水の娘

■ショートシナリオ


担当:日向葵

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜07月31日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

 パリから少し離れた場所にある片田舎の小さな村。
 そこでは今、ちょっとした問題が発生していた。
「うううっ‥‥やっぱりダメ〜〜っ」
 村外れにある美しい泉に入ろうとしていた少女が、途中でくるりと踵を返した。
「リア‥‥」
 見守っていた周囲の大人たちが、がっくりと肩を落とす。

 この村では、アミュレットの制作を主な収入源としていた。
 アミュレットの細工を作るのは村の大人たちの仕事だが、それだけではただの装飾品。
 村の近くには精霊が棲むという伝説のある泉があり、そこで祈りを捧げる事でアミュレットは完成する。
 が。
 祈りを捧げるという仕事は、古くからのしきたりにより成人前の少女の仕事となっている。
 現在、村でその仕事が行える年齢の少女はたった一人しかいなかった。
 だがそのたった一人の少女――リアは水恐怖症で、泉に入ることができなかった。
「ごめんなさい‥‥」
 周囲の大人たち以上に肩を落とし、しょぼんと俯いて、リアはその場を駆け出した。

 話し合った結果、村の大人たちはギルドに依頼してみることにした。村の大人たちがいくら言っても、リアは反抗するばかり。外の人間――村の利益と関係ない人間の言葉なら、もう少し素直に聞いてくれるかもしれないと思ったのだ。

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3270 ルシエラ・ドリス(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4511 リザ・フォレスト(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea4747 スティル・カーン(27歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea4801 孫 葉玲(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5123 シキ・コントラルト(32歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5241 イシリア・ムナック(35歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文


 そこは緑に囲まれた、いかにものんびりとした感じの村だった。
 少々変わったところと言えば、田舎の村にしては軒先に店を持っている家が多い。ただ、今はそこに品物がほとんどなく、ほとんどの店が休業中であるらしい。
「なんだか少し寂しい感じがしますね」
 村の様子を軽く眺めて、リザ・フォレスト(ea4511)がふと言葉を漏らした。
「とりあえず、予定通り二手に分かれましょうか」
 村の入口の前に立ったところでシキ・コントラルト(ea5123)が告げる。
 水恐怖症を治して欲しいと村の人から頼まれたなんて正直に言ったら、警戒されてしまうかもしれない。そんなふうに意見が一致した冒険者たちは、アミュレットの噂を聞いてやって来たことにしようと決めていたのだ。
 それゆえ、全員で村長――依頼人のところに行くと目立つしリアに気付かれるかもしれないと、村長のところへは小人数で行き、残りは直接リアに会いに行こうと決めていたのだ。
 大まかなところはすでに聞いているし、最初はリアと仲良くなることが重要だから、詳しい部分を知るのはあとででも問題はないだろう。

◆ ◆ ◆

 村長のところに向かったのはシキとカルゼ・アルジス(ea3856)の二人であった。
 二人しかいない冒険者に、村長は少々戸惑ったようだったが事情を話すとすぐ納得してくれた。そして、詳しい話――と言っても、まあ、前もって聞いていた話と大差ないのだが――を聞かせてくれた。
 村にリアと同年代の子供がいないため、一時期リア一人に頑張ってもらわねばならないのは前々からわかっていたらしい。だが、何度言ってもリアは村の大人たちの言葉に頷いてくれず、プレッシャーからか却って反発するようになってしまった。
 だが村の収入がなくなるのはまずい。故に、大人たちはわかっていても焦ってしまい、言わずにはいられなかったのだ。
 リアは一向に水に慣れる気配がなく、一ヶ月前。一人の少女が成人を迎えたことにより、儀式を行える年齢の少女が本当にリア一人になってしまった。そのため、多少の予定外出費は覚悟のうえで、ギルドに依頼したのだと言う。
「まったく水に入れないんですか?」
 シキの問いに、村長は少しばかり考え込んだ。
「いえ。水浴びなどは問題ないようですが……。ああ、でも、岸付近から絶対に離れないようです」
 泉の深度はそう深くはない。真中の、一番深いところでも一メートルちょっと。リアの胸の辺りまでだ。
 儀式はその、泉の中でも一番深いところで行われる。だが、たとえ足がついていても、すぐ手の届く範囲に掴めるものがないと不安になるらしい。
 その話を聞いたカルゼはひとつの思いつきを口にした。
「もしかして、昔溺れたのも、足がつく場所だったんじゃ……?」
「ええ、その通りです」
 村長はこくりと頷いて言葉を続けた。
「深い場所ではなかったんですけれど、足を滑らせて転んだ拍子に」
 足が届く範囲であって溺れることがあると実体験で知っているから、泉の中心に行けないと言う事らしい。
「すみませんが、よろしくお願いします」
 深々と頭を下げた村長に、シキとカルゼはすぐさま頷いて答えた。
「はい、まかせてください」
「きっと大丈夫だよ」
 そして二人は、リアに会いに行った他の面子との合流場所として約束している村の宿へと足を向けた。

◆ ◆ ◆

 リアを探しに行った六人は、まずぐるりと村を一周してみることにした、村の中心近くにある広場から始めて、村外れの川、アミュレットを作っているという工房付近――そして。
 最後に見に来た、祈りを捧げるための泉の近くで一行は、座りこんでいるリアを発見した。
 六人は軽く目配せをして視線を交わしてから、さも偶然会ったように声をかける。
「こんにちわ、綺麗な泉だね」
 そう言って穏やかに笑みを浮かべたのはルシエラ・ドリス(ea3270)だ。
 リアは突然かけられた声に少々驚いていたようだったが、案外にもその表情はあっさりと笑顔に変わった。
 はにかむような笑みで頷いてから、疑問を口にする。
「おねえさんたちは……冒険者さん?」
 雰囲気からそう判断したのだろう。聞いてきたリアに、ルシエラはにっこりと笑みのままで頷いた。
「旅の途中でこの村のアミュレットの噂を聞いてきたんだ」
 告げたイシリア・ムナック(ea5241)は、ふいと村の様子に視線を投げて、
「……でも、今はやってないらしいな」
 残念そうな声音で告げると、リアが視線を外して俯いた。
「どうしたんですか?」
 少々意地悪かもしれないが、こうやって切りこんでいかないと話が先に進まない。孫葉玲(ea4801)はそう問いかけて、返事のかえってこないリアに、ひょいと串焼きを差し出した。
 仲良くなるきっかけになればと思って作ってきたのだ。
 突然現れたそれに目を丸くしたリアは、おかげで少し緊張の糸が緩んだらしい。
「どうもありがとう。あのね……ごめんなさい、私のせいなの」
 差し出されたものを受け取ってから、リアはすまなそうにまた俯いた。
 チラと冒険者たちを一瞬見つめ、また視線を外して。そしてリアは話し出す。
 アミュレット制作に関わる儀式のこと、ちょうどリアと同年代の子がいないために、今はリアしか儀式を行える人間がいないこと。
 だがリアは水が苦手なため、儀式を行えないこと。
「じゃあ……一緒に、練習しようよ」
 リアの目の前の中空で、アルフレッド・アーツ(ea2100)がそう告げた。
「僕も……水に慣れてなくて……泳げないから……」
「一緒に?」
 突然の申し出に驚いた様子で、リアはオウム返しに問い返してくる。
 アルフレッドが頷くと、リアは、少々考え込む様子を見せた。
「練習して、村の人たちを吃驚させてしまいましょう」
 リザが悪戯っぽく微笑んで言うと、リアはくすくすと笑ってその場に立ち上がった。
「うん、頑張ってみるっ!」
 ……どうやら、依頼の話で聞いたよりも前向きな性格らしい。自責の念から暗くなっていただけなのだろう。
「泉で練習するのは問題があるか……」
 イシリアの言葉に、リアはうーんと腕を組んで真剣に考え出した。
 結局、村外れの川に明日集合という話でおちついて、一行はひとまずリアと別れを告げた。

◆ ◆ ◆

 村の宿で全員が集合し、それぞれの情報を交換したのち。
「本人にやる気はあるし、泳げなくともとりあえず水に入れれば問題ないようだし……なんとかなるか?」 
 他の面子にと言うよりはどちらかと言えば自分への自問自答という感で、スティル・カーン(ea4747)が呟いた。今回の面子の中で一番水泳技術があるスティルだが、彼はゲルマン語が話せない。
 ジャパン語とゲルマン語ができるイシリアに通訳してもらいつつの話し合いで、スティルはいくつかの案を出してみた。
 まあ、他の面子もある程度考えていたことではあるが、実際、とにかく水に慣れてもらうしかないのだ。
 最初は誰かに手を引いてもらって岸から離れられるようにして、それから、一人で頑張ってもらおう。
 適当な水場が川しかないというのは少々痛いところだが――泉と違って水が流れているため、足を取られる可能性が上がる――流れが穏やかであるのは確認済みだし、練習する場所のすぐ下流で数人待機していればもしものことがあってもすぐに助けられる。
 実は村長からはできるだけ早く――できればこの日までにと日数制限まで告げられていた。
 どうしても間に合いそうになかったら、荒療治も考えなければいけないだろう。
 もしもの時は、リアと二人の時に誰かが溺れたフリをして助けを求めてみる――という案に一致した。彼女の性格からして、おそらく助けようと頑張ってくれるはずだから、と。

◆ ◆ ◆

 話し合いを終え、そして翌日。
 約束の場所に冒険者一行とリアが顔を揃えた。
「頑張ろうね……」
 どうやら緊張しているらしい。川を前に強張った表情をしているリアに、アルフレッドが声をかけると、リアは小さな微笑みを見せて頷いた。
 前日の話し合いの通り、リアの傍につく者と、もしもの時のために数メートル離れた下流で待機する者とに別れて練習を開始する。
 とりあえず彼女、村長の話していたとおり、岸付近では問題なく水に入れる。とはいえ、水の中で立っているのは怖いらしくて、少々腰が引けているが。
 まずは手を引いて、水の中で立って歩いてもらうことから始めて。それから、様子を見ながら奥へと誘う。
 半日程度で、傍に人がいれば、奥に入っていけるようにはなった。ただやはり、一人でそこまで行くのは怖いようで、なかなかそこから先に進まない。
 しばしの休憩と言うことで、一行は川辺で葉玲の特製お弁当を食べつつ話し合う。
「うーん……川だと流れてるから余計に怖いんだろうが……」
 スティルの呟きに、すぐ隣にいたイシリアが言葉を返した。
「泉に入らせてもらえれば一番良いのだろうな」
 村にとって大切な場所であるだけに、許可が出るのかは微妙なところだ。だが、聞いてみる価値はあるだろう。
 イシリアの声を耳にしたリアがぱっと瞳を輝かせた。……実は流れる水がかなり怖かったらしい。
「まあ、結果的に村のためになることだし」
 ルシエラの呟きに、アルフレッドとリザも同意を示して頷いた。
「じゃあ、俺が村長ところに行って聞いてみるよ」
 立ちあがったカルゼに続いて、
「私も行きましょう」
 シキもその場に立ちあがる。

 普段は儀式をする者しか入れない泉であるが、背に腹は変えられないということだろうか。村長は案外とあっさり許可を出してくれた。
 それから費やすことさらに一日。
 予想していたよりも早く、リアはなんとか、一人で泉の奥に行けるようになった。

 ――早速、その日。夕闇の中で儀式は行われた。
 村からの報酬のことを知らないリアは、お礼にとできあがったアミュレットをいくつかをプレゼントしてくれたのだった。