●リプレイ本文
村は、案外静かなものだった。少なくとも、依頼の話から予想していたよりは。
「まずは村長のところに行ってみるか」
礼儀として、依頼主である村長のトコろに顔を出した方が良いし、村の状況も聞いておきたい。
スケル・ハティ(ea3305)の提案に反対意見はなく、一行はまず村長の家に向かうことにした――が。
「も、やだぁ〜。どこ行っちゃったのぉ〜〜」
今にも泣きそうな‥‥そのわりには妙に呑気な口調の声に、一行の視線が集まった。
視線の先にはシフールの少女が一人。十歳前後といったところだろうか。
畑の葉っぱの下を覗きこんで見たり、屋根の上に昇ってみたりと急がしく動き回っている様子。
判断に時間はかからなかった。
一行は手早く二手に分かれ、それぞれ村長の家とシフールの元へと向かって行った。
村長宅に向かったのは三人。スケル、リリアーヌ・ボワモルティエ(ea3090)、クドゥ・フードゥル(ea2041)だ。
村長は三人を歓迎して迎え入れてくれた。出されたお茶を前に椅子に座り、簡単な挨拶をすませたのち。
最初に口を開いたのはリリアーヌであった。
「あの‥‥シフールへの対処はどうしましょう?」
捕獲して追い出すか、なんとか説得してみるか。村長は言葉少ななリリアーヌの問いをきちんと理解して少々考えこんだあと、
「その辺りは皆さんにお任せします。我々としてはあのシフールの迷惑行為さえなくなれば充分ですので」
「でしたら‥‥話を聞くに、彼女は何かを探している様子。探しものが見つかれば気が済むと思うんで、村の中を探索させてもらえないでしょうか?」
礼儀正しいスケルに好感を持ってくれたらしい。村長は特に文句を言うこともなく、こちらの申し出に頷いた。
一方その頃のシフール捕獲組。
話には聞いていたが‥‥あのシフールの少女、探し物に夢中で他のことなど本当に全く見えていない様子。周囲のメーワク顧みず、物をひっくり返し、花壇の葉っぱを裏返し。ひたすら探し続けるシフールに、
「ちょいとそこのシフールちゃん、探しものはなんですか?」
ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)ことミリーは、にっこここと上機嫌に笑って見せた。
が。
「‥‥聞こえてないのかな?」
まったく反応してくれない彼女を見、キャル・パル(ea1560)は苦笑する。
そこでの探索を追えたのか、ぱっと飛びあがる彼女を、一行――ミリー、キャルとフィーラ・ベネディクティン(ea1596)、岬 芳紀(ea2022)は追いかけ始めた。
「ちょっと、待ってよ〜っ」
よっぽど集中力のある性質なのか、いくら叫んでも彼女が振り返る様子はない。
「ここは先回りして待ち伏せするしかないかなあ?」
「そうだな‥‥ではミリー殿とキャル殿、お願いできるか?」
キャルの発案に頷いた芳紀は二人の名前をあげる。
理由は簡単、足の早さの問題だ。
「オッケー。まかせてちょーだいっ」
「うん、行ってくるねー」
途端、二人はスピードを上げて駆け出した。正確に言えば、キャルは飛ぶ速度を上げ、ミリーは走る速度を上げて。
別に逃げているわけではない彼女に追いつくのは簡単だった。
「落し物しちゃったんでしょ。一緒に探してあげるよ〜」
逸早く彼女に追いついたキャルの言葉に、彼女はきょとんっと目を丸くする。
「いーの?」
不思議そうに問い返した彼女にぎゅっと抱きつきつつ、
「もちろんっ。もう色々と頑張るよ〜、可愛いシフールちゃんの為なら〜! まあ、とりあえずは名前を教えてよ。私はミリランシェル・ガブリエル。気軽にミリー呼んでね」
笑顔で自己紹介をする。
目をぱちくりさせながらしばらく固まっていた彼女は、ミリーの腕の中から冒険者一行を眺めてニッコリと笑った。
「ありがとう。私、シアって言うの、よろしくね」
それぞれに散った一行が集合場所と決めていた、村の中心近くにある小さな広場。エレンディラ・エアレンディル(ea2860)は、そこで美しい舞いを披露していた。
理由は三つ。分かれて行動している一行がすれ違わないよう待機するため、村人からの話を聞くため、そしてついでに小銭稼ぎのためである――が。
一曲終われば、村人たちからのささやかなおひねりが飛ぶ。しかしイザ話をしようという時になって気付いた。
パーティ内ではシフール共通語を使える面子がいたからたいして困らなかったが、ここはノルマン。ゲルマン語を公用語とする国である。
つまり。
‥‥スペイン語では言葉が通じない。そしてエレンディラは、ゲルマン語は使えなかった。
パーティ内で困っていなかったものだからすっかり頭から抜け落ちていたのだ。
仕方なく、噂話を集めるのは諦めようと決めた頃。
それぞれに散っていた仲間たちが広場に合流した。件のシフールの少女も一緒だ。
形や色などおおまかな話を聞いたエレンディラは、早速サンワードで調べてみることにしたが‥‥。
「日陰にあるみたいです。わからないって言われてしまいました」
「いや、日陰にあるとわかっただけでも充分だ」
すまなそうに告げるエレンディラに、クドゥはシフールらしからぬしかめっ面――これが地なのであって、決して怒っているわけではない――で答える。
「そうそう。こっから先は日陰を中心に探していけばいけばいいんだもんね」
キャルが明るく言って、ミリーも頷く。
「とにかく、頑張って探そうね!」
しっかとシアを抱きしめたまま、ミリーが強気に宣言した。
「どの辺りで落としたか覚えているか?」
クドゥの問いに、シアはうーんと腕を組んで考えこんだ。
「この村の上空じゃないのかしら?」
「でも一口に村の上と言っても広いわよ」
ミリーの言葉にフィーラが答える。
「えーと‥‥たぶん、あそこ」
組んでいた腕を外して、シアはひょいと上を指差した。
「同じ場所から似た物体‥‥指輪かなにかを落として落下地点を探してみると言うのはどうだろう」
「そうね‥‥誰か指輪は持ってるかしら?」
クドゥの案を受けてのフィーラの問いに、頷く者はなかった。
「コインで代わりになるかしら」
「とにかく、試してみよう」
クドゥは、コイン片手に空中へと飛びあがった。シアが指差したのは広場近くの木の近く。落としたコインは広場の隅にコツンっと落ちた。
ころころと転がってリリアーヌの足元へ‥‥。
「あ」
つい、と言うやつだろうか。ひょいとコインを持ち上げたリリアーヌに、残る面子の声が重なった。
「はい?」
できれば自然に止まるまで見守りたかったところだが。まあ、良い。
天然らしいリリアーヌの行動に小さな苦笑を漏らして、考える。
この広場は剥き出しの土になっていて、急な傾斜もない。転がっていったとしてもすぐ近くで見つかるはずだ。
それが見つからないと言うことは、つまり。
誰かが持ち去ってしまったのだろう。
シアの証言を元にスケルが描いた絵を持って、一行は手分けしての聞き込みを開始した。
――約一時間後。
たいして大きくもない村の聞き込みはあっさりと終わった。
だが。
「ふえぇ〜んっ」
銀の指輪――シフールには王冠サイズでも、人間には指輪なのだ――を拾ったと言う人物はいなかった。
「皆で探せばきっと見つかるから、元気出して」
ミリーの腕の中で泣き出したシアの頭をなでつつ、キャルが声をかけている。
「人間ではないとすると、カラスや野犬が持ち出したってことだな」
どこかほのぼのとしたやり取りを横目に見つつ、芳紀が告げた。
シアが指輪を落とした日から今日までの天気は全て晴天。風や雨に攫われたということも考えにくい。
一旦方針を決め、今度は村の周辺で野犬やカラスの巣のある場所を知らないか尋ねるため、再度それぞれに散る。ただエレンディラだけはその場に残り、占いを試してみることにした。
――再度集合、さらに一時間後。
シアを伴い――相変わらず彼女はミリーの腕の中に収まりっぱなしだ―― 一行は森の方へと足を伸ばした。
近くの森に、村によくやってくるカラスが棲んでいるというのだ。ちなみに、この近辺に野犬はいないらしい。
「確かに、森の中‥‥しかも巣の中なら、太陽の光は当たらないでしょうね」
告げたエレンディラは再度占ってもみるが、占いというのは万能ではない。正確な位置まで探すのは難しかった。
となれば、あとは人海戦術しかない。
延々と森の中を探索し続けて三時間後――。
「見つけたよーっ♪」
やはりこう言うところではシフール‥‥しかも森に慣れているレンジャーが有利であったらしい。見事銀の指輪を発見したキャルが声を上げた。
「本当!?」
ぱっと飛んできたシアに指輪を見せると、シアはぱあっと嬉しそうに顔を綻ばせた。
「よかったね〜、シフールちゃん〜♪」
王冠を頭に乗っけて満面の笑みで下に戻ってきたシアを、ミリーぱっとは抱きしめる。
「良かったな。では‥‥戻るぞ」
「ほえ?」
真剣な眼差しのクドゥに、シアはきょんっと首を傾げた。
クドゥは、シフールにしては珍しく、理を重んじる性格なのだ。
‥‥つまり。
「村の人にいろいろ迷惑をかけたし、きちんと謝らないといけないだろう」
クドゥの行動の意味をすぐに理解したスケルが告げる。
「迷惑?」
「本当に自覚なかったのねえ‥‥」
まだ不思議そうなシアの様子に、フィーラが苦笑して呟いた。
彼女の行為がいかに迷惑なものであったのか、懇々と説明されてようやっと気付いたシアは、誠心誠意に謝罪をし、冒険者達のフォローもあって無事に村人の許しを得ることができたのだった。