迷子のあの子
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 17 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月06日〜11月16日
リプレイ公開日:2004年11月14日
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●オープニング
ギルドにやってきたその商人は、ギルドの親父の顔を見るなり、わっと泣きついて来た。
しかしそんな商人の様子にうろたえることなく、一体なにがあったのかと。尋ねた親父の言葉に、商人はううっと大袈裟に涙を流して訴えた。
「‥‥あの子を家に招き入れたのは、あの子がまだ赤ん坊の頃でした」
少々田舎に居を構えているこの商人の屋敷は、田舎だけに敷地が広い。
事実これまでずっと、その子は、屋敷の庭だけで遊びまわっていたのだそうだ。
「それなのに‥‥あの子は、外のことなどちっとも知らないのにっ!!」
何やら思い出したのか、いきなり泣き崩れる商人に、ギルドの親父は思わずこっそり溜息をついた。
そりゃあ依頼人には――冒険者にも――妙なやつなど多々いるからその辺はあまり気にしないが、依頼内容を聞けないのは大変に困る。
「わかった。わかったから‥‥もう少し落ちついて話してくれ」
「え、ええ‥‥」
なんとか落ちついたのか、商人は大きな溜息をついてどこか遠くを眺めるような瞳で語った。
「ある日の事です。あの子は、誤って家の塀を壊し、そこから外に出てしまったのです」
この時点で。
ギルドの親父はつい、マヌケな顔をしてしまった。
「‥‥その子の特徴を教えてもらえないか?」
もしかしたらそんなに丈夫な塀じゃなかったのかもしれない。
そんな考えも頭の隅に入れつつ、問い返す。
「あの子の特徴‥‥ですか? そうですね‥‥すらっとした長い足と、首」
「首?」
「ええ。それと、ふさふさの羽毛」
「羽毛?」
「体長は2メートルほど。雛の頃に、遠方の商人から買ったんです」
「‥‥鳥?」
「ええ。でも私にとってはわが子も同然の大事な子なんです。どうかあの子を探して連れ戻してくださいっ!!」
商人は、感極まったように叫び、またもその場に泣き崩れたのだった。
●リプレイ本文
我が子も同然と言われたその鳥の捜索を請負った冒険者は四人。
ルイーゼ・コゥ(ea7929)、ピリル・メリクール(ea7976)、竜崎清十郎(ea8223)、ビアンカ・ゴドー(ea8286)である。
急ぎの仕事であるため、荷物を一旦ギルドに集め、冒険者一行は依頼人である商人の馬車に乗せてもらえることになった。もちろん、依頼人も同じ馬車で戻るのである。
屋敷があるという小さな町に向かいつつ、四人は早速捜索方針を固めるための相談を開始していた。
「オストリッチはんですか‥‥いやでも目立つ鳥さんですなぁ」
エリスと名付けられたその鳥の特徴をおおまかに聞いて、ルイーゼは軽い調子で呟いた。
「すらっとした長い足と首、そしてふさふさの羽毛‥‥」
聞いた特徴を繰り返しつつ、ピリルがなにやら宙に視線を彷徨わせた。そしておもむろににこっと笑って、楽しげな声を零した。
「絶対可愛いっ♪」
ウキウキとした様子のピリルを余所に、清十郎は至極真面目な様子で同じ馬車の中にいる依頼人に視線を向けた。
「他に特徴はないのか?」
清十郎に続いて、ビアンカが静かに言葉を紡ぐ。
「そうですね‥‥外見ではなくて、エリスちゃんについての性格なんかも聞きたいです。エリスちゃんはペットとして飼われていたみたいですが、野山を駆け回るという体験はなさったことはあるのでしょうか?」
「あ、あと‥‥食べ物は何が好きだとか、どこへ逃げたのかとか、あとは癖とかも」
ビアンカの言葉に、ピリルがさらに付け足して言う。
「そうですね‥‥」
依頼人の商人は、次々と繰り出される冒険者たちの質問に、ひとつひとつ丁寧に答えをくれた。
好きな食べ物に癖、逃げ出した時の様子から、聞いてもいない普段の細かな様子まで。
おかげさまで、町につく頃にはある程度の作戦を立てることができていた。まあ、細かな部分に修正が入ろうとも、基本方針はたいして変わらなかったのだが。
まずは町内の聞き込みと、それを参考にしてあとはひたすらしらみつぶしだ。
とにかくまずは居場所を探し出さねば確保するどころではない。
「シフールの機動力、こういうところで生かさんといけまへんな」
腕まくりして気合を入れたルイーゼに、残りの面子もそれぞれ役割分担を確認して頷く。
この商人がオストリッチを育てているのは、近辺では有名な話であるらしい。エリスという名で聞くだけで、すぐに情報を教えてくれた。
外見についてはすでに聞いていた通りの情報しか聞けなかったが、逃げた方向や時間についてはかなり詳しく聞くことができた。
逃げた当時の状況だけではなく、最近の様子までだ。
どうやらエリスは現在森の中をうろうろしているらしく、森でエリスらしき姿を見かけた者が数名。姿こそ見かけないもののそれらしき足跡や葉っぱの食い跡などを見つけた者もいた。
「では俺はエリスの餌を持って行こう」
「私は罠用のロープを持ってくね」
商人に頼んで用意してもらった捕獲作戦用の品をそれぞれに持ち、出発しかけたところでふいにビアンカが皆を呼びとめた。
「少し待ってください」
「なんや?」
上空からの捜索係として今まさに飛び立とうとしていたルイーゼも一旦止まって振り返る。
「グットラック」
瞬間、ビアンカの姿が白く淡い光に包まれた。
「あまり長い時間はききませんが‥‥」
かけた相手はルイーゼである。他の二人は一緒に行動するから、もう少し現場に近づいてからでも良いと思ったのだ。
そうして一行は改めて出発し、ルイーゼは一足先に空から森へ。残る三人は歩いて森の中へと向かったのだった。
魔法のおかげか、もとより運が良かったのか。
空から探した結果、エリスの姿はすぐに見つけることができた。
早速残る三人にエリスの居場所を報告し、四人は揃ってエリスの近くへとやって来た。
「これで警戒を解いてくれればよいのだが‥‥」
とりあえず餌を置いて一旦茂みに隠れると、エリスはすぐさま近寄ってきてくれた。
しかし突然置かれた餌に警戒しているらしく、ある一点でぴたりと止まって、それ以上は寄って来る様子がない。
「もう少し近づいてもらわないと‥‥」
大まかな距離を目算で計りつつ、ピリルが困ったように呟いた。
念の為に足止め用のロープも仕掛けてあるけれど、スリープで眠らせることができればそれが一番穏便で良いと思ったのだ。
しかしこの位置からでは魔法の有効範囲には少し遠い。
かと言って、下手に動いてエリスに逃げられるのも問題だ。
体長が大きいため見つけるのは容易だけれど、森にはモンスターや肉食獣もいるだろう。
野生をあまり知らないエリスが、襲われて怪我をしてしまう可能性も充分にあるのだ。早く保護するにこしたことはない。
「俺が後ろから回ってみよう」
そう告げて、清十郎は餌を入れていた袋を手にし、忍び足でエリスの背後へとまわっていく。
だがしかし――足音こそしなかったものの、さすがに繁みでまったく音を立てずに回りこむには無理があった。
清十郎の気配に気付いたエリスは、ざっと一直線に駆け出した。
向かう先は前方‥‥つまり、残る三人が隠れている方向。
「スリープっ!」
ここぞとばかりにピリルが呪文の声を張り上げた。
ばたりと、エリスがその場に倒れる。
最初にエリスの元に向かったのはルイーゼであった。
「‥‥成功や。ちゃんと寝てるみたいやわ」
「良かったです」
ほっと一息つく一行。
しかし二メートルもの巨体の鳥を三人――しかもうち二人は女性――で運ぶには少々無理があった。
そこでルイーゼがひとっ飛びに商人の家に向かい、迎えに来てもらい、一行は無事、エリスの保護に成功した。
一息ついた屋敷にて、ビアンカがふと思いついたように、
「もしかすると、自然というものに対して回帰する本能が、エリスちゃんが逃亡した原因だったのではないかと思います。たまには自然に触れさせることをなさった方が宜しいかと思いますわ」
こんな言葉を口にした。
商人もその意見にはなにやら納得したようで、お礼とともに今度からはそうしますと告げ、深く頭を下げたのだった。