迷いの森

■ショートシナリオ


担当:日向葵

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月07日〜08月14日

リプレイ公開日:2004年08月15日

●オープニング

「あんたたち、良いところに来てくれた。ちょっと話を聞いてくれないか?」
 そんな前置きを置いて、ギルドの親父は急ぎの依頼があるから頼まれて欲しいと話し出した。


 パリから数日離れた郊外にある小さな村。
 現在そこで、とある病に苦しむ少年がいる。とはいえ、薬さえあれば治るもので、病自体もまだ軽い。
 しかし。
 運の悪い事に、その病に使う薬草がちょうど品切れになっていたのだ。
 とくれば……冒険者への依頼は薬草探し?
 いえいえ、違います。
 確かに薬草を見つけてもらえれば大変に助かる。
 だがその前に、もうひとつ――こちらが、この依頼の本命だ。
 少年は姉と二人でつましくも幸せに暮らしていた。その姉が、弟を心配するあまり、一人で薬草を取りに行ってしまったのだ。
 しかし彼女は、出発から五日経ってもまだ帰ってこない。
 薬草が生えている森まで行って帰ってくるのに二日ほど。探す時間を入れて考えても、遅すぎる。
 そこで村の人間は、冒険者に彼女の捜索を頼むことにしたのだった。

●今回の参加者

 ea2203 リュオン・リグナート(33歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea4169 響 清十郎(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 ea4284 フェリシア・ティール(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4621 ウインディア・ジグヴァント(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea5085 ノエル・ウォーター(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea5443 杜乃 縁(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●情報収集
 少女探索の依頼を受けた一行が村を訪れると、村人たちは一行を歓迎してくれた。中の一人が、すっと一歩前に出てくる。
 この村の村長だと言う彼は冒険者たちを家へと招き入れ、詳しい話を聞かせてくれた。
 行方不明になった少女の名はレナ。先の依頼書でも告げてあったとおり、病にかかった弟の薬を探しに行ったきり帰ってこないという。
「‥‥その気持ち、少しわかるわ」
 いくら村に薬がなかったとは言え、少女一人でモンスターが出るかもしれない森へなどと無謀すぎる。
 だがレナと同様、病弱な弟を持っていたフェリシア・ティール(ea4284)はその行動を頭ごなしに否定することはできなかった。
「そうだな。だが‥‥心配だな。既に5日が経過している。このままでは弟どころか、姉の命が危うくなる。急ごう」
 真剣な顔でそう告げたのはウインディア・ジグヴァント(ea4621)だ。彼の言葉に皆が頷いた。
 二人きりの姉弟。弟が助かっても姉に何かあれば元も子もない。なんとしても、二人共を助けなければ。
「では、薬草の生えている場所と薬草の特徴を教えていただけますか?」
 レナは薬草の元に向かっているのだ。薬草を目指す過程でレナを発見できる可能性は高い。ノエル・ウォーター(ea5085)の問いに付け足すように、リュオン・リグナート(ea2203)が口を開いた。
「それと、わかる限りで良い。モンスターの生息状況を教えてもらえるか?」
「はい、もちろんです」
 村長は急ぎ森の簡単な地図と、1週間分の水と保存食とを渡してくれた。

●森の入口
 できるだけ探索の能率を上げるため、一行は二手に分かれて行動することにした。
「なら、合流方法も決めておかないとな」
 響清十郎(ea4169)はとりあえずと、近場の大きな木を指差した。
「入口付近の方がわかりやすいし、合流場所はここってことで構わないかな?」
 夜に森の中を動くのは危険だ。お互いの情報交換も兼ねて、レナが見つかっていなくとも陽が沈む頃には一旦集合しようという話になった。
「あとは‥‥どちらかが発見したり助力が必要になったりしたときに連絡を取れる手段があるといいんだけどね」
「何か音の出る物がいいと思うんだけど」
 そう案を出したのリュオンであった。
「うーん‥‥音を出すのにちょうど良さそうなモノって、誰か持ってる?」
 燕 桂花(ea3501)がパタパタと自分の荷物を漁りながら言うが、残念ながら手元にそれらしきものはない。
「ならこうしましょう」
 にっこりと明るい笑顔で、ノエルが近場の草に手を伸ばした。
「草笛ですね」
 逸早くノエルの意図に気付いた杜乃縁(ea5443)の言葉に、ノエルは頷いた。
 その後一行は、森林に慣れている者と植物知識に優れている者。
 それぞれを適度に分けて、ノエル、清十郎、カレン、リュオンと、ウインディア、縁、桂花、フェリシアの二グループに別れて探索を開始した。

●Aグループ
 薬草が生えている場所は、森の中に数カ所存在していると言う。ただ、今は時期ではないため、薬となる部分である花びらが取れない可能性が高いらしい。
 ノエル、清十郎、カレン、リュオンのグループは主に森の東側にある薬草の生息箇所を中心に探索することとなった。
 ノエルは主に道の確認と先導役として先頭を歩いていた。そのすぐ隣にリュオン。その反対隣には清十郎。
「レナさーんっ!」
 周囲の警戒を怠らないまま、清十郎が声を張り上げる。
 モンスターや獣を警戒するならこんな方法を取らない方が良いかもしれない。レナは意識を失っているかもしれない。
 だが万一を考えれば、少しでも早くレナが見つかると思われる方法を取りたかった。
 気持ちは皆同じだったため、清十郎の行動を咎める者はなく、同じようにレナの名を呼びながら森の中を探索する。
 その一方で、ノエルは鳥や獣の気配に神経を配っていた。レナという人間がいることで獣や鳥たちが騒いでいないかと思ったのだ。
「でも、そう簡単には行かないよね‥‥」
 誰に言うでもなく、ノエルは呟く。
 レナがいなくなってすでに数日。騒ぐならもっと前だ。獣たちはレナを排除するか無視するか……どちらにしても、レナの方から獣を刺激しない限りはそれらしき気配は見つけられないだろう。
 だが。
 天は彼らに味方していたらしい。
 一番最初の薬草の生息地へ向かう途中。一行は、レナのものらしき布の切れ端を発見したのだった。

●Bグループ
 森の西側を主に探索することになったのは桂花、フェリシア、ウインディア、縁。
 中でも桂花は一行から少々先行して――といっても、森の中を一人で先に行っているわけではない。森の上空へ上がり、空からレナの姿を探していた。
「女の子が一人で五日も帰って来ないなんて‥‥。怪我でもしてなきゃいいんだけど‥‥」
 周囲に目をやりつつ、縁がぽつりと呟いた。
 あまり考えたくはないが、大怪我をして動けなくなっている可能性も充分に考えられるのだ。まあ、迷ったうえに延々動き回られたら探しづらくて困るのだが、それでも、五体満足でいてくれる方がずっと良い。
「元気でいてくれることを祈ろう」
 縁の肩に手をやって、ウインディアが元気付けるように告げた。
「あーっ!」
「なんだ?」
 上から響いた桂花の声に、一行は思わず立ち止まり上を見上げた。
「何か見つけたのかしら?」
 フェリシアが呟いた時には、桂花は下に向かって移動を始めていた。
「レナさんを見つけたんですか?」
 縁の問いにはだが、桂花はふるふると首を横に振った。
「そうじゃないんだけどね」
 レナを探すのが最優先なのはわかってるけど‥‥そんな前置きをして、桂花は道の先に広けている場所があったのだと告げた。
「そこにね、薬草になる花と同じ色があったのよ。あんまり多くはなかったけど」
 桂花の言葉に頷いて、一行は揃ってその場所へ向かう。
「ああ、確かに‥‥」
 この四人の中では一番植物に詳しいウインディアは、見つけた花を観察して頷いた。
 本来は秋に咲く花であるらしいが、なにやら早めに咲いてくれたらしい。ほんの数本だが、ないよりずっと良いだろう。
 薬草を手にした一行は、すぐにレナ探索へと戻っていった。

●合流
 先に合流場所についたのはウインディアたちのグループだった。
「向こうで見つけてくれてるといいね」
 森の奥に目を凝らしつつ、桂花が言う。
 そう。結局薬草を見つけた周辺にレナは居らず、その後別の薬草生息場所にも行ってみたがそちらは花もなく、レナの姿も見つからなかった。
 と、その時。
「い・や・よ! 薬草見つけるまでは帰らないんだからっ!」
 なんとも元気な少女の声が響いた。
「運良くモンスターに遭わなかったから良いものの、もし遭遇してたらどうするつもりだったんだ」
 続く声はリュオンのものだ。
「無理やり連れ帰るようなことはしませんから、とにかく、一旦入口まで戻りましょう」
「‥‥ホント、元気だね」
 宥めるようなノエルの声と、苦笑混じりの清十郎の声。
 しばらく待つと、少女を連れたリュオンたちが姿を見せた。
「見つかったんだねーっ」
 桂花がぱたぱたと宙を待ってレナの元に寄る。
「元気なのが一番なんだけどな‥‥」
 どこか釈然としないものを感じて、ウインディアが呟いた。
「てっきり迷ってるか怪我でもしてるかと思って、皆心配していたんですよ」
 告げた縁に、レナは少々バツの悪そうな顔をした。
「それは‥‥ごめんなさい」
 そうしてレナは、森でどうしていたのか話してくれた。
 勢い込んで森に来たものの、時期外れで薬草の花は咲いておらず、仕方なく生息場所巡りをしていたらしい。
 村の人間に言ったら止められると思ってこっそり出てきたが、最初から長期戦覚悟で食料は多めに持ってきていたそうだ。
「弟さんを思う気持ちはわかりますけど‥‥あなたが帰らなかったら弟さんが心配するでしょう?」
 フェリシアに言われて、レナはしゅんと頭を垂れた。
「まあ、薬草だったらおいらたちが探すからさ」
 清十郎は明るく笑ってレナに言う。レナが頷きかけたところで、桂花がチッチと指を振った。
「じゃじゃーんっ」
 桂花が出して見せたのは、摘んできた薬草だ。
「え、え? どこにあったのっ!?」
 目を丸くしたレナに、森の西側にあったのだと告げると、
「そっち側にあったんだー‥‥。私、東側から順に探してたから」
 レナははふと溜息をついて、けれど嬉しそうに笑った。
 深々と頭を下げて礼を告げたレナは、さっきまで帰らないと言っていたのとは正反対に、一刻も早く村に帰ろうと言い出して。
 冒険者たちは、夜を徹しての行軍となったのだった。