占拠された泉

■ショートシナリオ


担当:日向葵

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 50 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月26日〜04月05日

リプレイ公開日:2005年04月03日

●オープニング

 ある日ギルドを訪れた中年の男は、ギルドの親父を前にしてペコペコと何度も何度も頭を下げた。
「どうかどうか、あの猿たちを追い払ってください」

 依頼人の男は、とある山奥の小さな村に住んでいる。
 そこは人口も少なく、行き来も不便であるのだが、人の往来は活発で村にはいつでも活気があった。
 その理由は、村の近くにある温泉だ。小さなものではあるが、美容に良いとか健康に良いとか本当か嘘かわからない噂は多々あって、そのおかげで村は小さいながらも賑わいを見せていたのだ。

 しかし。

 最近村の活気は、ガクンと落ちこんでいた。
 温泉に、入れなくなってしまったのだ。
 現在その温泉を我が物顔で陣取っているのは白い毛並みの猿たちだった。
 数は一桁台とそう多くはないが、なにせ村にいるのは戦いなどとはとんと縁がない村人ばかり。
 何度か追い出そうと試してはみたが、どの作戦も失敗に終わってしまったのだ。
 だがこのまま放っておいたら村は収入を失い、村人たちは路頭に迷うことになるだろう。
 そこで村人たちは話し合い、冒険者ギルドに依頼することを決めたのだった。

●今回の参加者

 ea8595 甲賀 銀蔵(70歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8728 一條 小春(25歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8991 レミィ・エル(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 依頼を受けた冒険者たちは、早速問題の村にやって来ていた。
「人であろうが、猿であろうが、温泉を占領するのはよくないでござるな」
 仕事のあいだ泊めてくれるという村長の家にいったん落ちついたところで、そう口にしたのは甲賀 銀蔵(ea8595)だった。
「確かにな。……倒してしまうのが一番楽なのだが、流石に他に被害がでていないから、あたし達に危害を加えたら戦闘をしようと思うのだがどうだろうか」
 比較的平和とも言える提案をしたのはレミィ・エル(ea8991)である。
 戦闘になると狂化してしまうゆえの提案かもしれないが、今回最大の目的は温泉を使えるようにすることであって、決して、猿を倒すことではない。
「そうでござるな。罠を使って捕らえるか追い出すのはどうでござろう?」
 幸いなことに銀蔵は忍者という職業上、隠密行動が得意であるし、もちろん罠だってお手のものだ。
 銀蔵ほどではないものの、レミィもある程度は隠密行動ができる。罠を作ってそこに猿たちを誘い込むのはそう難しいことではないだろう。
「なら、それで決まりだな」
 陽はまだ高く、これからでも充分活動できそうだ。
 二人はいったん村を出て、温泉の様子を見に行くことにした。


 村の収入源であり、一般の人間が多く通るところだけあって、温泉までの道のりは非常にわかりやすかった。
 もちろん、途中でモンスターに襲われるようなこともなく、二人はいともあっさりと温泉のところまで辿り着く。
 今のところ温泉に猿は入っていないようだったが、いつ来るかわからないため油断もできなかった。
 村人の話によれば、姿が見えないからと安心していたところを襲われた者もいるらしい。
「猿がどの方角から来るのかわからないのは痛いな」
「今日は様子見だけにしておくでござるか?」
 捕獲用の罠を設置するにも限度がある。猿がどちらの方角から来て去って行くのかだけでもわかれば、ある程度は罠の数を絞れるのだ。


 そうして二人はその日は猿の動向を見るだけに留まり、翌日。
 二人は罠の準備をして、猿が来るのを待ち構えていた。待つこと数時間ほどで、猿たちが姿を見せはじめる。
 数は、4体ほどだ。先に聞いていた通り数は多くないようだが、戦い慣れない人間にしてみれば、これだけの数でも襲われれば大変な事態だろう。
 全員素直に捕まってくれれば良いのだが……。
 けれど、世の中そう上手くはまわっていないものだ。一匹が引っかかった時点で、猿たちは警戒し、それ以上こちらに近づいてこようとはしなかった。
 ただ、まだ去る様子はない。行こうか戻ろうか悩んでいる様子である。
 レミィと銀蔵はそんな猿たちの様子を見、こくりと頷き合って、それぞれ猿を罠に誘い込むために動き始めた。


 設置したのはどれもこれも殺傷力のない、生け捕りにするための罠である。
 まず最初に動いたのはレミィであった。
 手にした弓を構えて猿たちのそばに放ち、彼らの動きを誘導する。
 向こうとても、矢を投げ掛けられて黙ってはいなかったが……。レミィのところへ向かってこようとした猿の一匹が、あっさりと罠のひとつに引っかかった。
 ちょうど猿と自分の直線上――そこに、罠がくるよう計算して動いていたのだ。
 一方の銀蔵は、やはりこちらも飛び道具――手裏剣でこちらの存在を気付かせ向かってくるように仕向けていた。
 頭が良いとはいえ咄嗟の判断でそれに気づく事はできなかったのか。
 レミィの時と同じ戦法であるにも関わらず、猿はあっさりと罠にかかって、仕掛けた檻に捕らえられた。
 だが、ここで。
 残る一匹がくるりと背を翻して逃げ出した。
 一匹くらいと言いたいところだが、猿はもともと群れで動くものだ。他の仲間たちを連れてこられても困る。
 銀蔵は素早く微塵隠れを唱え、一瞬にして猿の目の前へと移動した。
 進路を塞がれた猿は慌てた様子でくるりとUターンし、そして。
 その、向かう先には、レミィがいた。
 ヤケなのか、目の前に迫るレミィに向けて腕を振り下ろし爪で襲う。
 一撃目を軽く避けたレミィの瞳が赤い色へと変化を起こしていた。……狂化が、起こったのだ。
「おっほっほ! 下等生物どもが、高貴なわたくしに敵うとでもおもってらっしゃるの!」
 再度襲い来る猿の爪をまたも軽く避け、レミィの弓から二本の矢が同時に放たれる。
 放たれた矢は見事に足に命中し、猿は動く術を失ってその場に倒れた。





 温泉の常連であったらしい猿四匹を捕らえて、二人は村へと戻ってきていた。
 ざわざわと猿の処置について話し合う村人たちを前に、レミィはしばし考えて、言葉を告げた。
「猿は頭がいいのだから、村で飼うというのはどうだ。いい名物になるのではないか?」
 温泉を占拠されるのは困るが、そう狂暴なヤツらではないらしく、これまで大怪我をしたような人間はいなかったのだ。
 レミィとしては、できれば共存の道を選んで欲しいところである。
「うむ、ジャパンには猿回しと云う職業があるでござる」
 ちょうどレミィの発言を後押しするように告げたのは銀蔵だ。
 二人の提案に村人たちはまたしばらくざわついたが、結局最終的には飼う方向で落ちついたらしい。

 戻ってきた平和な温泉にのんびりと浸かってから、二人は村を後にすることにした。