてくださいね♪ 魔法は急には止めれませんから☆」
明らかに嘘こいているユナ。やっぱり止めた方が良さそうだ。
「インビジブルが使えれば、中に入れるんだがなぁ‥‥」
「見付かったら、戦闘になってしまいますよ。ここは、ゆっくりお話を伺うべきかと」
潜入策を推奨する上杉を制する満。心なしか嬉しそうなのは、古い遺跡を間近で見れるとあって、少しばかりはしゃいでいるのだろう。
「うむ。では頼む。私も出来るだけ強攻策は取りたくない故な」
上杉とて、無理やり突入したいわけではない。それに、埴輪を壊したくない村人達の気持ちを考えると、ここは、仲間の意見に従うが上策だと、判断したようだ。
「では、ちょっと聞いてみますね」
そう言って、テレパシーの魔法を唱える満。そうして、5寸ハニハニに話しかける。傍目で見ていると、満と埴輪が、ハニハニ言っているようにしかみえないんだが。それでも会話は成立しているのだろう。彼は時々うんうんと頷いていた。
「何か分かったのか?」
「埴輪達は、あの観音像が、主に害なすものと認識しているようです。あの古いがけ崩れも、その時に出来たもののようですね」
頷く満。ハニハニ達によれば、あの観音像は、以前にも動いた事があるそうだ。その時は、ご主人様が守ってくださったので、今度は自分達が守る番だと思っている模様。
「しかし、どうやって止めるのか‥‥」
「その辺りは、埴輪達もよく分かっていないそうです」
満の弁では、攻撃すればどうにかなるだろうと、安易に考えていたらしい。
「やはり、古墳に何らかの鍵があるようだ。埴輪達に、中へ案内してくれないかと頼んでくれぬか?」
「心得ました」
上杉の提案で、早速交渉に入る満。埴輪達は、主に危害を加えないならと、承知してくれるのだった。
「精霊碑文や、古代魔法語とは、若干違うようですわ」
中には、古い文字や、レリーフ、それに絵が描かれていた。どうやら、主の一生を記し、称える者らしい。「古墳。古代の有力者の墓、ですよね。後で写生したいものです」
美術的に価値があるのかもしれない飾りも多数あった。それを興味深そうに眺めながら、そう呟くモサド。そうしている間に、一行は埴輪達の案内で、いわゆる玄室へとたどり着く。そこに、立派な身なりの幽霊が現れた。ただし‥‥少し軽薄そうな。
「貴方が王様ですね?」
そう確かめると、彼は黙って頷いた。そこでローガンが、村で起きている事を簡単に説明し、こう頼み込む。古墳の人物と、観音像に宿る人物に因縁があるのは、明らかだったから。
「事情はあると思うが、出来れば両者に話し合ってほしい。肉体が滅びた後も、憎しみだけが残り続けるのは苦しいことだ。この地の人達を見守ってあげてくれないだろうか」
幽霊な王様は、未だに恨みを買っている事に、少しばかり驚いたようだ。自分の子孫を苛めたいと思ってはいないそうで、大人しくその提案に従ってくれる。ただし、彼はこの場を動くわけにはいかないので、代わりに奥さんの怒りを解いて欲しいと言って来た。そこで冒険者達は、委細承知とばかりに、地上へと戻ったのだが。
「あ、奥様が動き出してますわね」
ユナがそう言った。春の陽気で、氷が予定より少し早く溶けてしまったようだ。まだ頭や体の一部は凍りついたままだが、もぞもぞと穴から這い出しかけている。
「動きを止めないと、話を聞いても貰えないみたいですねー。多少荒っぽいですが、勘弁して下さいよ!」
そう言って、シャドウバインディングの魔法を唱える満。しかし、抵抗されてしまったようだ。そうしているうちに、観音像は邪魔だからどけと言わんばかりに、その腕を振り下ろす。
「穏便に済ませたかったんですが、直接ぶつかるしかなさそうですね」
それを、急所を上手く外して受け止めるクレイドル。俗にデッドオアライブと言われるCOだ。そこへ、ローガンがファイヤーコントロールを唱え、持っていた松明の炎で、頭の氷が解け、水晶部分を露出させる。
「上手く外れてくれよ!」
露出した額に、東雲がソニックブームを打ち込んだ。日本刀に比べて、若干威力の低い霞小太刀は、観音像にひびを入れる程度に抑ええてくれる。そのひびに、水晶は自重を支えきれず、ぽろりと落ちていた。
「やっぱり、これが原因でしたね」
ローガンが手ぬぐいに包んで拾い上げたそれを見て、そう呟く満。その後、観音像は冒険者と村人の手によって、手厚く供養され、もう動く事はなくなったそうな。