山頂への届け物
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月15日〜04月23日
リプレイ公開日:2005年04月24日
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●オープニング
ある日ギルドにやって来た青年は、ひとつの地図を差し出して苦笑を浮かべた。
「すみませんけれど、ここに届け物をして欲しいんです」
地図上に書かれたチェックマークはとある山の頂上で、一見すると、こんなところに何故とも思う。
こんな辺鄙なところに一体誰が住んでいるのだろう、とも。
ギルドの親父の疑問をすぐに察したのか、青年は浮かべた苦笑をそのままに、父がそこに住んでいるのだと告げた。
青年の父親は画家をやっており、今はその頂上からの景色を描こうとしているそうだ。
「山にこもっている父に食料や着替えを届けたいのですけど、途中の道にはモンスターも出ますし、とてもとても、僕じゃあ届けに行けないんです」
「親父さんは大丈夫なのか?」
青年の話を聞いて思わず口に出た問いだったが、青年はにこりと今度は呑気に笑う。
「ええ。父は昔から絵の題材を探してはあちこち旅をしていたんで、腕はそれなりに立つんです」
ただ……青年の父親は、絵を描いている途中の道具を放置して下山・買い出しなんてことはしない性格なのだ。
「そんなわけで、すみませんけど、父のところにこれを届けてもらえますか?」
告げて青年は地図と一緒に食料や着替えの入った袋を出してきた。
●リプレイ本文
さて依頼を受けた八人の冒険者達は現在、急な山道をえっちらおっちらと登っているところであった。
「山‥‥はぁはぁ‥‥山は‥‥苦手です‥‥はぁはぁ」
体力の少ないパミット・ページ(eb0167)が早々に息をきらせはじめていた。
「山頂までいったいどの位あるのかしら。体力無い私には辛いわね」
そう言いつつも案外元気に歩いているのはマクファーソン・パトリシア(ea2832)だ。ぶつぶつと文句を言う割に、どこか楽しそうな様子である。
一方、愚痴ひとつ言うことなく、妙に気合が入っているのはアリオーシュ・アルセイデス(ea9009)。
出発前から、『孝行息子から頑張る父ちゃんへ、大事なお届物や! 無事に運べな、冒険者の名折れやでっ!』なんて言っていたけれど、予想以上の山道を見ても、その気合いは変わらないらしい。
「それにしても‥‥絵を描く為に危険な場所に住み込むなんて、変わった方ですね〜。芸術家というのは、皆そういう物なのでしょうか〜?」
エーディット・ブラウン(eb1460)がおっとりと告げると、エリーナ・ブラームス(ea9482)がそこに相槌を打つようにして軽く頷く。
「何もかも忘れて没頭できるなんて‥‥余程、絵がお好きなんですね」
そんな他愛もない話をしながらの登山1日目はモンスターに遭遇することもなく、平和に過ぎて行く。
◆
目的地の山頂はそれなりの高さを持っている山で、一行は途中で野宿をする必要があった。
「よっぽど元気なお父さんなんだろうねえ」
野営の準備をしながらそう言ったのはナタリー・パリッシュ(eb1779)。御年52歳と冒険者の中では高齢な方ではあるが、年齢による体力差なんてハンデともしない。
ナタリーにとってはこの程度の山道はそう辛いものではないのだが、だがそれはナタリーが冒険者として鍛えているゆえだ。
いくら旅慣れているといっても、画家が本職の中年男性が通るには少々辛い山道に感じられた。
「息子さんが二十そこそこやさかい‥‥」
「お父様は三十半ばくらい‥‥もっと上の可能性もあるでしょうか」
アリオーシュとパミットが会話に加わりつつ、野営の準備は進められていく。
「ただいま戻りました」
にこりとたおやかに微笑んだファオリア・ヴェルガンシィ(eb1013)と、劉 星慧(eb2005)が戻ってきた。
二人は、モンスターを警戒するためにトラップを仕掛けに行っていたのだ。と言っても、そう複雑な仕掛ではない。
しかけたのは魔法によるトラップで、星慧は正確には仕掛けにいくファオリアのガードと言ったところか。いくら遠く離れるわけではないと言っても、モンスターが出るかもしれないところで魔法使いが一人歩きをするのは少々躊躇われたためだ。
「今のところは、モンスターが出てくる様子はないですね〜」
来る前に聞いた話で、獣型のモンスターが出るらしいという話を聞いていたエーディットだが、もしかしたら本当に獣だったのかもしれないとふと思う。
獣だってテリトリーを荒らされたり腹を空かせていれば人間を襲ってくることはあるし、戦いに長けていない人間にとってはどちらの脅威も大差ないだろう。
「このままモンスターと遭遇せずに終われば楽よねえ」
「そうですね‥‥。戦えば荷に危険が迫る可能性もあるわけですし」
マクファーソンの呟きに、エリーナが柔らかな口調で同意した。
周囲の警戒はもちろん怠らないけれど、そんなふうに雑談を交わす余裕は保ちつつ。
そして翌日。
一行は朝早くから山頂目指しての登山を再会した。しかし世の中やっぱり、そう簡単に物事は進まない。
「今、なにか‥‥」
ふいにそう告げたのは、聴覚の鋭いアリオーシュだ。そしてその直後。
左右の繁みがガサリと動き――
「きましたね」
姿を見せたのは白い毛並みを持つ猿だった。しかも一体だけではない。
星慧はナイフを両手に獣に向き合い、エーディットとパミットが荷物を持ったまま下がる。
「出て来たわ‥‥。届け物だけは絶対守るわよ」
気合を入れて魔法を放つ準備に入ったのはマクファーソンだ。
エリーナとナタリーはその頃にはもう、猿たちの目の前――前線へと踊り出ていた。
だが、すぐに戦闘にはならない。
‥‥唄が、響いていたからだ。
アリオーシュの奏でる呪歌が、もともとたいして数の多くない猿たちのほとんどの戦力を喪失させてしまったのだ。
こうなれば、冒険者たちは数で有利だ。
荷物を傷つけることなくモンスターを追い払い、彼らは無事に山頂へと辿りついたのだった。
◆
山頂にはぽつんと、小さな小屋がひとつ、建っていた。
扉をノックすること数度。なかなか反応がなく、いったいどうしたのかと首を捻りはじめた頃。
「珍しいな。こんなところにお客なんて」
どうやら室内ではなく小屋の向こう側にいたらしい。ひょいと小屋の影から姿を見せた男は、まじまじと冒険者たちに視線をやった。
「息子さんから着替えと食料を預かってきたんです〜」
マイペースにおっとりと告げたエーディットの言葉を聞いて、男はぽんっとひとつ手を打った。
「ああ、そうか。そういえばそろそろ食料が尽きる頃だったか。すっかり忘れていたよ」
なかなかにとんでもないことをさらりと笑いとばして言って、男は扉を開けた。
「こんなところまですまなかったね。これから下山したら夜になるし、泊まっていくかい?」
男のありがたい申し出を断る理由はなく。
一行は絵を見せてもらったり、簡単な料理をふるまったり。談笑しつつの一晩を過ごし、翌朝街に戻っていったのだった。