誕生日プレゼントを届けて
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月20日〜12月05日
リプレイ公開日:2004年11月28日
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●オープニング
街の片隅に住むことある一家――この家族はエレンと、その両親の三人だ。
けれど家に商人の仕事で外を飛びまわっている父親は常にいないし、母親も仕事の関係で夜遅くまで家には帰ってこない。
両親は仕事なのだ。我侭を言うべきではないとはわかっているけれど‥‥。
本当ならば、もうすぐ訪れる父親の誕生日には家族揃って食事ができるはずだった。
少女はその日をずっと楽しみにしていて、誕生日のプレゼントだって用意していたのだ。
だがつい先日、父親が出かけている街とこの街とを結ぶ街道が災害に見舞われ、帰るに帰れない状況になってしまったのだ。
父親がいない間店を預かり頑張っている母親に我侭を言うことはできない。
帰ってきて、なんてそんな無茶なことは言えない。
けど。
「‥‥あの、すみません」
ある日ギルドにやって来たのは、十歳前後の少女であった。
少女――エレンは、母親が仕事に出ている隙に、こっそりとギルドにまでやって来たのだ。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」
ギルドには不似合いなエレンを見てしゃがみこんだギルドの親父に向けて、エレンはスッと可愛らしくラッピングをされた小さな包みを差し出した。
「あの、すみません。お願いがあるんです。これを、お父さんに届けてもらえないでしょうか」
告げて、エレンはそれまでの事情を話して聞かせた。
「帰ってきて欲しいっていうのが無理なのはわかってます。でもせめて、プレゼントは誕生日に届けたいんです。だから、お願いします。これを、お父さんのところまで届けてもらえませんか?」
●リプレイ本文
集った8人の冒険者を前に、エレンは礼儀正しくちょこんと頭を下げた。
「よろしくお願いしますっ!」
必死ながらも可愛らしい仕草に、子供好きのピリル・メリクール(ea7976)は思わずにこりと微笑んだ。
「お父さんにプレゼントを届けたい、なんて健気で素敵な依頼♪ お姉ちゃん達頑張っちゃうね、エレンちゃん」
「しっかりお父様へのプレゼント届けますね」
微笑を浮かべてそう告げたのはルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)だ。
「はい、ありがとうございます」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、エレンがひとつの箱を差し出してくる。綺麗にラッピングされたそれを受け取って、ジョエル・バックフォード(ea5855)が口を開く。
「中身は何かしら。良かったら教えて貰えると嬉しいの。大事に扱うのはもっともだけれど、特に何をしてはいけないのか、それが重要だから。大丈夫。お父様には言わないわ。私達だけの秘密よ」
「中身を言いたくなければ、割れ物かどうかを教えてくれるだけでも良いんだ」
そう付け足したのはゾナハ・ゾナカーセ(ea8210)だった。
最初は雨に濡れても大丈夫かも合わせて聞こうかと思っていたが、渡されたプレゼントは染色のよい布に包まれていて、見るからに濡れたらまずいっぽい。
問われてエレンはんーっとしばらく考えてから、
「えっと、中身はお人形なんです。だから、ちょっとくらいなら大丈夫だと思います」
少々自信なさげにそう答えた。
「大丈夫だよ。ちゃんと丁寧に扱うから。一応もしもの念の為に聞いただけだよ」
「そうですね‥‥あとで藁や布きれを持ってきて衝撃を和らげるのに使いましょう」
ぴっと人差し指を立て、笑顔で継げたパロ・ルウ(ea2849)に続いて、ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)がおっとりと口を開いた。
「ご安心ください。お父上に中身を明かすことは絶対しませんから」
ギヨーム・ジル・マルシェ(ea7359)の一言に、残る面子ももちろん同意を示す。
「うん、よろしくお願いします」
もう一度頭を下げたエレンに、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)がふと言葉を向けた。
「家族が共に居たいと願うは我侭ではなく普通の望み。だが、願ってもままならぬのが現実。ささやかな願い、叶えると致そう」
一瞬ぽけっと驚いた顔を見せたエレンは、次ににっこりと――今までで一番明るい満面の笑みを見せた。
◆ ◆ ◆
プレゼントは一回り大きな箱に入れて、その周囲に布きれや藁を入れ、なるたけ衝撃を受けないように。
それと届け先の街までの周辺地図に保存食。ギルドに顔を出してモンスターの出現情報も確認して。
嵩張る荷物はそれぞれドンキーや馬に乗せて、一行はお届けものへと出発した。
途中までの道のりはいたって順調だった。基本的には道が整えられているのだから当然と言えば当然か。
そして数日進んだところで、街道は大きな土砂に阻まれていた。右手には森、左手には崖。土砂は崖の方から崩れてきたようだ。
これでは森を通るしかないが、森も土砂に襲われていて通りづらくなっているし遠回りを余儀なくされる。なにより獣やモンスターの領域である森を戦い慣れぬ者が通るの大変なことだろう。
鬱蒼と繁った森に道らしき道はない。
「思ったより大変そうだね」
戦闘が得意でないことから贈り物の保護係にまわったパロの感想に、同じく戦闘を苦手とするため保護係にまわったピリルが頷いた。
「戦闘は覚悟しておいた方が良さそうね。なるべく後手にまわらないよう気をつけないと」
「そうだな‥‥。ならば私は偵察に回ろう」
「ミーも一緒に行きます」
落ちついた声音のジョエルに続いて、偵察宣言を出したのはギョームとガイエル。
ギョームはシフールゆえに空を飛べるし森林知識も持っている。ガイエルはミミクリーという変身魔法が使えるし視力が良い。二人とも偵察には最適な人物と言えよう。
ルイーゼは少しでも早くモンスターを感知できるようにと自分とワルキュリアにグッドラックの魔法をかけた。神聖騎士であり前衛での戦闘ができる二人が前に出るつもりゆえの行動である。
「それじゃあ‥‥私とワルキュリア様が前に出ますね」
真ん中は馬と、贈り物保護係のパロとピリル。しんがりはジョエルとゾナハという形で、一行は森の中へと歩を進めた。
当初は戦闘も覚悟していたのだけれど、入ってみると、案外あっさりと事は進んだ。
それはもちろん、前もって偵察に出ていた二人や、なるたけ戦闘を回避しようと周囲の警戒を怠らなかったためで、決してモンスターがいなかったというわけではない。
まあ、災害の直後で、モンスターたちの数も少々減っているのかもしれないが。
「一番危ないのは夜だな」
空が赤く染まり始めた頃、ゾナハはそう言って周囲に目をやった。
動いている時はモンスターの行動に合わせてこちらも移動できるけれど、野営中はそうもいかない。
できるだけモンスターが少ない安全そうな場所を見つけるのはもちろんだが、早期発見のための罠も張ったほうが良いだろう。
ゾナハの提案にもちろん反対意見はなく、一行はそれぞれ役割分担をして夜に備えることにした。
◆ ◆ ◆
何度かの夜を迎え、数度鳴り子がなったりもしたけれど。そのおかげでどの時にも先制攻撃に成功し、たいした打撃もなく一行は目的の街へと辿り着いた。
街はざわざわと落ちつきない雰囲気に賑わっていた。
「きっと足止めされてる方が多いんでしょう」
ワルキュリアの言葉は、他の面子が抱いていた印象と同じものだった。
「さあ、エレンちゃんのお父さんを探さないとね!」
張り切って宣言したのはピリルである。
そこそこに大きな街ではあるが、宿屋の数はそう多くはない。
片っ端から聞き込みすればすぐに見つけることができるだろう。
そうして予想通り。聞き込みを始めてからほんの数時間で、一行はエレンの父親を見つけることに成功した。
「エレン様からお誕生日のプレゼントを届けに来ました。どうぞお受け取りください」
告げたのはルイーゼ。
にこりと笑顔でプレゼントを差し出したのはピリルである。
彼は驚いたような顔をしてしばしプレゼントを見つめていたが、唐突に深く頭を下げた。
「遠い所をありがとうございます。‥‥」
詰まった言葉は多分エレンへ向けてのものだったろう。
噛み締めるようにプレゼントを抱きしめる彼に、ガイエンが声をかけた。
「何か伝える事か渡す事があれば引き受けるが」
ガイエンの問いに、彼は穏やかな微笑を浮かべて
「ああ、そうですね‥‥少し、待っていていただけますか」
少々考え込むように呟いて、一旦部屋へと上がって行き5分ほどで戻ってきた。
「これを、お願いします」
渡されたのは一通の手紙。
「きっとエレンも喜ぶだろう」
受けとってゾナハは、ふいと呟いて小さな笑みを浮かべる。
一通りの事情説明と仕事を終えての帰り際。
ジョエルが思い出したように、お金を差し出した。エレンがくれた報酬である。
「こちら、お返ししますわ。幼いお嬢さんが私たちを雇うのは大変な出費だったはず」
言われて彼はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、それはあなた方への正当な報酬です。娘へのフォローは私が自分でしますから大丈夫ですよ」
「あ、そうだ。一緒に帰る事はできないのかな?」
ぽんと告げたのはパロである。エレンが一番喜ぶのは父の帰宅だろうと思っての台詞だったが、この問いにも彼は首を横に振った。
「私一人で来ているわけではありませんから」
馬車で来ているため、森を通るのは難しいらしい。
「そうですか‥‥では、このお手紙はしっかり承りました。早く帰ってお嬢さんを安心させてあげでくださいね」
ワルキュリアの言葉に彼はこくりと頷き、そして一行は街をあとにした。