思い出の宝探し
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2004年12月20日
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●オープニング
10年後の今日、きっと一緒に掘りだしに行こうね!
大きくなってもずっと仲良くいられますように――。
そんな願いを込めて、村の近くの森の奥。当時は子供の遊び場であったその森に、2人はお互いの大事な物とメッセージを埋めたのだ。
幼い頃の大切な約束は、けれど果たされることはなかった。
近所でも評判の仲の良い2人の少女の片割れは、10年後を待たずに親の都合で遠い街へと引っ越して行ってしまったからだ。
「もう何年も会ってませんけど、大切な友達なんです」
ギルドにやってきた女性はそう言って、にこりと微笑んだ。
けれどその笑みはすぐに淋しそうなものに変わって消えてしまう。
「本当は、1人で行くつもりだったんです。でも……」
10年前はのどかな森だったその場所は、近年モンスターが現れるようになっていたのだ。
そこは、戦いの経験のない者が1人で行けるような場所ではなくなっていた。
「つまりその宝物を掘り出して持ってきて欲しいというわけだな?」
ギルドの親父の確認に、女性は申し訳なさそうに瞳を伏せて首を横に振る。
「それが、その……見ればわかると思うんですけど、ちゃんと地図に書ける自信がないんです」
行けばわかるが描けるほどには覚えていない。
まあ、よくあるパターンである。
「……ってーと、お嬢ちゃんも……?」
「はい。頼みたいのは、私の護衛なんです。よろしくお願いします」
告げて女性は、ぺこりと頭を下げたのだった。
●リプレイ本文
依頼人であるシャロンを連れて、冒険者一行は目的の森の前までやって来ていた。
パッと見には穏やかな森に見える。だがここ数年、この森に入ってモンスターに襲われただとか言う話は近場の街では有名だった。
「10年‥‥私にとってはそうでもないですが、魔物が出るようになる程には短くない時間だったということですか‥‥」
静かな森を見つめてそう呟いたのはライエル・サブナック(ea7927)だ。
同じくエルフであるゾナハ・ゾナカーセ(ea8210)も頷いて、誰にともなく言葉を漏らした。。
「10年。エルフにとっては約束をするほどの年月ではないが、人間にとっては何もかもが変わってしまうに十分な年月だ」
「幼い頃の思い出というのは‥‥懐かしいですねえ」
ほうとどこかに思いを馳せるかのように呟いたのはシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)。
「どの辺に埋めたのか思い出せそうですか?」
エレナディス・ラインハート(ea7060)の問いに、シャロンはしばし森を見つめて考え込んだ。
「確か‥‥こっちの方だったと思います」
シャロンは森の一方向を指差して、自信なさげにそう告げた。
「大切な友との約束と思い出は永遠じゃ。常に傍に在るのが親友という訳でも無いからの。シャロンの友も同じ思いでこの日を待ちわびておった事じゃろう。シャロンの友に代わり、わしらが一緒に宝を掘り出してくれようぞ」
道の自信がないためか、モンスターの出没する森に入るためか。あるいは、その両方か。
不安げに瞳を揺らすシャロンに、ヴェガ・キュアノス(ea7463)がにこりと笑いかけた。
おかげでシャロンの緊張も少々ほぐせたらしく、シャロンも笑顔でヴェガに返す。
「それじゃあ‥‥私、飛べますから、上空から監視しますね」
どことなく上品な物腰でそう告げたのはシフールであるアニマ・フロイス(ea7968)だった。森の中と言っても鬱蒼と繁ると言う雰囲気の森ではない。上空からの警戒は充分に有効であろう。
「目的地まではどれくらいだろうか?」
ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の問いに、シャロンはにこりと軽く微笑んだ。
「子供が行けるようなところですから。そう遠くはありません」
トラブルがなければ、ということではあるが、実際距離的には数キロ程度のものらしい。
「そうか、モンスターに遭遇しなければよいのだがな……」
呟いてから、ガイエルはミミクリーで狼の姿へと変化した。この方が聴覚・嗅覚ともに鋭くなれるからだ。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
エレナディスの言葉にそれぞれこくりと頷いて、一行は、森の中へと足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆
シャロンの思い出を引き出すために、他愛もない雑談をしながら――当然ながらシャロンの昔話を聞くのが主だが――先へと進む。
「しかし、余裕があれば、その友達へ思い出の品を届けてやれればよいのだが」
話の最中でふと、ガイエルが漏らした呟きに、シャロンはぱあっと瞳を輝かせた。
もしかして持って行ってくれるのではと期待したらしい。
心情的には持って行ってあげたいところもあるが、しかし、その友人が住んでいるのは現在別の国だと言うし、この依頼の延長上で行うにはさすがに遠すぎる。
その辺りのことをシャロンにきちんと話そうとしたその時。
「先の方に、モンスターがいましたっ。なんだか興奮してるみたいです」
上空から先の様子を窺っていたアニマがヒュンと飛んで戻ってきた。
一行はシャロンを守る者、前衛に出る者、後ろで援護する者と素早く別れてモンスターに対応する。
本当はできるだけ戦闘は避けたいところなのだが、下手に道から外れると、シャロンの記憶と誤差が生じて目的地がわからなくなってしまいそうだったのだ。
――と。
モンスターがその視界に入った瞬間、レミィ・エル(ea8991)の髪が逆立った。それと同時に、瞳も血のような赤い色に変化している。
レミィの突然の変化に驚く者もいたが、今はそれよりもモンスターの方が先である。
‥‥言ってしまえば、モンスターのレベルは大したものではなかった。
数名戦闘向きではないものの、それでもこちらの方が手数は多い。まあ、戦闘慣れしている冒険者だからこそたいしたレベルじゃないと言えるのだが。
戦闘が終わって一息ついたと言うのに、どうも雰囲気は悪かった。
原因は――レミィの狂化である。ハーフエルフは、忌み嫌われる傾向にあるのだ。もちろん、このパーティの全員がハーフエルフを嫌っているというわけではないのだが‥‥。
ゾナハは依頼人にハーフエルフの存在を知られたくなかったようで、特に不機嫌な様子になっていた。
しかし。
戦闘から戻ってきた冒険者たちに、シャロンはじっと心配そうに一行を見つめて告げた。
「皆さん、大丈夫でした?」
シャロンの視線が特に向けられていたのはレミィである。突然の変化に驚いたのだろう。
「‥‥あたしが怖くないのか?」
心配げに見つめられて思わず口にしたレミィの問いに、シャロンはにっこりと笑って見せる。
「どうしてですか? 助けてもらったのに」
ふわりと空気が和らいだのを感じ、レミィも小さく微笑んだ。
「見つかるといいな」
「はい」
◆ ◆ ◆
それからさらに歩く事十数分。
確かに、モンスターの襲撃などのトラブルさえなければ子供の足でも充分に辿り着けるだろう距離に、目的地はあった。
「えーと、確かこの辺‥‥」
「私たちも手伝おう」
「何か思い出した事、あります?」
きょろきょろと周囲を見るシャロンに、ガイエルとシルフィーナが声をかける。
「この辺というのはわかるんですけど‥‥」
シャロンが指した『この辺』は、森の中にぽっかりと開いた小さな広場。中央には泉が涌き出ていて、なんとものどかな雰囲気だった。
「そうだな‥‥宝物とはどの様なものなのだ? 形やどの様な場所に埋めたかが分からないと一緒にさがすことはできないぞ」
思案顔のレミィに言われて、シャロンはああ、と両手を叩いた。
「そういえば、言うのを忘れていましたね」
‥‥どうやら天然らしい。
しかし流石に大事な宝物のことは良く覚えているようで、小さな木の箱に入っていることを話してくれた。そして話しているうちに埋めた場所も詳しく思い出したらしく、泉の傍の木の根元に埋めたのだと告げた。
「‥‥しらみつぶしじゃろうか?」
周囲の様子をざっと見て、ヴェガがふいと呟いた。
なにせ森の中である。泉の周囲にも木はたくさんあるのだ。
「あとちょっとだね。頑張ろう!」
元気に宣言したのはシルフィーナ。
「あたしは掘ったりとかあんまりできないし、周囲の警戒にまわります」
アニマは移動中と同様空からモンスターの警戒に辺り、残る全員で人海戦術となったのだった。
◆ ◆ ◆
さてそれから数日後。
「この前はお世話になりました」
一行を尋ねてシャロンともう一人、女性がギルドにやって来た。
当日には間に合わなかったものの、シャロンの大切な友人であるその女性も宝物を掘り出しに来たそうだ。
二人の嬉しそうな笑顔を見れば、数時間がかりで宝探しに地面と格闘した甲斐もあったと言えよう。