●リプレイ本文
●いざ出発
集められた冒険者達は、金山鉱山へ向かう前に、軽く顔合わせを兼ねて、自己紹介をしていた。
「拙者、風魔隠でござる。よろしくでござる」
ぺこりと頭を下げる風魔隠(eb4673)。
「えーと、女の子だよね?」
慧神やゆよ(eb2295)がそう尋ねると、彼女は頷いた。つるぺたの胸ゆえ、誤解のないように併記すれば、口調はそれらしくないが、立派な若い女の子である。
「私はララーミー・ビントゥ。黒派仏教カツドン宗の僧侶よ。よろしくね」
緑のとんがり帽子を被ったジャイアントの女性‥‥ララーミー・ビントゥ(eb4510)がそう言った。ちなみに旦那もいるそうである。
「ララーさんって呼んでも良いわよ。この子は、私の愛馬エル。女の子ね」
カツドンカツドンと唱えるらしい宗派は、ちょっと聞き慣れないが、その上品な顔立ちと、既婚者らしい立ち振る舞いを見れば、ごくごくまっとうな黒僧侶ではあるのだろう。
「良い馬でござるなぁ」
と、ペットを紹介された隠は、エルをしげしげと見つめ、こう言った。
「ところで、この子は白くならないのでござるか? 正義の人は、白馬に乗ってやってくると聞いたのでござるが」
「それはどうかわからないけど、この子は戦闘用ではないから‥‥」
なるほど。と納得する隠。専用機ではあるが、あくまでも通常馬なので、白くないんだろうと思った彼女、今度は自分のペット達を紹介する。
「こっちがハンゾウさん。この子がサイゾウさんでござる。共に忍犬・忍馬を目指して修行中でござるよ」
双方を撫でると、ハンゾウさんもサイゾウさんも、ぺろりと彼女の頬を舐める。
「私はサランって言うの。よろしくね」
サラン・ヘリオドール(eb2357)が、明るくそう言った。そして、参加者達を見回し、こう提案する。
「全員女の子って事は、仲良し四姉妹温泉旅行♪ って感じかな?」
「あのー、私はジャイアントですし、夫もある身なのですが‥‥」
首を傾げるララー。と、彼女はくすっと笑って、「冗談よ」と答えている。
「ジャパンには、固めの杯と言う儀式があるでござる。ここは、義兄弟ならぬ義姉妹で良いのではなかろうか」
そう言った古い風習には詳しい職業の隠が、そう助言してくれる。
「そうね。せっかくだから、そういう事にしましょうか。兄弟に、既婚未婚は関係ないものね」
納得するララーさん。
「じゃあ、年齢順って事で、ララーさんが一番のお姉さんね」
年齢に応じて、姉妹順を決めるサラン。それによると、ララーが長女、彼女が次女、隠が三女、一番年下のやゆよが四女と言う事になったらしい。もちろん、あくまでも潜入用の設定なのだが。
「仕事は、行方不明の朱蔵さんを、無事に藍さんの元へ送り届けることね」
「うーん。僕が思うに、悪い人が金細工職人さん達を集め、こっそり何か作ってもらう事を企んでたりするのかな?」
サランの台詞に、考え込むやゆよ。この場合、オーソドックスに考えれば、偽金とか偽小判ーとか言った所だろうが、あくまでも予想の範囲内だ。
「カッパ‥‥、奇妙な人たちね〜。ナーガみたいなものかしら? 実はとっても強いとか‥‥」
ララーの興味は、彼らがやらされている仕事よりも、彼らの種族に興味がある様子だ。
「河童は河童でござるよ」
「えぇと、マーメイドみたいなものかな」
ジャパン出身の隠とやゆよが、インドゥーラ出身の彼女にも、分かりやすいように説明してくれる。知らない人の為に、一応説明すると、河童と言うのは、水中に済むデミヒューマン。河童膏と言う、不思議な薬を持っている‥‥相撲が好きな種族だ。
「そんな悪い人がいたらメッ! だよね。お藍さんをはじめ家族の心配を無視して働かせちゃいけないんだよ」
お仕置きしなくちゃねっ☆ と、魔法少女のローブをひらひらさせて、そう続けるやゆよ。
「では、謎の金山潜入! 捕らわれた職人救出の段! はじまりはじまりー‥‥でござる」
隠がまるで芝居の口上の様にそう言って、仲良し四義姉妹は、旅立つのであった。
●情報収集
四人はまず、金山の繁華街へと向かった。救出に当たる前に、まずは情報収集と言うわけである。
「私が聞いてきた話だと、全部で4人の金細工師さんが、行方不明になっているそうよ」
サランが依頼人に聞いてきたらしく、そう言った。お藍さんが、問屋に確かめた所、種族はまちまちだが、腕の良い連中が行き方知れずになっているようだ。
「とりあえず、ちょっと占ってみるね」
やゆよがそう言って、フォーノリッジの魔法を唱えた。そのまま、彼らが何も努力せずにいた未来を、陽の精霊は教えてくれる。
「うん。やっぱり、このままだと酷い事になるみたい」
10秒後、彼女はそう言った。見えた未来には、窓のない部屋で、汗をかきながら、延々と作業させられている姿が映ったそうだ。
「部屋の中ねぇ‥‥。どこかの小屋に監禁されているのかしら。だとすると、望みは薄いわね」
サランがその状況に顔を曇らせながら、サンワードの魔法を唱えて見る。だが、やはり太陽は何も答えてはくれなかった。
「でも、小屋って言う事は、周囲から隔離されているって言う事じゃないかしら。そうすると、鉱山夫には、緘口令が敷かれてるか、立ち入り禁止にされてる筈よ」
ララーがもっともらしい事を言う。そんなわけで四姉妹は、それらしき御仁を捕まえて、話を聞こうと言う算段になった。
「ララーさーーん、こっち持ってってー」
「姐さーん。お銚子2本追加ーー」
繁華街にあるのは、何も花ばかりではない。いわゆる『小料理屋』と言われている店もたくさんある。その一軒に、ララーは従業員として潜り込んでいた。雇い入れてくれるかどうか、不安もあったが、経験者優遇と言う事で、あっさりと雇われていた。
「‥‥侍風な人達は、まだ来ないのかしら」
来る客が、町人風の者ばかりなので、ララーは店の先輩女中にそう尋ねた。と、彼女はララーの盆に料理を乗せながら、こう教えてくれる。
「お武家様が来るのは、もっと上等な料理屋だよ。ここに来るのは、皆、鉱山で働いている連中ばっかりさ」
「そうなのですか‥‥」
ちょっぴり残念そうなララー。が、それはそれでやり方がある。思いなおした彼女、店の片隅にいた隠に、合図を送った。
心得た‥‥と言った様子で頷く彼女。ただ、その姿は、挨拶にきていた時とは、かけ離れている。人遁の術で、屈強な男性に化けた彼女、立派な髭を付け、茶漬けを食べていた隣の鉱夫に、こう話かける。
「よう兄弟、景気はどうでござる? ま、一杯」
「んー。ぼちぼちって所かなー」
酒を奢ると、鉱夫はいくらか心を許したようだ。そこへ、彼女はここぞとばかりに、こう告げる。
「何でも、神隠しががあるって聞いたでござるよ。ま、噂でござるけどね」
声を潜めたその口調に、御仁はこう答えた。
「そう言えば、俺も噂で、近付いたらなんねえ鉱脈があるって聞いたけどなー」
鉱山には、様々な噂話が転がってるんだなぁと、その御仁は冗談めかして笑う。
「どうやら、朱蔵殿は、鉱山のどこかに監禁されている風情でござるなぁ」
「仕事を考えれば、妥当な線ねぇ。それじゃ、他の2人にも伝えてきてくれるかしら? 私はもう少しここで張り込んでいるわ」
ララーにこっそり報告すると、彼女はそう言った。その台詞に、隠は「心得たでござる」と言って、集合場所である温泉宿へと向かうのだった。
●誘惑の踊り子
数時間後、湯宿の一室に、4人の姿があった。やゆよの発案で、仲良し四姉妹が、湯治に訪れたと言う設定のまま、それぞれが集めた情報を、交換し合っていた。
「ふぁぁぁぁ、極楽極楽☆」
サランが満足そうにそう言っている。まぁ、せっかくだからと言う事で、湯宿に備えられた風呂で、彼女達は密談を開始していた。
「‥‥ってなわけでござる」
「こっちも、似たような話を聞いたわね」
ララーと隠が湯船でそう言った。
「あれから、色々と尋ねてみたら、面白い話が出てきたのよ」
そう言うララー。なんでも、鉱脈の何箇所かに、立ち入り禁止の区域があるそうだ。
「曰く、東の鉱脈は近づけないとか、時々うめき声が聞こえるとか‥‥怪談めいた話で、人払いしているでござるよ」
隠も頷く。近付いた者が行方不明になったとか、あの辺りには妖怪が住んでいるんだとか、そんな噂がゴロゴロ出てきたそうだ。
「と言う事は、それのどれかに、朱蔵さんのいる小屋があるって言う事かな」
「そのようでござる。なんでも、鉱山の管理は、金山衆と言う連中に仕切られていて、うかつに入り込めないようでござるよ」
やゆよの台詞に、そう答える隠。その話は、武家連中を探るララーも聞いていた。と、サランがこうきり出す。
「その金山衆って、場末には来ない‥‥と言う事は、どこか別の料亭にいるのかしら」
「かもしれないわ。侍連中は、そちらに行っているみたいだから」
頷くララー。女中さん達がこぼしていた話からすると、金山衆は、幅を利かせる為に、しょっちゅう彼らと会っているらしい。中には、よからぬ企みを巡らせていても、不思議はないと言う事。
「なら、私達はそちらへ行って見ますわ。何かつかめたら、連絡お願いしますね」
「お手伝いしまーす」
サランとやゆよは、そう言うと、風呂から出て、花街へと向かった。
「色街では、色々な職業が、求められるものなのよ」
そう言って、ある一軒の郭に入りこむサラン。踊り手を生業とする彼女は、特に礼服を身に着けていなくても、それらしき酒場には、潜り込めると言うもの。
「仕事をするにあたって、こちらの姐さん方にご挨拶をしに参りましたの。この子は、私の付き人兼弟子ですわー」
そう言って、サランは花の方々に会う許可を取り付ける。やゆよは、その付き人と言う事で、異国風の踊り手を装った二人は、まず花の方へと挨拶する事にした。
「鉱山ねぇ‥‥。あちきには、そう言う難しい事はわからないわ」
だが、流石に、お客の秘密はそう簡単には話してくれないようだ。だが、その程度は予想済みなので、サランはさらにこう尋ねた。
「私も困っているの。ここは、人助けと思って、お座敷譲っていただけないかしら?」
「お願いします〜」
やゆよも、サランの後ろから、頭を下げている。と、いわゆる『姐さん』は、煙管をくゆらしながら、こう言った。
「仕方ないねぇ。だったら、薫菫屋に行ってごらん。あそこなら、訳あり客の1人や2人、抱え込んでいるさね」
何でも、このあたりで一番の大店なので、それなりに客幅も広いだろうとの事である。その紹介に、2人は軽くお礼を言って、店へと向かった。
「うわ、結構大きな店だね」
「これなら、話を通さなくても大丈夫かな」
裏手へ周り、何食わぬ顔で、従業員に紛れ込む。
「そこの。何をしているんです?」
「あ、いえ。躍らせてくださいっ」
まとめ役と思しき女中に見付かり、やゆよはそう言った。元々、日常会話しかこなせない彼女。女中頭はいぶかしげに2人を見つめている。
「弟子が、どうしてもここで踊りたいと言うものですからっ。お願いします」
師匠役のサランも、そう言って頭を下げる。と、女中頭はただの営業だと思ったのか、「ちょっと待ってなさい」と、奥へ消えて行った。
「今の内に」
「うんっ」
その隙に、彼女達は、さっさと座敷がある方へと上がりこんでしまう。
「気をつけてね」
「わかってるって」
ただ、彼女達は隠の様に、隠密行動の専門ではない。それどころか、ど素人と言っていいだろう。なので、2人は慎重に、お座敷へと紛れ込んでいた。
「おや? 見かけない顔だな」
「は、はい。遥かエジプトから参りましたの。この子は、イギリスで拾った、私の弟子ですわ」
怪しまれないよう、そう言うサラン。異国人に興味を示したその御仁に、彼女はこう言ってしなだれかかる。
「なんでも、最近神隠しが流行っているとか。江戸の金細工師が行方不明になったとかで、何かご存知ありません?」
とたん、お客の顔つきが厳しくなった。
「なんでそんな事を‥‥」
「べ、別に〜。それよりも、もっと飲んでくださいな☆」
問いただそうとする彼に、サランは慌てて首を横に振り、お酒を差し出した。
「いや、酒はもう結構だ。それよりも、異国の踊りとやらを見せてもらおうか」
「はい〜」
客の求めに応じて、上着を脱ぎ捨てるサラン。ほぼ下着状態となった彼女、妖精のトルクと言う、逆に豪華な髪飾りで、自身が覚えているエジプトの民族舞踊を踊る。
「中々に色っぽいですなぁ」
「うむ‥‥」
達人の域まで達したその踊りに、鼻の下を伸ばすお客達。だが、顔を真っ赤にしていたのは、彼らばかりではない。
「おや、弟子の娘さんには、刺激が強いと」
「そ、そんな事はっ」
やゆよも、うつむいたままだ。からかわれると、ぶんぶんと首を横に振るが、内心穏やかではない。
(「はう、はぅ、サランさんのオトナの情報収集の仕方、僕が照れるよぅ」)
自分も、民族舞踊は専門家だ。だが、その色っぽさ加減は、真似できなかった。
「今の内に」
「え、えと。僕は、隣に退散しますね〜」
サランに言われ、やゆよは顔を赤くしたまま、別室へと引っ込んで行く。
「って、これは‥‥。まぁ、色街だから、そう言う事もあるか」
敷いてあった布団を蹴り飛ばし、彼女は襖を閉め、エックスレイビジョンの魔法を唱えた。見れば、サランがお客に抱え込まれるようにして、抱きつかれている。早くしないと、ここの布団を使う事になりかねないな‥‥と判断した彼女は、持っていたチャームのスクロールを広げた。
「大丈夫みたいよー」
10秒後、お客に魔法がかかったらしく、サランが顔を出す。てててっと部屋に戻った彼女、ほんわりとした表情になっているそのお客を、こう問いただした。
「金細工師の朱蔵さんの行方、知ってたら教えてくれるよね。だってお友達だもんね♪」
2人が、小屋の場所を突き止めたのは、それから間もなくの事である。
●お家に帰ろう!
そして。
「さて‥‥。やゆよ殿の話では、確かこのあたりでござったな‥‥」
さらに数時間の経過した深夜。隠は、やゆよ達に教えられた立ち入り禁止区域へと、単身潜り込んでいた。
「まぁ、1人しかおらんが、どうにかしなければでござろうなぁ」
そう呟く隠。いつもなら、他数人と共に、潜入するのだが、今回他の姉妹は、皆隠密行動に長けていない。下手に手を出して失敗するよりは、1人でこなした方が良かろうと言う判断だった。
「小屋はあそこでござるな」
目当ての場所は、鉱山の奥にあった。ちょうど、崖から見下ろすような場所に、ひっそりと建てられている。
「見張りは‥‥入り口だけでござるな。よし」
崖の方には、注意が向いていない事を確かめると、彼女はムササビの術を唱えた。
(「上手く行きますように」)
小屋までの高さは、約3丈3尺。充分、飛び降りれる高さである。祈りながら、滑空した彼女、ほどなくして、屋根までたどり着く。
(「うわわわっ」)
うっかり飛び越しそうになってしまい、慌てて速度を落とす彼女。忍び足を使い、屋根の上にふわりと降りた。
(「あ、焦ったでござる〜」)
ここでバレてしまっては、全てが台無しである。そう思った隠は、一度深呼吸をすると、隠身の勾玉を取り出した。大振りな黒い勾玉は、ごく短時間だが、自分の気配を消してくれる。
(「勾玉よ。我が気を消し去りたまえ」)
魔力を使い、強く念じると、彼女はそれを懐に納めたまま、するりと天井裏へ忍び入った。
(「えぇと、赤い痣、赤い痣っと」)
寝静まった小屋には、4人の職人達がいた。種族は様々だが、その1人は明らかに河童。そして、はだけた着物から、赤い痣が垣間見えた。
(「間違いないようでござるな。よし」)
効果時間の間に解放するべく、彼女は入り口に取り付けられた鍵の前に降り立った。外の見張りは、気付いていない。
「え〜と、朱蔵殿でござるか?」
格子戸に寄って、声をかけると、河童はむくりと起き上がって、目を瞬かせる。
「は、はい‥‥。あの、あなたは‥‥?」
「お藍殿の頼みで、助けに来たでござる」
奥さんの名前を出し、隠は朱蔵を安心させた。そして、少し下がると、格子戸を開けようとする。
「って、鍵でござるか。うーん、盗賊用道具一式は、重くて持ってきてないでござる〜」
しかし、それには大きな錠前がかけられていた。困った表情でそう言う彼女。
「鍵無くて、どーやってあけるんですかぁ」
朱蔵が、がっくりと肩を落としながら、ツッコミを入れている。
「あはははは〜。どうしよう」
顔を引きつらせる隠。と、朱蔵ははたと気付いたように、彼女の頭を指した。
「あのー、付かぬ事をお伺いしますが、そのかんざしは‥‥」
さすがに金細工職らしく、飾り物に気付くのは早い。言われて、はっと頭に手をやってみれば、そこには愛らしい椿の花があしらわれていた。
「って拙者、暗器かんざしを持ってきてたでござるよ!」
ようやく思い出したかのように、それを引き抜く隠。
「コレでばっき〜んと鍵開けでござるよ!」
そして、その先端を使い、鍵明けを試みる。と、ほどなくして、鍵はあっさりと開いた。
「さ、どうぞでござる」
「は、はいっ。うぐ‥‥っ」
這い出てこようとした朱蔵さん。どこか怪我をしているのか、躓いてしまう。
「怪我をしているでござるか?」
「いやー、それもありますが。どうにも皿が‥‥」
見れば、足首が赤くはれ上がっていた。しかも、彼の皿は、既にかなり乾いてしまっている。このままでは、動く事もままならないなと思った隠れ、念の為にと持ってきた品を差し出した。
「これを飲むでござるよ。あ、これで清めるでござる」
「あ、ありがとうございますー」
隠がそう言って、リカバーポーションを飲ませ、頭の皿に清らかな聖水を振りかけてやると、幾分元気になったようだった。
「出てきたよー」
その頃、潜入場所の外‥‥つまり、落ち合う出口付近で待機していたやゆよは、隠が朱蔵を連れて出てきたのを見つけ、サランにそう知らせた。
「いけませんわ。見張りが来たみたいです。ハルピュイア、知らせて上げて」
が、すぐ近くに、夜回りの連中が現れている。危険を察知したサラン、愛鷹ハルピュイアに命じ、隠の頭上を飛ばせた。
「まずい。気付かれたでござる!?」
一瞬、判断を迷う隠。自分1人ならば、人遁の術でもなんでも使って切り抜けられるだろうが、今は朱蔵さんがいる。
「隠さん、こっちです!」
もう少しで見付かりそうになったところで、ララーがホーリーフィールドの魔法を唱えた。初級の術では、耐久力も低く、余り長い間は持たないが、ないよりはマシ‥‥と判断したようである。
「ハンゾウさん、よろしくでござる」
道をふさいでいる間に、隠は愛犬をけしかけた。
「って、なんだこの犬は!?」
「ええい、追っ払え!」
見張りは、すっかり彼らが勝手に入り込んだものと思い込んでいる。それを見て、サランも愛犬にこう言った。
「ソールも手伝ってあげて」
その指示を受けたソールが、わんわんと吠える。
「さて、この間に撤収するとしましょうか」
それに気を取られている間に、ララーは置いてきたエルの変わりにフライングブルームに乗り、隠はその隠密技術を使って、藪の中へ。
「朱蔵さんも、今の内に、一緒に乗って!」
「は、はいっ」
朱蔵は、やゆよが自分のフライングブルームへと乗せ、共に脱出している。
「ふふん。いつか正義の鉄槌を落としてやるでござるよ!!」
鉱山を後にしながら、固く心に誓う隠。彼女が、姉妹達と共に向かったのは、町の治安を預かる奉行所だ。
「なるほど‥‥。それは重大な事態だな。早速、摘発するといたそう」
救出された朱蔵と、やゆよとサランの申し出により、金山町奉行が、手勢を繰り出してくれる。
こうして、残りの金細工師達も、無事に救出されたのだった。