亀の宅急便

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月31日〜06月05日

リプレイ公開日:2006年06月07日

●オープニング

 イギリス・キャメロット。
 動乱から半年。物語は、再び何でもない所から始まるのだ。
 その日、キャメロットにほど近い街に住むトゥイン・パレス嬢は、主から言い付かった用事をこなす為、テムズ河の河口にある村へ来ていた。
「こんにちはー。バンブーデン様のお使いで参りましたトゥインですわぁ」
 いつもの様に、のんびりとした口調で、村長にご挨拶するトゥインちゃん。と、その村長さんは、すっかり慌てた様子で、こう言った。
「ああ。トゥイン様。ちょうど良いところに。実は‥‥うちの息子が、とんでもないものを見つけてきまして‥‥」
 なんでも、海辺に保護してあるとの事。言われるままに、村長に従い、海辺へと向かったのだが‥‥。
「これは‥‥」
「確かに、この辺りにも亀はおりますが、このように大きな亀を見た事がございません。やはり、モンスターなのでしょうか‥‥」
 そこにいたのは、甲羅の長さ1m半にもなろうかと言う巨大な亀だった。怯える村長さんが訴えるのを聞いていた彼女、甲羅の一部に、特徴ある紋章を発見する。
(「あら? これ‥‥リーナ様の‥‥」)
 彼女の主と取引のあるマーメイドの女性が、確か同じ紋章だったなーと思い出した彼女、たぶんこの亀は、彼女のペットなんだと思いつく。
「えぇと、この子‥‥。知り合いの冒険者様の飼い亀ですわ。きっと、迷子になってしまったんですわねー」
「そうでしたか。それで、その子の飼い主はどちらに‥‥」
「確か‥‥もう少し沖へ出たあたりだと思いましたけど‥‥」
 村長の問いに、トゥインがそう答えると、彼は若干困ったように、こう言った。
「それは問題ですな。実は、最近沖の方に、大きなクラゲが出没しておりまして‥‥。しかも、通常の3倍くらいの‥‥」
「まぁ‥‥」
 話によると、ジェリーフィッシュが回遊しており、あまり奥には進めないようだ。それだけではなく、漂うウォータージェルに襲われかけた事もあるらしい。しかし、リーナがいるであろう海域は、その奥。クラゲを倒さねば、先に進む事は出来ないのだ。
「わかりました。御方様がお世話になっている村の為ですもの。なんとかギルドに掛け合ってみますわ!」
「お願いします」
 こうして、イギリスギルドには、久方ぶりにモンスター退治の依頼が持ち込まれるのであった。

『大亀を護衛しつつ、巨大ジェリーフィッシュを退治してくれる方を募集いたします』

 なお、その海域には、クラゲだけではなく、他モンスターの目撃例も、後を絶たないと言う。

●今回の参加者

 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3415 李 斎(45歳・♀・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7528 セオフィラス・ディラック(34歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ふむ。久しぶりの冒険だが、意外とキャメロットにいるんだな」
 最近コロシアムばかりだったと言うクロック・ランベリー(eb3776)、挨拶を済ませる他の冒険者を見て、そう呟いている。
「学校を卒業して、初めての依頼‥‥。リーナ様も海賊を辞めたようで、嬉しい限りですわ」
 セレナ・ザーン(ea9951)が、嬉しそうにそう言っている。そんなわけで、簡単に自己紹介を済ませた冒険者達は、トゥインの待つ村へと、足を踏み入れていた。
「ここがそうなのね‥‥。確かに、何か暗雲が立ち込めてる風情ねぇ」
 先祖譲りだと言う視力で、沖を見た李斎(ea3415)が、わくわくした表情で、そう言っている。先祖がバイキングをやっていたと、親から聞かされているせいで、海を見ると血が騒ぐのかもしれない。
「おお、亀よ。あのときの亀ではなかろうか」
 ところが、その港に保護されている亀を見るなり、カメノフ・セーニン(eb3349)は感極まったように、そう言った。
「お知り合いですか?」
「うむ。こやつと知り合いあったのは、ざっと30年前じゃ。懐かしいのう!」
 なんでも、リトルフライで地中海を横断しようとして失敗し、海中を漂っていた所を、この亀に助けてもらったそうである。
「でも、この亀。嫌がってますよ?」
 そう言うマカール・レオーノフ(ea8870)。抱きしめようとするカメノフに対して、亀はじたばたと暴れている。どうやら、彼を助けた亀とは違うようだ。
「これが、ブルーバックタートルであるか。最近は冒険者もたくさん珍しいペットを飼っているであるな」
 セオフィラス・ディラック(ea7528)の肩から、亀を興味深そうに眺めているリデト・ユリースト(ea5913)。と、マカールがこう言い出した。
「ちょっと様子を見てみましょうか‥‥」
 人間と亀では、かなり違うが、もし傷付いていれば、分かるはずである。しかし、モンスター知識のないマカールには、亀が衰弱しているかどうかまでは、わからなかった。
「私が代わろう。モンスターに関しては、いささか知識があるのでな」
 しかし、判断がつかず、困った表情を浮かべるマカールに、リデトがそう申し出る。外傷が無くても、何か毒にやられていたら、少々やっかいだ。
「ふむ。やっぱり、どこか衰弱している気配がある」
「もしかしたら、ジェリーフィッシュの毒にやられたのかも知れませんね」
 フローラ・タナー(ea1060)の意見に、頷く彼。ひっくり返してみれば、後ろ足の付け根に、小さな傷跡がある。
「傷そのものは、かすり傷のようであるな。リカバーは必要ないか」
「毒は、どう見ても動物毒でしょうからね」
 リデトの診立てに、フローラがアンチドートの魔法を施す。と、亀は少し元気になったようだ。
 こうして、一行は亀を護衛するべく、沖の岩礁へと向かったのである。

 まずは、先行偵察と言う事で、フローラがフライングブルームに乗り、沖へと出ていた。
「どうだった?」
「沖の方は、海底地形が、少し入り組んでいるようですわね。波を被ってしまいましたわ」
 戻ってきた彼女、首を横に振りつつ、そう報告してくる。と、今度はエヴィン・アグリッド(ea3647)が対応に赴いた。
「今度は、私が調べてこよう。勘を取り戻す為には、都合が良いし」
 そう言って、彼はミミクリーで魚になり、水中へと潜る。海や猟師の知識はない彼だったが、なんとなく、水中に悪意が、彼が向かおうとする沖合いから、漂っている気がした。これ以上進むのは危険だと考えたエヴィン、効果時間が切れる前に、引き返す事にする。
「わかった。今度は私が見てこよう」
 入れ替わりに、次はセオが鳥になり、ジェリーフィッシュがいるであろう海域へと赴く。その眼下の海面に、白く浮かび上がる物体。それを確かめたセオは、すぐさま岸へと引き返して、皆に伝えた。
「ようし、亀よ、れっつらごーじゃ!」
 岸では、カメノフが文字通り亀に乗って、海原へと出ようとしている。
「ほっほっほ、さあ、さがすんじゃ、伝説の龍ぎょ‥‥」
 だが、そう言った刹那、亀が嫌がって暴れ始めた。バランスを失ったカメノフ老、海中へどんぶらこ。
「お、大人しく船に乗った方が良さそうじゃな‥‥」
 びしょ濡れのまま、乾いた笑いを浮かべるカメノフ老。
 彼らの乗る船は、ただの漁船だ。それでも、風を受ける帆はあるわけで、ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)は、その細いマストへ昇り、ジェリーフィッシュがいるであろう海域を、見渡していた。
「うっかり落ちないでよ? モンスターの衝撃には、ある程度耐えられるようにしてはおいたけど、引き上げるのは大変だからねぇ」
 そこへ、李がそう言った。彼女の提案で、船の舷側には、木の板を打ち付けてある。
「まぁ、彼なら大丈夫であろう。それに、海水面と一定の高さを取った方が、良いではあるな」
 リデトが、そう意見している。と、JJはマストの上から、トゥインにこう話かけた。
「ところで、リーナさん達は、あの後どうしてたんだい?」
 彼女の話では、武装商戦団として、色々な品々の輸送に協力しているとの事。ただし、まだ完全には打ち解けていないらしい。そこまで話した時、トゥインが悲鳴を上げた。どうやらカメノフがまた、トゥインのスカートをめくった様だ。
 そうしているうちに、そろそろジェリーフィッシュがいる海域へと、船は足を踏み入れる。
「もしかしたら、リーナさん達も亀を探しているのかしら‥‥」
「そうかもしれません。会えたら、事情を話して、亀を迎えに来て貰いますね」
 底の方を見て、そう呟く李。その判断に、フローラはフライングブルームにまたがる。起動させると、彼女を乗せた魔法の箒は、数十m上に舞い上がった。この分なら、大丈夫そうだ。
「飼い主の方も何か怪我をされていたり、とかいう事がないよう祈りますよ」
「その時は、リカバーをかけておきます」
 マカールの台詞に、そう答える彼女。その言葉に、安心して、伝令役を任せるマカール。
「やはり、ブレスセンサーでは、反応が確かめられんかのぅ」
「では、違う方法を試してみます」
 そう言うカメノフ老に、デティクトライフフォースを唱えるエヴィン。その効果により、すぐ近くに、巨大な生命体がいる事がわかる。
「どうやら、この辺りに潜んでいるようですね」
 仲間にそれを告げる彼。と、マカールが海上を指し、こう尋ねてきた。
「あの白くなっているのが、そうでしょうか」
「ああ。上から見ると、はっきりわかる」
 マストの上から、海面を見て、頷くJJ。
「ジェリーフィッシュは毒持ち、ウォータージェルは、海中に潜んで、不意打ちを狙うタフなやからである。他にも海には、危険性物がいるでのである。油断するのは禁物である!」
 リデトが、ジェリーフィッシュの基礎知識を、皆に通達すると、友人らしきセオが、他を代表して、頷いてくれるのだった。

「行きます!」
 小船の上から、マカールがブラックホーリーを飛ばす。それは、海面に漂っていたジェリーフィッシュに命中し、こちらへ注意を向けさせる。
「とりあえず、狩ればいいのだろう?」
「ええ。少し遠いですけどね」
 セオの台詞に頷くマカール。2人とも、ロングロッドにシルバースピアと、間合いの長い武器を持っているが、船の上からでは、容易には届きそうにない。
「仕方がないな。腕を伸ばして当たる事としよう」
 と、セオはそう言うと、ミミクリーの魔法を唱えた。ぐぃんと伸びた腕で彼は、ジェリーフィッシュの傘の部分へと、槍を突き刺す。だが、ダメージを食らったジェリーフィッシュは、反撃とばかりに、延びたセオの腕に、触手を伸ばしてきた。絡みつかれ、思わず腕を引っ込めたが、すでにそこには、赤く毒針の跡がついている。
「麻痺毒には気をつけるであるよ。セオ」
 肩に乗っていたリデトが、即座にアンチドートをかけてくれる。その間に、今度は命綱をつけたセレナが、一撃を向ける。彼女も、得物はシルバースピアだ。
「普通のスピアより重い分、攻撃には向いていますわ!」
 そう言って、傘へスマッシュを叩き込む彼女。重い一撃は、それなりに傷をつけたようで、ジェリーフィッシュの動きが、若干鈍くなる。
「若いもんには負けてられんのう。あ、それ」
 カメノフも、流木や樽をサイコキネシスでジェリーフィッシュにぶつけている。ただ、あまりダメージは行っていないようだったが。
「足場に気を付けろ。落とされたら、餌にされかねないからな」
 そう言って、クロックが船の上で剣を振るう。高速で振り下ろされたその刃から、真空波が放たれる。
「こっちには、ソニックブームがある」
 自慢げにそう言う彼。と、ジェリーフィッシュはお返しとばかりに、触手を飛ばしてきた。
「よけるのは結構得意だぞ」
 そう言いながら、回避するクロック。しかし、ギリギリで避けたに等しい状態。流石に、並のジェリーフィッシュよりは素早いようだ。
「もっと機動力のある船があれば‥‥そうだ!」
 その様子に、フローラがこう言った。
「私、リーナさん達を呼んで来ます。あそこなら、機動力の高い船があるはずです!」
 そう言って、フライングブルームに乗る彼女。その隙に、操船に従事していたトゥインが、セオに言われて船の中央へ。その刹那、攻撃の余波で、船体が大きく傾いた。
「あぶなっ」
 落ちかけた彼女に、ジェリーフィッシュの触手が延びる。それを、横から抱え込むように、船内へ引き戻すJJ。身体を入れ替えた彼、そのまま海中へ。
「てぇいっ」
 ぷよんとその体が、海面で跳ねたように、トゥインには見えた。
「ジェリーフィッシュを踏み台に!?」
 が、それも一瞬の事で、ぶくぶくと沈んでしまう。餌だとばかりに、寄って来た触手に、李のロープ付き投げ短刀が飛んだ。切りつけられた格好となった触手、JJを襲うのをやめ、海中に引き返していく。
「ふう。セレナの真似をしておいて正解だったわね」
「こうしておけば、もし武器を落としても、無くす事はありませんからね」
 短刀を無くしても構わないと考えていた李に、セレナがそう言った。彼女のシルバーピアスにも、命綱と同じ様にロープが結んである。こうすれば、もしも麻痺毒を食らって落としても、引き上げる事が出来ると。
「ああもう。無茶するからですよ」
 その間に、JJを引き上げるマカール。と、同時にその腰に、命綱をくくりつけている。
「ごめんなさい。私の為に‥‥」
「これに懲りて、命綱はしっかり付けてくださいね。セオさんもです」
 操船をしているセオの腰にも、命綱はついていない。その事を忠告するマカール。
 そして。
「皆さん、これで大丈夫です。思う存分、ジェリーフィッシュを蹴散らしてください!」
 フライングブルームで、リーナを呼んで来たフローラが、そう叫ぶ。村の漁船より、ひと回り大きな船は、その分戦闘にも向いているようだった。
「ち。今回は特別だからな!」
 酒を手土産に貰った彼女、説得に応じたのだろう。操船しているのは、リーナ自身だ。
「ブラックホーリーじゃ、決定打にならんな‥‥」
 その中で、エヴィンがブラックホーリーを唱えているが、半分は抵抗されてしまっている。それを見た彼は、やおら腰につけた命綱を外した。
「絡まると困る。落ちたら、引っ張り上げてくれ」
 そう言うと、彼はミミクリーを唱えた。その手に握られているのは、チェーンホイップだ。
「すっかり接近戦になってしまってますね‥‥。けど、この距離なら!」
 本当は、麻痺毒にやられないよう、遠距離での攻撃を勧めたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。物は試しと、フローラはジェリーフィッシュにアンチドートの魔法をかけてみる。しかし、通じない。
「ジェリーフィッシュは、毒に犯されているわけではないからな」
 残念そうな彼女に、そう解説するリデト。
「フローラは、もしもの為に、魔力を温存してて。回復役が海に落ちたら、洒落にならないしね」
 李が、2人を安全な場所まで下がらせる。その手には、六尺棒が縄で結わえられていた。多少やられても落ちない様にした彼女に、触手の一本が襲いかかる。
 傷事態は、決して深くはない。だが、食らった腕に、じんわりと痺れが広がって行く。それでも彼女は、無理やりカウンターを食らわせた。COを併用したそれは、今までのどの攻撃よりも深く、ジェリーフィッシュの傘を破っている。
「回復は、私がやりますから」
 しかし、それ以上の攻撃を続ける事が出来ず、うずくまってしまう李に、フローラがアンチドートとリカバーをかけてくれた。
「船に近付かせるか!」
 手当ての間に、攻撃しようとした触手を、受け止めるJJ。流石に、はねのけるまでは出来ない。後ろの怪我人を考えれば、得意のオフシフトで逃れる事も出来ない。それでもなお、留まるJJ。
「大きくなったとしても、並のジェリーフィッシュと、体の作りは変わらないのである。傘の中心を狙うのである!」
「分かりましたわ!」
 リデトが、そうアドバイスすると、セレナが言われた場所へ、シルバースピアで、スマッシュEXを打ち込む。と、ジェリーフィッシュの体が、大きく傾いた。
 その間に、腕そのものを巨大な鞭の様に、エヴィンがホイップをしならせた。攻撃を当てた直後、誰にも気づかれないように、ニヤリと邪笑するエヴィン。
「本能も取り戻せたかな‥‥」
 そして、一言そう呟く。傘を破られた巨大ジェリーフィッシュが、海底に沈んで行ったのは、間もなくの事。
「亀、もう迷子になるんじゃないである」
 リーナに引き取られていく亀に向かって、リデトは目を細め、そう告げるのだった。