奪われた女神像
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月12日〜05月17日
リプレイ公開日:2005年05月20日
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●オープニング
盗賊に奪われた女神像をとり返してきて欲しい。
それが、ギルドに持ちこまれた依頼であった。
「盗賊退治じゃなくてか?」
依頼を持って来たのはあちこちの町を行き来している商人の男で、被害は女神像だけではない。
「ええ、今回は女神像の奪取を最優先にしてほしいのです」
たしかに、盗賊が横行したままでは商売もままならない。
だがその女神像は、この世にふたつと替えの効かない大切なもので、万が一にも失いたくないものなのだと。
男は告げて、真剣な表情で詰め寄ってくる。
「もちろん、盗賊も退治できるならばしていただければ一番です。けれど、そちらを優先したために女神像を持ち去られるようなことになって欲しくないんです」
「……わかった」
あまりに真剣な男の勢いを見、なにか事情があるんだろうと察して頷く。
途端、男はぱっと顔を明るくし、ぺこりとその場で頭を下げた。
「よろしくお願いします。アジトの詳しい場所はわかりませんが、襲われた場所とその後彼らが向かって行った方向は覚えています」
地図の上に指を滑らせ、男はその場所を詳しく教えてくれたのだった。
●リプレイ本文
クーリア・デルファ(eb2244)は、森の中にひっそりと建つ小屋の扉から出てきた男たちへ、上目使いに困ったような顔をして見せた。
彼らはこの辺りを荒らしている盗賊であり、クーリアは彼らに奪われた女神像奪還の真っ最中。ちなみに他の仲間たちは現在隠れて待機中だ。
人に迷惑をかける盗賊たちを退治できればそれにこしたことはないのだけれど、今回の依頼の主目的はあくまでも奪われた女神像の奪還ということで、まずはできるだけ盗賊たちをここから引き離す作戦に出ることにした。
その誘い出し役として立候補したのがクーリアだった。
まあ、なんて言うか。古今東西においてかなりの確率で、男は色気に弱い場合が多い。
森に迷って偶然ここに辿り着いた旅人を装って、盗賊たちを外へ誘き出そうと言うわけだ。普通ならば盗賊がご親切に案内なんぞしてくれるわけないだろうが、そこは頭と口の使いよう。
例えば行商の途中で仲間とはぐれたとか、そんなふうに言えば、儲けを狙って下心たっぷりの親切をしてくれる可能性は高いと考えた。
そして実際。予定通りの嘘をついたクーリアに、盗賊たちはころりと騙されてくれたのだ。
この辺りは物騒だのなんだのと理由をつけて、クーリアと共に小屋を出たのは六人ほど。
「向こうの援護は必要なさそうだな」
物影に隠れながら、小屋から離れて行く盗賊たちの様子を見、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)は呟いた。
囮役としてクーリアが誘き出した先に待ち伏せているのは二人。クーリアと逢わせても三人だから、あまり多くの盗賊が向こうに行くようならば、その分小屋は手薄になるし向こうに援護に行こうと思っていたのだ。
『向こうで戦闘が始まったら、行きましょう』
「戦闘始マッタラ出発デスネ。キット盗賊タチモ驚クデス」
囮役が騒ぎを起こし、少しなりと小屋の方も浮き足立った頃を狙っての奇襲。それが今回の作戦だった。
生まれがイスパニアであるラスティ・コンバラリア(eb2363)はゲルマン語が苦手であった。母国スペイン語で呟いた彼女の言(げん)を他の仲間にも確認する意味で、ロトス・ジェフティメス(eb2365)が繰り返す。
こくり、と。身を潜めていた仲間たちが頷く。
その時。
小屋から少し離れた木々の向こう側から、騒ぎの声が響いてきた。どうやら始まったらしい。
突然の騒ぎに、小屋に残っていた盗賊たちが動揺している様子が窺える。
「行きましょう!」
その身にオーラをまとい、告げたブラン・アルドリアミ(eb1729)がまず最初に。続いて、テスタメントが飛び込んで。それから数歩遅れて、しかし離れすぎず。ロトスとラスティが続いた。
◆ ◆ ◆
奇襲組が行動を開始したその頃、クーリアは囮組のアースハット・レッドペッパー(eb0131)とユーリ・ブランフォード(eb2021)が待ち伏せる場所まで盗賊たちを誘き寄せることに成功していた。
クーリエが盗賊たちから離れた瞬間を狙って、ユーリのファイヤーボムが炸裂する。
「なんだ!?」
「おらああっ!!」
盗賊たちが怯んだその隙に、今度はアースハットがサイコキネシスで岩を飛ばす。
「アースハット、お願い」
「任せろ!」
誘き出し役に徹するために、クーリアは武器を持っていなかった。そのため、アースハットにクリスタルソードの魔法で剣を出してもらう作戦になっていたのだ。
数で言えば盗賊の方が多かったが、こちらはもともと待ち伏せる準備をしていたのだ。こんなところで襲撃されると思っていなかった盗賊たちは明らかに浮き足立っていた。
クーリエのスマッシュが鮮やかに決まり、盗賊たちはますます統率を失い混乱する。
ばたばたとアジトヘ向かい逃げだしはじめた盗賊たちの足元から、突如炎が吹きあがった。
「戻られたら困るんだ。悪いけど、ここに留まってもらうよ」
盗賊たちがクーリエとアースハットに注意を向けていたその間に、ユーリはこっそり、ここからアジトに戻る方角にあたる何箇所かにファイヤートラップをしかけていたのだ。
延焼の心配もあるから数はそう多くはないが、方角や走りやすい場所を上手く狙えば、引っかけるのはそう難しいことではなかった。
結局クーリエについてきた盗賊たちは、見事に全員お縄となったのだった。
◆ ◆ ◆
奇襲組――盗賊のアジトの方でも、戦闘が始まっていた。
前に立つのはナイトと神官騎士‥‥ブランとテスタメントの二人。もともとそう人数の多い盗賊団ではないようで、残っていたのはほんの数名。
前もってユーリにバーニングソードをかけてもらった刀を振るい、電光石火のスピードで、小屋の奥へと駆けて行く。
テスタメントも負けてはいない。素早く煌く刀の軌跡を追える者はほとんどなく、盗賊たちは受け身を取ることもできずに倒れていく。
二人が切り開いた道の後を行くのはロトスとラスティ。駆ける途中に物置らしき鍵のついた扉を見つけ、立ち止まる。
「行キマスっ!!」
叫ぶと同時、ロトスの体が激しく発光した。もちろんそれは作戦のうち。
仲間たちはその瞬間、ロトスの方を直視しないよう視線を逸らしたため被害はなかったが、マトモに見てしまった盗賊たちは、視力を奪われ立ち止まる。
その隙にラスティは、手際よく鍵を開けて扉向こうの部屋の中へと滑りこんだ。続いて、ロトス。
ブランとテスタメントは盗賊たちの追撃を阻止するためと、他に保管場所がある可能性も考えての警戒役。
とはいえ、どこから見てもたいした広さのない小屋である。
強奪品はその部屋にあるものだけのようで、しばらく部屋の中身をひっくり返して漁ってみると、女神像はいともあっさりと発見できた。
「見ツカッタデス!」
『盗賊たちは?』
ロトスがしっかりと女神像を抱え、ラスティが先に廊下の様子をさぐる。
「ここにいたのは全員倒しましたよ」
「数もそう多くなかったからな」
にこりとブランが笑み、その隣ではテスタメントがいたって無表情に淡々と告げた。
◆ ◆ ◆
女神像を持って街に戻ると、女神像を受け取った依頼人は大喜びで何度も何度も頭を下げてくれた。
「妻に貰った、ふたつとない大切な品なんです。取り戻せて良かった‥‥」
聞けば依頼人の奥さんは、木像を彫るのが趣味らしい。言われてよくよく見てみれば、確かに趣味といったふうの出来映えで。
盗賊たちは他の品を持ち去るついで――というより、値が張らないとはいえわざわざこれだけ外して持って行くのも面倒で、まるごと持って行ったのだろう。
『大切なもの‥‥無事でよかったですね』
「ええ、ええ。ありがとうございます!」
言葉は違っていても、表情からその意は汲み取れたのだろう。微笑んだラスティに、依頼人の喜びに満ちた声が返された。