【い組始末】相撲指南

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月24日〜05月29日

リプレイ公開日:2006年05月27日

●オープニング

 江戸では様々な事件が起きている。だがそれは、必ずしも命のやり取りをするような事件ではないのだ。
「ちわーーーっす」
 今日も元気な、渋谷屋の祥吉くん。同じ様に威勢の良いい組に、今日も入り浸り中。
「おう、どうした? 祥坊」
「相変わらず子供扱いだなぁ。まぁ、いいや。おう、入んな」
 彼が今日連れてきたのは、同じ年頃の河童の子供だ。
「なんだ。忍が淵の三平太じゃねぇか。どうした?」
「実は今度、奉納相撲をこいつと取る事になったんだけどよぉ」
 い組のお頭も、顔見知りの河童坊主である。と、三平太くんは、そう言って事情を話した。忍が淵の守り神である、河童弁天に奉納する為、彼の河童仲間数人と、祥吉の仲間数人とで、相撲の取り組みをする事になった。が、三平太達は河童で、祥吉達は人間。どうしたって、不都合が出るわけで。
「なるほどな。んで、俺らに力を貸して欲しいってか」
 い組のお頭は、にやりと笑う。と、祥吉はこう言った。
「いくら、異種族相撲つったって、やっぱり、公平に取り組みたいじゃん? だから、俺ら町内組と、三平太達忍が淵組が、同じ条件で取り組める土俵を、何か考えて欲しいんだ」
「あと、せっかくだから、稽古も付けて欲しいだ」
 どうやら、逞しさにおいては、冒険者にも引けを取らない火消し連中なら、そのあたりを考えてくれると思ったようだ。
「わかった。まぁ、弁天様への奉納相撲だ。それに、てめぇらの根性が気に入った。出入りの連中に頼んでみらぁな」
 快くそれを請け負ってくれるお頭に、2人のガキ大将は揃って「「よろしくお願いしまーす」」と頭を下げるのだった。

『そんなわけなんで、河童対人間の子供相撲を手伝ってくれる奴、募集』

 まぁ、こう言う依頼は、回りまわって、冒険者にも通達されたりするわけである。

●今回の参加者

 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8750 アル・アジット(23歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2261 チャー・ビラサイ(21歳・♀・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

クライフ・デニーロ(ea2606)/ ドナトゥース・フォーリア(ea3853)/ 楠木 礼子(ea9700)/ リチャード・ジョナサン(eb2237

●リプレイ本文

 忍びヶ淵長屋は、弁天堂のすぐ側だった。
「さて、困難ではあっても、平和な依頼で、狂化の可能性がある行動をするわけにはいきませんね‥‥」
 待ち合わせしつつ、そう呟くアル・アジット(ea8750)。弁天堂境内では、2人のガキ大将とその仲間達が、元気に稽古をしていた。
「異なる種族は、異なる得意分野を持つのものですが‥‥。お互いに分かり合い、自然体につきあえるのはすごいことですよね」
 2人のガキ大将を、尊敬の眼差しで見つつ、そう言う彼。と、そこへ素肌に着物を羽織っただけの伊達正和(ea0489)が現れ、子供達の間に入ってくる。
「稽古熱心なのは良い事だ。俺も相撲は好きだし。ただ、取っ組み合ってるだけじゃダメだ」
「じゃあどーすんだ?」
 怪訝そうに首を傾げる祥吉。と、彼は羽織っていた着物を脱いで、褌一丁にサラシと言う、汗をかいても平気な衣装になると、ばしっと胸を叩いた。
「ガキの頃は、お袋に鍛えられてるし、数年前は弟に稽古つけたり、今でも寺子屋のガキどもに教えてるから、稽古つけるのは任せな」
「「うわー。すげーー」」
 普段は教師を生業としている彼だったが、冒険者として鍛えた腕っ節は、達人級と言って差し支えないだろう。運動の出来る人が英雄な少年達にとって、瞬く間にその心をつかめたようだ。
「おや、もう始まってるんですか?」
「今来たばかりです」
 そこへ、ドワーフ女性のチャー・ビラサイ(eb2261)が、稽古場に現れる。頷くアルに、彼女は深々とご挨拶。
「初めまして。パリから来たばかりのチャーといいます〜♪ 初めての江戸を体験するならギルド依頼かな〜と思っていたら、河童さんに会えると聞いたので、受けてしまいました〜♪」
 その興味は、すでに稽古している河童少年達に注がれている。いや、どちらかと言うと、正和の立派な体躯が目当ての人もいるようだが。
「オラ達、そんなに珍しいか?」
「西洋では、あまり見かけませんから♪」
 不思議そうな顔をする三平太に、チャーは歌うように答えている。確かに、河童達は、日本でこそそれなりにいるが、海外では珍しい。最近では、河童の冒険者も増えたようだったが。
「おや、皆さんお集まりですね。これ、使えるかと思って持ってきました」
 大人達が、稽古を見物している中、若干遅れて現れる円周(eb0132)。その手には、何故かきゅうりやお菓子が、籠に入っている。
「これも相撲で使うんですか?」
「まぁ、似たようなものです」
 興味深げなチャーに、そう答える円。
「うーん、ますます謎です‥‥。相撲って、大食い大会なんでしょうかー」
 眉をひそめてそう言う彼女に、今度は円が不思議そうな顔をする番だ。と、チャーは少し照れた表情を浮かべ、こう告白する。
「いやぁ、実は‥‥ヱと〜‥‥相撲って何ですか?」
 一瞬、時が止まる。
「調べには行ったのですが、難しい漢字が読みこなせなくて‥‥」
「ああ、そうか‥‥。西洋人には、難しいかも知れませんね」
 そう続けたチャーに、納得した顔をする円さん。聞けば、一応日常会話程度なら、ジャパン語も使えるが、複雑なものは、厳しいとの事。
「一度やって見せてくださいませんか?」
 そう申し出る彼女に、正和が境内の地面に、丸く土俵を書く。
「まぁ、要はこの丸い線から外に出るか、地面に体がついたら負けって奴だ」
「ふむふむ‥‥。いわゆるすぽぉつと言う奴ですね」
 西洋人なりの解釈をするチャー。と、そこへ円が千早を脱ぎつつ、こう申し出る。
「練習相手は、どうしましょうか? ボクでよければ、練習相手になりますけど‥‥。すみません、ご迷惑ですよね?」
 円、見た目はどう見ても11歳くらいの少女である。体格も同じくらいではあったのだが。
「いや、相手してくれるのは嬉しいけどよ。お前‥‥女なのに、大丈夫か?」
 祥吉も、女の子に相撲の相手をさせるのは、やはり気が引けるようだ。と、彼の問いを聞いた円は、くすっと笑って、こう答えてくれる。
「ああ、勘違いさせてしまいましたか。私は男です。これは、仕事の都合で、着なければいけない服なのですよ」
 古い神道系の家柄な彼、厄除けの為、性別逆の服装をしなければならないのだと、教えてくれた。
「なんだ。ならいいや。一緒にやろうぜ」
「だそうだ。ま、俺も教えるのに、分け隔てはしないつもりだしな」
 こうして、円は久々に同い年の子供達と、一緒に遊ぶ事になったのだった。

「なるほど〜♪ 楽しそうなお祭りになりそうなのです〜♪」
 一通り取り組みを見学したチャーは、なんだかとてもわくわくした表情で、そう言っている。
「寺子屋の方に、話を通して頂いて正解でしたね」
 汗を拭き吹き、そう言う円。結構長い時間かかりそうなので、授業の一環にしてしまったのだ。
「柔よく剛を制すとは申しませんが、成長期だけに、技量が少しでも向上すれば良いんじゃないでしょうか」
 円自身も、その年代ではあるが、練習すればその分技量が上がる事は、冒険の中で学び取っている。
「私、馬持ってますから。稽古にも、馬使えそうですよね〜」
 ぽふぽふと、愛馬を撫で撫でするチャーさん。しかし、正規の力士ではない彼らに、そこまで厳しい特訓をするわけにはいかないだろう。
「そこまでやったら、子供さん達が壊れちゃいますよ。馬さんには、土俵作りに頑張ってもらいましょう」
「はーい」
 苦笑しながら、そう言ってくるアルに、チャーは素直に頷いている。
「ガキの頃は、良く食べて良く動くのが良い。何はともあれ、特訓だ!」
 実際に教えるのは、正和の役目だ。同じ様に褌と晒し姿になった子供達を前に、四股を踏む。
「まずは、足の踏ん張り鍛えるぞ、どすこいっ!!」
「「「どすこーーーいっ」」」
 祥吉や三平太だけではなく、彼らより小さな長屋の子供達も、真似をしている。そんな彼らにも、正和は両腕を広げて、こう言った。
「次はぶちかましだ。こいつも基本だが、下手な小細工より強い横綱は、ぶちかましだけで勝つ。俺がもんでやるっ!!」
 と、2人のガキ大将が「よぉし。まずはオラだ!」とか、「次俺!」だとか言いながら、向かって行く。その稽古風景を眺めていたチャー、こう気付く。
「やっぱり、祥吉さん達の方が、分が悪そうですねぇ」
「人間と河童ですからねぇ」
 見れば、やはり祥吉達、人間組の方が、若干力が弱い。正和もその辺りは気付いているようだ。
「じゃあ、三平太さんたちには、試合前に疲れることを少ししてもらいますか? でもあまり制限つけると、面白くなくなるとも思うのです‥‥」
 チャーが人差し指を顎の辺りに当て、困ったように首をかしげている。
「いわゆるハンデですね。なら、泳いでもらうのはどうでしょう。河童の方々なら、水泳くらいは、たいした運動にはならないと思いますから‥‥」
 円が、忍が淵を指し示した。5月も終盤にさしかかり、まだ水温は冷たいとは言え、三平太達は河童。それくらいは、苦にならないだろう。
「三平太。お前は、ぶちかましたら、そのまま相手に食い付いて押し出しだ」
「おう!」
 事実、体重のある彼は、その重さを生かした取り組み方を、正和から教わっている。
「祥吉、お前は廻しの横を掴んだら頭突きしろ、相手の体勢が崩れたら投げたり転ばせてやれ」
「わかったー!」
 それに比べて、若干細い祥吉はと言うと、力に頼らない技で、相手を倒す事を指導されていた。
「うーん、下手に事故を起こしてはと思いますし、余分な行為は止めておいた方が無難でしょうね。祭事で体を痛めることは避けるべきかと」
 その様子を見て、アルがそう言った。下手に余分な力をかけて、筋でも痛めては大変である。しばし考え込んでいた彼、こう提案してきた。
「そうですね‥‥。河童さん達に、大量のお水を飲んでもらうのはどうです?」
 意味が良く分からなくて、周囲が怪訝そうな顔をしている中、彼はこう続けた。
「満腹の時はどうしても動きが鈍くなりますから、お互いの力を調整するのに丁度いいと思います。しかし、試合の最中や直後に吐くことになっては一大事です。三平太さんと祥吉さんで、飲んで取り組むことを何度か繰り返していただけないでしょうか?」
 動きが鈍くなるが吐きはしない、という絶妙の量を調べておく必要があるでしょう。と、説明するアル。
「よし。練習代わりだ。やってみろ」
「では、ちょっとお水持ってきますね」
 正和が了承を出すと、彼は長屋に向かい、三平太の家へ向かった。夕餉の仕度をしていた母親に、アルはある事を尋ねる。
「三平太の水飲む量? 普通で5合くらいかしら」
 それは、彼が普段飲んでいる量を確かめる事。母親河童は、そんな彼に、寺子屋に持って行くと言う水筒を貸してくれる。
「分かりました。では、それより少し少なめにしておきます。摂取のしすぎは問題ですから」
 その水筒の8分目量なら、問題はないだろう。それを受け取り、彼は稽古場所へと戻る。
「おかえりなさい。それじゃ、私は、向こうのお手伝いをしてきますね。女ですけど、レンジャーですから〜。仕事何でもおっしゃってくださいな♪」
 アルが実験をしている間、チャーは愛馬と、そして長屋の住人達と共に、土俵作りに精を出すのであった。

 そして2日後。
「晴れてよかったですね」
 弁天堂は、ほど良い天候になっていた。満足そうにそう言う円に、チャーがこう言った。
「円さんのお祈りが、お天道様に通じたのかもしれません。優美な舞いを披露してくれましたから」
 彼女が言う通り、円の唇には、紅が引かれ、目の下に独特の紋様が施されている。つい先ほど、弁天堂の前で、奉納舞を踊り、無事終わるよう祈願してきたばかりだ。
「きっと、弁天様も喜んでくれますよね」
 中に祭られたのは、女性の神様だが、商売と踊りの神様でもある。きっと、加護を授けてくれる事だろう。そう言って、アルは三平太に、水筒のお水を差し出した。
「この水、きゅうりの匂いがするだ」
「ただのお水じゃ、飲み難いですから」
 その水筒には、薄く切ったきゅうりを浮かべてある。香りの移ったそのきゅうり水を、ごきゅごきゅと美味しそうに飲む三平太くん。
「そういえば、皆さんその姿で、相撲を取るのですか?」
「そうだけど‥‥?」
 チャーの問いに、怪訝そうな祥吉。その姿は、稽古の時と同じ、サラシに褌姿だ。
「いえね♪ まわし、という物があると聞いたのですけど、こんなのですか?」
 彼女が見せたのは、ファンタスティック・フンドーシ。蝶の模様をあしらった、豪華なノルマン製の褌だ。
「なんか格好いい‥‥。おねーさん、貸してくれるの?」
 チャーが頷くと、祥吉、早速それを身に付けている。金糸や銀糸をふんだんに使っており、その気品と妖しさに、街で振り向かないものはいないと噂されているシロモノ。流石に反物を扱う店のせがれだけあって、いたく気に入った様だ。
「それでは、はっけよーーい‥‥」
 正和が今度は行司になっている。
「「のこったーーー!」」
 円もアルもチャーも、今度は応援役に回り、双方に声援を送っている。こうして、奉納子供相撲大会は、結構な盛況ぶりで、進行するのだった。
 夕暮れ時。
「よくやったぜ、ガキども♪」
 正和が、そう言って2人を撫でている。
「俺、負けちまったー」
「おいら、結局優勝できなかっただよ」
 結局、双方痛み分けと言った所だったらしい。がっくりと肩を落とすガキ大将達に、正和はこう言って励ます。
「そう凹むな。勝負ってのは、勝っても傲るな、負けても腐るな、だ。稽古なら、茅場町1番地にくれば付けてやる」
 そう言って、寺子屋の場所を教える彼。そこへ、チャーがあるものを持って、やってきた。
「2人とも、名勝負だったのです〜」
「あー! 冷やし甘酒と、船橋屋の羊羹だー」
 彼女が持ってきたのは、よく冷えた甘酒と、庶民には手に入りにくい高級菓子である。
「俺からのちょっとした褒美さ。遠慮なく食えよ」
「「わーい」」
 正和に奢られ、子供達は子供達なりの、慰労会を楽しむのであった。