情報、買います。

■ショートシナリオ


担当:樋野望

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月12日〜01月17日

リプレイ公開日:2005年01月17日

●オープニング

 先日、エイリークが海賊たちから奪ってきた宝を奪おうとする者たちが、ドレスタッドに現れた。彼らの素性は、これもまた海賊。もっとも、大して有力な海賊ではないが、海賊船ではなくわざわざ一般船に乗り換えて港から侵入してきたところを見ると、やることにはなかなか手が込んでいる。
 前回の襲撃時には、冒険者たちの働きにより宝は守られた。だが、海賊たちは全て取り逃がし、彼らが再びエイリークの宝を手に入れようと動き出すか分からない状況になってしまった。
「面白い話を聞きました」
 ドレスタッドに居を構えるエルフの情報屋キーラ・ユーリエフの元に、部下がやってきた。情報売買を行うキーラのもとには、さまざまな情報が集まる。
「船の横腹が破壊された、不審な一般船がドレスタッド近海で目撃されたそうです」
 ドレスタッドを治める領主エイリークの数多い愛人の一人とも噂されるキーラは、それを聞いて軽く笑った。
「なるほど。それは面白い」
 先日、エイリークの宝を狙った海賊たちが乗ってきた船は、横腹を一部破壊されている。航行不可能になるほどの傷ではないが、海が荒れればそこから浸水することもあるだろう。早急な修理が必要になる状態のはずだ。
 船を修理するには、相応の材料と職人が必要になる。材料も職人も、宙から沸いてくることはない。当然、何らかの形で海賊たちが手配することだろう。
「どこに隠れたかは知らないが、この分だとすぐに足はつきそうだな」
「情報を集めますか」
「ああ、そうだな」
 答えたものの、キーラは幾分思案する表情になった。この件に関する情報を集める手立てはあるが、今は別件に手間取られて十分な時間が取れない。
「時間がないとは言え、このままの情報をエイリーク様に売るのも芸がないな‥‥」
 芸があるないという問題なのかはさておき、結局、キーラはこの情報収集を冒険者ギルドに依頼することにした。冒険者ギルドに出た依頼は、以下の通りである。

■不審な一般船について、情報収集をして欲しい。また、海賊たちに行方を追っていることを気取られないよう、細心の注意を払うこと。なお、多くの情報が有益かつ重要な情報が得られた場合、提示してある報酬額とは別に、報奨金を出す用意がある。

●今回の参加者

 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea7107 ノーテ・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8791 カヤ・ベルンシュタイン(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9537 ヴェルブリーズ・クロシェット(36歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea9901 桜城 鈴音(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0131 アースハット・レッドペッパー(38歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0246 バ・ジル(60歳・♂・ファイター・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 昼間は各人での情報収集を、夜は冒険者ギルドでの情報交換をすると決めた冒険者たちは、各自の方法で情報を集めるべく動き出した。
 依頼主である情報屋キーラに状況確認などをしようとする冒険者もいたのだが、あいにく、キーラは留守だった。彼女の部下によると、キーラは依頼が終了する頃にはドレスタッドに戻ってくる予定だと言うが、その間は一切連絡が取れないという。また、ノーテ・ブラト(ea7107)の「海賊に顔が利く紫色のローブを着用した人物の情報が欲しい」という申し出は、一時キーラがいないことを考慮して返答は保留にされた。

 さて、そのノーテは教会へと向かった。怪我人が多く集まる教会なら、怪我を負った海賊が現れるかもしれないと踏んだのだ。
「こちらに、海賊らしき男が来たことはありますか」
 出迎えたシスターに礼をした後、ノーテは早速尋ねた。
「お恥ずかしながら自分の隊と逸れてしまいまして、先輩方を探しているのです。その先輩方というのが、まるで海賊みたいな風貌をしていて、海賊だと名乗ることもあるもので」
「つい昨日、そういった方がお見えになりましたわ。怪我を治してさしあげました。ただ、お一人はとても海賊とは思えない温和な方でしたけれど」
 ノーテはシスターの助言に礼を言った後、次の教会へと向かって足を速めた。

 フェリーナ・フェタ(ea5066)は、市場へと向かった。近々パリへ戻る予定もあり、人の出も物の出入りも激しい市場での情報収集は、みやげ物探しも兼ねている。
「最近、何か特別なことってありました? パリへのお土産話にしたいんですけど」
 店の品物を手に取りながら、フェリーナはごく自然な調子で店主に話しかけた。
「物騒な話ならいくらでもあるがね。領主殿が戻ってきても、落ち着きのねえ海賊どももいることだしな」
「海賊って?」
「最近、船が壊れたっていう間抜けな海賊がいるって話を聞いたくらいだけどな」
「海賊が船壊されたら、大変ですよねぇ。その船、どうするんだろう」
「直すんだろ。ドレスタッドから北西にちょっと行った辺りには、船泊めるにはちょうどいい湾もけっこうあるしな」
 それを聞き、フェリーナはその店を離れた。

 ドロシー・ジュティーア(ea8252)は、自らも馬を連れて、馬や馬車の貸し出し屋を回ることにした。食料にしろ木材にしろ、海賊たちが必要とする物品を運ぶには馬車が必要だろうと考えたのだ。
「最近、大量の荷物を運ぶために馬を借りられた方っていらっしゃいますか?」
 だるそうに馬の世話をしていた男が、やる気がなさそうに振り向いた。
「ああ? 何であんたにそんなこと教えないと行けないんだよ。大口顧客の名前聞き出して、そいつに嬢ちゃんが売り込みかけようっていうのか?」
 単刀直入に話を切り出したために、一件目の貸し出し屋ではけんもほろろに追い出されてしまったドロシーだったが、一度ため息を吐くと同時に気合を入れなおし、次の貸し出し屋へと向かった。

 カヤ・ベルンシュタイン(ea8791)は、あらかじめ打ち合わせていた通りの酒場へと向かった。ハーフエルフの特徴である耳を帽子で隠し、胸を強調した格好でカウンターに座ったカヤには、それだけで男たちの視線が集まった。
「ベルモットを一ついただけます?」
 仕事を探してドレスタッドへやってきた右も左も解らない者というカヤの周囲に、人が集まり始める。
「こちらの領主様というのは、どんな方なんですか?」
 そんなふうに話を振ったカヤは、徐々に海賊の話に向かうよう会話を誘導したのだがなかなか上手くはいかなかった。また、海賊の話も出たのだが、撃退されたという以上の情報は聞けなかった。ちょうど酒も飲み干した頃だったこともあり、カヤは次の酒場へ行こうとカウンターを離れた。その間際、カヤは背後で男たちがこんな会話をするのを聞いた。
「そういえば、ここの所、おっさん見てないな」
「ああ、おっさんな。何か忙しそうだったぜ」
 どうやら『おっさん』というのは、とある男のあだ名らしい。自称海賊の、気のよさそうな男だということだ。それ以上の話は聞けず、カヤはそのまま酒場を後にした。

 ヴェルブリーズ・クロシェット(ea9537)が向かったのも、酒場だ。楽器を片手にしたヴェルブリーズに、ほろ酔い加減の客たちが一曲を求めて声をかけてくる。情報を得るには、場に溶け込むことも必要だろう。まずは竪琴、そして異国風情漂う琵琶の演奏で場を盛り上げたヴェルブリーズは、ごく自然に客たちの会話の輪に入ることが出来た。
「なんかいい仕事ないですかね? 力仕事でも何でもいいんですけど。欲しい楽器があって、ちょっとお金が必要なんです」
「仕事ねえ。男手なら、欲しがってるところも多いんだがね」
 初老のマスターが、気の毒そうにいる。
「例えば、どんなところですか?」
「そうさなあ。最近、船大工が引っ張りだこってこともあって、木材屋も忙しいらしいぜ。街の南の材木屋の奴らが忙しいってぼやいてた」
 ヴェルブリーズは、その材木屋の場所を詳しくたずねて確認した。

 アースハット・レッドペッパー(eb0131)は、酒場の店員である。今日もいつもどおり酒場で働きつつ、酒場の様子に鋭く視線を向けていた。客たちの会話が気になって仕方がなく、何となく聞き耳を立ててしまうアースハットは、この日、幾度か柄の悪い客たちにとがめられた。そのたびに、「お客さん、ここらで見ない顔だね。観光? いいねぇ、なんならいいトコ教えようか? 観光名所よ、観光名所! え? うるさいからあっち行け? 失礼しました」などと言って、軽くあしらっていた。
 そうこうしつつ、アースハットはかなり酔っ払っている様子の男たちに声をかけた。
「お客さん、ちょっと飲みすぎじゃないですか?」
「飲まずにやってられっかよ。大変なんだよ、こちは」
「ま、ドラゴン騒ぎに海賊だなんだって色々騒がしいですからね」
「海賊はなあ。確かに迷惑だ」
 比較的酔いの回っていない男が苦笑いをした。
「どうしたんです?」
「俺らの船の修理を頼んでた船大工が、皆他の船の修理にとられちまってよ。おかげで、海にも出られなくて、こうして陸で酒飲んでんのよ」
「その船大工って、どこに行ったら会えますか? 俺の知り合いがいい船大工、探してるんですよ」
 そしてアースハットは、船大工の情報を手に入れた。

 バ・ジル(eb0246)もまた、酒場めぐりをしていた。
「最近ここに来たが、領主はどういうお人ぢゃ?」
 酒場で常連と目される客たちに酒をおごりつつ、バ・ジルは徐々に話を領主が奪ってきたという宝の話に持っていった。もっとも、そうするにはずいぶんと時間を費やしてしまったのだが。
「宝を狙って撃退された海賊もいると聞いたのだが、そやつらは今どこぢゃろうな」
「さあねえ」
 そう言って肩をすくめた女が、そういえば、と言った。
「最近、酔った勢いで領主様の悪口を散々言ってた柄の悪い男がいたわよ」
「ほう」
「ここから馬で一日くらいの場所に船ごと釘付けにされてるから酒も女も楽しめない、それもこれもエイリークのせいだ、って言ってたわ」
「ここから馬で一日くらいのところ? そんなところに港があるとは知らなかったのう」
「ないわよ。でも、あの辺りって入り組んだ湾があるから、船を泊めるにはいい場所だって聞いたことがあるわ」
 話をここまで持ってくるのに時間をかけてしまったバ・ジルが回ることの出来た酒場は、結局ここ一つに留まった。

 そして、冒険者たちはギルドに集まった。集まった情報を元に、明日以降の行動を決める。今日はドレスタッド東の海岸沿いを捜索していた桜城鈴音(ea9901)は、フェリーナとバ・ジルの証言によって北西の海岸沿いを探すことにした。ドロシーはヴェルブリーズの証言とあわせて、街の南部にある馬の貸し出し屋を当たることに決める。さらにドロシーは、明日からは他の冒険者に倣い、適当な言い訳を考えて聞き込みを行うことにした。また、ノーテとカヤによって、海賊にはとても見えない『おっさん』という海賊がいるらしいことも分かった。さらに、アースハットは海賊船を直しているかもしれない船大工の情報を手に入れている。
 船の位置が大体分かったということで、鈴音、ノーテ、ヴェルブリーズは明日以降、船の場所やその周辺の探索をすると決まった。その他の者たちは、引き続きドレスタッドでの情報収集に努めることになった。

 鈴音、ノーテ、ヴェルブリーズは、馬でおよそ一日の道のりを探索しながら辿り、ようやくそれらしき船を見つけたのは、ドレスタッドを出立してから二日目に入った頃だった。時刻は夕刻。横腹が壊れた船の上や周囲には、人影がある。
 ヴェルブリーズは、船には極力近づかないまま、まず周囲の地形や罠の有無を調べ始め、ノーテはミミクリーでジャイアントクロウに変身して、空からの探索をする。鈴音は水遁の術で、海に潜って船の様子を調べた。
 海から上がってきた鈴音が身支度を整えた時だった。夕刻の薄暗がりの中から、一人の人影が現れた。ごく普通の小男だ。
「こんなところでどうしたんだね」
 さも怪訝そうに問われて慌てた鈴音だったが、道に迷った挙句海に落ちたと苦しい言い訳をする。人のよさそうな男は、そんな言い訳も信じたようだった。
「この辺りは、危ないよ。海賊もいることだしね」
「あの船?」
「そう。それから、あなたの目の前にも」
 とても海賊に見えない男だが、これが昨日聞いた『おっさん』だろうと判断した鈴音は、翌日からの情報収集のためにと考えていた策を持ち出して、未経験の娼婦を装うことにした。こんなところで未経験の娼婦もないのだが、この際仕方がない。
「ねえ、おじさん。私のこと買ってくれないかしら。こういうこと、初めてなんだけど‥‥」
 ところが、鈴音に誘われた小男は目を丸くした。
「あんたみたいな若い子そんなことをしたらいかんよ。街まではこの道をまっすぐ行けば帰れるから、早く家に戻りなさい」
 取り付く島がない小男の鈴音に対する心配ぶりに、とりあえず鈴音はその場を後にすることしか出来なかった。

 そして、再び冒険者ギルドに集まり、各自が集めてきた情報を報告することになった。ノーテとヴェルブリーズの調査により、船の停泊しているのは穏やかで小さな砂浜を持つ湾であり、その湾を囲うようにして小高い丘が存在していることがわかった。また、罠などはないが、丘に見張りがいるという。外からの潜入は難しそうだ。鈴音の情報によると、湾は大型の船でも入港可能なほどに深く、また穏やかだとのこと。また、ドロシーの馬の貸し出し屋への聞き込みにより、大量の木材や食料の運搬を頼んできている者たちがいることを突き止めた。その際、人手が足りないいつでも人を雇いたいと貸し出し屋が話していたという。カヤとバ・ジルによれば、海賊らしい『おっさん』は比較的頻繁にドレスタッドに現れるという。もしその『おっさん』に取り入ることが出来ていたら潜入捜査も出来たかもしれないのにのうと、バ・ジルはぼやいていた。また、アースハットによれば、海賊の船を修繕している船大工も人手を欲しているらしい。さらに、フェリーナは海賊たちがドレスタッドに姿を現すのは、およそ一週間に一回程度という情報を得てきた。

 以上の情報をまとめた報告書を依頼主であるキーラに渡すと、彼女は報告書を一頻り読み込んだ後、一つ頷いた。
「よく調べてある。欲を言い出せばきりがないが、この期間でこれだけ調べられれば上出来だ」
 満足げに目を細めたキーラに、冒険者たちは一様に安堵した。そして、キーラは部下に指示をして彼らに報酬を渡した。受け取った報酬の入った袋は、予想よりも少しだけ重かった。
 また、キーラはノーテに向かって、紫のローブの男については噂なら聞いたことがあるがそれ以上の売り物になるような情報は持っていないと告げた。彼に関する情報を調べて欲しいという依頼も受けられるものなら受けたいが、現状は他の件で手一杯で受けられないとのことだった。
「いずれ、貴殿ら自身が紫のローブの男の正体を暴くこともあるかもしれないな」
 キーラはそんなふうに言って笑った。