カゴのトリ
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■ショートシナリオ
担当:日向葵
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月23日〜08月28日
リプレイ公開日:2004年08月31日
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●オープニング
綺麗な絹のワンピースに身を包んだ少女は、背まで伸びた金の髪を靡かせ、窓辺で頬杖をついていた。
窓の外は澄み渡った青い空。
陽射しはとっても気持ちが良さそう。
道を歩く人は多く、活気があって賑やかだ。
それなのに!
宿についた途端、外出禁止令を出されてしまったのだ。
少女の名はミリア。年は十。パリから少々離れた小さな街に住んでいる。
ミリアの父親はそこそこにお金を持った商人で、今回、無理を言って父の仕事にくっついてきたのだ。
「せっかく大きな街に来たのに、お部屋に篭もってろなんて、つまんなーいっ!!」
ぷくっと頬を膨らませて、ミリアはぷいと窓の外から視線を外した。
そして考える事しばし。
「そーだそーだ。父様が帰ってくる前に戻ってくればいいんだよね。うん!」
お子様らしい単純思考で窓の外へと身を乗り出す。
部屋は二階だったが、すぐ外に木があったのでたいして困りはしなかった。
ぱたぱたと街中へ駆け出して、けれどすぐにミリアの足が止まった。
ミリアは父に充分に脅かされていたのだ。大きな街には怖い人たちもたくさんいるから、一人で歩きまわっちゃいけないよ、と。
けれどミリアは別に、怖くて足を止めたわけではない。
商人の娘だからか、本人の生まれ持った性質か。好奇心旺盛な少女は雑学知識が多かった。
「こーゆうときは、ごえいっての連れてけば安心なのよね!」
幸いな事に、お小遣いということでお金はけっこう持っている。
こうと決めれば行動も早い。
ミリアは冒険者ギルドを目指して駆け出した。
●リプレイ本文
突如やってきた場違いな少女に、その時ギルドにいた面々は一瞬言葉を失った。
その雰囲気をわかっているのかいないのか。少女は臆することなく、ずんずんとギルドの中へ進み出てくる。
そして。
「ねえ、ごえいっての探してるんだけど、誰か引き受けてくれなぁい?」
こくんと首を傾げて告げたのだった。
この突拍子もない依頼に興味を持ったのは八人の冒険者たち。それぞれに自己紹介を終えた一行は、酒場の一角にて作戦会議を始めていた。
「つまり、父親に見つからないよう、パリ案内をすればいいわけだな」
「そおそお」
李風龍(ea5808)の確認に、ミリアは元気に笑って頷いた。
「んじゃ、しゅっぱぁーつ!」
「ちょっと待って!」
早々に出ていこうとするミリア。誰かが声をあげ、一番近場にいたティム・ヒルデブラント(ea5118)が間一髪でミリアの服の裾を掴んで引き止めた。
「ぷぅ、なによぉ」
「もう少し待って頂けますか? きちんと分担を決めなければ物事は上手く行きませんから」
シュヴァーン・ツァーン(ea5506)が、風船のように頬を膨らませるミリアに苦笑しつつ説明をした。
「早く行きたいのにぃっ!」
シュヴァーンの説明をまったく聞かずますます頬を大きくして拗ねるミリアの甲高い声に、アルタ・ボルテチノ(ea1769)の静かな声が重なった。
「初日から見つかって連れ戻されたいのか?」
「…………ヤだ」
「ならば、もう少し待ってくれ。すぐ決める」
結局その後数分で一行は分担を決め、直接護衛組となった三人と一緒に、ミリアはパリの街へと繰り出した。
◆ ◆ ◆
パリの街は大きいだけあって、常に賑やかだ。店も多ければ人も多い大通りを、ミリアは目を輝かせて小走りに駆ける。
「おい、一人で先に行くな!」
ちょこまかと人と人との間をすり抜けて行くミリアを追うのは、ユウリ・グランブルー(ea6036)とシャミ・パナンド(ea5193)、風龍の三人。
その少し離れたところを歩くのは間接護衛組のキウイ・クレープ(ea2031)とアルタだ。
「元気だねえ。見失わないように気をつけないと」
ぱたぱたと駆け回るミリアと、彼女から離されないよう必死の三人を眺めつつ呟いたのはキウイ。その言葉に、アルタが無言のままに頷く。
大人たちの苦労をまったく意に介せず、ミリアはとても楽しそうに周囲の店の商品を見て回っていた。
「ねねね。これ、すごいキレイじゃなぁい?」
ぴっと近場の商品を指差して告げた途端、
「おや、お嬢ちゃん目が高いねえ」
誰よりも早く露店の男が反応した。
ミリアが指差しているのは可愛らしいピンクのリボン。それなりに高級な布を使っているのか、値段もお高め。
店の前で悩んでいるミリアを見て、三人は顔を見合わせた。こちらの役目は護衛であり、買ってあげるというのは少々違うかもしれない。
だがこんな子供のお小遣いは、おそらく護衛の依頼料で尽きてしまっているだろう。
しかし、買ってあげようか空気を漂わす三人をまったく無視して、ミリアは元気に宣言した。
「んー…………他、見てから決めるねっ」
「買わなくて良いんですか?」
「だって、他で同じようなのがもっと安く売ってるかもでしょ?」
シャミの問いかけに、ミリアはにっこり笑ってなんともちゃっかりした台詞を返してきた。
「さすがは商人の娘だな」
親の教育の賜物なのか、見よう見真似で覚えたのか。なかなか将来有望なお嬢さんだと風龍は思った。
パリの案内という依頼ではあったが、一日が終わってみれば冒険者たちは案内と言うよりもたんなるお付きのようになっていた。
日暮れ前、ミリアと共に宿屋に来たのはアルタとキウイ。あまり大人数では目立ちすぎるとの理由からだ。
「いいかい? あたいたちが迎えにいくから、勝手に来るんじゃないよ」
「毎日木を昇り降りしていたらあっという間にばれてしまうからな」
キウイとアルタの念押しに、ミリアは少々つまらなそうな顔ながらも、一応納得した模様。
はぁい、と答えて頷いた。
◆ ◆ ◆
翌日の朝。前日夕刻の約束通り、ミリアとアルタは宿屋の前にやってきた。前日同様、裏口からまわってミリアを迎えに行く。
その日もミリアは、とてつもなく元気だった。護衛のことなどおかまいなしに、あっちへこっちへ興味のままに駆け回る。
「だから、一人で行動するなってば! あんまり無茶な行動するようだったら、首根っことっ掴まえて縄で縛っちまうぞ!」
「えぇ〜? そんなのやだぁ」
ちょっぴり本気混じりの冗談に、ミリアはぷくっと頬を膨らませる。しかし不機嫌になっていないのは、ユウリの口調から冗談だと気付いているからだろう。
そんな会話をミリアたちから少々離れたところで聞いていたアルタはふと思いついて道端の露店に目を向けた。
「……ふむ、それも良いか」
アルタの行動に少々疑問を抱きつつも、細かいことを気にしない性質のキウイはチラと視線をやっただけですぐにミリアに目を戻した。
そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。
宿屋の前での別れ際。アルタは本日買った安物のリボンをついとミリアに差し出した。
「持っておけ。女なら自分を守る騎士に与えるリボン位は持っているものだ」
「いいの?」
アルタが頷けば、ミリアはぱっと嬉しそうな笑みを零す。しかしアルタは一言多かった。
「精々騎士に突っ返されない女になれ。少々じゃじゃ馬だが先は長い、絶望的でもないだろう」
「ひっどーいっ! お礼言おうと思ったのに、そんな気なくなっちゃったよう」
「まあまあ。それより、早く戻らないとまずいんじゃないか?」
「あっ、そーだった。それじゃまた明日ねっ!」
キウイの言葉にミリアはぱっと身を翻して部屋へと入って行った。
◆ ◆ ◆
そんなこんなで数日間。ミリアは至極平和に――周囲はいろいろ振りまわされたが――パリ見物を満喫していた。
しかしそうそう上手く事が運ばないのが世の常だ。
それはパリ見物の最終日に起こった。
宿の近くには父親が早く帰ってきた場合の対策にと見張りを買って出たティムとシュヴァーン。昨日までは特にこれといった事件もなく、いたって平和であったのだけど。
「……あの方、もしかして……」
まだ夕刻にはほど遠い時間であると言うのに、ミリアに聞いた父親の特徴そのままの男が、宿のほうへと向かってきていた。
「間違いなさそうですね。最後の最後で……」
今頃パリ見物最終日を惜しみつつも楽しんでいるだろうミリアを思う。
「ミリアさんが早く帰ってきてくれればうれしいんだけど……」
ティムは苦笑しつつ呟いてみたが、この時間ではまだまだ戻ってこないだろう。
二人はこくりと顔を見合わせて頷く。
「わたくしがなんとか引き伸ばしますから、ミリア様の方、よろしくお願いします」
「ええ」
ティムの後ろ姿を見送って、シュヴァーンは男のほうへと向き直った。
「あの、すみません……」
シュヴァーンの呼びかけに、男はくるりと振り返る。
「知り合いと待ち合わせがあるのですけど迷ってしまって……良かったら案内していただけないでしょうか?」
なるたけここから遠い場所を選んで告げたシュヴァーンに、男はしばし考えてからにこりと人好きのする笑みを浮かべた。
一方その頃街中では、ティムとミリア一行が早々と合流していた。メイド服のジャイアント――キウイはただ歩いているだけでも相当に目立つ。通りがかりの人に聞けば、覚えている者は多かった。
「えええっ。今日に限ってなんで早いのよぉ」
まだまだ遊び足りなさそうなミリアだが、ばれたくないと言ったのもミリアである。
「残念ですけれど、戻りましょう?」
「ああんっ。まだ遊びたいのにぃっ!」
言いながらも、戻る気はあるらしい。宿の方へと方向転換をする―――と、焦っていたのかミリアがコテンっとその場にこけた。
「大丈夫ですか? 焦るのはわかりますけど、気をつけてくださいね」
言いながら、シャミはリカバーの魔法でミリアの怪我を治してあげた。
「どうもありがとうっ!」
転んで泣きそうになっていたのはほんの数秒で、ミリアはすぐに元気に笑った。
「では、戻りましょうか」
「はぁい」
ティムの声に、ミリアは不満げながらも素直に頷いた。
◆ ◆ ◆
最後はずいぶん慌しくなってしまったが、無事終えた依頼に、一行はほっと一息ついた。
可愛い依頼主だけあって賃金も少々安めだったが。
「今度は親の許可を貰って、どうどうと遊びに来れるといいな」
「ええ、本当に」
呟いたキウイに、シャミが同意して頷いた。
声にこそ出さなくとも、他の面子もみな同意見で。微笑ましく思いつつも、ついつい苦笑を浮かべた。