目指せ、『商売繁盛』!
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■ショートシナリオ
担当:樋野望
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月14日〜01月19日
リプレイ公開日:2005年01月19日
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●オープニング
昨年、とある男が一念発起をしてワインを作った。何の偶然か、初めてのワインとは思えないほどの見事なワインが出来た。家族総出で大きな葡萄畑を管理し、葡萄を熟成させて作ったワインだ。男の家族は、皆喜んだ。今年の冬、家族たちは美味いワインとともに越えられるはずだった。
そして、冬が来て、雪が降った。降雪は、いつものことだ。だが、今年は雪が降るだけでは済まなかった。雪が降った翌日、嘘のように暖かい日が来たかと思うと、男の家のすぐ横で雪崩が起きたのだ。雪崩とはいっても、ごくごく小規模のもので怪我人すら出なかった。
ところが、男の家の食料庫が雪崩の下に埋まってしまった。何とか食料庫を掘り出したが、冬のために準備していた食料の三分の一が失われた。これでは、貯金を全てはたいても、男の家族はこの冬を超えられそうになくなってしまった。困った男は、ワインを売りに出すことにした。ワインを売った金で食料を買えば、きっとこの冬は持ち越せると考えたのだ。
そして男は、ワインを荷馬車いっぱいに乗せてドレスタッドにやってきた。ドレスタッドは、人が多い。人が多ければ、きっとワインも売れるだろうと思ったのだ。そしてまた、男はドレスタッドから徒歩で半日ほど行ったところにある金持ちたち数人が美味いワインを大量に欲しがっているという噂を耳にしていた。ワインはきっと売れると男は勢い込んだ。
だが、上等のワインは一向に売れなかった。理由は簡単である。男には、商才というものが欠片ほどもなかったのだ。
また、運の悪いことに、ワインを大量に欲しがっているという金持ちたちへの家へと向かう街道に、強盗が出るようになっていたのだ。これでは、商才と同じく武術にも能のない男が金持ちのもとへと向かうことは出来ない。
「‥‥あと少し、金が稼げればいいだけなんだがな‥‥」
一本も売れないワインを荷馬車いっぱいに抱え、困り果てた男はとうとう最終手段に出た。なけなしの金を握り締め、冒険者ギルドの扉を叩いたのである。
かくして、冒険者ギルドの片隅に、何とも情けない依頼が出された。
■自分の代わりに、ワイン50本を売ってください。1本の値段は30Cと考えていますが、それより高くなっても安くなってもかまいません。また、全部売れても売れなくても結構です。売り上げが10G以上になれば、この冬は何とか乗り越えられると思いますから。お支払いは相場よりは低くなりますが、ワインの売り上げとは関わりなくお渡しいたしますので、どうかよろしくお願いいたします。
●リプレイ本文
冒険者たちは相談のうえで、ワインを売る手段の一つとして事前にワインを数本買い入れようとしたが、それは依頼人である男が提供することになった。提供されたワインは試飲用に使うのである。その数は、露店の試飲用に3本、リオリート・オルロフ(ea9517)の営業活動のために6本、そして皆がワインの味を確かめるための1本の、計10本。ワインの味と出来栄えが依頼主の言うとおり、確かに見事なワインだった。僅かに甘めで酸味は弱く、味は深い。香りもよく、口当たりもいい。ワインにさほど馴染みがなくとも飲みやすいものだ。
ニコル・ヴァンネスト(ea0493)、クラウディ・トゥエルブ(ea3132)、ノエル・ウォーター(ea5085)、エリーナ・ブラームス(ea9482)、エルナン・フィエード(eb0452)は、露店でワインを売ることに決めた。まずは、エリーナとクラウディの提案で人通りの多い所、そして人が集まってもよさそうな場所を探す。場所が決まったあとは、ニコルが古い木箱を酒場から貰い、それを依頼人の荷馬車に乗せて運んできた。その木箱の上に、これもニコルの提案で赤い布を敷き詰める。
「赤い布は目立つし、ワインが上手そうにも見えるからな」
そう言ったニコルの作業を、エルナンも手伝う。ノエルとエルナンがただ布を敷き詰めるだけではなく、巻いたり垂らしたり、出来るだけ華やかで目を引くようにと苦心した露店は、古い木箱と布で出来たとは思えない出来栄えになった。さらに、その上に並べたワインには、リボンをかける。
そしてノエルは、一度は30Cと書いた値札に横線を引き、29Cと書いた。
「お客様に割安だと思ってもらえたら、購入意欲も促進できると思うの。それから10本以上の大口購入者には、1本25Cで売ろうよ」
ノエルの提案に、ニコルが頷いた。
「いいんじゃねえの。ついでに、配送料もただってことで」
さらに試飲用のコップをクラウディが並べて、露店の準備は完了した。
客の注意を引くためには、品物を並べるだけでは足りない。そう考えたクラウディは竪琴を演奏し、エリーナは歌を歌うことにした。さほど間をおかず、人々が集まってくる。それを確かめ、まず口を開いたのはノエルだ。
「神は気まぐれに葡萄畑の中を歩かれたのかもしれません。まるで、ご恩恵を受けるかのように、葡萄は『奇跡のワイン』へと変化を遂げました。ご食前、ご食後、ご歓談、どんな場合にも合うワインはいかがでしょうか。口に含めば広がる喜びを、ぜひお試し下さい」
ノエルの口上に惹かれて店頭のワインを覗き込む客に、エルナンも声をかける。
「果汁ジュースのように飲みやすく、それよりももっと後味のいいワインです。いかがですか?」
その言葉でさらに興味を持った客には、演奏を終えたクラウディがさりげなく試飲用のワインを差し出す。
「味も香りも申し分がないでしょう」
そう言ったエリーナに、客は大きく頷いた。そして、ワイン1本の購入を即断する。
「買っていただけるのですね? あ、ありがとうございますっ!」
丁寧に礼をしたエリーナがワインを客に渡し、クラウディが29Cを受け取った。一本目の販売、成功である。その後、1本ずつではあったがワインは少しずつ売れ始めた。裏方に徹しているニコルは、ワインが売れるたびに露店に補充をしていたが、大口購入客は現れず、この日は配送サービスを行うことはなかった。
ワインを数本持ち出したレミナ・エスマール(ea4090)は、まずは繁華街に向かった。夕食の買い物に来ている者たちにワインを売ろうというのである。
「日々ご苦労なさっているあなたのために、この高級ワインを神の慈悲によりこの破格値段で提供しています。これを逃がさないようにしたほうがよろしいかと」
そんな口上に足を止める者も幾人かはいた。さらにその内の一人は、ワインの購入を決めた。
「ありがとうございます。こちらのワインのことを、ぜひお知り合いの方々にお勧めください」
さらに、大量購入も可能な露店の場所を告げると、レミナは逃げるようにその場を去った。そして人気の少ない場所までたどり着くなり、緊張の糸が切れて眩暈で倒れたのだった。
シルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)は、馬の多くいる場所、売りに出す前の馬が多くいる厩舎に向かった。馬を多く買おうとする者には金持ちが多い。立派な厩舎になら、金持ちもいるかもしれなかった。だが、シルフィーナが向かった厩舎には、馬丁しかいなかった。馬丁たちには、さすがに高値では売れない。さてどうしようか。そう思ったとき、この厩舎の主であろう、明らかに身なりの立派な男が姿を現したのだ。シルフィーナは、男に声をかけた。
「あたし、ワインを売ってるんです。いかがですか?」
突然現れた少女に、男は当初取り合う様子を見せなかった。これは失敗かとシルフィーナが落胆しかけた時、傍らにいた一頭の馬が落ちかなげに前足を踏み鳴らし始めた。馬が好きで、また馬を扱うスキルにも長けているシルフィーナだ。馬に駆け寄り、その馬を即座に静めた。その様子を見ていた金持ち風に男が、シルフィーナに声をかけてくる。
なかなかの腕だと言った金持ち風の男はシルフィーナと同じく馬が好きらしく、暫し二人は馬談義に花が咲いた。
「そういえば、ワインを売っているとか言っていなかったかね」
「あ、はい。とてもいいワインなんですよ。その分、ちょっと値は張りまして、1本1Gですが‥‥」
「なるほど、それは高い。少し安くはならないかね」
「そうですねえ」
少し渋って見せた後、シルフィーナは渋々といった様子で言った。
「馬好き仲間として、特別価格の75Cでいかがでしょう」
「なかなか商売上手だな」
嫌味なく笑った男は、結局3本のワインを買い求めてくれたのだった。
リオリートはワイン6本を持って酒場を回っていた。まずは、一軒の酒場に入り、マスターらしき男に向かって声をかけた。
「お忙しいところ、失礼する。もしよければ、ワインを2本ほど置いていただきたいのだが」
単刀直入だが礼を失しない丁寧な物腰に、マスターは警戒することなくリオリートの話を聞いてくれた。
「この2本を客に出すときには、通常の半額程度で売っていただいてかまいません。そのうえで評判がよければ、改めて購入していただきたいのだが‥‥」
露店の場所も告げ、リオリートは次の酒場へと向かった。この日、リオリートは無事に3件の酒場にそれぞれ2本のワインを置いてもらうことに成功した。明日以降、何らかの反応があるに違いない。
1日目のワイン売却本数は10本で、売り上げは4G28C。売り上げに関しては、シルフィーナの貢献が大きい。なお、試飲などで使用した分を引けば、ワインの残り本数は31本だ。
「このワインはとても上質だけれども、たったの29Cでお求め頂けます。ご家族へのお土産、夕食のお供に、寝る前に良い夢が見られるように、一本どうですか?」
クラウディがそう言えば、今日は露店に出ているレミナも後に続く。
「ドラゴンのこともありますから、明日の保障がない今の時期は、お金を貯めることより使うことを考えたほうがいいかと思いますよ、それにこれだけいいワイン取って置けばあとでとんでもない値がつくかもしれませんよ」
「ただ飲むのもいいですが、ぜひ料理にもお使いください。きっと、いつもより美味しい料理が出来上がります」
さらにエルナンの宣伝文句は、特に主婦の気を引いた。
2日目の露店では、皆の地道な販売活動が実を結び、夕刻までに6本を売り上げた。さらに、リオリートの営業活動が実を結び、とある酒場から10本の大口注文が来た。ニコルが驢馬にワインを積み、早速配送に向かう。10本以上の購入者には歌をプレゼントするというエリーナも、ニコルに同行して酒場へと向かった。そこで披露した歌はなかなかのもので、その酒場でのワインの注文を増やすことに成功した。上手くいけば、この5日間のうちにこの酒場からの追加注文が見込めるかもしれない。
この日、露店以外での売り上げたワインは残念ながらなかった。ワイン売却本数は16本で、売り上げは4G24C。総売上額は8G52C。残るワインの本数は、15本。客たちの口伝えの風評にも期待できそうだ。残りの日数を考えれば、十分に完売および10Gの売り上げは達成可能に思われる。
残りの日数は3日。5・6本単位のまとめ買いをする客もいたが、10本以上の大口購入者は現れなかった。そのため、ニコルはもっぱら来客に試飲用のワインを勧めていた。
「ちょっとだけでも、味の良さは分かるだろ」
ざっくばらんな口調で話しかけてワインを試飲させ、しっかり飲みたいと思わせるのが狙いだ。その甲斐あって、ワインは順調に売れていった。
また、シルフィーナが再び金持ちの客へワインを売り、2本で1G50Cを売り上げた。
そして最終日の夕刻までには、ワインは無事に完売した。
「完売だね!」
ノエルが嬉しげに声を上げる。皆も口々に完売を喜んだ。
「さて、問題は売り上げだな‥‥」
リオリートが呟くと、レミナが売り上げを数え始めた。
「ええと、総売上額は」
金を数え終えたレミナが、嬉しそうな顔をした。
「13G79Cです!」
「やりましたね」
エルナンが、安堵したように嘆息した。
この売上額に、依頼人は目を丸くして数秒黙った後、深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
「これで無事に冬が越せるといいですね」
エリーナの言葉に、男は幾度も頷いた。
「きっと大丈夫です。皆様のおかげです」
「もしかしたらワイン作りの才があるかもしれません、来春から副業にすることも、考えてみてはどうですか? 販売のお手伝いでしたら、来年もしますよ?」
クラウディのそんな提案に男は少し笑い、もし来年もいいワインがたくさん出来たらお願いしに来ます、と言ったのだった。