●リプレイ本文
●和やかな索敵
大量発生したというホーンリザード達を退治する為に集まった4人の冒険者達は、鬱蒼と茂る森の中を歩いていた。
「それにしても、もうすぐ寒くなるっていうのに、元気よねぇ」
この時期になっても元気に走り回るトカゲに感嘆しているフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)の呟きに、隣を歩いていたセフィード・ウェバー(ec3246)は頷く。
「人に危害を加えなければいくら元気でも構わないのですけどね」
「ほーんと、トカゲさんの立派なものは年中元気ね」
と、あらぬ誤解を受けそうなフィオナの発言に、マロース・フィリオネル(ec3138)は顔を真っ赤にさせる。
「フィ、フィオナさん! 依頼中に不謹慎なっ‥‥」
「あら、私はトカゲさんの立派な『足』は元気ねって言ったつもりなんだけど。マロースったら何を想像したのかしら?」
そう言いにやにやと笑う意地悪なフィオナにマロースの顔が益々赤くなる。
その様子を苦笑し眺めていたセフィードがふと視線を移すと、シャルル・ノワール(ec4047)が荒い息で何かをぶつぶつ呟いていた。
「トカゲさんの立派なものって、やっぱり立派なモノなのかな? ど、どんなのだろう‥‥はぁはぁ」
その呟きを聞かなかった事にし、セフィードは緑の木々の隙間から漏れる木漏れ日に目を細めるのだった。
微笑ましい(?)やり取りから数時間後。
マロースは唯一の前衛として先頭を務め、仲間達に危険が及ばないように周囲に注意をはらっていた。
彼女には森林の土地勘があるので迷う心配はないだろう。
「トカゲさん、どこかな〜♪」
暢気な歌を歌いつつも、フィオナは優良視力でホーンリザードの姿を探していた。
突然敵が姿を現した時に備え、常時地上3メートル上に浮遊しての索敵である。
「しかしいくら人に危害を与えているとは言え、ただ殺すのではさすがに抵抗がありますね」
無益な殺生は好まないセフィードは表情を曇らせる。
「ホーンリザードを殺さずに追い払うですか‥‥難しいですね」
セフィードの優しさを感じつつも、シャルルは安易にそれは可能だとは言えなかった。
森に入る前に訪れた村の住人達はホーンリザードに怯えている様だったし、彼等が命を奪わない程度の攻撃で大人しく住処に帰るとは思えない、というのが本音である。
「1番望みがある方法はフィオナさんのイリュージョンで死の幻を見せる事でしょう。加えて人間への恐怖を植え付けられれば言うこと無しです」
可愛そうだが、野生の生物にとっては人間を怯えてくれた方が共存に繋がるとシャルルは思っていた。その考えに賛同し、セフィードは神妙な面持ちで頷く。
「万が一戦闘になった場合は近くの村の方に逃げて行ってしまわない様、確実に仕留めなければなりませんね」
近隣の村に被害を出したくないという思いはシャルルだけでなく、他の3人も同じだった。
「‥‥ん? 遠くで何かが動いたような気がするわね」
フィオナの目に遠く離れた茂みの中で蠢く何かが映る。
その姿は‥‥ホーンリザードだ。
「数は1、2、3匹。こちらには気づいてないみたいね」
フィオナの言葉に3人は息を飲む。
「あれで全部とは限りません。私が購入してきた狩猟用の網を仕掛けて捕獲するというのはどうでしょうか?」
「いい案ですね。戦わずに数を減らせるのはありがたいです」
セフィードの提案にマロースは顔を綻ばせる。
「ではあそこに茂みに網を仕掛けましょう。フィオナ、敵に気付かれそうになったら教えて下さい」
「オッケー♪ 頑張ってね」
フィオナはセフィードにウインクを飛ばすと、再びホーンリザード達に注意を向ける。
数十分後、無事に網を設置し終えた冒険者達はそっとその場を離れ、明日の朝に網にかかったか様子を見る事にするのだった。
●トカゲ討伐
翌日、しかけた網には2匹のホーンリザードの姿があった。
しかし端っこに大きな穴が開いていた。昨日見かけた1匹はここから逃げ出したのだろう。
「角で網を破ったのかしら? 恐ろしく元気ねぇ」
またしてもフィオナはホーンリザードの逞しさに感心するのだった。
網の中で暴れるホーンリザードの動きをマロースとセフィードはコアギュレイトで封じ、シャルルが1匹ずつ縄で縛っていく。
「‥‥この角で突進されたらひとたまりもないですね」
立派な角を恐る恐る触りながら、セフィードはぽつりと呟く。
と、その時。
「こちらに4つの熱源が向かってきます。うわ、物凄い勢いですよ!」
ブレスセンサーを唱えていたシャルルの驚いた声を聞き、一同に緊張が走る。
「‥‥仲間を助けに来たのですね」
マロースは3人の前に立ち塞がる。
その彼女も包み込む様に、セフィードはホーリーフィールドで結界を作り出した。
「皆さん、早くこの中へ!」
シャルルとフィオナは素早く結界の中に移動し、魔法を詠唱し始める。
「来ました!」
物凄い勢いでこちらに走ってくる4匹のホーンリザードは、声を上げたマロースを睨み付けている様に見える。
「近づけさせはしませんよっ!」
シャルルは味方を巻き込まない様に気をつけながら、ストームでホーンリザード達の動きを封じる。
しかし速度は落ちたものの、敵はこちらへ向かってくるのを止めない。
「うふふ、元気ねぇ。トカゲさんとトカゲさんがごっつんこ〜♪」
フィオナは高速コンフュージョンをホーンリザードにお見舞いする。
混乱させられた1匹は仲間に向かって突進を始め、それを避け切れなかったもう1匹と共に気絶してしまった。
「回収します!」
マロースは結界から飛び出ると、素早く気絶した2匹を捕獲する。
「こちらもお願いしますね」
「僕が行きます!」
セフィードがコアギュレイトで動きを封じた2匹はシャルルが捕縛する。肝心なのはここからである。
縄で縛ったホーンリザードを網の中に戻し、6匹全てが目覚めるのを待つ。
そして時期が整った事を確認すると、テレパシーによるフィオナの説得が始まった。
『どうして急に暴れだしたりしたの? この辺りは人間が通るから危ないわよ。もっと奥の方で暮らしなさいな』
『嫌だ。人間の食い物の方が美味い』
『人間の食べ物の中には、あなた達が食べたら死んじゃう物もあるかもしれないのよ?』
『美味ければそれでもいい』
予想はしていたが、あまりに単純な思考にフィオナは溜息を付く。
「ではこれで手を打って下さるといいのですが‥‥」
マロースはクリエイトハンドで食べ物を作り出し、それをホーンリザード達の前に差し出す。
『食い物!』
『美味そうだ!』
途端にホーンリザード達は夢中で食べ物を貪り始める。
食べ物が跡形もなくなくなった事を確認したフィオナは再度説得を試みる。
『ね、これで満足でしょ? 森の奥に帰ってくれないかしら?』
『これからもさっきの食い物がずっと食えるのか?』
『残念だけど、それは出来ないわ』
『食えないなら帰る気はない!』
だが話は平行線のままだ。
「説得は難しそうですね。ならば強制的に森の奥に帰ってもらうしかありません」
シャルルの言葉にフィオナは頷くと、イリュージョンを唱え始める。
ホーンリザード達を次々と襲う死の幻。
その幻の中に人間も登場させ、恐怖を植えつけていく。
すっかり幻に囚われガタガタと震えるホーンリザード達に一同は近づくと、傷付けない様にそっと縄を解いていく。
するとホーンリザード達はそのまま、森の奥へと物凄い勢いで消えて行った。
「これで彼等が人に危害を加える事も、近づく事もないでしょう」
セフィードは1匹も殺さずに済んだ事に安堵していた。
(「結局、気の毒で試せませんでした‥‥」)
後学の為にホーンリザードに対し高速詠唱ホーリーをかけて、本能で動く動物に効果があるのか試そうと思っていたマロースだが、良心が咎めたのだ。
ホーンリザードは邪悪な者とは言いきれないので、効果があるかどうかは魔法抵抗判定を行う事となる。
だが低レベルモンスターなので、ホーリーが効く可能性は高いだろう。
「ふう。さすがに連発は疲れたわね」
「フィオナさん、お疲れ様でした」
額の汗を拭うフィオナにシャルルは笑顔で労いの言葉をかける。
「あなたが出してくれた案のお陰よ。ナイスアイディアだったわ」
フィオナはそう告げた後、シャルルの肩にちょこんと腰掛ける。
「マロース、『モンスター注意』の看板を作ってもらえるかしら?」
「はい。森の入り口に立てかけておけば安心ですね」
あの6匹が人間の傍に現れる可能性は低いが、念の為である。
「それにしても大量発生と言う程の数ではなかったですね」
「ですが数が少なかったお陰で無益な殺生をせずに済みました。神に感謝です」
笑顔でシャルルにそう答えるセフィードが、討伐した際にその亡骸を食用にならないかと考えていたのは秘密である。
冒険者達は依頼を無事に終えた達成感を胸に抱きながら、仲良く談笑しキャメロットへの帰路を進むのだった。