僕の研究メモはいずこへ‥‥

■ショートシナリオ


担当:日向葵

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月11日〜09月18日

リプレイ公開日:2004年09月20日

●オープニング

 それは、いつもと変わらぬ帰り道。いつもと同じように家に戻って荷物を出そうとした時だった。
「え゙?」
 何故か。
 その中に入っていたのは見覚えのない品々。
「ど、どうなってるんだああああっ!?」
 慌てて今日のことを思い返してみると、心当たりがひとつだけ。
 帰り道に、一人の女性とぶつかってお互い荷物を落してしまったのだ。おそらくその時に荷物が入れ替わってしまったのだろう。
「と、とにかく探しに行かないと‥‥」
 しかしすれ違っただけの人間であるゆえ記憶は薄い。
 服装からして冒険者だろうとは思う。背は自分と同じくらい――160前後と言ったところか。
「他‥‥何か‥‥」
 見たら思い出せるかもしれないと淡い希望を抱きつつ、ぶつかった場所を中心に街中を駆ける。
 しかし相手は冒険者。もしかしたらもう街を離れているかもしれない。
 それになにより街は広いし人も多い。
 自分一人で探すには限界がある。
 あの荷物には、大事な研究メモも入っているのだ。このまま放っておくわけには行かなかった。
 そして青年は探し物の人手を得るべく、冒険者ギルドへ向かうのだった。

●今回の参加者

 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3228 ショー・ルーベル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4263 ホメロス・フレキ(34歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5900 ニィ・ハーム(21歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea6505 ブノワ・ブーランジェ(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文


 依頼を受けた一行の前で、青年はぺこぺこと何度もお辞儀を繰り返した。
「本当に、すみません。よろしくお願いします〜」
「それはもう良いですから。えーと、とりあえずお名前を教えて頂けませんか?」
 ブノワ・ブーランジェ(ea6505)の問いに、青年はハッと顔を上げて、また頭を下げた。
「あっ。自己紹介もせずにすみません。僕はアドルと言いますっ」
 アドルに続いて冒険者たちもそれぞれに自分の名を告げ、ブノワがまた別の問いを口にした。
「そういえば、アドルさんはどちらにお仕えしているんですか?」
 ブノワは、料理の『研究』メモを落したと告げたアドルの言葉から、アドルが一般の料理店などではなくどこかのお屋敷に仕えているのかと思ったのだ。
 ブノワの問いに、青年はきょんっとした表情をして、パタパタと片手を振った。
「いえ、お仕えなんてそんな……」
「せやけど、料理を研究してるくらいやから、料理人ではあるんやろ? 大事な商売道具をなくしてしまったんやね。大変やな〜。うち、一生懸命さがしたるな〜」
 切羽詰っているはずなのだが、どこかのんびりとした口調でティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)が言う。とはいえ気合が入っていないわけではない。
 教師という職業をしており、やはり道具を必要とする職業であるがゆえ、商売道具をなくす大変さはよく想像できるのだ。のんびり口調は性格ゆえだろう。
「大事な研究メモって事は新しい料理のアイディアか何かだろうから、あたしがメモの中身を知っちゃうと拙いよね」
 アドルに向かってそう確認を取ったのはユリア・ミフィーラル(ea6337)である。ユリアも料理人であるがゆえの質問だ。
 しかしユリアの懸念をよそに、アドルはにこにこと人好きのする笑顔を見せた。
「いえ、気にしなくて良いですよぉ。とにかく見つけることが肝心ですから」
「まあ、今大事なのはメモの中身よりもその冒険者の行方ですし、無理に中身に触れる必要もないでしょう」
 たおやかな笑みを浮かべてそう告げたのはショー・ルーベル(ea3228)だ。続けて和紗彼方(ea3892)はぐっとガッツポーズで無邪気に笑う。
「うん、あたし達で絶対見つけてあげるね。……そのぶつかった女の人の事、もう少し何か思い出せないかな?」
 言われてアドルはうーんと宙を見つめて考えこんだ。
「あのときは僕も急いでたからなあ……」
 どうやらすでに聞いた情報以上のことはまったく思い出せないらしい。
「そうだ、使えそうな魔法があるんですけど……。女の人を探す手がかりを得るために、ちょっとの間だけご協力いただけないでしょうか? そのまま立っていて、あの、ぶつかった瞬間の事を思い出そうとしていただくだけでいいので」
 考えこむアドルにそう声をかけたのはニィ・ハーム(ea5900)だった。使ったのは対象の記憶を知る、リシーブメモリーの魔法である。
 結果、女性が皮鎧を着ていてスピアを持っており、短髪であることがわかった。この辺りの印象から、アドルは彼女を冒険者だと思ったのだろう。
「それじゃあ、手分けして聞き込みと行こうか。やはり情報収集は酒場でするのが一番であるだろうかね」
 言いつつ、さらりとホメロス・フレキ(ea4263)はショー、ティファル、ユリアを自分の傍へ引き寄せた。彼女らと一緒に行動する気であるらしい。
「なら俺たちは冒険者ギルドで聞き込みだな。行こうか、少年」
 残った人員を見ればちょうど4人。真幌葉京士郎(ea3190)は同郷の気易さから彼方ヘと声をかけた。
「うん」
 多少思うところがあったものの、男っぽい格好を好んでいるのは自分である。性別を間違えられたのはさして気にせず、彼方は笑顔で頷いた。

◆ ◆ ◆

 冒険者ギルドへ聞き込みに来たのは、京士郎、彼方、ニィ、ブノワの4人。
 食料が入っていたことから考えて、これから出て行くところかもしれない。依頼を受けての出立ならばここで聞くのが一番良いのだ。
 彼方は速攻カウンターへ向かい、ギルドの親父に声をかけた。
「えーと、近場で野営するような依頼で、女性の冒険者が受けたはずなんだけど。心当たりないかな?」
 魔法で直接情報を得たニィが女性の特徴について補足する。
 とはいえ、親父も忙しい身である。また、似たような特徴の女性はいくらでもおり、現在わかっている情報から特定するのは難しかった。
 それでもいくつかそれらしい依頼を受けた冒険者の話を教えてもらうことができた。
 その間、京士郎とブノワはギルド内の冒険者に話を聞いてみることにした。最初はたいした情報を聞けなかったが、彼方たちが得てきた情報と足したところで少々進展があった。
 アドルが女性にぶつかったのは今日の朝方。その頃に、これから出かけるふうの女性冒険者がいたというのだ。
 女性の名前を聞き出して、一行はとりあえず街中聞き込み組との合流地点へ向かった。

◆ ◆ ◆

 ホメロス、ショー、ティファル、ユリアにアドルの5人は、酒場方面へ向かいつつ街で聞き込みをすることにした。
 最初に向かったのは酒場ではなく、ぶつかった現場であるが。
「女性がどちらへ向かって行ったか覚えていますか?」
 ショーの言葉に、アドルはしばしその場で考えこんだ。
「えーと……僕はこっちから歩いてきたから……多分、あっちへ向かうつもりだったんだと……」
 言ってアドルが指差したのは、街の外へと向かう方角。
「まずいな……」
 呟いたのはティファルである。その他のアドル以外の3人は、ティファルの呟きの意味を理解して頷いた。
「もしかしてもう外に出ちゃったのかな?」
「とにかく外に向かうか? 道々聞いて行けばなにか手掛かりがあるかもしれないしな」
 頷きあった5人は、早速そこから外へ向かう道を歩きながらの聞き込みを始めた。
 しかし大きな街だけに人も多い。生活サイクルの違いもあって、朝方ここにいた人が今の時間もこの道にいるとは限らなかった。
 しかし店を出している人間などもいるわけで。そちらを中心に聞きこんだところ、それらしき女性が外に出ていく姿を見たという情報を得る事が出来た。
 早く追いかけたいところであるが、ギルドへ聞き込みに向かったメンバーとも合流せねばなるまいと、一行はとりあえず合流地点に向かう事にした。

◆ ◆ ◆

 街の外に行くということもあり、また急ぐ必要もあるため旅慣れない依頼人には街で待ってもらって、冒険者たちは大急ぎで女性が行ったと思われる場所へ向かう事にした。
 ギルドで聞いた話と街中で聞いた話を統合したところ、女性が受けた依頼とそのために女性が向かうと思われる方向がほぼ特定できたのだ。
 その依頼は急ぎではないと言うことだし、現在時刻はちょうど昼過ぎ。
 お昼御飯を食べるために荷物を開けたなら、きっと中身が違っていることにも気付いているだろう。

 一行の予測は、大正解だった。
 二時間ほど歩いたところで、道の向こうからこちらに歩いてくる女性冒険者を見つけることが出来たのだ。
 聞いたとおり、装備は皮鎧にスピア。短髪で身長160前後の女性である。
「すみません、少々お尋ねしたいことがあるのですけれど……」
 ショーの言葉と、その後ろで女性の持つ袋とそっくりの外見の袋を持った京士郎の姿を見て、女性はひょいと袋を持つ片手を上げた。
「もしかして、これのこと?」
「そうですそうです! ああ、よかった〜」
 同じ料理人だけに他人事ではなかったユリアがほっと胸を撫で下ろす。
 袋を交換してお互い確認してみたところ、やはり女性が持っていたのは間違って入れ替わってしまったアドルの持ち物であった。

◆ ◆ ◆

 すぐさま街に戻ってアドルに確認してもらうと、間違いないと頷いて、アドルは深く深く頭を下げた。
「もうっ、本当に、助かりました〜っ。これがなくなったらどうしようかと……」
「いやいや。無事見つかって良かったなあ」
 好青年そのものの口調と仕草で言ったホメロス。その意識は目の前よりも同行の女性に向かっていたが、あえてそれを指摘する者はいなかった。
「ほんとう、よかったなあ。……なあ、よかったらアドルさんの料理、食べてみたいんやけど……。もちろんお金は払うつもりや」
 ティファルの問いに、アドルはぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
「お金なんてとんでもないっ。お礼にただでごちそうしますよ!」
「え、本当にいいのか?」
 依頼料は別にきちんと貰っているのだ。問い返した京士郎に、アドルはにこりと笑顔を見せる。
「はいっ。僕のお礼の気持ちです」
 こうしてメモ探しは、美味しい料理とアドルの笑顔でハッピーエンドを迎えたのだった。