宝を狙うはドラゴンのみにあらず
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■ショートシナリオ
担当:樋野望
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月03日〜01月08日
リプレイ公開日:2005年01月06日
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●オープニング
「海賊が、エイリーク様の持ち帰った宝を狙っている?」
肩にかかるかかからないかといった赤みがかった金髪をさらりとかき上げて呟いたのは、キーラ・ユーリエフだ。ロシア王国出身のエルフである。
「まったく、学習能力の足りない連中が多いな、世の中は。エイリーク様とそこらの海賊風情では、装備も戦力も頭の出来も度量も見目も太刀打ち出来ないことくらい、一度戦えば分かるだろうに。学習できない挙句に、腹いせに宝を奪おうなんて、まったく気が知れないな」
口の端に幾分剣呑な笑みを浮かべて、キーラは部下が持ってきた書類を指で弾いた。彼女は、ドレスタッドで情報屋を営んでいる。情報を素早く仕入れ、それ必要としているだろう人物に高額で売りつけるのが彼女のやり方だ。
「海戦で敗れた海賊に、エイリーク辺境伯様の見目が分かりますか」
部下が控えめに口を挟むと、キーラは鼻で笑った。
「戦いぶりで判断できるだろう。あれは、いい男の戦い方だ」
「‥‥そうですか」
エイリークには幾多の愛人がいる、というまことしやかな噂がある。キーラも、その一人として人の噂話に上ることは多い女だ。事実、エイリークとの付き合いは、なかなかに深い。
「それでは、この情報はエイリーク様に売却いたしますか」
「ああ」
一度はそう答えたキーラだったが、ややあって首を横に振った。
「いや、待て。莫迦どもを片付けるだけのことに、エイリーク様のお手を煩わせる必要はない。この件は、私が預かろう」
「と、言いますと」
「冒険者ギルドに行って、エイリーク様の持ち帰った宝を海賊どもから守れという依頼を出すんだ。金は、私が出す」
早速冒険者ギルドへと向かおうとする部下を、キーラは一度引き止めた。
「それから、エイリーク様のところへ行って、事情を説明してきてくれないか。お膝元を少々騒がしくいたしますがこの件に関してはこのキーラが責任を持って預かる、と」
「かりこまりました」
確かにエイリークには心酔しているふうのキーラだが、彼のために無償で動こうとするのは、商売人として甘い判断を決してしない彼女の行動としては珍しい。そんなふうに考えていた部下の表情を読んだらしく、キーラは軽く笑った。
「エイリーク様に、一つ恩を売るのは悪くないだろう? 今回の件を無事に収めて、あの方から礼の代わりに面白い情報でもいただければ重畳」
キーラにかかれば、エイリークへの好意も商売に結びつくらしい。
●リプレイ本文
海賊の詳しい情報を聞こうと、ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)、ガルザイン・スノーデサイズ(ea9602)とカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)は、依頼主のキーラのもとへと向かった。
「貴様の依頼を受けてやるのだ。どこに海賊どもが来るのか、教えて貰えるんだろうな」
キーラはガルザインの言葉を面白がっている表情だったが、念のため場を取り持とうとカヤが口を挟む。
「襲ってくる海賊の具体的な人数、倉庫付近の地理や状況を教えてください。それから、宝物にはどの程度傷をつけてもいいのかも、教えていただきたいのですけれど」
キーラの話から分かった情報は、以下の通りである。
該当する海賊が乗る船は一般船を偽装しているため、ドレスタッドの港に直接入港する可能性が高い。予想到着時刻は、日暮れから真夜中にかけての何時か。海賊の具体的な人数は分からないが、一般船を偽造するなら乗組員は30人前後。もっとも、一度に襲撃をかけてくるものは10人弱と予想される。倉庫付近には同じような倉庫が碁盤の目のような格好で並んでおり、人気は少ないが普段からエイリークの部下が見回りをしている。倉庫の中にあるものは、ガラクタであれ宝であれエイリークのものであり、傷つけることは厳禁。
キーラの返答に頷いたカヤは、もう一つ尋ねた。
「伯爵様と彼の実力主義について、どう思われますか?」
「エイリーク様について話し出したら、時間がいくらあっても足りないから止めておこう。あの方の実力主義については、私は賛成だ。ロシア王国の出の私に、ハーフエルフへの抵抗感はないしな」
軽い笑い混じりのキーラの返答に、カヤは安堵した。
その後、すぐに三人はキーラの下から立ち去った。
「これからどうするんだ?」
「海賊船を襲って、奴らの戦意を喪失させる」
ジェンナーロに問われたガルザインが、答えた。
「そんなことされたら、俺たちが倉庫で待ち伏せする意味がなくなるだろ」
「ワシは、ワシのやりたいようにやる」
「やりたいようにやるって言ったってな」
制止を頑として受け入れないガルザインに、ジェンナーロは条件を出した。
「まず、倉庫周辺においらたちが潜んでいることを死んでも言うな。それから、命の保障はできない。襲撃をかけるなら、海賊が船を出た後にしろ」
「ワシのことは、見殺しにしてかまわん」
ガルザインはジェンナーロに明確な返答をせず、そう言い残すと、一人でどこかへと消えた。
「‥‥ガラクタを盗もうとは、ノルマン人とは不思議なものだな‥‥」
先日の検品作業では宝らしい宝を見つけることが出来なかったリオリート・オルロフ(ea9517)が、興味深げに呟いた。
「私たちが調べたところでは、魔法物品が幾つか出ましたが」
リセット・マーベリック(ea7400)の言葉に、レオニール・グリューネバーグ(ea7211)が頷いた。
「だが、その魔法物品が『契約の品』かどうかは分からないままだな」
「あたいたちも海賊からお宝を奪ってきたけど、それらしいものがあったのかどうか‥‥」
フィラ・ボロゴース(ea9535)が言うと、同じ海賊討伐依頼を受けたジェンナーロも頷いた。
「そうなんだよな」
そんなことを話し合った後、リセットは宝とガラクタが一緒くたに入れられている倉庫の周辺に、罠を張り始めた。あまり人の通らないような場所に、鳴子や足を引っ掛けるための細いロープなどを仕掛けていく。その間に、他の冒険者たちは、倉庫周辺で身を隠せそうな場所を探した。フィラは、木箱を積み上げて身を隠す場所を作っている。
その後の相談の結果、レオニールの提案で三班に分かれることになった。他の者たちは、宝の保管されている倉庫の隣にある倉庫の陰に隠れることにした。リセットの提案により、見張り役は猫の鳴き真似で敵襲を知らせ、隠れている者たちはその合図と共に行動を開始することにする。
まず見張りに立ったのは、ジェンナーロとフィラだ。次の見張りは、レオニール、リセット、そしてリオリートだ。しかし、彼らが見張りをしている間は、怪しい者は現れなかった。三組目の見張りは、ハーフエルフのアル・アジット(ea8750)とカヤだ。
「覚悟はしていましたけど、欧州の寒さは身に堪えますね。これに比べれば、人からの風当たりの強さなど春風に等しいですよ」
「本当ですわね」
アルの小声に、カヤは小さく頷いた。
それから数分、通りを眺め続けていたアルが軽く目を細めた。
「誰か来ます。六人。いえ、八人ですね」
怪しい男たちが倉庫の扉に手をかける寸前、カヤが猫の鳴き声を真似た。それを聞いた冒険者たちが、潜んでいた場所から出た時だった。
突然、港から激しく何かを破壊する音が聞こえた。冒険者たちは、皆一様に体を竦めた。
爆発音にも似た破壊音に驚いたのは、冒険者たちだけではない。扉に手をかけていた海賊が瞬時に動きを止め、背後を振り返った。海賊たちは何らかの不審を感じたらしい。二言三言の密やかな相談の末、海賊たちは港へと走り出した。
「何がどうなってるんだよ!」
物陰から出てきたフィラが、押し殺した声を上げる。
「ガルザインかもしれないな」
ジェンナーロが、苦い表情で呟いた。
「‥‥一人で、海賊の船を襲うと言っていたのだったか‥‥」
リオリートが頷く。その時、また、事態が動いた。邪魔だどけ、という大声が辺りに響いたのだ。
「ガルザインさんですわ」
カヤの言葉に、レオニールが眉根を寄せて言った。
「見殺しにするのは、出来れば避けたいが」
その時、エイリーク配下の者たちが騒ぎを聞きつけて、駆け寄ってきた。何が起きたのかと尋ねる彼らに倉庫周辺の警戒を頼み、冒険者たちは海賊たちの元へと向かうことにした。
時間を前後すること、およそ数分。一般船からいかにも海賊然とした男たちが船から降りたのを見送り、ガルザインはしばらく船の見える場所で待機していた。
「宝を狙うのは、ドラゴンや海賊だけではない」
短く呟くと、ガルザインは印を結んだ。ディストロイ発動の瞬間、彼の体が黒く淡い光に包まれ、黒い光の塊が海賊船目掛けて飛んだ。黒い光は、海賊船の横っ腹の一部を突き破った。
「ハッハッハッ、ワシの力を思い知れ!」
とたんに、船が騒然とする。中には、相当数の海賊たちが残っていたらしい。四人の海賊が船から飛び降りてきた。思わず舌打ちをしたガルザインは、一人では手に余る数だと判断して即座に逃げ出した。彼の後を海賊たちが追う。二人は振り切ったものの、残る二人に追いすがられ、ガルザインは剣を構えた。しかし、攻撃をする前に、海賊二人が仕掛けてくる。一撃はかわしたが、もう一撃を強かに食らってしまった。ガルザインの攻撃は海賊一人にかすり傷を負わせたが、続く二人の攻撃により、ガルザインはさらに深い手傷を負った。二人相手では分が悪いと踏んだガルザインは、再び全速力で走り出した。何とか二人を引き離したガルザインだったが、今度は正面から倉庫を襲いに行っていたと思われる海賊に出会ってしまった。
「邪魔だ、どけ!」
ガルザインは、彼らとにらみ合ったまま剣を抜いた。しかし、ガルザインの攻撃はかわされ、絶体絶命の状況に陥ってしまった。その時である。
駆けつけたリセットの縄ひょうが敵の一人に向かって投げられた。縄の先の刃が、敵の鎧の隙間を突く。見事攻撃を命中させたリセットは、素早く縄ひょうを手元に引き戻した。
ようやく気色ばんだ敵をひきつけたのは、アルだ。三度笠を脱ぎ捨てると、敵の前に素早く移動すると同時に敵に一太刀を浴びせ、素早く防御姿勢をとる。リセットの攻撃を受けてもかろうじて立っている海賊を含め、三人がアルと相対することになった。
その傍らで、中指と人差し指だけをまっすぐに伸ばした手を敵に突きつけたカヤが、指先からオーラショットを二発続けて放った。一発をかろうじて避けたものの、二発目は避け切れなかった海賊がよろめく。
「今です。フィラさん、殺っちゃってくださいっ!!」
後方からのオーラショットにより海賊の一人がよろめいたのを受けて、フィラが長巻を構えた。
「月に忠誠を誓いし狼、フィラ、只今参上‥‥ってことで大人しくお縄につきな♪」
フィラの重い一撃は、海賊の肩口を貫いた。
「七風海賊団のリンギオ、ジェンナーロ・ガットゥーゾ参上!」
いかにも楽しげに声を張り上げたジェンナーロが、海賊に向かって踏み込むと同時に右手に構えたノーマルソードを振るった。その一撃を食らってよろめいた海賊の懐にまで踏み込んでいたジェンナーロが、間髪をいれずに容赦なく左手のダガーを突き出した。これも命中する。
レオニールは、海賊の一人を殴りつけた。腕を殴られた海賊が、盾を取り落とす。続けて、レオニールはクルスソードを抜き、盾を取り落とした海賊に向かって切りつけた。かすり傷を負ったその海賊に、リオリートが日本刀を振り下ろす。盾を失っていた海賊は、リオリートの一撃をまともに受けることになった。
そして反撃に備えた冒険者たちだったが、海賊たちは攻撃を止めて、港へ向かって一斉に走り出した。遠距離走のスキルを活かして海賊たちを追おうとしたレオニールだったが、一人で追ってはガルザインの二の舞になりかねないと考え直し、諦めた。
海賊が逃げ出すという形で戦闘が終わった後、レオニールは中傷を負ったガルザインにメタボリズムをかけた。
海賊を乗せた船は、横腹に傷を受けた状態でどこかへと去った。
「海賊には逃げられたにしろ、宝は守ったのだからよしとしようか」
報告を受けたキーラは、軽く嘆息した。
「しかし、あの海賊が再び宝を狙わない保障はどこにもありません」
「そうだな。それに、なぜ海賊がガラクタの中に宝があると踏んだのか、それも気になる‥‥」
部下の言葉に、キーラは思案する表情で呟いた。