燃えたらしつこい三十代

■ショートシナリオ&プロモート


担当:HINA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月09日〜05月14日

リプレイ公開日:2009年05月17日

●オープニング

「あの、おばさんに付きまとわれていまして……」
 冒険者ギルドに現れたのは、まだ二十歳そこそこと思われる青年であった。青年の名はアラン。
「おばさん?」
 受付嬢は顔をしかめる。
「おばさんは花屋で働いているんです。僕が花屋に花を届けるようになってから、おばさんと会話をするようになったんです。お互い、花が好きなので会話は盛り上がって、一緒にお茶を飲むことも度々ありました。そうしているうちに、仕事帰りの僕をこっそり家の前で待つようになったんです」
「あなたの家を教えたの?」
「いえ、おそらく僕の勤めている花畑から家まで後をつけてきたのではないかと」
「あなたの言うおばさんって、何歳ぐらいなの?」
 受付嬢は、二十歳ぐらいのアランの言う「おばさん」が何十代に当たるのか興味があった。
「三十代だと思います」
 受付嬢の顔が険しくなったのは気のせいか。
「で、迷惑しているわけ?」
 口調がそっけなくなった受付嬢。
「ええ。仕事帰りにこっそり陰で待たれているかと思うと、ぞっとします」
 アランは陰からこっそり見られているのを気がつかない振りをしているが、おばさんからお茶に誘われてももう断っているらしい。アランには付き合い始めの彼女がいるが、怖くて自分の家に招くことができなく、おばさんを自分から引き離したいがために冒険者ギルドへ訪れたのだ。
「おばさんの気を引くようなことはしていないの?」
「おそらく。普通の会話しかしていません」
「おばさんは独身?」
「そうです。別に好きだとか言われたわけではないんですが、見張るのはやめて欲しいんです」
「分かりました。依頼を出しておきましょう」
 受付嬢は、おばさんの燃える想いを想像しつつ、依頼状を書くことにした。

 

●今回の参加者

 eb0033 エスメラ・ラグナルティア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4717 神名田 少太郎(22歳・♂・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

 話し合いの結果、三人の冒険者ジークリンデ・ケリン(eb3225)、フィーネ・オレアリス(eb3529)、神名田少太郎(ec4717)は、各々で花屋を訪れることにした。花屋のおばさんから話を聞き出し、最終的にアランから身を引かせる作戦である。
 アランから聞き出した花屋をこっそり観察した結果、おばさんが一人で花屋を切り盛りしている様子である。おばさんとはいっても、色白でぽっちゃりした可愛らしい女性であった。アランが独り身であれば、もしかしたら、おばさんの恋も実ったかもしれない。

●美青年現る
 小さな花屋に三十代と思われる女性がいるのを確認したケリンは、花屋から少し離れた木陰で美青年に変身することにした。青色と銀色の金属が複雑に絡み合った禁断の指輪。十秒間念じると、ピンクの煙が漂う。そして、ケリンはどこから見ても美しい青年に変身した。
「あら、いらっしゃい」
 花の手入れをしている花屋の女性が、ケリンに声をかけてから、ふと顔を上げた。ケリンの美しさに大きく目を見開いている。
「お花を選んで頂きたいと思いまして」
 ケリンは花を見繕ってもらうふりをして、花屋のおばさんの性格や趣味を聞き出す作戦だ。
「あ、ああ、どんな感じのがご希望ですか」
 ケリンに見惚れ、ぽーっとしていたおばさんは慌てて対応する。
「ええ、彼女に送りたいと思いまして」
 この口実はケリンにおばさんを惚れさせないようにするためだった。おばさんの表情が一瞬曇る。
「それでしたら、薔薇がいいでしょう。彼女さんのお誕生日だったら、彼女さんのお歳の分だけ、薔薇を送るとか。毎年、一本ずつ増えていく薔薇。それが死ぬまで続いたら、どんなにロマンティックなことでしょう」
 おばさんは、恋に恋する少女のように、うっとりした表情で語った。
「それでは、三十本頂きましょう」
 ケリンは、彼女が三十代であるように振る舞った。おばさんに、アランをあきらめてもまだ未来はあるというメッセージを込めて。
「あら、彼女さんは私と歳が近いのね。三十本ね」
 おばさんは、丁寧に薔薇の花三十本をラッピングし始めた。
「三十代の女性は素敵ですからね。失礼ですが、お名前を」
「ナンシーよ。この花屋は私のお店なの。昔から憧れていた職業なのよ」
 おばさんの名前はナンシー。ケリンが彼女持ちだということになっているので、ケリンが名前を尋ねたところで、ナンシーは何も期待してないようだ。
「ほら、できた。これでいいかしら」
 ナンシーは薔薇の花束をケリンに見せる。それはそれは素敵な花束であった。
「ありがとうございます」
 ケリンは一礼すると、お店から離れ、元の姿に戻った。
 オレアリスと少太郎と落ち合い、報告する。
「おばさんの名はナンシーです。まるで少女のような方ですよ」
 上品な口調でケリンは話す。
「恋愛経験が少ないのでしょう」
 実らない恋をしているナンシーを想像し、オレアリスは首を横に振る。
「じゃあ、次は僕が訪れます」
 半ズボンにブーツという志士らしからぬ格好の少太郎が言った。

●少年、おばさんを魅了する
「あら、いらっしゃい。珍しいわね、こんなに若い男の子が来るなんて」
「ジャパンにいる母に、お花を贈りたいと思いまして」
 ナンシーは少太郎の言葉に小さく微笑んだ。
「お母様も幸せ者ね」
 色とりどりの花が並んだ店内は、花の匂いに満ちていた。
「僕、花言葉って聞いたことはあるんですけど、知らないんです」
「花言葉ね。例えば、このチューリップ。永遠の愛。思いやり、真面目な愛。チューリップだけでも、色々と花言葉があるのよ」
 説明してくれるナンシーを少太郎はきらきらとした目で見つめる。そんな視線にナンシーは気付いたのか、ぽっと頬を赤らめ、下を向く。
「母に送る花は何がいいですか」
 頬を赤らめていることに、少太郎は気付かないふりをして、話を続けた。
「ありきたりだけれど、カーネーション。これは母への愛という花言葉があるわ。一方で熱愛という意味も、持っているの」
「一輪いただけますか」
「ええ」
「母も花屋さんのように美しいんです」
 少太郎はナンシーを褒めてみる。
「ありがとう。歳って、女を醜くするものなのかしら」
 ナンシーは独り言のように呟いた。
「そんなことありません。僕、花屋さんみたいな女性が好きですから」
「あら……でも、まだ貴方若いわよね。どうしましょう。犯罪になってしまうかしら」
 どうやらナンシーの頭の中で、色々と妄想が始まってしまったようだ。
 カーネーションを一輪もらうと、少太郎はきらきらした目でナンシーを見つめた。そして、小さく手を振る。ナンシーも手を振り返した。
「少年って、純粋で素敵だわ」
 潤んだ瞳で少太郎の背中を見送ると、ナンシーは少太郎との恋の予感を感じ始めていた。

●女同士の恋愛話
 オレアリスは店へ入ると、ぼーっとしたナンシーが花を眺めていた。
「あら、いらっしゃい」
 オレアリスの姿に気付いたナンシー。
「お花について聞きたくて。お時間頂けますか?」
 オレアリスは花の話題から、恋愛の話へ移そうという作戦だ。
「ええ。どのようなことを?」
「片思いの彼に、花を贈ったら迷惑でしょうか」
 全くの嘘っぱちである。押しつけがましい愛は。相手にとって迷惑だということを教えるためだ。
「いえ、愛は表現するものよ」
 ナンシーは堂々と言い放った。
「花屋さんは今までたくさんの恋愛を?」
 オレアリスの質問に、ナンシーは躊躇うことなく答えた。
「今までにお付き合いした男性がいないのよ。私の愛って、どこか間違っているのかしら?」
「どのような恋愛を?」
「今、好きな人がいるの。最初の頃はお茶とかしていたわ。でも、彼は誘いに乗らなくなった。なんでかしら?」
「何か変化があったんじゃないですか?」
 ストーカーまがいのことをしていることを自覚しているのだろうか。
「少しでも彼のことを見たくて、彼の家の前でこっそり見始めた頃からかしら。誘いに乗ってくれなくなったのは。ねえ、何でかしら。私が見ているのを知ってしまったのかしら、彼は」
 ナンシーはオレアリスに縋り付くように聞いてくる。
「そういう行為は逆効果を及ぼすのでは?」
「そうなの?」
 ナンシーは首を傾げる。
「自分の想いだけで動くのではなく、相手がどう思うか考えることが必要だと思います」
「相手がどう思うか、なのね」
 オレアリスは黙って頷く。
「そうなのね。他の人の意見って大切ね。ありがとう」
 ナンシーはどこか哀しい顔で、店を出て行くオレアリスを見送った。

●アランの恋人の存在
 美青年に扮(ふん)したケリンとオレアリスは次の日、一緒にナンシーの元へ訪れた。
「あら、あなたたち、お知り合いだったの?」
 ナンシーは大きく目を見開いた。
「ええ。申し上げたいことがありまして」
 ケリンは単刀直入に切り出す。
「アランさんのことでお伺いしました。花に寄り添う花があり、花にも心がある。どういう意味か分かりますか?」
 ナンシーはしばらく黙っていた。きっと昨日のオレアリスとの会話のことも含めて、思い出しているのだろう。
「アランに寄り添う花。アランに寄り添う恋人がいるということ? アランにも心がある。私はそのことを忘れていたのかもしれないわね」
 うなだれた表情で、ナンシーはか細く答えた。
 オレアリスはナンシーの顔を触る。
「化粧を施してあげましょう。新しい自分が見えてきますよ」
 オレアリスは貴族階級の化粧を、ナンシーに施した。そして、鏡の前にナンシーを立たせる。
 みるみる明るくなるナンシーの表情。
「新しい自分の一面が見えてきたでしょう。これからは積極的に出会いを求めて下さいね」
 優しくアドバイスをするオレアリス。
「心を涼やかにしてください。出会いは訪れるでしょう」
 ケリンはそう言い残し、オレアリスと共に去った。
「そうね。新しい出会い。もしかしたら、昨日の少年なのかしら?」
 昨日の少年とは少太郎のことである。ナンシーに少年属性がついてしまったのだろうか?