身代金誘拐事件発生!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:HINA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月13日

リプレイ公開日:2008年12月11日

●オープニング

 冒険者で賑わう冒険者ギルド。
 この村では見かけたことのない若い夫婦が慌てて駆け込んできた。
「どうしましたか」
 受付嬢が尋ねた。
「この町に祖母が住んでいるので、訪れるために近くの森を通ってきました。そうしたら、山賊に襲われて、娘のマリーを奪っていってしまったんです。身代金を用意して持ってこいと言っていました」
 一気に母親が涙声でまくしたてた。
「娘さんの身代金はいくらと?」
「言われていません。私たち自身でマリーに値をつけるなんて、とてもできませんし。どうぞ冒険者様のお力をお貸し下さい」
「マリーちゃんについて教えてもらえませんか」
「もうすぐ七つになる娘です。白のレースのドレスを着ていました。髪の色は金髪です」
「了解しました。冒険者たちに声をかけておきましょう。身代金を要求している以上、マリーちゃんの命はまだあるでしょう」
 その森で幅をきかせている山賊がいることを考えつつ、この機会に懲らしめられないだろうかなどと思いつつ、受付嬢はその若い夫婦の依頼を承諾した。
 

●今回の参加者

 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec4717 神名田 少太郎(22歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ec5171 ウェーダ・ルビレット(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●前交渉
「馬鹿やろう! 大声あげるんじゃねぇ! ん? 誰だ、てめえ?」
 森に赴き、父親と共にマリーの名を呼んでいると、数名の山賊は現れた。恐らく、若い夫婦を襲って、娘を連れ去った現場付近に、何日も潜みながら待っていたのだろう。苛立ちを露とした男は、見知らぬ男女に怪訝な色を浮かべる。山賊が捉えたのは、ウェーダ・ルビレット(ec5171)と、ルザリア・レイバーン(ec1621)だ。銀髪の青年が低姿勢で口を開く。
「私は、彼の親類です。こっちは、妻の‥‥」
 ウェーダはルザリアを示すと、マリーの母親が心労で倒れた為、付き添いとして同行したと説明した。金髪の若い女は碧の眼差しをやや地面に落とし、十字架を握り締めながら震えている。これで一般人を装うに十分だろう。
「で、金は幾ら用意したんだ? はぁ? 交渉だ? 身代金を用意して持ってこいと言った筈だ!」
 てっきり金を持って来たと思っていた男は伸ばした手を握り締め、肩を震わせた。怯えた振りを続けるルザリアは、気付く。
(「なるほど、山賊だけに賢くはないようだ。情報が少ないのは考えがなかったからか? マリー殿もたまたま上品な衣装だった為、襲うついでに身代金を要求できると踏んだのだろう」)
 このまま連中を忍ばせておいたシークレットナイフで脅し、アジトを聞き出す事も不可能ではないが、事を焦れば思わぬ失敗を招きかねない。
 そんな中、マリーの父親とウェーダは山賊相手に金額の交渉を続けると、森の中に誘われる。
「分かりました、この場所で約束の時間に取引としましょう。これは差し入れです。それと、マリーさんは持病を持っておられ、定期的に飲まないといけませんので薬を渡しておきます」
 青年はさんま味の保存食とトレビアンな保存食、そして薬と称した水を山賊に渡した。持病と聞いて一瞬動揺を浮かべたが、男は「気が利くじゃねぇか」と笑み、背中を向ける。
 ウェーダとルザリアは、山賊の駆けて行く方向を瞳に刻んだ。

●情報と報告
「ほな、山賊は場所や時間も指定せず、身代金要求してたんいうのか?」
 前交渉を担った仲間の報告を聞き、ジルベール・ダリエ(ec5609)は呆れた色を浮かべながら素っ頓狂な声をあげた。フィーナ・ウィンスレット(ea5556)が口元に手を運び、神妙な色を浮かべる。
「しかもマリーさんを交渉の場に連れて来なかった訳ですね。または成立時に渡せるよう付近に隠していたという事でしょうか?」
 山賊とて知能が低くとも馬鹿ではない。自分達の安全を確保して人質を引き渡すだろう。或いは、元々返すつもりはなく、殺してしまうか売り飛ばす外道のいずれかだ。
「山賊のアジトは聞き込みで分かりませんでしたが、数々の被害地点やウェーダさん達の報告から、或る程度は絞り込めます。何としてもマリーちゃんを無事に帰してあげなくてはならないですね」
 パチンパチンと指を鳴らしながら、神名田少太郎(ec4717)が育ちのよさそうな風貌を引き締める中、名前をあげられた青年が残念そうに顔色を曇らす。
「パッドルワードは使えませんでしたが、向かった方角の先にアジトがある確率は高いんじゃないかと、私も思います」
 ここでシフールや隠密行動に長ける仲間がいれば難航せずに済んだのかもしれないが、限られた能力と知識で目的を達成させてこそ冒険者だ。
 有効な手段が見つからない中、フォローを担うつもりでいたエルフの娘が、長い銀髪を揺らす。
「それでは、私がブレスセンサーを使いながらアジトを探しましょうか?」
 申し出に、黒髪のパラの少年は指を鳴らした。
「助かります、フィーナさん。僕は殺気を感知しながら、目や鼻を使ってみます。山賊が幅を利かせている森ですから厄介なモンスターのいる確率は少ないでしょう」
「そんで交渉役が時間稼ぎしとる間にアジトに潜入、マリーちゃんを探す訳やな。忍び歩きや隠密行動ならそれなりにできるで! それに、俺には秘策があるんや♪」
 テーブルに頬を突いた茶髪の青年は、青い瞳を流して薄く微笑んだ。

●交渉と救出の行方
「‥‥黙って待つというのは、貴方達にすれば過酷な事だろう。しかし、ここは私達に任せてはくれないだろうか? 必ず貴方達の元に返す」
 交渉には夫婦を同行させない事が決定し、ルザリアは両親の心情を察した。返って来た声は鎮痛な響きだったが、彼らなりに納得しているらしい。
「娘を‥‥マリーを宜しくお願い致します!」「あの子の無事を祈りながら帰りを待っています」
 冒険者達は動き出す。幼い少女を救い出し、山賊を成敗する為に――――。

 フィーナと少太郎、ジルベールの調査により、山賊のアジトは突き止めた。周囲の罠も警戒済み。後は状況を見守り、隙を窺いながら森で息を潜める。
「‥‥! 出て来ました‥‥残った数は4人でしょうか」
 4人の山賊が姿を現す。1人を外に待機させ、4人で交渉現場に向かうようだ。
「マリーちゃんを連れて行く様子はないですね。ジルベールさん」
「任せとき! アジトの規模から見て、探し出すんは難儀やないで。女子供が敵さんにおらん事を祈ってや。ほな行って来るわ」
 青年は不敵に微笑み、インビジビリティリングに口付けすると、インビジブルの効果で透明になってアジトに近づいた。ふと疑問が過ぎり、エルフの娘がパラの少年に訊ねる。
「女子供が敵? ですか?」
「多分、彼なりの流儀なのでしょう。4分後に僕は外の見張りを倒します。ジルベールさんがマリーちゃんを救出。もしくは5分後に‥‥」
「名声に恥じない働きをしましょう」
 今世紀最強のウィザードは、碧の瞳を研ぎ澄ませ、微笑を浮かべた――――。

(「マリーちゃんの閉じ込められている場所付近に身を隠すんが先決や」)
 インビジブルの効果は術者も周囲が見辛くなる。使用は非常時限定のつもりだったが、規模の小さなアジトに潜入する為には必要だったといえようか。発見されれば人質を盾に脅される可能性も否定できないのだ。
 幸い、殺気は感じられない。山賊の1人が椅子に陣取り酒を呑む背後の扉に、マリーが監禁されているのだろう。身を潜めて6分が経とうとした時だ。山賊が殺気を放ち出す。
『何か聞こえなかったか?』『外の奴が倒れてやがる!』『おい、小娘を出しておけ!』
 指示した山賊の靴音が遠ざかる中、慌てて残った1人が鍵を開け始めた。刹那、何かの気配に視線を向け、凍りつく。瞳に映し出されたのは、ロシアンハンティングボゥを構えるジルベールだ。
「下手な事せん方がええで」
 扉を開けると、薄暗い一室に白いレースのドレスに身を包む、金髪の少女がいた。マリーが怯えた色を浮かべる中、青年が片膝を着いてニッコリと微笑む。
「どっこもケガしてへんか? おにーさんたちが助けたげるからな」

 ――時を同じくした交渉現場。
「聞き分けのねぇ野郎だな! 金を寄越せと言ってるんだ!」
「ですから、マリーさんを連れて来て欲しいと言ってるではありませんか」
 穏やかな微笑みを浮かべ、ウェーダは山賊頭相手に一歩も退かず交渉を続けていた。傍のルザリアは金貨に銅貨を紛れさせた二重袋を両手で抱えながら震え、夫を気遣う気弱な妻を演じている。
「お、夫の言う通りです。お金を渡してもマリーさんを返すとは限らないではないですかっ」
「黙れ! 父親も母親も来ねぇで、お前らだって信用できねぇ! 大事な娘だろーが!」
 ビッと女を得物で指し示した刹那、俯き加減な眼差しを研ぎ澄まし、ルザリアが睨んだ。
「ほう‥‥山賊風情がよく言えたものだな」
「なッ! 女ァ! 図に乗るなよ!」
 豹変振りに動揺したものの、相手は村人で弱き女。胸元の袋を奪おうと迫った次の瞬間、三つ編みの金糸が揺れると同時、頭領の喉元に翳す短刀が煌いた。周囲が殺気立つ中、ハーフエルフの青年が穏やかに微笑む。
「図に乗っているのはどちらですか? 私達は4人。そちらは、動けるならあなたを含めて3人でしょうか?」
 山賊の1人がウェーダの眼差しに気付き、振り返った。視界に飛び込んで来たのは前衛を担う少太郎。構えたスタッフを薙ぎ振るい、スタンアタックの洗礼で忽ち地面に崩れさせる。
「観念したらいかがですか? マリーちゃんなら今頃、仲間の馬で両親の元に着く頃でしょう」
「ばッ、馬鹿な! アジトの」
 山賊は動揺の声をあげた。男の問いにゆっくりと歩み寄りながらフィーナが答える。
「死なない程度に雷を浴びて頂きました。あなたも縛られる前にいかがですか?」
「ひいぃッ!」
 頭領を置いて逃げる山賊。ルザリアがシークレットナイフを放つと同時、エルフの娘が叫ぶ。
「皆さん、近づかないで下さいッ!」
 高速詠唱と共に、レミエラで扇状に放たれるライトニングサンダーボルトを叩き込んだ。これで立っているのは、身構える金髪の娘と対峙する山賊のみ。
 そんな中、穏やかにウェーダが紡ぐ。視線を流した頭領は青年の微笑みに慄いた。
「水でも浴びて反省して頂きましょうか★ 笑顔ですが決して私の憂さ晴らしじゃないですよ?」
 詠唱の度にウォーターボムの水球が乱打され、森に苦悶の断末魔が響き渡ったという――――。

 縛られた山賊共を連行する中、愛馬ネイトに跨ったジルベールと合流した。
「マリーちゃんは無事に親御さんに届けたで♪ そっちも片付いたみたいやな」
「ご苦労様です。逃走ルートの途中に用意して正解でしたね」
「後はこの連中を突き出せば依頼は完了です」
「バカ正直な山賊でなくて助かりましたよ」
「せめて、ご両親とマリー殿の再会まで見届けたかったがな‥‥」
「なに言うてんねん。胸に抱えとる袋の金、そのまま持ち帰るつもりやないやろな?」
 生真面目なだけにルザリアは言葉を失い、仄かに頬を染めた。
 冒険者達は若い夫婦の感謝と、マリーの咲かせる満面の笑顔に満たされるだろう――――。