【聖夜祭】聖夜だけの恋人?

■ショートシナリオ


担当:樋野望

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜12月31日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

 テオフィール・ハサウェイは、今年で二十五歳になった。名家の出ではないのだが、一族のつながりの濃い家に生まれており、親族はとにかく多く、その数百人以上。テオフィールの家は、その親族を取り仕切る、いわば本家だ。そんな家に生まれてしまったテオフィールだが、どうしてもブランシュ騎士団に入団するのだといって家を飛び出してからもう長い。何とか夢を叶えて騎士にはなったテオフィールだが、ここにきて、一つの問題が起きた。家を飛び出したとはいえ、決して縁を切ったわけでもない家族から、矢のような催促が来はじめたのだ。
 曰く、早く結婚しろ、と。
 ハサウェイ家では、代々、跡継ぎの長男は二十五歳になるまでに結婚している。騎士になったことは認めてやるが、今年こそは結婚しろ、というのが家族の主張だった。
 そして、この「今年」もそろそろ終わりだ。家族からの催促は、具体性を帯びたものに変わってきた。
 つまり、ハサウェイ家の親族や知人たちが集まってダンスまで行うという聖夜祭のパーティーに恋人を、つまり、将来の結婚相手を連れて来い、というのがその要求なのだ。
 ところが、テオフィールには恋人はいない。仕事が恋人状態であり、恋人が欲しいとも特に思っていないというのが現状。いずれブランシュ騎士団に入れるようにと仕事に励む毎日である。そして、いない恋人のことを、さもいるかのような嘘をついて家族に説明し、安心させるほど器用でもない。テオフィールは奇妙に正直者で、あまりにもあんまりな嘘をつくと、あからさまに顔に出てしまうのだ。
 しかし、家族からの要求をむげに却下することはもう出来ない。困り果てたテオフィールは、ついに冒険者ギルドの扉を叩いた。そしてテオフィールは、生真面目な口調で受付係に切り出した。
「我が家で行う聖夜祭に同行してくれる方は、いないだろうか。同行してくれるのであれば、女性でも男性でもかまわない。自分の友人代表ということで、家族や親族に向かって結婚を前提にした自分に恋人がいるという嘘を信じさせて欲しいのです。自分は、どうにも嘘が下手で‥‥。今年の聖夜祭さえ乗り切れる嘘であればいい。それから、今年のパーティーは、自分が取り仕切ることになっているので、その辺りの手伝いもしていただけると助かるのだが」
 テオフィールからの自己申告によると、嘘が下手なうえに、あまりにも下手な嘘をついた時には即座に周囲にばれてしまうほど表情に出やすい、ということである。

●今回の参加者

 ea4090 レミナ・エスマール(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8572 クリステ・デラ・クルス(39歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea9935 ユノ・ユリシアス(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 それぞれ自己紹介をした後、クリステ・デラ・クルス(ea8572)が切り出した。
「我ら四人で相談をした結果、とりあえずは、我以外の三人が貴殿に思いを寄せているのだが貴殿は一人を選びきれていない状況、という話を通そうかと思う」
「は?」
 その設定に度肝を抜かれたのが、テオフィールは間の抜けた声を上げた。
「ご安心ください。細かいことを聞かれても、適当にごまかしますから」
 レミナ・エスマール(ea4090)が、言った。
「私は、テオフィールさんに思いを寄せてはいるものの現状は友人、という役どころでいこうと思います。友人としての演技‥‥できませんか?」
 ユノ・ユリシアス(ea9935)が、じいとテオフィールの目を見て心配そうに尋ねる。
「‥‥最善の努力は、します」
 テオフィールの返答を聞いた後、ドロシー・ジュティーア(ea8252)が小首を傾げた。
「私は、テオフィール様の恋人は遠方の方なので今回はパーティーには伺えないようですと、お答えしようと思ったのですけれども」
「では、我がドロシー殿のことを、現状恋人のいないテオフィール殿のことを気遣って嘘を申す健気な女性とでも説明しよう」
 クリステが言うと、ドロシーは頷いた。

 テオフィールの生家は、決して立派ではないが大きな家だった。これなら、親戚が百人以上集まっても、楽に収容できそうだ。
 家の中に入ると、テオフィールと冒険者たちは彼の家族に出迎えられた。祖父母と父母、そして妹は、テオフィールと挨拶と近況を尋ねるだけの穏当な会話をし終えると、早速、息子が連れ立っている女性たちに興味を移した。
「この方々は?」
「友人です」
 母に問われて平然と答えたテオフィールに、傍らにいた冒険者たちはまずはこっそり安堵のため息を吐いた。いくら嘘が苦手らしいとはいえ、こんなところで躓いていられてはどうなることか、この先が恐ろしい。そして、四人はそれぞれに簡単な自己紹介をした。ユノは、よろしければ、と言って持参したワインを差し出し、殊にテオフィールの祖父に喜ばれていた。
「お兄ちゃんに女の人の友達が四人? 本当に友達なの?」
 妹の笑い混じりの一言に、テオフィールが渋い声を出す。
「彼女たちに失礼だろう」
 根は素直なのか、ごめんなさい、と冒険者たちにも頭を下げた妹を見て、クリステが口を開いた。
「ご挨拶も早々に不躾な申し出かもしれないが、まずは、パーティーの準備を手伝わせていただいてよろしいかな」
「お客様にお手伝いさせて申し訳ありませんけれども、ありがたくお手をお借りいたしますわ」
 テオフィールの祖母が、ゆったりと頭を下げた。

「私は、買出しに行ってまいります。何がご入用でしょうか?」
 レミナが尋ねると、テオフィールが答える前に彼の妹が言った。
「私、買い物係なんです。良かったらご一緒していただけませんか? 兄は買い物のことなんて、何も分かっていませんし」
 横から口を出してきたテオフィールの妹は、レミナと連れ立って家を出るなり、早速言った。
「ところで、レミナさん。兄には恋人はいないんでしょうか」
 内心、来た、と少し気合を入れたレミナは、慎重に言葉を選んだ。
「その‥‥テオフィールさんの恋人は、えっと自愛の聖母さまのご加護でといいますか、その神様のお告げとご意思の通りです」
「それ、どういうことですか?」
 まっすぐに問い返されて、思わず言葉に詰まったレミナは盛大に咳き込んで見せた。
「ごめんなさい。私、持病の癪といいますか不治の病といいますか、長い間お話していると少々咳が」
 何とか彼女の追及を誤魔化している内に、レミナたちは一軒の店についた。これまでの物言いから一変して、レミナはきびきびと値切っていく。
「少々お高いようですね。聖なる母のご加護を受けるには、このように阿漕な真似はなさらず、正当なお値段をつけることも必要かと思いますが」
 諭しと微妙な脅しを織り交ぜるレミナの交渉術を見て、テオフィールの妹はお兄ちゃんの奥さんがこんなしっかりした人だったらいいなあと呟いていた。

「立食形式のパーティーはいかがでしょうか。席が決まっているよりも、大勢の人と話しやすいですし」
 ユノのそんな提案で今年のパーティーは立食形式で行うことになり、テオフィールは男手を募って広い居間にテーブルを並べ始めた。ユノ、クリステ、ドロシーは、とりあえず人手の少ない箇所でそれぞれに手伝いをすることになった。準備中はあまりにも慌しかったため、テオフィールの恋人について彼女たちが家族に問い詰められずに済んだ。そうこうしている内に、レミナも買い物を終えて戻ってきた。パーティーの準備も何とかその日の夕方までには終わり、あわただしくパーティーが始まった。
「いらっしゃいませ」
 きちんと身だしなみを整えたドロシーが、次々にやってくる親戚たちを出迎える。テオフィールから事前にやって来る面々の特徴などを聞いていたため、出迎えは滞りなく終えることが出来た。
 その頃、身だしなみを整えたユノは、テオフィールの家族の質問攻めにあっていた。
「テオフィールには、まだ恋人はいないのかしらねえ」
 テオフィールの祖母がため息混じりに言う。曖昧な笑みを浮かべた後、ユノは少し離れたところで、親戚からの質問攻めにあっているテオフィールの後姿をちらりと目を向けた。これも、演技の一環である。
「今は友人でしかありませんが、実は私、テオさんを想っているんです。ですが、彼を想う人は私の他にも‥‥。私達が取り合いを始めたり下手にせっついたりすれば、彼も困ることでしょう。それに、私はテオさんの騎士として生きる気持ち最優先したい。ですから、出来れば皆様も騎士としての彼の気持ちを、少しだけわかってあげてください」
 僅かに顔をうつむけて言うユノの演技力にほだされたのか、祖父は軽く涙ぐんでありがとうと言いながらユノの手を握りさえした。少々罪悪感はあったものの、何とか、祖父母らを説得することには成功したと、ユノはほっとため息を吐いた。
 そんな中、レミナは料理を運ぶなどしてくるくると働いていた。
「‥‥もう駄目です。ああ、クラクラしますぅ」
 働きすぎでめまいを覚え、思わず床に座り込みかけたレミナを、寸でのところでテオフィールが支える。
「申し訳ない。手伝いを頼みすぎました」
 少し休んでくれと半ば懇願され、レミナはテオフィールに支えられるまま、隅の椅子に座って休むことにした。
 その様子を見ていたテオフィールの両親らが何か期待したのか、ドロシーに話しかけてきた。
「あの子もだいぶ女性の扱いが分かってきたようだけど、恋人はいるのかしら」
「とても良い方がいらっしゃいます。生憎、遠方の方ですので、今日はお伺いできませんでしたが」
 ドロシーの返答に両親らは一度は喜んだものの、そんな話は一度も聞いたことがないがと首を傾げた。
 そんな両親らを含む親族たちは、恋の相談役兼占い師といった役どころに扮したクリステの元に集まり、質問攻めを始めた。
「まあ、三人の女の子がテオフィールのことが好きだって言うの? あら、でもドロシーさんはさっき‥‥」
 ざっと嘘の説明したクリステに、テオフィールの母が声を上げる。
「ドロシー殿は恋人のいないテオフィール殿がご親族に攻められないようにと、嘘を申したのだろう。実は、奥手のテオフィール殿のことで、娘の内、誰か一人が強気に出たら他二人が牽制したり、テオフィール殿自身が引いてしまうかといった状況でな」
「まったく、あの子は昔からふがいない」
「もっとも、今年はご当人にとって結婚には最も不向きな年、と占いでも出ている。そう、急ぐことはないだろうな」
 その後、クリステは歓談の輪をするりと抜けて一礼した。
「ご歓談の余興に、踊りはいかがかな」
 軽く足を踏み鳴らし、可愛らしくくるりと回る。かと思えば、手が艶かしく揺らぐなど、彼女の踊りは見ている者を魅入らせるものだった。

 四人の女性の懸命の嘘にもかかわらず、テオフィールは親戚から追及を受けてうろたえていた。もっとも、それは照れと受け取られて、嘘がばれることはなかった。
 そうこうしているうちに、パーティーは終わりに近づいていた。音楽好きの親戚が数人、楽器を手にとって落ち着いたダンスの音楽を奏でだす。そこで、ドロシーは思い切ってテオフィールに声をかけた。
「テオフィール様、私と踊ってもらえませんか。恋人の代わりとしてでも」
 意外な申し出だったのか、テオフィールは一度瞬きをした。
「依頼を受けてくれた方を何かの『代わり』扱いにはできません。俺が改めてドロシー殿にダンスを申し込めば、受けてくれますか」
 テオフィールは頷いたドロシーの手を取り、踊り始めた。周囲でも、何組もが踊っている。テオフィールは特別に上手な踊り手というわけではなかったが、それでもドロシーはうっとりと彼を見つめていた。
「嘘から真ということもあるということか?」
 すっかり人を観察する目で二人を眺めたクリステは、一人呟いた。

 立食形式のパーティーは、成功した。また、冒険者たちの吐いた嘘も何とかばれずに済んだ。
「妙な依頼に応じていただいたこと、改めて御礼申し上げます」
「礼を言うよりも、今後のことを考えるべきだな。聖夜の贈り物の如く、理想の女性を授けてくれる者はいないぞ」
「‥‥おっしゃるとおり」
 クリステの軽い叱責に、テオフィールは面目なさそうな顔をした。
 テオフィールとの別れ間際、ドロシーが小声で言った。
「あの‥‥冒険者をしてる女の子ってお嫌いですか?」
「そんなことはありません」
「でしたら、また、今度、一緒に踊ってください」
 喜んで、というテオフィールの返答にドロシーのみならず、傍らでそれを聞いていた皆がくすぐったそうに笑った。
 そして最後に、四人はテオフィールから、家に長い間眠っていたもので申し訳ないが聖夜祭のプレゼントとして受け取って欲しいと、銅鏡を手渡されたのだった。