【甲州街道】犬鬼追い出し大作戦!?

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月30日〜06月04日

リプレイ公開日:2006年06月02日

●オープニング

 石和宿八幡神社の境内にて。
「積荷はこれで全部ですね?」
「はい。一応、そう簡単に燃えないよう、工夫はしてあります」
 若い僧侶の指示で、お経らしき巻物を、荷台に乗せている村人達がいた。高坂所縁のこの寺では、富士学問所に、所蔵している経を、何冊か送る事になったのだ。
「和尚様〜、大変ッスよ〜」
「どうしました?」
 ところがそこへ、何やら火急を知らせる村人が。
「今、使いの者が来て、小仏の峠道に、犬鬼が巣ぅ作っちまったって、言うッスよ〜」
「えー‥‥」
 げんなりとした表情の和尚様。ただでさえ、割と険しい峠道に、困り事が発生したようだ。
「数は何匹です?」
「だいたい10匹くらいだそうっス。けど、中に熊みたいなのや、豚みたいなのもいるそうっス」
 詳しく話を聞くと、使いの村人は、そう話してくれる。荷台の通れる山道の近くに陣取り、通る旅人から、金品を強奪しようと、時々襲ってくるそうだ。たいていは、酒と食料、それに金子を渡せば通れるのだが、時々追いかけてくるらしく、危なくて仕方がない。
「犬鬼に、豚鬼と熊鬼がくっついてるって所ですかねぇ‥‥。毒持ってますから、うかつに手も出せませんし‥‥」
 しかも、犬鬼は小鬼と違い、毒を塗った武器を所持している。もしうっかり怪我でもさせられたら、たとえ致命傷ではなくても、死んでしまうかもしれない。
「そうだ!」
 と、しばし考えていた和尚は、手をぽんっと叩く。村人が「何か思いついたんで?」と尋ねると、彼はこう言った。
「はい。この教本輸送を、山車に見せかけて、犬鬼達を脅し、出てきた所を、反対側から冒険者さん達に一掃してもらいましょう」
「なるほど、上手く行くといいッスね!」
 納得する村人。確かに、わざわざ呼びたてるよりは、その方が都合がいい。こうして、ギルドに募集がかけられるのだった。

『犬鬼退治に協力してくれる冒険者様を募集します。場所は、小仏峠です』

 なお、この時期は躑躅の花が満開だそうな。

●今回の参加者

 ea8750 アル・アジット(23歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb0575 佐竹 政実(35歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1561 所所楽 杏(47歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb5014 エアニ(25歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5099 チュプペケレ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

銀 千邦(ea9793)/ アトゥイ(eb5055

●リプレイ本文

 その日、集まった冒険者達は、一通り装備品の交換や補充を済ませると、「兄様、どうか無事に帰って来て下さいね」なんぞと見送られ、犬鬼が出ると言う噂の峠へと向かっていた。
「うは、犬鬼かぁ。村の人たちが困っているなら、手伝ってあげなきゃね」
 話を聞いたチュプペケレ(eb5099)は、両方の拳を握り締めている。と、その姿を見た所所楽杏(eb1561)は、こう呟いた。
「あら‥‥。うちの子と、同じくらいの年齢の子ばかりね」
 先を急ぐ仲間を見て、そう言う杏。今回の同行者は、彼女を除けば、10〜20代の若者ばかりである。そんな、若い連中に囲まれながら、彼女は彼らと共に、待ち合わせ場所へと向かった。そこでは既に村人達が山車の周りに集まっている。と、それを見ていたエアニ(eb5014)が、こんな事を言い出した。
「これでは、チャペとて逃げ出すまい‥‥」
 チャペと言うのは、彼らコロポックルの言葉で、猫と言う意味だ。確かに、ただの荷物が積まれた大八車で、迫力と言う点では、少々心もとない。
「こんなのはどうだ?」
 と、彼は地面に案を書き始めた。中々、派手な姿だなと判断したらしき和尚は、村人にその様に変えるよう、指示を出す。
「それじゃ、始めましょうか。血沸き肉踊る冒険というやつをね」
 シャリオラ・ハイアット(eb5076)がそう言った。こうして、犬鬼追い出し大作戦は、幕を開けたのである。

 一行は、大八車を和尚達に任せ、犬鬼が出ると言う峠の入り口で、待ち伏せをしていた。
「うわぁ、内地はもうこんなに暑いんだね。あ、でも木陰は涼しいな」
 チュプペケレが、木陰に腰を下ろしながらそう言った。蝦夷出身の彼らコロポックルにとっては、山の中とは言え、既に夏場の気温だそうである。
「でも、ちょっと退屈ねぇ」
 あくび交じりでそう言う杏。と、初夏の日差しに咲いた躑躅を見つけ、摘み取った。
「エアニ君☆」
「ん、呼んだか?」
 何も知らないエアニは、招きよせられて、素直に応じている。と、杏はそんな彼の頭に、今摘んだばかりの花を飾ってしまった。
「‥‥」
「可愛いーー☆」
 表情の余り出ないエアニが、困惑したように黙り込むと、杏さんは手を叩いて大喜びである。
「こ、このままでは緩みきってしまうな‥‥」
「だったら、ちょっと聞いてみるね」
 チュプペケレがそう言って、日向へと出て行く。まぶしい日差しを見ると、太陽は元気そうだ。
「お日様さんお日様さん、教えてくださいな」
 サンワードの魔法を唱える彼女。しかし、鬼達がどっちの方向から、いつも来ているのか等、巣穴の詳しい事はわからなかったようだ。
「まぁ、木陰だと、お日さん分からないかなぁ」
 反省した様にそう言う彼女。もう少し修業が必要のようだ。もっとも、山車がすぐ近くまで来ている事は、教えてくれたが。
 と、その時である。
「あれでしょうか?」
 シャリオラが、峠の向こうから、賑やかに追いたてる荷車を見つけた。見れば、詰まれた教本の他、前には、角や目とギザギザ歯の口が書かれ、後方には、竹槍に『喧嘩上等!』やら『夜露死苦』だのと書かれたのぼりを立てている。
「あっ。犬鬼さん達、現れたみたいだよ」
 チュプペケレがそう言った。山車を取り囲む様に、10匹近い犬鬼が現れている。
「よし。行きますよ」
 アル・アジット(ea8750)が歩く速度を早めた。今の所、犬鬼達は、村人を囃し立てている程度だが、いつ襲い掛かってくるともわからない。まずは、彼らから引き離そうと思った故の行動だった。
「待ってください。これを」
 と、佐竹政実(eb0575)がそう言って、アルの愛刀『霞刀』にオーラパワーを付与する。エアニと杏にも、同じ様に魔法を付与した彼女は、最後に自分にもオーラボディとパワーを付与し、犬鬼達の中へと切り込んで行った。
「セタ程度に後れをとれば、ラメトクの名が廃る」
 エアニが、まず先頭にいた犬鬼に斬りかかる。狙うは、犬鬼の喉笛。
 右手にマキリ、左手にエスキスエルウィンの牙を装備した彼が、ダブルアタックのCOを使って、交互に刀を繰り出す。と、その一撃は、政実のオーラパワー効果で、日本刀2本分に匹敵するダメージを、犬鬼に与えていた。
 左右の刀で切り裂かれ、重傷を負った犬鬼は、早々に逃げ出している。相手が不利になった事に安心したエムシ、その頭をくちばしでつついていた。
「意外と効率が悪いな‥‥」
 犬鬼の攻撃を、なんとかかわしつつ、そう呟く彼。今の所、相手の技量が若干低い故、怪我を負わずにいるが、いつまでも避けきれるとは思えなかった。
「あはは、当たらないよ♪ 鬼さん此方」
 そんな彼とは対照的に、月桂樹の木剣を持ったチュプペケレは、犬鬼達をからかう様に、逃げ回っている。自分の技量では、当てる事は出来ても、それほどダメージを与えられるわけではない事を、知っているからだった。
「どうぞ皆さん、存分に暴れると良いでしょう。私にはそういった荒事は苦手ですから。楽をさせてもらいますよ」
 一方、シャリオラは口ではそう言いながら、ブラックホーリーの魔法を唱えている。少し離れた場所で、確実に犬鬼を倒す算段のようだった。
「もし無理そうなら、教本を守る事に徹してください。全滅しては、元も子もありませんから」
 そう指示するシャリオラ。まだ、ボスクラスの熊鬼が姿を見せていない。犬鬼だけに、気を取られてはいけないのだ‥‥と。
「分かっていますけど、今の内に、確実に数を減らしませんとね!」
 政実もそれはわかっていはいたが、後ろ向きになるよりは、少しでも斬った方が良いと判断したのだろう。犬鬼の持つ毒塗られた短刀に、自分の日本刀を振り下ろす。オーラ魔法で強化された彼女の日本刀は、その威力でもって、犬鬼の短刀を真っ二つに折っていた。いわゆる、バーストアタックと言う奴である。
「熊鬼はどこからくるのでしょうか‥‥」
 油断なく周囲に気をめぐらす政実。が、余所見をしていたせいで、犬鬼の一匹に、切りかかられてしまう。
「あぶなっ」
 慌てて避けた所に、杏の鉄鞭が飛んで来た。
「すみません」
「気を付けてね」
 謝る彼女に、杏はにっこりと微笑む。犬鬼はまだ数も多い。動けない者もいたが、それほどダメージを与えているようには見えなかった。
「敵にトドメを刺すよりも、動けなくする事を優先して下さい。無傷の敵がいる方が怖いですから」
 そう指示をするアル。近寄ってきた犬鬼に、素早く掠めるような攻撃を与え、一撃で無力化されている。オーラパワーで強化されたCO、シュライクの賜物だ。
 そうして、乱戦になっていると、犬鬼達はまるで本物の犬のような悲鳴を上げて、森の中へと逃げて行くのだった。

「出てきたようです」
 政実がそう言った。犬鬼に変わって現れたのは、彼らより、ひと回り以上大きな熊鬼だった。西洋では、バグベアと呼ばれているモンスターである。
「いくら鬼とはいえ、キムンカムイを斃す事になるとはな‥‥」
 彼らコロポックルの文化では、熊は特別な存在だ。
「此処じゃイオマンテは出来ないが‥‥。まぁ、本当のキムンカムイでもないし、善しとするか」
 だが、ここでは熊送りの儀式をする事も出来ない。そもそも、見た目は熊に似ていても、中身は鬼。そう思いなおしたエアニは、マキリとエスキスエルウィンの牙を構えなおす。
「あまり時間はかけていられないわね‥‥」
「効果時間、残り少ないですから」
 杏の台詞に、そう答える政実。オーラパワーとて、無限ではない。相手の力量を考えれば、魔法をかけ直すと言うわけにも行かなかった。そもそも、政実はソルフの実を持って来ていない。
「奴を倒せば、あいつらも逃げてくれるかも知れないわ。行くわよ!」
 犬鬼は、あまり頭は回らないモンスターだ。ここで熊鬼を倒せば、冒険者達を強い存在と認識して、立ち去ってくれるかも知れない。杏はそう言って、鞭を振るう。良くしなる細い鉄の棒は、熊鬼の足へと当たりはしたのだが。
「あらぁ‥‥。転ばないわねぇ」
 流石に雑魚とは違うらしく、スタンアタックは抵抗されてしまう。その間に、熊鬼は大きく吠えて、彼女に持っていた丸太を振り下ろそうとした。
「避けてっ」
 杏を突き飛ばす政実。重い一撃は、彼女に決して軽くないダメージを負わせてしまった。
「大丈夫か? これを飲め」
 エアニが、持っていたリカバーポーションを政実に差し出してくれる。「すみません‥‥」と、それを飲み干すと、たちどころに傷が癒えて行った。
「やってくれたわねー」
 納得いかない表情をしているのは杏である。目の前で、子供と同じ年頃の女性に庇われたのだ。上品に見える顔立ちに、悔しさがにじみ出ていた。
「私が背後に回ります。ひきつけてください」
 術使いのシャリオラは、まだ後ろの方にいる。熊鬼がそちらに向かう可能性は少ないと判断したアルは、即座に方向を変えた。
「やはり壁が足りませんね。犬鬼達には悪いですが、少し手を借りましょうか」
 そのシャリオラはと言うと、転がっていた犬鬼の死体に、クリエイトアンデッドの魔法を唱えている。むくり起き上がったそれに、彼女はこう命じた。
「あいつに攻撃なさい!」
 対象は熊鬼である。一匹だけのそれに、鈍重な動きで向かって行く即席死人。人、それを毒を持って毒を制すと言う。
 耐久力の高い即席死人が、熊鬼を引っかいている間に、アルが横合いから、ブラインドアタックをお見舞いしている。鞘に収めたままのそれに油断した熊鬼は、対応できず、軽くないダメージを負っていた。
「奴がをとられているうちに、取り囲んでください! 多人数でかかれば、どうにかなります!」
 怯んだその隙に、立ち直った政実が日本刀で切りつけていた。
「子供に手を出させてたまるもんですか!」
 そこへ、今度こそ年下の冒険者達を守ろうと、鉄鞭で打ち据える。
「トドメを!」
 動きの鈍った熊鬼を見て、アルはそう叫ぶ。
「良いのか?」
「私は欧州に行く身。この地の方にこそ名声は必要でしょうから」
 エアニが尋ねると、彼は首を縦に振った。その意を組んで、彼は再び双刀を躍らせる。狩猟の魔力が宿りし名刀は、魔獣の牙が伝承を持つ短刀と共に、熊鬼の毛皮をはぎ取っていた。
「追っかけるの?」
 重傷を追い、逃げて行く熊鬼。その後姿に、チュプペケレが尋ねると、シャリオラは首を横に振る。
「いえ。今回の仕事は、教本を無事に運ぶのが主です。先にそちらを済ませてしまいましょう」
 深追いして、犠牲者が出るよりは‥‥と判断したのだろう。こうして、犬鬼退治は、無事終了するのであった。
 なお、犬鬼達が持っていた毒は、植物毒ではなかったものの、処置が早かったこと、そして検めた死体から解毒剤が見付かった事により、特に問題なく除去されたようである。
「せっかくだし、頂いてしまいましょう。今後役立てられるかもしれないものね♪」
「使うほうが先だろう‥‥」
 残りをちゃっかりと懐に収める杏に、エアニがぼそりとそう呟くのだった。