それゆけ落し物大作戦!
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月11日〜07月16日
リプレイ公開日:2004年07月19日
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●オープニング
どたっ!
コロンっ――コロコロコロコロ‥‥。
「ああっーーーーっ!?」
パリの街とその近くの町をつなぐ街道の一角で、一人の青年の盛大な叫び声があがった。
周囲の人がぎょっとして足を止めるが、青年は自分が注目されていることなどカケラも気付かず、街道脇の森の中へと駆け出した。
――翌日。
「すいません、依頼をしたいんですけど!!」
駆けこんで来た青年の勢いに、ギルド内は一瞬ぴたりと静まり返った。が、やはり青年は周囲の雰囲気に気付く様子もない。
ぱたぱたと一直線にカウンターへと駆けて行く。
「僕の指輪を探してもらえませんか? ああ、あれがないと僕は‥‥僕はあぁぁぁぁっ!」
叫びつつサメザメと泣く青年。なんとも器用なことだ。
「‥‥落ちつけ。何があったのか詳しく教えてくれないか?」
「はい〜」
ギルドの親父の声に、青年は少しだけ落ち着きを取り戻した様子。はあ、と暗い溜息をついてから話し始める。
「昨日の夕方、街道で指輪を落としてしまったんです。指輪は転がって森のほうへ入っていってしまって‥‥」
「そのまま行方不明になったってわけか」
深い意味があったわけではなく、なんとなく確認のために告げた言葉だったが、それが親父の不幸だった。
「そう! 婚約指輪なんですよっ。やっとここまでこぎつけたのに‥‥。彼女は本当に美人で気立てがよく――」
「わかった。わかったから。それはいいから、指輪を落とした場所についてもっと詳しく教えてくれ」
放っておけば延々と続きそうなノロケを無理やり遮って、話を先に進める。
何度となく脱線する話をまとめたところ、どうにも厄介な事になっているのが判明した。
その指輪は転がっていった挙句、小さな穴に落ちてしまったらしい。
入口はシフールが入るのがやっとの大きさ。一度は入口からランプを照らして中の様子を見てみたらしいが、指輪の姿は見えず。深いところまで落ちてしまったのだろう。
●リプレイ本文
「‥・・婚約指輪一つにここまで大騒ぎするって‥・・恋愛っていうのも大変だよな」
今回の依頼を受けることになった八人は、ほんのついさっき依頼人である青年からの話を聞き終えたところだった。
現在地は街の一角にある酒場。今後の方針を決めるためにとやって来たそこで、ふとそんなことを呟いたのはリュオン・リグナート(ea2203)だった。
リュオンは恋とは無縁に生きてきたので、青年の狼狽ぶりを見て少しばかり、恋愛は怖いものだと思ったのだ。
それとは逆に、青年の焦りようをなんだか微笑ましく感じていたのはレイル・ステディア(ea4757)。祖国にいる恋人も、指輪で騒いでいたのを思い出したためだ。
「なんだか、結婚が上手くいかない予兆の‥・・」
ぽそりと呟きかけたアクア・メイトエル(ea4276)は言葉の途中でこほんと一つ、小さな咳払い。そして改めて言い直す。
「いえいえ。きっと探し出して上手くいかせましょうね」
テーブルの上には青年が指輪を落としたという穴がある場所の周辺地図。
「近くに人間が入れるサイズの洞窟があるみたいだけど‥・・」
地図を見ながら和紗彼方(ea3892)が言う。当然ながら、洞窟内の地図まではない。
別の入口から入ったら、合流できない可能性も高いのだ。
「見つけたら合流を考えないで、すぐに届けてあげたほうが良いと思うわ。
一人は隠れながらでもその場に残ってもらって、私たちと合流して指輪が見つかった事を教えて貰えたら一緒に洞窟をでれば、最速で依頼人に指輪を渡せるんじゃないかしら」
彼方の呟きに答えるように、藍 星花(ea4071)が提案した。
「そーしたら‥・・残るのはあたいが良いかな?」
今回参加するシフールの中ではおそらくもっとも戦闘能力の高い燕桂花(ea3501)がはいっと手をあげる。
とはいえ、実際には隠れてやりすごすのが一番良いわけで‥・・。状況次第と言ったところだろうか。
◆ ◆ ◆
一通りの作戦を立て、街である程度の物品を揃えたのち、一行は噂の穴の前にやってきていた。
「確かに。これはシフールでなければ入れないわね」
穴の大きさを確認したカレリア・フェイリング(ea1848)は、誰に言うでもなくふと呟いた。
「‥・・一応24メートルまでは大丈夫ですけど‥・・どう考えてもこれって長さ足りない気がしますね〜。他にも持ってきておられる方いるのなら借りて繋げた方がいいですね、これは」
命綱にと用意してきたロープを出して、ヒール・アンドン(ea1603)は穴とロープとを見比べた。
出入り口が小さいせいで中の様子はよく見えないが、結構深そうな感じがする。
ヒールの台詞に頷いて、レイルはデティクトライフフォースの魔法で中の様子を確認した。
「用心にこしたことはないからな」
他の面子の視線を受けつつ、洞窟内の様子に意識を向ける。少なくとも、魔法の探査範囲内――十五メートルほどだ――には生き物の気配はなかった。
とりあえず当初の作戦通り、一行は三グループに分かれて行動を始めることにした。
ひとつはもちろん、この穴から探索に入るシフール組。もうひとつは穴の前で待機して、シフールたちのフォローにまわる見張り組。残るひとつは別の入口から入って洞窟内のモンスターを引き付ける陽動組だ。
「それでは、行ってきます」
「危なくなったら命綱を引くから、よろしくね」
「またあとで会いましょうね」
三者三様の台詞を残し、シフールたちは穴の中へと入って行く。
「‥・・話に聞いたジャパンの鵜飼みたい‥・・」
見送りつつ呟いたヒールの声に、残る面子も思わず頷いた。
◆ ◆ ◆
先に地図で確認しておいたおかげで、人間サイズの入口はすぐに見つかった。
「うわーこんな所に洞窟あったんだ。何か住んでるのかな? 面白そーだし、入ってみよっと。‥・・おー、涼しい。快適だぁ」
わざと大声で言う彼方の横では、星花とリュオンが周囲の警戒を怠らない。もちろん、騒いでいる彼方自身もできる限りの警戒はしているけれど。
「これでモンスターがこっちに来てくれると良いんだけど」
星花は、彼方の持つランタンの光にふと目をやって呟いた。
「できれば無駄な殺生はしたくないけどな」
実はこっちに来る前に、周辺でモンスターの被害があるのか聞いてみたのだ。ここのモンスターたちはどうやら洞窟内を棲家にしているらしく、外には滅多に出てこないらしい。
下手を打てば、モンスターたちが洞窟の外に出てくるようになりかねない。
‥‥歩いていたのはほんの十数分程度だろうか。
星花の耳に、近づいてくるモンスターらしき足音が届いた。
「早速来たわね」
二手に分かれている先の道を見て、足跡が聞こえる左に意識を向ける。
数はそう多くはない。三人でもなんとかなりそうだった。
◆ ◆ ◆
シフール組が穴に入ってから十数分。
穴の見張りとして残ったヒールとレイルは周囲を警戒しつつ、命綱の動向に目を光らせていた。
「私たちには手伝えないというのが何か寂しいですね〜。とりあえず、モンスターに襲われたりして怪我されないといいのですけど‥‥」
様子のわからない穴の向こうに思考を向けて、ヒールが苦笑した。
「便りのないのは元気な証拠。順調に探索が進んでいるんだろう」
相変わらず周囲への警戒を怠らないまま、レイルが告げた。
この穴がどうしてできたのかはわからないが、自然に出来たと考えるよりは地中に住む生き物が作った穴だと考える方が納得できる。
つまり、ここを出入り口にしている生き物がいるかもしれないわけで‥・・。
人間にはごく小さな生き物でも、シフールには巨大生物。ここを通り道にしている生き物には悪いが、少なくとも探索の間は出入り禁止にしておかねばなるまい。
どうやらここはもともとモンスターは少ないらしい――街道の近くだから当然か――それからさらに一時間が経過しても、モンスターらしき気配は現れなかった。
時折森の獣の気配が現れたが、人がいると思うと向こうで避けて別の場所に行ってしまう。
まあ、こちらは何かがあった時のフォロー要員に近いから‥・・暇なら暇で、その方が良いのだろうが。
◆ ◆ ◆
洞窟の中は、当然ながら暗かった。最初は上からの光があったが、くねくねと曲がる縦穴に遮られて、どんどん光が届かなくなっていく。
下へ下へと進むこと十数分。
三人は、広い通路へと到着した。人間が二、三人は並んで歩ける広さだ。
「あたい達だけって言うのはちょっと心許ない気がするね」
あははと苦笑を浮かべて言うのは桂花。他の二人が言葉を返す前に、続けて言ってにこりと笑う。
「ま、あたい達以外で、この穴に入れる人がいないのなら仕方ないか」
「とりあえず、灯かりをつけますね」
カレリアがライトの呪文を唱えて洞窟内を淡く照らす。
光を頼りに改めて洞窟内を確認すると、どうもこの通路、坂道になっているようだ。
「うわあ、あっちの方に転がって行っちゃったかな、もしかして」
「一応、この真下の辺りから順に探してみましょう」
少々溜息混じりの桂花に、アクアが至極落ちついた口調でそう告げた。
どうやら陽動作戦は成功しているらしい。
生き物の気配はあるのだが、モンスターにはまったくと言って良いほど出くわさなかった。
三人はとにかく慎重に丁寧に、地面に目を凝らして指輪を探す。
そうして地道な探索を続けること約一時間。
指輪は、穴から二十メートルほど離れた場所で発見された。
「こんなに近かったのね‥・・」
指輪の第一発見者、カレリアは後ろを振り返って疲れたように呟いた。
まあ、だが仕方がない。暗い洞窟の中だし灯かりはカレリアのライトだけ。狭い範囲をゆっくり移動しつつ丹念に探索していたのだ。たかが二十メートルでもそのくらいの時間はかかるだろう。
「じゃあ、戻ろうか。誰が残る?」
桂花は自分が残る気で告げたのだが、それより前にアクアがにっこりと上品に微笑んだ。
「私が残ります。私ならモンスターが複数出てきてもある程度は相手ができますから」
桂花は武道家だし、星花はジプシーで攻撃手段に乏しい。
その点、アクアはウィザードで、しかも広範囲の攻撃魔法を持っていた。
アクアの提案に二人は納得し、桂花と星花が外に戻ることになった。
◆ ◆ ◆
指輪を届けるために先に街に向かった四人に少し遅れて、残る四人も街に到着。一行はギルド近くの酒場で合流した。
そしてその場には、指輪探しの依頼をしてきた当人も同席していた。
「ありがとうございますっ。本当にもう、ダメかと‥・・」
おいおいと男泣き‥・・と言って良いのか、とにかく派手に泣く青年に桂花が苦笑を浮かべる。
「ほら、見つかったんだから泣かないでよ」
上手く行かないんじゃないかなんて一瞬思ったことはすっかり棚の上にあげて、アクアがにこりと微笑んだ。
「幸せになってくださいね」
「まったく、本当に大切なものなら、落とすなよ。結婚は人生の地獄への入り口とかいうが‥‥ま、お幸せにな」
その横では、レイルが呆れたように告げ、口が悪いながらも祝福の言葉を告げる。
「はいっ。本当に、本当に、ありがとうございましたっ!」
青年は再度ぺこりとお辞儀して、ダッと酒場の外へを駆けて行った。
「‥・・今から行ったら、着くの真夜中になるんじゃないか?」
青年の住む村までどのくらいかかるのかは知らないが、今街を出て行って今日の内に着ける場所に村はなかったように思う。
恋を知らないゆえかどこか冷静なリュオンの突っ込みに、『恋は盲目』なんて言葉を思い出した一行だった。